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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
最後の聖遺物

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第991話 固く交わされた約束

 十一月に入ってすぐの頃のこと。

 ラグナ教神殿の施設の一つである研修所、その大広間では今日も魔の者達がのんびりと木彫りの置物を彫っていた。


「あー……こんなにのんびりと好きなもんを彫るのなんて、すんげー久しぶりー」

「だなー。ついこないだまでは、ハロウィンですんげークッソ忙しかったもんなー」

「でもさ、ハロウィンならではの彫り物を作るのもチョー楽しかったけどねン!」

「うんうん。カボチャとかコウモリなんて、普段はそんなに彫らんもんねー」

「それより何より、何が一番良かったかって、ハロウィン用の置物が思った以上に売れたことよ。わしらの作った置物が売上に貢献できたのは、実に良いことだて」

「「「うんうん!」」」


 皆それぞれに好きなモチーフを彫りつつ、雑談を交わす魔の者達。

 魚を口に咥えた熊や雄大な姿で羽ばたく鷲、細部まで凝りに凝った超美麗な女神像、精巧な透かし彫り等々、それはもう皆見事な腕前である。

 そんな彼らの話からすると、どうやら九月十月はハロウィン用の置物作りで超多忙な日々を過ごしていたようだ。


 カボチャのランタンに布を被ったお化け、黒猫やコウモリなど、ハロウィンに欠かせないモチーフを魔の者達が木彫りの置物で作り、それをラグナ神殿内の売店で売り出したところ、かなり売れ行きが好調だったらしい。

 特に月に一度、第一日曜日にラグナ神殿内で催されるバザーでハロウィン用置物が飛ぶように売れたという。


 そしてバザーの後に噂を聞きつけた多数の人達が、ラグナ神殿売店にこぞって買いに来た。

 そのおかげで、それまでずっと売店で飾り物状態だった超リアルで豪華絢爛な大きい彫像(販売価格:1万G~)は貴族が喜んで購入し、デフォルメされた可愛らしい小物などは、30G~というお手頃価格で平民や巡礼者の土産として、今では絶大な人気を博している。

 魔の者達が作る木彫りの置物他各種アイテムは、今やラグナ教の立派な財源となりつつあった。


 そんな話を魔の者達がしていると、研修所内に誰か入ってきた。

 その者は開口一番、明るい声で魔の者達に声をかけた。


「皆さん、こんにちは。今日は皆さんに、先日の奉仕活動への報酬を持ってきましたよ」

「あッ、ホロっち!」


 研修所の中に入ってきたのは、総主教ホロと衛兵二人。

 ホロは大きな袋を持っていて、衛兵二人も同じくらい大きな袋を抱えていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ホロの姿を見た魔の者達が、パァッ!と明るい顔になる。

