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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ドラリシオの悲劇

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第955話 過酷な運命と道のり

「アナタハ……誰?」

「僕の名前はマキシ。今は人の姿になってるけど、本当は八咫烏というカラスなんだ」

「私はフギン。マキシとレイヴンの兄だ」

「俺はレイヴン。マキシの兄ちゃんで、フギンの弟だ!」


 おずおずと問いかけたドラリシオ・ブルームに、マキシ達はそれぞれ名乗る。

 もちろんマキシ達の方から彼女達の名を問うことなどない。数日前にノーヴェ砂漠の中で生まれたばかりの彼女達に、個々の名前などついているはずなどないのだから。


 自分達には敵意がない、ということを示すべく、努めて笑顔の八咫烏三兄弟。

 マキシやレイヴンは普通に自然な笑顔なのだが、フギンだけは若干引き攣ったような笑顔になっている。これは、日頃からどれだけ笑顔で過ごしているかの差が出ているのかもしれない。


 ニコニコと笑っているだけで何もしてくる様子のないマキシ達に、ドラリシオ・ブルームにも敵意がないことが伝わったのか、重たそうに口を開いた。


「アナタ達……私達ヲ、どうするノ?」

「どうする……って?」

「食べるノ? それとモ、アイツ等みたいニ、いじめるノ?」


 ドラリシオ・ブルームが蔓の腕の先で指したのは、少し離れた場所に転がっている青い蛾や三つ目カマキリの死骸。退魔の聖水の結界の向こう側に、いくつも転がったまま放置されていたやつだ。

 それを見たマキシ達が、慌てて否定する。


「ぼ、僕達は君達を食べたりなんかしないよ!?」

「そうだとも!もちろんいじめたりもしないぞ!?」

「そうそう!もし食べるつもりなら、君達が寝ている間にとっとと食ってるって!」

「…………それモ、そうネ」


 マキシやフギンの即座の否定と、特にレイヴンの尤もな言い分にドラリシオ・ブルームも納得せざるを得ない。

 この見知らぬ者達が、もし自分達を取って食うつもりなら―――今頃こうして自分は目覚めることもないし、他のドラリシオ・ブルーム達もただでは済まない。

 だが、実際には未だそうなってはいない。周りを見ると、自分以外のドラリシオ・ブルームが安らかな顔でスゥ、スゥ……と寝ている。

 となれば、この者達は自分達にとって敵ではないことは明白だった。


 ひとまず安堵したドラリシオ・ブルーム。起きたばかりでまだ覚束ない頭の中を整理し始める。

 姉妹揃って寝てしまう前までの出来事を思い出そうと、懸命に記憶を辿る。


 まず、背の高い人型で全身ほぼ黒色の何者かが、空から突然降ってきて姉妹達の前に現れた。

 その者は今ここにはいないようだが、そいつが横たわる姉の口に水のようなものを入れて飲ませて、姉は少しだけ元気になった。

 そして、今目の前にいる人型の少年と身体に布を巻いた二羽の鳥のことも、徐々に思い出してきた。

 今いない背の高いのとほぼ同時に空から現れて、砂漠固有の敵魔物達を退治していた者達だ。


 自分達を散々苦しめてきた敵を蹴散らしてくれた者達。

 現段階では、完全に信用していいかどうかはまだ分からない。だがそれでも、一応は味方だろうと判断してもいいくらいには自分達寄りだということが、ドラリシオ・ブルームにもだんだんと理解できた。


「私達ヲ、助けてくれテ、ありがとウ」

「どういたしまして。僕達は敵じゃないってことが分かってもらえて良かった!」

「こノ、温かいのモ、アナタ達ガ、くれたノ?」

「うん、ここの夜はかなり冷え込むようだからね……といっても、毛布を貸してくれたのはラウルで……って、ラウルは今ここにはいないけどね」

「ラウル…………あノ、黒い人?」

「そうそう。黒い服を来てて、ぱっと見は人間だけど本当は妖精なんだ」


 ドラリシオ・ブルームから礼を言われて喜ぶマキシ。もちろんフギンもレイヴンも嬉しそうに頷いている。

 そして、ドラリシオ・ブルームが自分の球根部にかけられた毛布のことも尋ねる。自分にかけられた温情が気になるようだ。

 その毛布を与えてくれた恩人が、マキシの話によると今ここにはいないという。ならばそれはきっと、姉に元気になる水を与えてくれたアレに違いない、ということはドラリシオ・ブルームにも分かった。


