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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
新しい生活

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第919話 再会の約束

 氷の女王は、それまで氷の洞窟に守護神がいるなどとは一度も考えたことがなかった。

 彼女の目に見える範囲に卵などないし、そもそも神殿守護神という存在すら全く知らなかったのだ。


 だが、姉である水の女王には湖底神殿守護神の水神アクアがいることを知った今、もう無知なままではいられない。

 水の姉様のところには、水神アクア様という立派な御方がいらっしゃるのに……何故、自分のところにはいないのだろう?

 それはやはり、自分が未熟で至らないせいなのだろうか?

 氷の女王の心の中は、水の女王との邂逅で得た喜びが全て消え失せてしまう程の強烈な不安に駆られていた。


 そんな氷の女王の不安を、目の前にいる人族が払拭してくれた。

 これは、一度は絶望に染まりかけた氷の女王にとって、まさに救世主の出現にも等しい救いとなっていた。


『それは、この氷の洞窟にもアクア様のような立派な守護神を迎え入れることができるということか!?』

「ああ、多分な」

『ならば今すぐにもお迎えしたい!どうすればいいのだ!?』


 絶望の淵から這い上がった氷の女王。席を立ち上がりレオニスの横に移動し、顔前にズイッ!と迫りつつ守護神誕生を急く。

 だが、そんな氷の女王にレオニスが冷静な声で返す。


「まぁまぁ、そう慌てなさんな。今日は水の女王もいることだし、今すぐどうこうするのは無理だ」

『…………あ』

「また日を改めて、俺達が氷の洞窟の調査に来ると約束しよう。だから今日のところは、それで我慢してくれ」

『……そ、そうだな……水の姉様を放って洞窟の中に入る訳にもいかぬな……』

「そういうこった」


 それまで興奮していた氷の女王の勢いが、嘘のように薄れていく。

 レオニスの『水の女王がいる(から今日は無理)』という指摘に、我に返ったようだ。

 そしてすぐさま水の女王に向けて謝りだした。


『水の姉様、申し訳ありません……我としたことが、思いがけぬ話に舞い上がってしまいました……』

『え? そ、そんな、こんなの謝るほどのことじゃないわよ? むしろ私がいるせいで、氷の女王ちゃんの守護神探しの足を引っ張っちゃったみたいで……ごめんなさい』

『そんな!姉様こそ謝らないでください!』


 しょんぼりとする氷の女王の謝罪に、今度は水の女王が慌てふためきながら再度氷の女王に謝罪した。

 実際のところ、水の女王がいなければ―――ここにいるのがライトやレオニス、ラウルだけならば、今すぐにでも氷の洞窟の調査に取りかかることができるだろう。

 氷の洞窟内部の道自体は一本道と単調なので、全て検めるとしても然程時間はかからない。かかっても二時間とか三時間程度の作業だ。

 氷の女王が今すぐ探そう!と気が逸るのも無理はない。


 だが、そこに水の女王を連れて行く訳にはいかない。

 氷の洞窟の中に何時間もいたら、間違いなく水の女王の身体が凍ってしまう。そんな危険は絶対に犯すことはできない。

 かと言って、このまま洞窟入口で何時間も待機させたり、水の女王達だけ先に目覚めの湖に帰らせるのもよろしくない。

 氷の洞窟の守護神探しは、今日のところは一旦諦めて解散し、レオニス達だけで再訪するのが最善なのだ。


 そのことに思い至った氷の女王が、水の女王に向かって俯きがちにその胸の内を語る。


『我は、我は……姉様がこうして我に会いに来てくださったことが、何よりも嬉しいのです。今まで我が生きてきた中で、一番嬉しかったと言っても過言ではありません。そしてそれは……今日のこの喜びと感動は、この先も一生に渡り、我の中で最上の喜びであり続けるでしょう。だから、姉様が我に謝ることなど本当に……本当に何一つないのです』

『……氷の女王ちゃんは、素直で優しくて、とても思い遣りのある子なのね。お姉ちゃんも貴女に会えて、本当に嬉しいわ。私の妹はこんなにも素敵な子なのよ!って、世界中に自慢したいくらいよ』


 氷の女王の言葉を聞いた水の女王が、それまで座っていた席から立ち上がり、氷の女王の身体を包み込むように抱きしめた。


 属性の女王ならば、己が奉るべき守護神に一刻も早く会いたいだろう。それは、つい一年前まで湖底神殿の守護神が不在だった水の女王だからこそ、氷の女王の気持ちが痛い程よく分かっていた。