 そして皆一目散に大広間入口に向かって駆け出し、一斉にホロを取り囲んだ。


「ホロっち、いらっしゃーい!」

「ねぇねぇ、オイラが頼んだモノ、買ってきてくれたー!?」

「もちろんですよ。皆さんが希望した品を、全て用意することができました。今からそれを配りますので、名前を呼ばれた方はこちらに受け取りに来てくださいね」

「「「はーーーい♪」」」


 研修所大広間に入るなり、早々に魔の者達に熱烈大歓迎されたホロ。腕の中に抱えていた袋を一旦床の上に下ろす。

 その袋の中には、魔の者達に渡すものが入っているようだ。

 魔の者達は花咲くような笑顔で両手を上げ、万々歳状態でホロの指示に従う。相変わらず皆賑やかで従順で、とても魔の者とは思えない陽気さである。

 ホロは大きな袋から一つ、何かを取り出し魔の者達の人里での名前を一人づつ呼ぶ。


「まずは……ガイルさん、来てください」

「はーい!」

「ガイルさんの作る置物、大好評でしたねぇ。はい、ガイルさんご所望の革財布ですよ」

「わーい!オイラ、こういうオシャレな財布が欲しかったんだー♪」

「次は……トルドさん」

「おー!」

「トルドさんも、たくさんの置物作成お疲れさまでした。はい、こちら、ご所望の育毛剤です」

「おお、すまんのう!これでわしの寂しい頭も、もっふもふのフッサフサになるわい!」

「次、ミライさん」

「はいはーい♪」

「ミライさんは売店の売り子仕事もしてくださいましたね。こちらのメイク道具一式で、より一層お洒落を楽しんでくださいね」

「ヤッター♪ ウフフフフ、これでアタシの美人度もますますアップねッ☆」


 魔の者達一人一人を労い、報酬を渡していくホロ。

 その報酬は、魔の者達全員に希望を聞いて予算内で購入してきたものだ。置物の売上の10%が購入代金に充てられていて、それが魔の者達への報酬になっているのだ。


 ただし、魔の者達の希望なら何でも全て叶えるものではない。刃物や魔法に関する物など、脱獄に使用される懸念がある品は希望を出しても却下される。

 例えば大工仕事をしていたカイトが希望した『マイ(のみ)が欲しい!』という要望は、『刃物はNG』ということで却下された。

 だが、それ以外の安全な物なら全て許可が下りて、魔の者達への報酬として渡された。

 もっとも、魔の者達も今更ラグナ神殿外に脱獄する気は毛頭ないので、剣や刀を報酬に渡したところで何も起こらないのだが。


 そして、魔の者達全員が希望した報酬をホロから受け取り、嬉しそうに報酬品を撫でたり頬ずりしたりして思い思いに喜んでいた。

 満面の笑みで喜ぶ魔の者達を見て、ホロも静かに微笑みながら嬉しそうに眺めている。

 するとここで、誰かがしみじみと呟いた。


「……オラ、ここに来てホンットに良かったなぁ……」

「だなぁ。エンデアン支部にいた頃には、お給金なんて1Gももらえんかったもんなぁ」

「プロステスがオイラの故郷であることに変わりはないし、あっちの生活だって食うには困らんかったけど……」

「それでもこのラグナロッツァ総本部に来れて、皆やホロっちに会えて、ホントに良かっただ!」


 誰かが呟く度に、うん、うんうん、と静かに頷く魔の者達。

 そして最後の『皆やホロに会えて良かった!』という言葉には、全員がより一層深く強く頷いていた。

 そんな魔の者達の言葉に、ホロの表情は微かに曇る。


 各支部の職員達には、司祭以下全ての者達に給金が毎月支給されているはずだ。それは就いている役職によって給金の多寡の差こそあれど、上位幹部でも雑務を担当する一般職員でも変わらない。

 なのに、今魔の者は『給金は1Gももらえなかった』と言っていた。

 これが事実ならば、各支部で不正な横領がまかり通っていたということである。

 それは非常に由々しき事態であり、各支部の上位幹部を厳しく調査した上で糾弾しなければならないところだ。


 だが、その上位幹部達はもうこの世に存在しない。人族に化けてラグナ教各支部に潜り込んでいた者達は、全員口封じされてしまったからだ。

 捕らえ裁くべき者がもうこの世にいない以上、どうしようもない。

 ならばこの搾取され続けてきた者達に、一日も長くこのラグナ神殿内で平穏な日々を送れるようにしてやりたい―――改めてホロは、心の中でそう考えていた。

 そんなホロの表情に、魔の者達が心配そうに声をかける。


「ホロっち、何か怖い顔してるけど……どしたの?」

「何かあったん?」

「悩みがあるなら、俺らに相談してみ? ……つっても、俺らにホロっちの悩みを解決する力なんてねぇけどよ」

「でも、愚痴るだけでもスッキリするもんだしさ!」

「そそそ、アタシ達じゃ話を聞いてあげることしかできないけどさ」

「わしら皆、ホロっちや大教皇ちゃんの味方だからよ!」


 皆心配そうにホロの顔を覗き込みながら、一生懸命に励まそうとしている。

 ホロを慰める魔の者達の方こそ、明日をも知れぬ身だというのに。

 心優しい魔の者達の健気な言葉に、ホロの顔からは険しさが消えて柔らかい笑みが浮かぶ。


「皆さん……優しい言葉をかけてくださり、本当にありがとうございます。私がここに来られるのも、あと一ヶ月と僅かですが……私や大教皇様がいなくなっても、貴方方がここで安心して暮らせるように手配してありますからね」

「ぁー…………ホロっち、もうすぐ総主教じゃなくなるんだっけ?」

「ええ。総主教を辞したら、私は故郷のダアトに帰って念願の土産物屋を開くつもりです」

「「「……ぁ……」」」


 ホロの礼の言葉に、心配していた魔の者達の顔は暗い悲しみに染まる。

 ホロが総主教の座を退くことは、だいぶ前から決まっていたことだ。

 ラグナ教現最高幹部として悪魔潜入事件の責を負うためであり、もちろん魔の者達もそのことは知っていた。

 だが、いざその時期が迫るとなると、やはり悲しくなるようだ。


「ホロっちがいなくなっちゃうなんて……寂しい……」

「もうホロっちに会えないの?」

「ぅぅぅ……そんなのヤダヤダー!ホロっちともっともっと木彫りしたいーーー!」

「大教皇ちゃんも、こないだから俺らといっしょに木彫りを始めたばかりなのにー!」

「うわぁぁぁぁん!」


 しょんぼりと沈んでいた魔の者達。涙目だったのがあっという間に号泣に変わり、その号泣は瞬く間に全員に伝播していった。

 ホロやエンディとの別れの寂しさを嘆き悲しみ、人目も憚らず大泣きする魔の者達。

 そんな彼らに、ホロが優しい声で語りかける。


「皆さん、そんなに悲嘆に暮れることはありませんよ。総主教でなくとも、私は生涯ラグナ教の一信徒として生きていくつもりです。居住こそ故郷に移りますが、年に一度はこの総本部―――ラグナ神殿にも必ず巡礼に来ますからね。そしてそれは私だけでなく、大教皇様も同じ思いなのですよ」

