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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ドラリシオの悲劇

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第961話 ドラリシオ・レディー

 レオニス達はさらに先、森の奥深くに突入していく。

 すると、程なくしてかなり開けた場所に出た。

 そしてそこには、三体のドラリシオがいた。


 そのドラリシオは、ラウル達が保護したドラリシオ・ブルームとはかなり異なる。

 いや、濃緑色の茎や腕の役割を果たす蔓、蔓の先にウツボカズラ状の花の手、そして頭の天辺にある大きな赤紫色の花など、ドラリシオとしての種族的特徴は同じだ。

 だが、その大きさや本数などが全く違うのだ。


 身の丈は約5メートル程もあり、腕代わりの蔓は肩から生えているだけで左右五対の計十本、その全てに十枚以上に先が割れた花の手がついている。

 そして腰と球根の間にある蔓は、先端の花の手こそないがぱっと見では数えられないくらいにとにかく本数が多い。ちょっとした腰蓑状態である。

 頭の天辺の花も見事な八重咲きで、まるで牡丹の花のようだ。

 花弁の下から生えている数多の細い蔓は、ざっくりとした三つ編みのように編み込まれており、そこだけ見たらとても可憐な女の子のようだ。


 それら諸々の特徴から、今ライト達の目の前にいるのはドラリシオの中でも直系と呼ばれる『チルドレン型』であろうことが分かる。

 そんな彼女達は、見た目に反して決して可愛らしい存在ではないこともすぐに分かる。

 何故ならば、彼女達の腕の蔓には先程拐われたノーヴェ砂漠のドラリシオ・ブルーム二体がぶら下がっていたからだ。


「これ、何ー?」

「私達にちょっとだけ似てるけどー」

「でも、私達とは違うわよねぇー?」

「違う違ーう!私達、こんなにみすぼらしくないしー!」

「じゃあ、ニセモノ?」

「ニセモノー!」


 きゃらきゃらと笑いながら、好き勝手言い放題のドラリシオ。

 一方のぶら下げられたドラリシオ・ブルーム達は、涙目になっていて言葉も出ない。外見だけは自分達によく似てはいるが、明らかに異なる巨大なドラリシオ達に対して怯えているのだ。

 目の前で繰り広げられる無体な光景に、ラウルが思わず声を荒げる。


「やめろ!その手を離せ!」


 ラウルの怒号に、三体のドラリシオ・チルドレンが一斉に声のする方向を見遣る。


「……ン? アレ、何?」

「ンーと、人間と、人間っぽい何かの別物と、アヒルと、カラス?」

「あら? コレとは別のニセモノも、まだ他に二ついるみたいよ?」

「どうする? アレも全部捕まえてみるー?」

「ソレ、いいわねー。オモチャは多いほど楽しいものね♪」


 彼女達が悪気無く放つ言葉には、故意的な悪意は含まれていない。だが、言っている内容はどれも不遜で身勝手なものばかりだ。

 あまりにも好き勝手なことばかり言い続けるドラリシオ・チルドレンに、食ってかかったラウルはその端正な顔を歪めて歯を食いしばる。

 もちろん悔しい思いをしているのはラウルだけではない。ラウルの横に立っているレオニスもまた、極限まで顔を顰めてものすごく不機嫌そうな鬼の形相で仁王立ちしていた。


 そんなことはお構いなしに、捕食者としての獰猛な目をライト達一行に向けるドラリシオ・チルドレン。

 このチルドレン達は、どうやら彼我の差を全く感じ取ることができないようだ。

 レオニスが無言のまま背にある大剣の柄に手を伸ばし、触れようとしたその瞬間。

 どこかから声が響いた。


『おやめ』



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その麗らかな声が一帯に響いた瞬間から、ドラリシオ・チルドレン達が動かなくなった。

 そしてレオニスも、その声につられて手を止めたまま大剣を抜かずにいる。

 そうしてしばしの静寂が流れた後、突如ドラリシオ・チルドレン達の背後に何者かが現れた。


 それは、三体のドラリシオ・チルドレンをはるかに上回る巨大なドラリシオ。

 その背の高さは優に10メートルは超えていて、腕の数や蔓、花の形状、全てがドラリシオ・チルドレン同様に複雑で豪勢な出で立ち。しかも腰から生えているスカートのような花弁が幾重にも重なっていて、それはまるで貴婦人が舞踏会で着るドレスを思わせるような美しさを醸し出している。