 すると、そんな話をしているうちに、どこからか『くー……きゅるるる……』という腹の虫が鳴る音が聞こえてきた。

 その音源は、間違っても先程ラウル特製ご馳走でしっかりと腹拵えをしたマキシ達ではない。ドラリシオ・ブルームのお腹から聞こえてきたものである。


「……あ、君もお腹空いたよね?」

「うン……」

「兄様、どうしましょう……彼女にサンドイッチやタコ焼きとか、食べられますかね?」

「どうだろう……植物系魔物のことは、さっぱり分からん……」

「植物といえば、シア様やツィちゃん様だけど……お水以外の固形物を食べることは絶対にないよなぁ……?」


 空腹の様子のドラリシオ・ブルームに、マキシ達はどうすべきかゴニョゴニョと相談している。

 実際マキシ達が知る植物とは、ユグドラシアやユグドラツィなどの神樹くらいしかない。

 しかし、今彼らの目の前にいるドラリシオ・ブルームが神樹と同じ生態とはどうしても考え難い。

 さて、どうしたものか……と悩んでいると、ドラリシオ・ブルームの方からマキシに声をかけた。


「アレ、取ってきテ、くれル?」

「「「…………アレ?」」」


 ドラリシオ・ブルームの蔓の腕が指した方を、クルッ!と一斉に見るマキシ達。

 その方向は、先程指した方角と全く同じ。指した先には青い蛾が転がっている。


「ぇーと……アレを食べるの?」

「うン」

「わ、分かった……ちょっと待っててね」


 マキシがその場を立ち上がり、ドラリシオ・ブルームに言われた通りにブルーヒュプノモスを引き摺って彼女の横まで運んできた。

 すると、ドラリシオ・ブルームは蔓の腕を使い、ブルーヒュプノモスの大きな青い(はね)を、ブチッ!と毟り取ったではないか。


 ドラリシオ・ブルームの体格的な見た目は、上半身はマキシより少し華奢なくらいで、球根や頭の天辺の花の部分を合わせてもマキシよりも小柄だ。

 そんな見た目弱々なドラリシオ・ブルームだが、勢いよく翅を引き千切るところをみるとかなり力がありそうだ。

 直系よりも弱い傍系だからといって、その力を侮るのはかなり危険だ。見た目や名称に惑わされてはいけないのである。


 そしてドラリシオ・ブルームは、そのまま立て続けに四枚全ての羽や六本の脚を毟り取り、最後に頸部をポキッ!と割って取り、頭をポイー、と遠くへ放り投げた。

 そして手元に残った胴体部を、表面を軽く払ってから球根部の口を使って食べ始めた。

 傍から見たらかなりホラーというか、まんまスプラッターシーンである。


 しかしそれも、ある意味仕方のないことだ。

 このノーヴェ砂漠には、彼女達が食せるようなものは他にはない。

 雨だって一滴も降らないし、大地には砂しかないこの灼熱地獄に他に何がある?と問われれば、その答えは『ノーヴェ砂漠に住む固有魔物』以外にないのだから。

 彼女達は生まれてからずっと、こうするしか生き延びる術がなかったのだ。


 マキシ達が複雑な思いで見守る中、ドラリシオ・ブルームはあっという間にブルーヒュプノモスの美味しいところだけ?を食べ終えた。

 すると、マキシがハッ!としたような顔になり、ドラリシオ・ブルームに声をかけた。


「……ぁ、ぇ、えーと……おかわり、要る?」

「……(コクリ)……」


 マキシの問いに、ドラリシオ・ブルームは無言で頷き答えた。

 おかわりが要ると知ったマキシ、急いで二匹目のブルーヒュプノモスを引き摺って持ってきた。

 ドラリシオ・ブルームは先程と全く同じように、慣れた手つきでブルーヒュプノモスの翅や脚、頭を取り除いていく。

 だが、何故か可食部であるはずの胴体部を食べようとしない。

 マキシは不思議に思いつつ問いかけた。


「……食べないの?」

「コレハ、皆の分。皆ガ、起きたラ、あげるノ」

「そっか……優しいんだね」


 ドラリシオ・ブルームの考えを知ったマキシは、彼女の仲間達への思い遣りの深さに感動する。

 そういうことならば、一匹では到底足りないだろう。他の獲物も全て下拵えしておかなくては。