「…………ホント?」

「ええ、ホントですよ」

「またホロっちに会える?」

「もちろん」

「本当の本当に、絶対に会える?」

「ええ。聖職者として、決して貴方方に嘘はつきませんよ」


 ラグナ神殿を去った後でも再会を誓うホロの言葉に、魔の者達はボロボロと流した涙でぐしゃぐしゃになった顔を手で拭いながら、何度も問いかける。

 複数人から幾度となく繰り返される問いかけに、ホロは厭うことなくずっと穏やかな笑みで肯定し続ける。


 魔の者達が拘束されてここに来てから、ホロは彼らに嘘をついたり約束を違えたことは一度もない。

 魔の者達もそれは承知しているので、ホロの言葉は本当のことなのだ、と次第に信じることができていった。


「じゃあ、またホロっちとここで木彫りできる!?」

「うーん……一信徒に戻った私が、こんな奥まで通してもらえるかどうかは、その場になってみないと分かりませんが……それでも必ずや貴方方のところに、一目だけでも顔を出せるよう私も頑張りますよ」

「うん!頑張ってオイラ達のいるところに来てね!」

「そうよ、ホロっちならきっとできるわ!」

「俺ら、ホロっちが来てくれるのをずっと……ずっと待ってるからな!」


 何度でも再会の約束を誓うホロに、魔の者達の顔もだんだんと明るくなっていく。

 目も鼻も真っ赤にしながら、涙でぐしゃぐしゃのままの笑顔でホロに話しかける魔の者達。

 皆鼻をスン、スン、と鳴らしながら、明るい声でホロに問いかけた。


「ねぇねぇホロっち、そしたらオイラ達、今度は何を彫ればいいかな?」

「そうですねぇ……この先の大きな行事といえば、クリスマスやお正月、ですかねぇ」

「じゃあさ、クリスマスツリーの飾り物やお正月用のアイテムを作るか!」

「そうだな!最近は彫ったものに色付けもするようになったし、色とりどりの飾り物を作れるな!」

「よーし、そしたらまた皆でクリスマス用とお正月用の飾り物を作るぞー!」

「「「おーーー!」」」


 ホロのアドバイスにより、次の仕事を見つけた魔の者達が張り切って気勢を上げる。

 それぞれが再び彫り物を作るために作業机に向かう中、数人の魔の者達がホロの服の袖を引っ張る。


「そしたらさ、ホロっちも今から俺らといっしょに木彫りしようよ!」

「いいですね。そしたら私は皆さんへのお手本として、トナカイの置物を作りましょう」

「トナカイ!イイネ!じゃあオイラはサンタさんの置物を作るー!」

「俺っちはサンタガール!」

「雪だるまもいいなー!」


 早速クリスマス用の飾り物の話で盛り上がる魔の者達に、ホロが優しくアドバイスをする。


「皆さん、大きな物ばかり作っててもいけませんよ? クリスマスの飾り付けには、星型や球体、雪の結晶といった素朴な形も大変好まれるのですからね」

「あッ、それもそうだねぃ!」

「ならば初心に戻って、完全な球体を磨き上げる修行をするのもいいべ」

「だねだねーぃ!」

「じゃ、ホロっちもこっち来て!いっしょに木彫りしよー!」

「ええ、いいですとも」


 ホロの周りにいた魔の者達が、ホロの手を引き作業机の一角に向かう。

 そしてずっとホロを取り囲んだまま、彫り物作業をしながら様々な四方山話でホロとの楽しい会話を繰り広げている。

 その日ホロが研修所を退所するまで、魔の者達はずっと彼の傍を離れようとはしなかった。

 ラグナ教総主教ホロと魔の者達、超久々の登場です。

 ここ最近の魔の者達は、もっぱら神樹族の分体を入れるための置物作成係としてしか登場していませんでしたが。レオニスと【深淵の魂喰い】の対峙が迫るにつれ、その周囲=ラグナ神殿にいる者達にも再びズームアップ!という訳で、懐かしい面々の登場です。

 ぃゃー、魔の者達のわちゃわちゃとした会話を書くのは相変わらず楽しいー。

 話の流れさえ決まれば、特に何をせずとも自然に台詞が湧いてくるので作者的にはかなり楽ちん!゜.+(・∀・)+.゜


 しかし、言動はかなり楽観的な魔の者達ですが、その存在は非常にデリケートな問題を孕んでいます。

 彼らが本当に安心して人里で暮らせる日が来るかどうかは、まだまだ先行き不透明で分かりません。作者としては、何とか良い方向にしてやりたいなぁ……とは思うのですが。

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