 ラウルはそれまで見たことがなかったので知らなかったが、それこそが『ドラリシオ・レディー』と呼ばれるドラリシオ・チルドレンが成長して成体となった者の姿だ。

 背の高さと相まって、強烈な存在感を放つドラリシオ・レディーに、ライト達はただただ言葉を失いつつ見上げるしかない。

 そんな中、この場で唯一人だけ動じない者がいた。


「よう、ドラ子。久しぶりだな」

『久しぶりね、レオニス。……というか、その『ドラ子』という呼び方も懐かしいんだけど、もうやめて?』

「いや、だってお前、名無しじゃねぇか。……って、何だ、もしかして名有りになったのか?」

『ええ。先の春に母様から『カティア』の名を賜ったのよ』

「そうなのか!そりゃ良かったな!おめでとう!」

『ありがとう』


 レオニス達の目の前に立ちはだかる、巨大なドラリシオ・レディー。一度は大剣の柄に手を伸ばしかけたレオニスが、その手をひとまず下ろしてドラリシオ・レディーに話しかけた。

 カティアと名乗ったそれとレオニスは、どうやら知己の仲のようだ。

 しばらくは気安くも和やかに会話していた二者だったが、突如レオニスの発する空気が激変する。


「……お前が名有りに昇格したことは、非常にめでたいが。こいつらの躾はどうなってんだ? お前だってこの一部始終を見てたんだろ?」

『……ええ。だからこうして慌てて出てきたんじゃない』

「だったら今すぐお前の方で何とかしろ。俺がこいつらの蔓という蔓を全部ぶった斬って救い出す前にな」

『………………』


 一言一言、レオニスが言葉を発する度にその圧がどんどん強まっていく。

 彼が放つ憤怒のオーラはその場にいる者達全てを粟立たせ、ゾワリとした底知れぬ恐怖感に襲われ続ける。

 ドラリシオ・ブルームを捕まえたドラリシオ・チルドレンなど、全身が恐怖でガタガタと震えて一歩も動けない有り様だ。

 そんな恐怖に震えるドラリシオ・チルドレンに、カティアは一回だけふぅ……小さくため息をつく。

 そしてチルドレン達に向かって、徐に声をかけた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



『……貴女達』

「「「ハ、ハイッ!!」」」

『何か申し開きはある? あるなら一応先に、聞くだけは聞いてあげるけど』

「「「………………」」」


 カティアの声により、それまで金縛りに遭ったかのように動けなかったドラリシオ・チルドレン達がようやく動けるようになった。

 そしてクルッ!と身体の向きを変えて、自分達の背後に立っているカティアに真正面に向かい合う。


「カティア姉様!こ、これには訳があって……」

『訳? 一体どんな訳があったの?』

「そ、それは……ほ、ほら!コレ、私達にちょっとだけ似ているけど、よく見ると全然違うでしょ!?」

『……ええ。この子達は、チルドレンではなくブルーム……しかもかなり遠く薄まった血のようね』


 カティアが双方の言い分を聞くために、ドラリシオ・チルドレン達の言い分もまず聞いている。

 確かに、如何にレオニスとは知己の仲であろうと片方だけの言い分を聞くのも不公平だ。まずはチルドレンである妹達の言い分も聞いておこう、というカティアの方針は正しい。


 そしてドラリシオ・チルドレン達は、懸命に自分達の行動を正当化しようとしている。

 ドラリシオ・チルドレン達が指して言った『コレ』、捕らわれたドラリシオ・ブルーム達をカティアがちろりと見遣り、彼女達との違いを一目見ただけで看破した。


 一方のドラリシオ・チルドレン達は、カティアの『ブルーム』という言葉を聞いて、首を傾げている。


「え。ブルームって、ナニ?」

「知らなぁーい。そんなんあったっけ?」

「……あ、もしかして、あっちの方に住む子達のことじゃない?」

「ぁー、そういや私達とは違う形の子達が住む場所もあったわね?」

「あんまり会うことないから忘れてたけど」

「言われてみれば、確かにあっちの子達とも少し似てるわね……」


 ドラリシオ・チルドレン三体が、くっついて身を寄せ合ってゴニョゴニョと話をしている。

 基本的に、このドラリシオの群生地の中でもチルドレンとブルームの住処は分けられている。

