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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
新しい生活

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第926話 掘り出し物とその由来

 四日間のお盆休みをいただき、ありがとうございました。

 予定通り、本日より連載再開いたします。

 これからも拙作をどうぞよろしくお願い申し上げます。

 ルティエンス商会の奥、亜空間から抜けて表の店に通じる通路に出たライトとロレンツォ。

 それまでどことなく重たく感じていた空気がフッ……と軽くなるのを感じるライト。

 その体感の変化を感じる場所こそが、この世界と亜空間の境目なのだろう。


 そこから数歩進んだところで、ロレンツォが歩を止めた。

 ロレンツォの横には勝手口のような小ぶりの扉が一枚ある。

 ロレンツォがその扉に手をかけつつ、ライトに声をかけた。


「こちらが裏手に通じる扉です」


 そして扉を開くロレンツォ。

 扉の向こうは中庭のようになっていて、そこに小さな倉庫があった。

 倉庫の横には、ロレンツォが言っていた通り小さな空き地がある。人が横に二人も並べばいっぱいになりそうな、本当に小さな隙間だ。

 そこなら本当に人とバッティングする可能性はゼロに等しそうである。


「ロレンツォさんが仰っていたのは、横のここですか?」

「はい。ここならば表通りや店の中からも見えませんし、ライトさんも安心して来ていただけるかと」

「ありがとうございます!そしたら早速マッピングの移動ポイントを登録させていただきますね!」


 ライトは早速倉庫横の空き地に立ち、マイページのスキル欄を開いてマッピング登録を開始する。

 慣れた手つきでホログラムパネルを操作し、七ヶ所目の地点を『ツェリザーク/ルティエンス商会裏口』という名称で登録完了した。

 そしてそこから三歩ほど歩き、離れた場所からマッピングを使用するライト。新登録ポイントまでちゃんと移動するかどうかの確認である。

 再び倉庫横の空き地に移動したライトは、満足そうな顔でロレンツォのもとに駆け寄った。


「無事地点登録できました!」

「それはようございました。ここの扉は鍵をかけずにおいておきますので、必要な時にはいつでもお越しください」

「ありがとうございます!」


 ロレンツォの好意的な言葉に、ライトは破顔しつつ礼を言う。

 これでライトはいつでもロレンツォに直接会えるようになった。

 今までは、ツェリザークに出かけた時にしか立ち寄れなかったルティエンス商会。マッピングスキルを得たおかげで、一気に身近なものになったことはライトにとって計り知れない恩恵となるであろう。


 そしてロレンツォが、ふと何かを思いついたように人差し指を立てながらライトに話しかける。


「ああ、もちろん必要に迫られずとも、いつでも気軽にお越しくださってよいのですよ? 例えば三時のおやつ時などに、他愛のない世間話をしにいらっしゃってくださってもよろしいですし」

「えー、ホントですか? そんな嬉しいことを言われたら、真に受けて本当にちょくちょくお邪魔しに来ちゃいますよ?」


 ロレンツォの心遣いに、ライトは目を見開きながら冗談交じりに応える。

 交換所の店主という立場を担うロレンツォは、BCOシステムを知る数少ない貴重なBCO仲間だ。

 彼の担当領域である交換所システムや、課金通貨を用いるCPショップ関連の相談はもちろんのこと、他の話もいろいろとしてみたい!とライトは常々思っていた。

 それだけに、ロレンツォの厚意はライトとしても非常にありがたかった。


「本当ですとも。当店は基本的にいつでも暇ですからね」

「フフフ……じゃあそしたらぼくが、美味しいお茶菓子を持ってきますね!」

「では私は上等な茶葉と冷たいぬるぬるドリンクをご用意して、お待ちしております」


 ロレンツォのいつでも暇宣言を聞き、ライトは思わず笑ってしまう。

 ここルティエンス商会は、ツェリザークの中でも指折りの老舗だ、とかつて受付嬢のクレハが言っていた。曲がりなりにも老舗と呼ばれる店舗を構える店主が、うちの店は年がら年中暇だから!と宣うのもどうかと思われるが。取り扱う品目を考えれば、そう言っても不思議はないだろう。


