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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ドラリシオの悲劇

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第951話 理不尽な生を受けた者達の叫び

 その後ラウル達は、空からのノーヴェ砂漠探索を開始した。

 四つの黒い点が、雲一つないノーヴェ砂漠の蒼穹を(かけ)る。


 時刻は昼下がり。カタポレンの森やツェリザーク以外の普通の街ならば、時期的にもうそれなりに涼しくなってくる頃合い。

 しかしここノーヴェ砂漠には、春夏秋冬のような目に見える季節の変化など一切訪れない。

 一年中を通して昼は真夏の酷暑のような日照りが続き、夜は夜で初冬の冷え込みと大差ない温度にまで気温が下がる。

 四季など全く無視した特殊過ぎる環境は、ここがBCOというソーシャルゲームをベースにした世界であるが故なのか。


 日射しを遮るものが何一つない中、眼下に広がる砂漠を注視しつつ飛ぶラウル達。

 四者とも真っ黒な出で立ちだけにかなりキツい。黒は熱を吸収する色であり、灼熱のノーヴェ砂漠では最も忌避すべき色なのだ。

 事実冒険者ギルドネツァク支部においても、冒険者達の服装には白やベージュを強く推奨している。


 しかし、ラウル達にはそれを考慮する余地などない。

 ラウルの黒の天空竜革装備一式はラウルの力を最も強くしてくれるし、八咫烏に至っては種族全体が標準色なのだからどうしようもない。

 それでも一応熱中症対策として、皆それぞれに水魔法や風魔法を用いて体温調節に勤しみながら飛行している。

 ラウルは自身の空間魔法陣を開いて、水分補給のためのエクスポーションやアークエーテルを飲んでいる。八咫烏三兄弟も空間魔法陣を会得しているので、各自飛行しながら適宜水分補給を行っていた。


 そうして飛行開始してから、一時間くらいが経過しただろうか。

 ノーヴェ砂漠の固有魔物達が砂漠の上を闊歩しているところや、固有魔物同士が小競り合いしているらしき場面などは何度か見かけたが、ドラリシオらしき濃緑色の魔物はまだ一度も見つけられていない。


 さすがに数時間程度の飛行偵察だけで、ノーヴェ砂漠全体を隈なく調査するのは不可能だ。

 だが目的が偵察だけに、行動範囲もある程度絞られる。要はネツァクの街に近い範囲がどうなっているかを重点的に確認すればいいのだ。

 そのため、ラウル達はネツァクの街から近い方の砂漠の上を飛び、少しづつ街から離れて調査範囲を広げていく。


 そしてさらに一時間半程が経過した。

 濃い蒼色だったノーヴェ砂漠の空の色も、次第に薄まってきている。もうすぐ夕暮れ時になる、その一歩手前といったところか。


 砂漠には目印となるものが一切ないので、どこからどこまでを調査したかという明確な判断基準がない。

 しかし、ラウル達がはるか高い上空を飛んでいても、もうとっくにネツァクの街が見えないところまで偵察を進めた。

 そこまで調べて何もなければ、もうネツァクの街に戻ってもいいだろう。


 灼熱の砂漠を二時間以上も飛び続け、ラウルや八咫烏三兄弟の顔にも疲労の色が隠せない。

 これからどうするかを決めるため、マキシやフギン、レイヴンがラウルのもとに近づいていく。


「ラウル、まだ何も見つけられていないけど……どうする?」

「……そうだな。これだけずっと飛び続けても、何も見つからないということは……」

「ラウル殿、日が暮れる前に人里に戻るべきかと」

「そうッスね……もうドラリシオは、殲滅されたと見て間違いな…………ン?」


 四者で話し合いをしている最中に、レイヴンの目の端に何かが留まった。

 何かに気づいた様子のレイヴンに、ラウルやマキシ達もレイヴンの見ている視線の先を追う。

 ラウルには何も見えなかったが、マキシとフギンは数瞬後に目を大きく見開いた。

 そして一番最初にそれを発見したレイヴンが、一際大きな声で叫んだ。


「あっちにドラリシオらしき魔物が何体かいる!」

「……確かに!しかも砂漠の魔物達に取り囲まれているようだ!」

「皆で行こう!ラウル、僕達の後をついてきて!」

「わ、分かった!」


 目のいい八咫烏達がようやく見つけた、ドラリシオらしき魔物。

 ラウルにはまだ何も見えないが、八咫烏達が三羽揃ってそう言うのならば絶対にその先にドラリシオ達がいる。

 ラウルもそう確信し、マキシ達とともに急いで現場に向かっていった。



  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 地に倒れた一体の植物系魔物と、それを背に隠すようにして砂漠の上に立つ三体の植物系魔物。

 合計四体のドラリシオ・ブルームが、多数のノーヴェ砂漠固有の魔物達に取り囲まれていた。


 ドラリシオ・ブルームを取り囲むのは、青い蛾型のブルーヒュプノモス、砂色ヒトデのデザートスイーパー、翡翠色のカマキリエフェメロプター、人型の黒い靄アビスソルジャー、そしてラウルが愛して止まない砂漠蟹のもとであるサンドキャンサー。