 チルドレンはともかく、穏和な気質のブルーム達にとってチルドレンと完全同居するのはかなり厳しい。

 強気で我が道を行くチルドレンに、ブルーム達は常に圧迫されて従属を強いられるのがオチだからだ。

 そのため、普段から居場所を分けているのだ。


 そのことを思い出したチルドレン達。どうやら姉の言う通り、自分達が捕まえたのはドラリシオ・ブルームであることをようやく理解したようだ。

 だが、そこは基本勝ち気なチルドレン達のこと、そのまま己の非を認めるつもりはないらしい。

 何とか正当化を果たそうと再び口を開いた。


「で、でも!あっちの子達とコレはまた違うわ!」

「そうよ、カティア姉様だって見れば分かるでしょ!?」

「だってコレは、明らかにあっちの子達よりも弱いもの!」

「そうよそうよ!だからコレは、私達に似せて作られたニセモノなのよ!」


 あれこれと言い募るチルドレン達。

 カティアもそれまでずっと静かに聞いていたのだが、『ニセモノ』という言葉が出てきたところでカティアの黄金色の瞳がピクリ、と動く。

 そんなカティアの僅かな異変になど気づくことなく、チルドレン達はさらに言い募る。


「私達のニセモノなんだから、捕まえてお仕置きするのは当然よ!」

「ええ、そうよね!私達ドラリシオを騙るニセモノは、きっちりと成敗しないとね!」

「だから、カティア姉様も怒らないで………………ピャッ」


 外から来たドラリシオ・ブルーム達を捕らえた理由を、それまで意気揚々と語っていたチルドレン。

 姉様と慕うカティアが鬼の形相で自分達を見下ろしていることにようやく気づき、再び石化したかのように全員固まる。

 チルドレン三体のうちの誰かが言った『お仕置き』『成敗』という言葉が、カティアの怒りに火をつけたのだ。


『貴女達の言い分は、よく分かりました。外から連れてこられたこの子達が、私達とは違ってあまりにも弱くて見た目も異なるから捕まえた、ということですね?』

「「「……(コクコク)……」」」

『私達と違う点が多いから、ニセモノとして処罰しようと言うのですね?』

「「「……(コクコク)……」」」


 静かに問いかける(カティア)に、チルドレン達は『理解してもらえた!』と思い、無言のまま笑顔で何度も頷き続ける。

 だが、そんなニコニコ笑顔のチルドレン達に対し、カティアから容赦ない言葉が放たれた。


『ならば……私と見た目が違う貴女達も、私のニセモノとして処分(・・)してもいい、ということですね?』

「「「!!!!!」」」


 カティアが展開する三段論法に、それまで必死に頷き続けていたチルドレン達が再度固まってしまった。

 チルドレン達が固まったのは、カティアの『処分』という言葉。それは、チルドレン達がブルーム達に言い放った『処罰』や『お仕置き』なんかよりはるかに重く冷たい。


 そしてその言葉の冷たさは、何も『処分』という言葉だけではない。

 そこには先程までレオニスと話をしていた時のような、嫋かで優美な口調は一切ない。

 鋭い眼光を放つ黄金色の瞳が赤味を帯び、冷酷な眼差しとなってチルドレン達を見下ろす。


 ちなみにこの双眸が赤くなる現象は、ドラリシオの特徴の一つ。彼女達が強い怒りを感じた時に、普段は黄金色の瞳が赤く染まるのだ。

 そしてその色は怒りの度合いで変わる。軽いもので山吹色程度、怒りが増すにつれ橙色になり最終的には紅蓮の炎のように赤く燃え盛るという。

 そして今のカティアは、一連の騒動によりその瞳が橙色に変化していた。


 橙色の目とともに、底冷えするような低音で呟くカティア。

 眼前に聳え立つドラリシオ上位種が放つ言葉全般に、チルドレン達だけでなくライトやラウルまでも内心で震え上がる。


「カ、カティア姉様……」

「ご、ごめんなさいぃぃぃ……」

「姉様、許してくださいぃぃぃ……」


 ブルブルと震えながら、本気で涙目になってカティアに謝る三体のチルドレン。

 カティアの言うように、チルドレンもまたレディーとは見た目が異なる箇所がいくつかある。


 レディーの肩から生える腕の蔓は、一見左右五対の十本。三体のチルドレン達と同じようにしか見えない。