 するとここで、ロレンツォがふと扉の向こうにある店の方を見た。


「おや、お客様がいらしたようです。……ライトさんのお連れ様がいらしたようですね」

「あ、ラウルがお仕事終わって迎えに来てくれたんだ!」

「では店の方に戻りましょう」

「はい!」


 ライト達は中庭を出て、表の店舗の方に戻っていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ライト達が店に戻ると、ラウルが店の中の胡散臭い品々を眺めているところだった。


「あッ、ラウル!おかえりー!」

「お、ライト、ただいま。待たせたか?」

「ううん、店主のロレンツォさんに、いろんな面白いものを見せてもらってたから全然大丈夫だよ!」

「そっか、そりゃ良かった」


 仕事上がりに迎えに来てくれたラウルの身体に、バフッ!と飛び込んでいくライト。

 ラウルの身体からは、ほんのりと氷蟹の香ばしい匂いがするような気がする。

 ライトは思わず鼻をクンクンとさせながら、ラウルにそのことを告げる。


「……ラウル、何か氷蟹の美味しそうなニオイがするー」

「え、マジ? そりゃいかん、ちと浄化魔法をかけるか」


 ライトからの思わぬ言葉に、ラウルは己の両腕を鼻に近づけてクンクン、と嗅ぎながら急いで浄化魔法をかける。

 うっすらと光る粒子がラウルを包み込み、甲殻類の香ばしい香りを消し去っていく。

 聞けば今日のラウルは、依頼書の三ヶ所で合計三百匹分の氷蟹の殻処理を引き受けてきたらしい。

 それだけ大量の蟹殻と接触してくれば、髪や衣服に氷蟹の香ばしい香りが移って当然である。


 また、ツェリザークの氷蟹殻処理依頼の報酬は一匹1000Gなので、三百匹分というと30万Gになる計算だ。

 殻を持ち帰るだけで300万円相当の稼ぎになるとは驚きだが、常人では三百匹分もの殻を持ち帰ること自体が不可能であり、その先の処理までしなければならないことを考えれば妥当な報酬と言えよう。


 ラウルが浄化魔法をかけ終えたところで、ロレンツォがラウルに声をかけた。


「ライトさんのお迎え、ご苦労さまでございます」

「ああ、ここの店主か。ロレンツォ、といったか? うちの小さなご主人様がいつも世話になってるようですまないな」

「いえいえ、こちらこそライトさんとはいろんな会話で楽しませてもらっておりますので……どうぞお気遣いなく」

「まぁな、うちの小さなご主人様はとにかく賢いからな。俺もいっつも人里での常識やら知恵やらを教えてもらうばかりだ」


 ライトとの会話が楽しい、というロレンツォに、ラウルが同意しつつドヤ顔でライトの賢さをさらに強調する。

 相変わらず謙遜のケの字も持ち合わせていないラウルに、ライトは恥ずかしそうにしながら「ラウル……そこはさ、ちょっとくらい否定してもいいんだよ?/////」などとゴニョゴニョ呟く。

 そんな微笑ましい主従達のやりとりを、ロレンツォもまた微笑みながら見ている。


「ああ……そういえば先日当店に、ラウルさんが喜びそうな品が入りまして」

「ン? あの『出刃ソード』と『真菜シールド』が入荷したのか?」

「いいえ、それとは別物なのですが……只今お品をこちらに持ってまいりますね」


 ロレンツォの話によると、何やらラウルが好みそうな品が入荷したらしい。どんな品かはまだ分からないが、ラウルの目は期待に満ちている。

 一旦店の奥に引っ込んだロレンツォが、程なくして店内に戻ってきた。その手には、とても大きな金色の何かがある。


「こちらは『金色杓子』というお品です。見た目はお玉そのものなのですが、大きさが鬼人族サイズなのです」

「おおお……確かにこれはオーガが持っても遜色ない大きさだな」

「こちらは、とある秘境に住む巨猫族が使用していた調理器具です。炊き出し時の大鍋の掻き回し用などの調理器具としてはもちろんのこと、殴打用の武器にもお使いいただける逸品でございます」