 指折り数える程しかいないノーヴェ砂漠の固有魔物、それらが全種揃っている。


 そして一種につき三体くらいいて、総勢十五体はいるだろうか。

 それらノーヴェ砂漠の固有魔物に取り囲まれた、四体のドラリシオ・ブルーム。彼女達は全身満身創痍で、そこに立っているだけでもかなり辛そうだ。


 魔物達の周辺には、そこに至るまでにドラリシオ・ブルームに倒されたであろう青い蛾の羽やカマキリの鎌、そして濃緑色の植物の蔓のような破片や赤紫色の花弁のようなものが多数散乱している。

 ここで激しい戦闘が繰り広げられたという、生々しい痕跡がありありと見て取れる惨状だった。


 取り囲んだドラリシオ・ブルームに、じわりじわりと近寄る固有魔物達。

 それに対して、三体のドラリシオ・ブルームが必死の形相で敵を遠ざけようと腕の蔓を伸ばしては大きく振り回している。

 そんな懸命な彼女達に、真ん中で庇われている瀕死のドラリシオ・ブルームが弱々しい声で話しかける。


「……貴女達、だけ、でも……逃げなさい……」

「イヤ!オ姉チャン達ト、いっしょニ、居るノ!」

「ダメよ……貴女達は……生き延びて……森に……帰りなさい……」

「イヤッたらイヤ!帰るなラ、皆いっしょヨ!オ姉チャンモ、いっしょニ、オ母チャンノ、ところニ…………ッ!!」


 真ん中にいる、年上と思しきドラリシオ・ブルームが懸命に三体の年下ドラリシオ・ブルームを説得している。

 三体は瀕死のドラリシオ・ブルームを背にして庇っているので、お互いの顔を見ることができない。

 彼女達の会話の最中にも、ブルーヒュプノモスの鱗粉攻撃やデザートスイーパーの砂飛ばし、エフェメロプターの真空波攻撃が飛んでくる。


 もちろん三体のドラリシオ・ブルーム達も懸命に応戦し、勇敢に戦っている。

 だが、多勢に無勢。スカートのような腰の花弁は真空波攻撃によって切り裂かれ、砂や鱗粉は彼女達から視界や感覚を徐々に奪っていく。


 今の彼女達が待ち望んでいるのは日没。

 このノーヴェ砂漠は、一度日が落ちれば固有魔物達は砂の中に潜ったり何処かに消えていってしまう。

 そして日が昇ればまた砂の中から這い出てくる。

 こうした規則的な生活サイクルは、ノーヴェ砂漠の固有魔物全種に共通する。そしてドラリシオ・ブルーム達も、ノーヴェ砂漠で萌芽して以来数日間過ごしてきたことでその法則性を知っていた。


 日が暮れて夜になれば、一時だけでも安寧の時間を手に入れることができる。

 食事や養分摂取は、ドラリシオ・ブルームとの戦闘で破れた魔物達の死骸を夜中に取り込むことで何とか凌いでいる。


 魔物達と戦っている三体のドラリシオ・ブルームのうち、一体が空を見上げる。

 空の色の薄らぎは、夕暮れ時が迫っていることを指し示している。

 このまま耐えきって日が落ち、夜になりさえすれば―――

 だがその夜に至るまでのほんの僅かな間が、途轍もなく長い時間に感じる。



 誰カ……誰カ、助けテ……


 オ姉チャント、ワタシ達ヲ……


 誰でモ、いいかラ……お願イ……助けテ…………!



 誰に向けるでもなく、ドラリシオ・ブルーム達が天を仰ぎ祈る。

 だが、敵はそんなことはお構いなしに容赦なくドラリシオ・ブルーム達に襲いかかり続ける。

 もうダメ、ここまでカ……とドラリシオ・ブルーム達が思いながら、ふと空を見上げた、その時。

 空に二つの黒い点が現れているのが、ドラリシオ・ブルーム達の目に留まった。

 あれは……何だろう?と不思議に思っているうちに、二つの黒い点とは違う別の黒い点二つが合流して、合計四つに増えていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 時は少し遡り、マキシ達が見つけたドラリシオ・ブルームのもとに急ぎ向かう途中のこと。

 マキシ達だけでなく、ラウルの目にもようやくドラリシオ・ブルームと固有魔物の群れが見えてきた。


「……あれか!」

「ええ!あの様子だと、どうやらドラリシオ達はまだ生きて戦っているようです!」

「そしたら俺は、あのドラリシオ達に話をつけてくる!マキシ達はその間、周りにいる魔物達を退けてくれ!」

「「「はい!」」」

「あの中にはサンドキャンサーもいるようだが、もし逃げずに襲いかかってきたら遠慮なく()ってくれて構わん!砂漠蟹なんかより、皆の命や安全が最優先だ!」

「「「了解!」」」


 現場に近づきながら、ラウルがマキシ達に固有魔物達の撃退を指示する。

 四者のうち先頭を飛んでいたマキシはそのまま真っ直ぐ飛び続け、マキシの右側にいたフギンと左側にいたレイヴンが飛行スピードをグン!と上げて左右に散開していく。

 地上で戦っているドラリシオ・ブルーム達と同様に、八咫烏三兄弟で三角形の陣を形成して固有魔物達に一斉に突撃するつもりだ。


 ラウルもそれに負けじと飛行スピードを上げて、マキシの前に出ようとした、その時。

 突如ラウルの脳内に悲痛な叫び声が響き渡った。


『誰カ……』

『助けテ!』

『オ母チャンのところニ……』

『皆デ……帰りたイ!!!』


 それは、理不尽な理由でこの世に生を受けたドラリシオ・ブルーム達の心の叫びだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ラウルの脳内に突如聞こえてきた、あまりにも悲痛で心が張り裂けそうな叫び。