 だがそれは『普段の生活には、チルドレン時代と同様に十本あれば十分』という理由で、他の腕の蔓を表に出していないだけのことだ。

 カティアが全部の腕を出したら、肩どころか背中の肩甲骨あたりまで腕を生やすことができる。その数は五十本にも上るのだ。


 そして頭の天辺の花もチルドレンとは違う。

 豪華な八重咲きであることは同じなのだが、花びらの色がより濃くて美しい赤紫色をしている。

 そして頭の天辺の中央には複数の雌しべがついていて、黄金色の花粉がさながら金箔のように花びらを彩っている。

 その花粉は三つ編み状に束ねられた蔓やドレスのような腰の花びら等、至るところで光り輝いていてカティアの美しさをより引き立てていた。


 そう、カティアの言う通り、同じドラリシオでもレディーとチルドレンの間にも天地の差が厳然として存在する。

 そのことはチルドレン達にも分かるので、カティアの三段論法が導き出した結果『お前達の論で言えば、私がお前達を処分していいってことだよね?』という言葉に全く反論できなかったのだ。


 カティアの諭しにより、自分達が悪かった、ということはチルドレン達にも理解できた。

 だが、謝る先がカティアなのはいただけない。

 そのことをすぐにカティアにも指摘される。


『貴女達が謝るべきは、私ではないでしょう?』

「……ぇ……?」

『まずはそのブルーム達を離しなさい。そしてレオニス―――そこにいる人間達のもとに返してから、全てのブルーム達に誠心誠意謝るのです』

「「「……ッ!!」」」


 それまで恐怖に怯えて動けなかったチルドレン達。

 カティアが出した指示に、ようやく自分達がすべきことを理解した。

 チルドレン達は、腕の蔓で捕まえていた二体のブルーム達を慌てたようにレオニスとラウルの前に置いた。


 チルドレン達の手からレオニス達のもとに戻されたブルーム達のもとに、拐われなかった姉と他の一体がアクアの背から下りて駆け寄っていった。


「オ姉チャン!」

「貴女達、怪我はない?」

「大丈夫、怪我はしてなイ!……でモ……怖かっタ……」

「うわぁぁぁぁン!」

「無事で良かった……ぅぅぅ……」

「うわーーーン!」


 互いの無事を確認した四体のブルーム達。

 捕虜同然の状況から解放されたことで、一気に緊張が解けて妹達が大泣きしている。

 そして姉の方も、大泣きとまではいかないが涙をポロポロと流している。

 四体のブルーム達が身を寄せ合って、全員の無事を喜んでいた。

 前話で突如拐われてしまったドラリシオ・ブルーム達の救出劇です。

 ついでにドラリシオの中でも上位種であるドラリシオ・レディーも初登場。

 まぁ拐った誘拐犯は、当然のことながら群生地住まいのドラリシオ・チルドレン達。拐ったブルーム達に対しても、無邪気で残酷なことをしていますが、これは作者的にはリアルでの幼子のイメージで書いています。


 ほら、子供って小さい頃ほど残酷なことをして遊んだりしますよね? 庭で見つけた蟻やダンゴムシなどを踏み潰したり、蝶やトンボの羽を全部毟ってみたり。

 ……いえ、作者は決してそんなことはしてませんよ? ですが、作者が幼少の頃には、そうした遊びをしてた男の子を何人か見たことがあります。

(念の為書いておきますが、そんな残酷な遊びをしていた人達も今ではちゃんと立派な社会人してますよ?)


 そういう行動は、一般的には歳を重ねて常識というものを身に着けていくにつれてしなくなっていくものですが。拙作のドラリシオ・チルドレン達もそうした無知故の傲慢さ、『他者を慮らない、幼子に毛が生えた程度の感情しか持っていない』といったイメージで出しています。

 悪意がない分、まだ更生の余地がある子達です。悪意がないからって許される訳ではありませんが。


 そんな訳で、無知蒙昧なチルドレン達が一話のうちにやらかして、一話のうちに上位種のカティアにギャフン!されました。

 拙作には珍しいザマァ回ですね!(・∀・)

 ……って、え? こんなんザマァのうちに入らん?( ̄ω ̄;≡; ̄ω ̄)ウソーン

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