 それなのに、氷の女王は目先にぶら下がる己の欲望よりも姉である自分を重んじて、すぐに諦めた。

 守護神をすぐに探したい!という気持ちを抑え、後回しにしてでも自分の身を案じてくれた―――そのことが、水の女王にとっては何より嬉しかったのだ。


 姉の身を思い遣る妹と、妹の気持ちを思い遣る姉。

 同じく水を司る二人の姉妹、その絆がより深まった瞬間だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「皆落ち着いたところで、これからの氷の洞窟調査の話をしとこうか」


 水の姉妹がようやく落ち着きを取り戻した頃合いを見計らって、レオニスが話を進め始める。


「氷の洞窟の守護神探しには、俺やライト、ラウルも今後全面的に協力する。今日のところは一旦帰るが、氷の女王は俺達が再びここにくるまでの間、氷の洞窟の中をよく観察しておいてくれ。ここら辺に何かありそうだ、とか、強い気配を感じる場所があるかどうか、とかな」

『相わかった。我の洞窟の中のことだし、守護神をお迎えするためとあらばそれくらいのこと、我がして当然だからな』

「そうしてもらえるとありがたい。そういうのを先に女王に確かめておいてもらえれば、次に俺達が来た時にすぐに調べることができるからな」

『承知した。全て我に任せよ』


 レオニスからの指示に、氷の女王も一も二もなく承諾する。

 人族嫌いで有名だった氷の女王が、こうも容易くレオニスの言うことを聞くとは驚くべきことだ。少し前までなら絶対に想像もつかない事態と言っても過言ではない。

 しかし、氷の女王自身が言うように、外界に一切出ない氷の女王でも氷の洞窟内の探索を担当するくらいはできる。

 何よりそれは、氷の洞窟にも是非とも守護神を迎えたい!という彼女自身のためなのである。


 だが、それとて人族への警戒心が解けていなければ実現には至らない。

 氷の女王がレオニスの言を異論なく受け入れるのは、ライト達のこれまでの懸命かつ真摯な行いがもたらした結果であった。


『して、我が最も気になるのは、其方らがいつここを再訪してくれるか、なのだが……』

「あー……そりゃライトが土日で休みの日が一番なんだが……」

『そのドニチ?というのは、いつのことなのだ?』

「ぁー……ちょっとこっちでも相談するから、少し待っててな」


 瞳をキラッキラに輝かせた氷の女王の視線が、ライトやレオニス、ラウルの間を行ったり来たりしている。

 氷の女王には七曜日の概念がないので、理解できずに問い返すのも無理はない。

 彼女の期待に満ちた眼差しを背に、ライト達は再訪の日をどうするかを話し合い始める。


「ライトは明日、何か出かける用事はあるか? あれば来週に回すことになるが」

「ぼくの都合はどうとでもなるから、全然心配しなくていいよ。それより、レオ兄ちゃんやラウルはどうなの?」

「俺の用事は平日に回してもいいもんばかりだから、俺は問題ない。ラウルは?」

「俺もライトが学園に通う間に済ませられることばかりだから、俺の方も問題ない」

「「「…………」」」


 三人の都合を確認し終えたライト達は、全員してコクリ、と小さく頷く。

 そしてレオニスが三人を代表し、氷の女王に協議結果を伝えた。


「また明日に来れそうだから、明日でいいか?」

『何!? 明日また来てくれるのか!?』

「ああ。つーか、明日を逃すと早くても一週間後……七日後になりそうなんでな」

『それはありがたい!ならば是非とも明日また来ておくれ!』


 レオニスが伝えた『明日また来る』という言葉に、氷の女王の顔がさらに輝く。

 一日でも早く守護神探しをしたい、そう思っていたところに本当に明日また来てくれるというのだ。氷の女王が大喜びするのも当然である。


『そしたら我も、其方らが明日来るまで洞窟の中を隅々まで見ておく!』

「おお、そりゃありがたい。守護神の卵が見つかったら、孵化の方は俺達に任せてくれ」

『よろしく頼む!』


 満面の笑みで洞窟内調査に張り切る氷の女王に、ライト達は微笑みながら和んでいた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 話がだいたいまとまったところで、帰り支度を始めるライト達。