 マキシは再び立ち上がり、ドラリシオ・ブルームに話しかけた。


「そしたら、他のも全部ここに持ってくるね!」

「うン、ありがとウ」

「よし、我らも手伝おう。レイヴン、行くぞ」

「はい!」


 それまでずっとマキシとともに見守っていたフギンとレイヴンも、毛布から出てブルーヒュプノモス集めを手伝った。

 そうして計六匹分の追加のブルーヒュプノモスを集めてきたマキシ達。ドラリシオ・ブルームは、ブルーヒュプノモスが追加される度に、テキパキと胴体部だけを残していく。


 ドラリシオ・ブルームの蔓の腕の先端部は、ラウルが言っていたようにウツボカズラの花のような形をしていて、これが人間の手の指のように見える。

 そしてドラリシオ・ブルームの青い蛾の解体作業を見ていると、本当に人間の手の指のように器用に使っているのが分かる。

 何とも摩訶不思議な光景である。


「この青いの以外にも、いくつか違うのがあるけど……それも食べる?」

「青緑のハ、食べれル。トゲトゲのハ、不味いかラ、要らなイ。足ガ、八本あるヤツモ、硬くテ、食べるノ、大変だかラ、要らなイ」

「カマキリは食べられるんだね、分かった!」


 他の魔物が食べられるかどうかを尋ねたマキシ。

 ドラリシオ・ブルームのリクエスト通り、今度は青緑の=エフェメロプターを彼女のもとに運んだ。

 フギンやレイヴンとともに、せっせと三つ目カマキリの死骸を運ぶマキシ。親鳥が雛に餌を与えるかのような献身ぶりである。


 マキシ達がせっせと運ぶ中、ドラリシオ・ブルームはブルーヒュプノモス同様にちゃちゃっとエフェメロプターを解体する。

 エフェメロプターの翅、大鎌、脚、頭を全部毟り取り、胴体部だけを残す。

 ちなみにこのエフェメロプター、前脚の大きな一対の鎌がカマキリそっくりの見た目をしているが、それ以外の部分はほぼカゲロウである。


 獲物を一通り集め終えて、エフェメロプターの下拵えをしているドラリシオ・ブルームにマキシが話しかけている。


「トゲトゲは不味いの?」

「うン。硬くテ、ジャリジャリしてテ、一番、すっごク、とってモ、美味しくなイ」

「他のは美味しいの?」

「一番、美味しいのハ、八本脚。でモ、アレは、外側ガ、とても硬いかラ、割って食べるノ、すっごく大変」

「そっかぁ……いろいろ大変だったんだね……」


 ドラリシオ・ブルームが語る砂漠の固有魔物達の食レポ?に、マキシ達もうんうん、と頷きながら聞き入っている。

 確かにトゲトゲ=デザートスイーパーは食感がゴリゴリに硬そうだし、腹側の多数のヒダなど細かいところに砂がいっぱい入り込んでいてジャリジャリしそうだ。

 ちなみにこのデザートスイーパーも、一般的な星型のヒトデではなく八本足のオニヒトデに近い形状をしている。


 そしてサンドキャンサーが一番美味しいというのも頷ける。

 だがその硬い殻は、ドラリシオ・ブルームの中でも力の強い直系寄りにしか割れなかったという。

 最初のうちこそサンドキャンサーも食べられていたが、ドラリシオ・ブルームの個体数が減っていくうちに処理できる者がいなくなり、誰も食べられなくなったのだろう。


 そんなことをしているうちに、周囲の騒がしさで他のドラリシオ・ブルーム達も一体、また一体と目覚めて起きた。

 最初はマキシ達の姿に驚いて警戒したが、最初に起きたドラリシオ・ブルームが懸命に説明をして何とか落ち着かせていた。

 そして早速下拵え済みの魔物胴体部をもっしゃもっしゃと食べる。他の二体も、余程お腹が空いていたとみえる。


 その後彼女達から聞いた話によると、種から萌芽した直後は荷馬車の中に積んであった他の荷物を皆で食したという。

 彼女達ドラリシオ・ブルームの種を積んだ隊商の荷馬車は全部で五台あり、他の荷馬車に積まれていた食物や飲料を食べて成長したようだ。

 荷馬車を失った荷主が、違法品運搬が発覚する前に出した被害届には『干し肉』『米』『乾パン』『醸造酒』などがあったらしいので、そういった品々を食べていたと思われる。