 それはまるで木霊のように、ラウルの頭の中で反響し続ける。

 大音量でガンガンと響く声に、ラウルの飛ぶスピードが急激にガクン、と落ちて遂には空中で立ち止まってしまった。


 そんなラウルの異変に、マキシがいち早く気づく。

 自分も飛ぶスピードを一気に落とし、頭を抱えて空中で(うずくま)るラウルの横についた。


「ラウル、どうしたの!? 大丈夫!?」

「…………大丈、夫、だ…………」

「全然大丈夫そうじゃないよ!急にどうしたの、何かあったの!?」


 思いっきり顔を顰め歯を食いしばり、両手で頭を抑えながら苦痛に耐えるラウル。

 突如ラウルの脳内で、大音量の叫びが幾重にも木霊したのだ。それが原因となって、これまで一度も経験したことのないような激しい頭痛に襲われていた。


 目をギュッ!と強く閉じ、両耳を手で塞ぎながら頭を抑えるラウル。

 激痛に耐えるラウルの背中を、マキシが心配そうに懸命に擦っている。

 とても心配しているマキシの問いかけに、ラウルが何とか気力を振り絞って呻くような声で答える。


「………………声」

「声?」

「あれは……ドラリシオ達の声だ……」

「え!? 僕には何も聞こえてないけど……ラウルには何か聞こえたんだね!?」

「ああ…………」


 多くは語らないラウルだが、脳内に響いた叫び声は女性のもの。

 そして聞こえてきた言葉の数々から、その叫び声の主はドラリシオ・ブルームであることは明白だった。

 そしてその声は、マキシには全く聞こえていないようだ。


 ドラリシオ・ブルーム達の声が、何故マキシには聞こえなくてラウルにだけ聞こえたのか。

 マキシは全く見当がついていないようだが、ラウルは凡そのことを察していた。


 ドラリシオ・ブルームは、言わずと知れた植物系魔物。

 しかし、魔物とは言いつつその実態はあまり知られていない。

 そしてラウルの出自である妖精族プーリアは、フォレットという木から生まれる種族。

 どちらも植物の性質を強く受け継ぐ種族であり、その気質の近さ故にラウルはドラリシオ・ブルーム達の強い念を声として受け取ったのだ。


 そんな悲痛な叫びを、思わぬ形で聞いてしまったラウル。

 未だに頭がガンガンに痛いが、こんなところで立ち止まっている暇はない。

 目を閉じたまま精神集中し、回復魔法を自身にかけていく。


 何度も回復魔法をかけているうちに、次第に頭痛が収まっていく。

 懸命の努力により、何とか軽度の頭痛にまで治まったラウル。再び目を開けて真っ直ぐに前を見据える。


「すまん。マキシにも心配かけた」

「ううん、そんなことないよ!ラウルの体調はどう? もう大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。とんだところで止まっちまったが、時間が惜しい。行くぞ」

「……うん!」


 ドラリシオ・ブルーム達がいる方向を真っ直ぐ見つめるラウル。

 その瞳の力はとても強い光を宿していて、横で心配していたマキシの懸念も瞬時に晴れていく。

 強い決意に満ちたラウルには、マキシが心配する必要などもうどこにもない。

 ラウルとマキシは再びドラリシオ・ブルーム達のいる戦場に向けて、急発進で飛び出していった。

 ラウル達のノーヴェ砂漠偵察風景です。

 砂漠ってのは現実世界でも非常に厳しい環境です。

 そんな、ただでさえ厳しい環境の砂漠がゲーム世界の冒険フィールドとして登場したら、ますます酷くなるのは必至。ゲームだけに四季なんて無視無視!


 でもって、そんなカンカン照りの灼熱砂漠を飛ぶラウル達。全員がほぼ全身黒だから、下手すれば数分で煮えちゃうでしょう><

 あっという間に妖精&カラスの丸焼き四丁の出来上がり!とかシャレなんない(;ω;)

 でもまぁね、拙作の舞台はファンタジー世界ですので!

 各自の魔法と工夫により、熱中症なども回避できちゃうのです!(`・ω・´)


 ……って、そういや熱中症って、昔は『日射病』とか『熱射病』とか言ってたような気が……?(゜ω゜)?

 と思いつつ検索してみたら。2000年に『熱中症』という名称で統一したのですねー。

 言葉というものはまるで生き物のような流動性があって、時代によって変遷していくものなんだなぁ……と改めて感じた作者でした。

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