第982話 恩人達の紹介
「ぁー……このちっこいのが、ラキ兄の大恩人?」
「そうだ。赤いのが人族のレオニス、黒いのが妖精族のラウル、そして一番小さいのが人族でレオニスの養い子のライトだ」
「ほーん、人族と妖精族、ねぇ……」
ラキからの簡単な紹介に、シンラがライト達をジロジロと見る。
そしてレオニスの深紅のロングジャケットを見て、はたと何かに気づいたようだ。
「……ン? この赤いヤツ、なーんか見覚えある気がするな?」
「そりゃそうだろう。このレオニスは『カタポレンの森の番人』と呼ばれ、この森の安寧のために日々励んでおるからな」
「……あーッ、あの番人って呼ばれてるヤツ!? 実物をこんな近くで見るのは初めてだぜ!」
人族であるレオニスのもう一つの顔『カタポレンの森の番人』をラキから明かされたことで、シンラの顔がパァッ!と明るくなる。
「俺ァこのトロール族の族長を務める、シンラってもんだ!アンタの噂はたまぁーに聞いてたぜ!」
「おう、そりゃどうも」
「何でも俺の倍以上はあるイノシシを、一撃で真っ二つにして持ち帰ったとか? あとは何だ、えーと……これまたデケェ蛇を細切れにして退治してたとか!? 俺の仲間がそれ見てブルッてたぜ!」
「あー、そこら辺はかなり凶暴な奴らだからな……」
シンラが語る森の番人エピソード?に、当の番人であるレオニスも心当たりがあるようだ。
ちなみにシンラが言うイノシシとは、人族の間では『ヒュージブル』と呼ばれる猪型魔物である。
小さいうちはまだいいが、体長が10メートルを超えたあたりから凶暴性が増して動くものと見れば何でも突進してくる。
そしてデケェ蛇とは『ジュエルスネーク』という蛇型魔物。
鱗が虹色に輝く蛇で、これも普通サイズならさしたる害はないのだが、稀に巨大化した変異体が発生することでも知られている。
この変異体は、体躯が巨大化しただけでなくその牙に猛毒性を持つようになる。
これらの理由により、レオニスは大型化したヒュージブルやジュエルスネーク変異体などを見つけ次第積極的に狩っているのである。
そしてこのヒュージブルやジュエルスネーク、何を隠そうライトの作る『魔物のお肉たっぷり激ウマ絶品スペシャルミートボールくん』の主原料だったりする。
ヒュージブルはもともと無毒だし、ジュエルスネークも牙の毒腺以外の部分は蛇肉として食用可なのだ。
他にもその牙や皮は有用な高級素材として、骨や眼球なども含めて冒険者ギルドで全て買取してもらえる。特にジュエルスネークの虹色の皮は、一匹分で家一軒建てられる程の高価買取となっている。
そう、レオニスが害獣として狩った魔物達はその全てを余すことなく活用されているのだ。
「あんなデケェ奴らを一撃で仕留めるんだから、どんだけすげー奴だと思ってたら、こんなちっこい人族だったとはなぁ……いやはや、意外も意外だ。……で? 隣の黒いのは妖精族だって?」
「ああ。ラウル先生はプーリアという名の妖精族であられる」
「先生? この黒いのが、ラキ兄の先生してんのか?」
「そうだ。ラウル先生はな、料理の達人であらせられるのだ」
「料理の……達人???」
勇名を馳せるレオニスの次に、シンラが目に留めたのはラウル。
見た目は人族と大差ないのに妖精というのは、やはりここでもかなり意外に思われたようだ。
そしてそれ以上にシンラが意外だったのは、ラキがラウルのことを『ラウル先生』と呼んだことだ。
先生とは、学識のある人や指導的立場にある人を敬っていう語。
ラキ兄ほどの人が、このちっこいのに一体何を習うことがあるんだ?という疑問に満ちた顔になっている。
しかもそれが料理だと明かされたことで、シンラの顔にますます『???』が増えていく。
「ラウル先生はな、我が里に様々な調理を伝え美味しい料理というものを教えてくださったのだ」
「美味しい料理、ねぇ……ラキ兄がそんなにベタ褒めする程のことなんか?」
「シンラよ。お前も美味しい料理、美味しい食事を食べれば分かる。如何にそれが偉大であるかをな」
「ふーん……俺はメシなんてのは食えりゃいいからなー。ウマいマズいなんてどーでもいいし」