 食べるものがなくなった後は、カタポレンの森を目指して皆で砂漠を歩き続けたそうだ。

 生まれたばかりの彼女達には、カタポレンの森がある方角が分かるはずもない。だが彼女達の本能は、自分達が本来居るべき場所を強く訴えていた。


 帰る場所を目指して、日々歩き続けるドラリシオ・ブルーム達。

 そんな彼女達の行く手を、ノーヴェ砂漠の固有魔物達が阻む。

 日中幾度となく襲いかかってくる様々な魔物達に、ドラリシオ・ブルームの数がじわじわと減っていく。

 そして彼女達の行く手を阻むのは、何も魔物達だけではない。凍えるような夜の寒さも、ドラリシオ・ブルーム達の身体に確実にダメージを与えていった。


 とはいえ、夜の間は魔物は襲ってこない。

 昼間に倒した魔物達の死骸を、生き延びた者達は貪り食らって養分を補い眠る。

 中には眠りに落ちたまま、二度と目を覚まさない者もいた。


 朝日が昇っても、目を覚まさない姉妹。もうすぐ魔物達が襲ってくる、と焦る他のドラリシオ・ブルームがゆっさゆっさと身体や球根を揺さぶる。

 だが、いくら大きく揺さぶっても、どんなに大きな声で呼びかけても、その姉妹が再び目を開けることはなかった。


 これ以上ここに留まり続ける訳にはいかない―――生き残ったドラリシオ・ブルーム達は、涙ながらに姉妹の花びらや蔓の一部を切り取り、その胸に抱きながら再び森を目指して旅に出る。

 そうして彼女達の過酷な旅が始まってから五日後。

 残り四体にまで減った彼女達の前に、突如現れた希望の光―――それがラウル達だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ドラリシオ・ブルーム達が語るこれまでの話に、マキシ達は涙を堪えることができない。

 マキシはポロポロと涙を流し、フギンは目頭をずっと抑え続け、レイヴンは人目も憚らず涙をダバダバと流し続けている。


「グスッ……本当に、本当にすごく辛い旅をしてきたんだね……」

「何という……何という過酷な運命か……」

「こんな……こんな辛く悲しいことが許されるんスか!? 俺はこの怒りを、一体誰にぶつければいいんスか!!」


 やるせなさとやり場のない怒りに震える八咫烏三兄弟。

 逆にドラリシオ・ブルーム達の方が、あわわわわ……と慌てているくらいだ。


「大丈夫。私達、いつカ、必ズ、絶対ニ、森に帰ル」

「だかラ、もウ、泣かないデ?」

「アナタ達モ、森の民、でショ? いっしょニ、帰ろウ、ネ?」


 ウツボカズラの花の手?で、マキシやフギン、レイヴンの涙を必死に拭おうとするドラリシオ・ブルーム達。

 その心根の優しさに、マキシ達の涙腺はますます崩壊の一途を辿る。


「僕達が、絶対に……絶対に君達を、カタポレンに連れて帰るからね!」

「そうだとも!我ら八咫烏一族の名にかけて、君達を森に無事送り届けると誓う!」

「俺も全身全霊全力で君達を助けるッス!」


 三羽の八咫烏と、三体のドラリシオ・ブルーム。

 カタポレンの森を故郷とする者達同士、その絆が結ばれた瞬間だった。

 マキシ達とドラリシオ・ブルーム達のあれやこれやです。

 今回は主に、ノーヴェ砂漠のド真ん中で生まれたドラリシオ・ブルーム達がどうやって生き延びてきたかが話の主軸になっています。

 その中で、青い蛾や三つ目カマキリをもっしゃもっしゃペロリ☆していますが。これを絵や映像化したら、モザイク画面満載になること間違いナッシング><


 でも、実際問題、もし砂漠のド真ん中で遭難したとしたら。あっという間に極限状態に陥って、毒がなくて食べられるものなら何でも口にしますよねぇ……

 人間だって、戦時下などの極限状態に追い込まれれば何をしてでも生き延びようとしますもんねぇ。それこそ芥川龍之介の描く『羅生門』の世界そのものですよね。


 生まれた瞬間から、壮絶かつ過酷な道を強いられ続けてきたドラリシオ・ブルーム達。ちゃんと救われてくれるといいのですが……

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