 その間に水の女王と氷の女王が再び向かい合って話をしていた。


『姉様、今日は本当にありがとうございました。姉様にお会いするという夢が叶い、これ程嬉しいことはございません』

『私もよ!同じ水属性の貴女に会えて、本当に嬉しかったわ!』

『この地はもうすぐ雪に閉ざされます。そうなったら、姉様がここに再び来るのは難しいでしょう……』

『そうね……氷の洞窟があるくらいですもの、ここはきっとすごく寒いところなのよね。でも……』


 初めて会えた喜びとともに、次の再会がすぐには来ないだろうことを二人は察知していた。

 だが、それはあくまでもしばらく会えないというだけで、決してもう二度と会えない訳ではない。

 少しだけ沈み込んだ氷の女王に、水の女王が努めて明るい顔で励ます。


『この地の冬が過ぎて、春が来たら暖かくなるわ。そして雪が少なくなった頃に、また私の方からここに来るわ!』

『また姉様の方から、私に会いに来てくださるのですか……?』

『ええ!可愛い妹の顔を何度でも見に来るわ!顔を見るだけじゃなくて、たくさんお話もしたいわ!』

『私も……私も姉様のお顔を何度でも見たいし、何度でもお話ししたいです……』


 姉の明るい励ましの声に、氷の女王も感極まっていく。

 氷の女王は、別れを惜しむように水の女王に抱きついた。


『姉様、いつでもお越しください。ずっと、ずっと待っておりますから……』

『うん!きっと次に氷の女王ちゃんに会う時には、氷の洞窟の守護神にもお会いできるわね!私もその日を楽しみにしているわ!』


 胸に飛び込んできた妹の頭を、愛おしそうに撫でる水の女王。

 再会を約束した姉妹達の顔からは、別れの悲しみはすっかり消えていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 お茶会の片付けを終えたライト達に、氷の女王が改めて言葉をかける。


『レオニス、ラウル、そしてライト。其方らのおかげで、我は水の姉様とアクア様にお会いすることができた。心より礼を言う。本当にありがとう』

「そうだな、念願叶って姉ちゃんに会えて本当に良かったな」

「水の女王様にも喜んでもらえたし、本当に良かったです!」


 氷の女王からの礼に、ライトもレオニスも笑顔で喜びを分かち合う。

 もちろんラウルだって、ライトの横で静かに微笑みながら頷いている。

 そして氷の女王は、アクアの方にも向き直って頭を垂れる。


『アクア様も、水の姉様とともにいらしてくださって本当にありがとうございました。水の精霊の一人として、アクア様に御目文字が叶いましたこと、心より嬉しゅうございました』

『うん、僕も君に会えて本当に嬉しかったよ』

『アクア様にそう言っていただけるなんて……光栄の極みに存じます』

『さっきも水の女王が言っていたけど。僕が次にここに来た時は、是非とも僕の守護神仲間を紹介してね』

『はい!アクア様のご期待に添えるよう、誠心誠意頑張ります!』


 和やかな会話をするアクアと氷の女王の横で、今度は水の女王とライト達が話をしている。


『レオニス、ライト、ラウル、明日も氷の女王ちゃんの力になってあげてね』

「もちろんだ」

「任せてください!実はレオ兄ちゃんは、これまでに二回も守護神の卵を孵化させたことがあるんです!」

『そうなの!? それは頼もしいわね!』


 ライトのレオニス活躍話を聞いた水の女王、その顔がパァッ!と明るくなる。

 守護神の孵化の経験が二度もあるなら、氷の洞窟での活躍も大いに期待できるところだ。


 互いに別れの挨拶を一通り終え、最後にレオニスが氷の女王に話しかけた。


「じゃ、また明日な。氷の女王も、今から洞窟の探索よろしくな」

『ああ!また明日会おうぞ!』


 氷の洞窟の入口に、一人佇みながらライト達を見送る氷の女王。

 ライト達はカタポレンの森に帰るべく、黄泉路の池に向かって歩きだす。


 それまでずっと、氷の洞窟の中で孤独に生きてきた氷の女王。

 だが、彼女の中にはもう寂しさや嘆き、悲しみなどはない。再会の喜びと新たなる出会いへの期待に満ち満ちている。

 ライト達の背を見送るその顔は、一片の曇りなくただただ輝いていた。

 水の姉妹の対面も、ようやく締め括りです。

 何だかんだで五話もかかってんですけど……何で?( ̄ω ̄)

 でもって、翌日の日曜日にも氷の洞窟再訪が確定してるし。


 でもまぁね、平日はどうしたってライトはラグーン学園が優先になりますし。

 氷の洞窟なら、レオニス&ラウルがいれば危険度もほぼなく過ごせるので、こういう機会にこそライトとともに冒険したい、というレオニスの親心ですね(・∀・)

 というか、氷の洞窟探索&守護神孵化なんてビッグイベントを平日にレオニスとラウルだけでやった日にはね、ライトが号泣しながら抗議すること間違いナッシングなのですよ…(´^ω^`)…

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