料理や美味しい食事の重要性を説くラキに、シンラはあまり興味なさそうに生返事で答える。
実際のところ、食事に美味しさを求める意欲が最も強いのは人族で間違いない。他の種族は、食事など生命維持手段としてしか考えないものの方が圧倒的に多いのだ。
その生返事で視線が横に流れたシンラ。
視線の先にいたのは、一番小さな人族の子供ライトだった。
「ラキ兄、このちっこい子供もラキ兄の大恩人だってのか?」
「……ああ。詳しいことは話せぬが、我が生命の危機に瀕した時に救ってくれたのは、正真正銘この小さな人の子であるライトだ」
シンラがライトの前に進み出て、しゃがんでライトの顔をじーーーっ……と覗き込む。
鋭い目つきの厳つい巨大な強面が、ライトの真正面にデデーン!と迫る。
ただでさえ巨躯を誇るトロール、頭一つがライトの身長と大差ない大きさだ。そのあまりのド迫力に、ライトは思わず涙目で怯む。
ライトが涙目で怯えているのを見て、ラキがシンラの頭をゴツン!と思いっきり拳骨で殴り、レオニスとラウルがライトの前に立ちはだかってシンラの視線を遮る。
「痛ぇー……ラキ兄、何すんだよぅー」
「何すんだもへったくれもあるか!ライトが怖がっておるではないか!そうでなくてもお前の面は怖いんだ、少しは自重しろ!」
「ンなこと言われてもよぅ、このツラは生まれつきなんだからどうしようもねぇじゃねぇかよぅー」
「顔の作りの如何ではない、そんな真近で見つめられること自体が相手に恐怖を感じさせると言っておるのだ」
「ちぇー……分かったよ……」
今度はラキに渾身の拳骨を食らったシンラが涙目になりつつ、拳骨の煙がシュウシュウ……と立ち上る頭を手で擦りながらのっそりと立ち上がる。
そしてラキの方も、拳骨した右手を左手で擦っている。トロールの頭はかなりの石頭らしい。
「じゃ、そしたら森の番人さんよ。せっかくトロールの里に来てくれたんだ、いっちょ俺とお手合わせしてもらえるか?」
「ン? 何でそんな話になる?」
「そりゃお前、決まってんじゃねぇか。トロールが強い者と出会ったら、まず真っ先にすることは一つだろ?」
「はぁ……やっぱそうなるか」
ラキの拳骨を食らって涙目になっていた顔はどこへやら。
シンラの顔は、強者との戦いへの期待に満ち満ちていた。
今すぐにでも戦いたくてウズウズしているシンラに、レオニスははぁー……と小さなため息をつく。
だが、シンラとの戦いは事前に十分予想していたことだし、レオニスとしても売られた挑戦は買わねばならない。ここで断れば、以後トロール族に舐められてずっと下に見続けられることが確実だからだ。
「ならここよりもっと広い、喧嘩するに適した場に移動させろ。ここじゃろくに戦えん」
「おお、そうこなくっちゃな!そしたら俺が案内するから、後をついてきてくれ!」
勝負を受けたレオニスの答えに、シンラが嬉しそうに破顔する。
戦うに適した場所に移動するシンラの後を、ライト達は素直についていった。
シンラとライト達の対面です。
八咫烏のウルスも、レオニスと出会う前からの彼のことを『森の番人』として知っていたように、シンラもまた噂としてレオニスのことを聞き及んでいます。あの引き篭もりの八咫烏が知っていて、引き篭もりじゃないトロールが知らないはずはないですから(*´・ω・)(・ω・`*)ネー
そして、誰も得しない作者の近況報告。
今日もコロナワクチン接種の副作用、微熱が続いております。
おかげで今日も執筆があまり進みませんでした……いつもなら、前話と今話は一回分の執筆で投下するところなんですが。
でもって、今日は物語を書き進めるための過去回サルベージでつまらん誤字脱字を見つけては、都度修正する作業だけは捗ってしまいました。
ちなみに先程測った時には37.2度でしたが、作者の場合37度を少しでも超えると途端に倦怠感が発生して、身体の芯が痛くなるんですよねぇ……ホンット、人体って不思議。
とはいえ38度を超す熱はもう収まったので、さすがに明日には平温に戻るでしょう!もうすぐ迎える第1000話目指して、頑張れ潟湖!