「実際に持たせてもらってもいいか?」

「もちろんでございます」


 ロレンツォが奥から持ってきたのは、金色に輝く巨大なお玉。

 その長さはラウルの身長よりも大きく、確かにオーガ族が普通に調理道具として使っていてもおかしくない大きさだ。

 ラウルがロレンツォから受け取って、その重さや持った質感などを確かめている。


「見た目に反して然程重たくは感じないな……金の部分は何の材質でできているんだ?」

「お玉の部分は、ミスリルとオリハルコンの合金と聞いております。そして柄の方は、アイアンウッドというとても硬い木を使用しております」

「ほう……もしこれを武器として使用するとしたら、やはり振り回すのか?」

「そうなりますね。あるいはお玉の部分を盾代わりに用いたりすることも可能かと」

「そうだな……ミスリルとオリハルコンの合金でできているなら、防御力もかなり高そうだ」


 狭い店内で実際に振り回す訳にはいかないので、手に持ったまま金色杓子を繁繁と眺めるラウル。金属製のお玉の部分を手で撫でたり、アイアンウッドの柄を握りしめたりしている。

 その目はとても輝いていて、如何にも買う気満々のように見える。


 ちなみにライトもこの『金色杓子』を知っている。

 これは『無人島調査ミッション』という期間限定イベントで入手できた両手武器の一種だ。

 巨大なお玉を武器として持つのは、かなりシュールな絵面だったのでよく覚えている。



『あー、あの金色杓子、懐かしいー!あれ、確か無人島調査イベントのアイテムだったよな?』

『無人島の奥深くに住む、クード・ヴァン・センリ族という巨大な猫がいて、その猫が耕す畑を荒らす害獣を退治してくれ!という依頼を引き受けることで得られる品だった、はず』

『あの金色杓子が実際のものとして存在するなら、俺達ユーザーに害獣退治を依頼してきたクード・ヴァン・センリ族も、このサイサクス世界のどこかに実在するってことなのか? ……って、そういやマイページのイベント欄の中に『無人島調査ミッション』があったよな!?』

『てことは!? あのイベントを開始すれば、クード・ヴァン・センリ族に会える!? ……よし、今やってるエクストラクエストが完了したら、次は『無人島調査ミッション』をやろうっと!』



 ライトの目の前に現れた金色杓子を見ながら、頭の中であれこれと考える。

 その中で思い出した期間限定イベントの『無人島調査ミッション』。先程ロレンツォがラウルへの説明の中で口にした『巨猫族』とは、クード・ヴァン・センリ族のことである。

 イベント報酬の一つである巨大な金色杓子の持ち主であり、お玉や鍬を器用に扱う二足歩行の猫。その体格はオーガに比肩する大きさである。


 世界でも類を見ない巨大猫!これは何としても実物に会いたい!いつか絶対にクード・ヴァン・センリ族に会いに行くぞ!とライトは心の中で密かに決心する。

 そんなライトの横で、ラウルはロレンツォとガッツリ商談を進めていた。


「店主、これの売値はいくらだ?」

「3万Gを予定しております」

「ふむ……買い手はもう付いているのか?」

「いいえ。先日入荷したばかりでまだ店頭に一度も出しておりませんので、予約なども入ってはおりません」

「よし、買った!」


 調理器具に目のないラウル、何と3万Gの金色杓子を即決で購入することを決めたではないか。

 さすがラウル、殻処理依頼で稼いだ直後なので財布の紐がかなり緩いと見える。もっともラウルの場合、新しい物好きかつ調理器具マニアなのでどの道この機会を見逃すことなく絶対に購入していたであろう。

 ラウルは早速空間魔法陣を開き、財布を取り出して中から金貨三枚を出してロレンツォに渡す。


「これでいいか?」

「はい、確かに3万Gをお受け取りいたしました。お買い上げいただき、誠にありがとうございます」

「ここには本当に面白いものがあるな。ライトが見てて飽きないと言うのも納得だ」

「お褒めいただき、恐悦至極に存じます」


 ルティエンス商会の品揃えを褒めるラウルに、ロレンツォが胸に手を当てつつ恭しく頭を下げる。

 実際こんな巨大なお玉を普通に売っている店が、他にもあるとは到底思えない。人族の街では、このルティエンス商会くらいのものだろう。

 新しい調理器具との出会い、それはまさに一期一会。

 ラウルはその出処や実情を全く知らないが、それでも貴重な品をゲットすることができてとても喜んでいる。

 そんなラウルに、ライトも喜色満面の笑顔で声をかける。


「ラウル、新しいお玉が買えて良かったね!」

「ああ、今度これをオーガの里に持っていって、料理教室で使ってみるわ」

「そうだね、オーガの人達にピッタリそうなサイズだもんね!」


 自分もBCO由来のアイテムを久しぶりに見ることができて、とても嬉しかった!とは決して口に出しては言えないが、それでもライトの顔は自然と綻んでしまう。

 そんなライトの笑顔に、ラウルもまた笑顔になる。


 ロレンツォから受け取った金色杓子を、ラウルは大事そうに空間魔法陣に仕舞い込む。

 そして空間魔法陣を閉じてから、ラウルはライトに声をかけた。


「さ、そしたらそろそろ冒険者ギルドの方に戻るか」

「うん!」


 一仕事を終えたラウルのお迎え、そして思わぬ掘り出し物を見つけたラウルの買い物も無事住んだライト達。

 そろそろ冒険者ギルドツェリザーク支部に戻るか、という話になった。

 ライトは改めてロレンツォの方に身体を向き直し、ペコリと頭を下げた。


「ロレンツォさん、今日もとても楽しかったです。ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそいろんなお話ができて楽しゅうございました。それに、お連れ様に3万Gのお買い物までしていただけましたし。よろしければ、今後ともご贔屓の程よろしくお願い申し上げます」


 ライトの挨拶に対し、ロレンツォはライトだけでなくラウルに対しても丁寧な挨拶をする。

 実際のところ、先程3万Gで売れた『金色杓子』はかなり大きな売上であることは間違いない。

 ラウルはもはやルティエンス商会にとって大事な顧客であり、立派な上得意様なのだ。


「ああ、こちらこそよろしくな。前から頼んでいた『出刃ソード』と『真菜シールド』も待ってるから、入荷したら取り置きよろしくな」

「畏まりました」


 ロレンツォが店の入口の扉を開けて、外に出たライト達。

 そのままロレンツォに見送られながらルティエンス商会を後にした二人は、冒険者ギルドツェリザーク支部に向かって歩いていった。

 前書きにも書きました通り、本日より連載再開です(・∀・)

 ぃゃー、四日間ずーっと絶え間なく車であちこち飛び回ってました……

 おかげさまで、四日もお休みしてたというのに相変わらず下書きストックは増えないままという…(=ω=)…

 まぁね、考え事しながら車の運転するのも危ないですし。そこは事故りたくないというか、事故ったら洒落になんないので。ストックが増えないのも致し方なしです。


 さて、無事再開したサイサクス世界の物語ですが。

 作中に出てきた『無人島調査ミッション』は、第169話にてちろっと出てきています。ライトが一番最初にイベント欄を開いた時に、数ある一覧の中で出てきた例の一つですねー。

 でもって、今回の掘り出し物『金色杓子』とラウルが前々から欲しがっている『出刃ソード』『真菜ボード』も同一イベントの限定アイテムだったりします。

 そこら辺も第583話で触れていたりなんかして。


 そしてライトはライトで『エクストラクエストが終わったら、『無人島調査ミッション』やるぞ!』なーんて考えていますが。そのエクストラクエスト、果たしていつ完了するんでしょうね?(´^ω^`) ←作者ですら全く分からない

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