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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
新しい生活

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第901話 遅れ馳せの誕生日プレゼント

 ラグーン学園秋の大運動会が無事終了した翌日の月曜日。

 この日のラグーン学園は振替休日で休みであった。

 普段は人外のタフさを誇るライトでも、大運動会というサイサクス人生初のビッグイベントにさすがに疲れたようで、起きたのが午前十時半を少し過ぎた頃だった。


「くぁぁぁぁ……ンー……よく寝たぁ……」


 ベッドの上で大きな欠伸をしながら、両腕を真上に上げて身体を伸ばすライト。

 お昼ご飯前には魔石回収しなくちゃな……と思いつつ、洗面所で顔を洗いながらこれからの行動を考える。

 マントを羽織り、アイテムリュックを背負って支度を万端に整えてから、ライトは魔石回収作業に出かけた。


 玄関から外に出て家の外の畑を見遣ると、ぱっと見は誰もいないが野菜を収穫済みであることが分かる。きっとラウルが朝イチで収穫していったのだろう。

 転移門はライトの部屋にあるので、普段のライトならラウルが来た時にその気配で起きるところなのだが。余程ぐっすりと寝ていたのだろう、ライトは全く気づくことなく寝続けていた。


 すると、玄関の反対側の方でガチャガチャと音がしてくる。

 どうやらラウルが殻の焼却処理をしているようだ。

 ライトが裏手に回ると、案の定焼却炉に貝殻や魚の骨を放り込んでいるラウルがいた。


「おそよー、ラウル」

「おそよー。よく寝れたか?」

「うん、おかげさまでたくさん寝て元気になったよ!」

「そうか、そりゃ良かった」


 ライトがラウルの焼却作業を眺めながら、二人でのんびりと会話する。


「今から魔石回収しに行くのか?」

「うん、これはぼくの日課というか仕事だからねー」

「毎日ちゃんと頑張ってて偉いな。気をつけていってこいよ」

「うん!ラウルもお仕事頑張ってね!」


 ラウルに挨拶をした後、ライトは魔石回収作業に出立した。

 様々な場所で生成している魔石を回収しがてら、少し遠出して『巨大蜈蚣の硬皮』のもとであるギガントワームなどを狩る。

 『巨大蜈蚣の硬皮』はグランドポーションの材料なので、ライトにとってはこの先いくらあっても足りないくらいである。


 正午手前にはカタポレンの家に帰ったライト。

 家の中では、ラウルが台所で昼食の準備をしていた。


「お、おかえりー」

「ただいま!レオ兄ちゃんはまだ帰ってきてない?」

「ああ、まだだな。だがもうそろそろ帰ってくるだろ」

「そっかー」


 ライトとラウルがそんな会話をしていると、程なくしてレオニスがカタポレンの森の警邏から帰ってきた。


「レオ兄ちゃん、おかえりー」

「ただいまー。ライトも起きてたか」

「うん、今日はぐっすり寝ちゃったー」

「ま、昨日は運動会だったしな。今日くらいは仕方ないさ」


 三人で席につき、昼食を食べ始める。

 今日はこの三人で、ユグドラツィの結界作りの仕上げをする予定なのだ。


「ナヌスの人達はどうするの? 現地集合?」

「ああ。ナヌスの里とツィちゃんの間を行き来する転移門はもう作ってあるからな。昼飯食ったらツィちゃんとこに集合、と伝えてある」

「そっか、じゃあ早めにツィちゃんのところに行かないとね」

「だな。ナヌス達を待たせても悪いし」


 三人でこれからの打ち合わせをしながら、ラウルが用意したモリモリと昼食を食べる。

 ちゃちゃっと食べてちゃちゃっと食器類を片付けて、ライト達はユグドラツィのもとに向かっていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ユグドラツィのもとに辿り着いたライト達。

 ライト達がナヌスの姿を探す前に、ユグドラツィの方からライト達に話しかけてきた。


『皆、ようこそいらっしゃい』

「ツィちゃん、こんにちは!」

「よう、ツィちゃん。元気にしてたか?」

『ええ。おかげさまでこの通り、恙無く過ごしておりますよ』

「そりゃ良かった。ところで、ナヌス達は来ているか?」

『ええ、貴方方のいる位置からちょうど真反対のところにおりますよ』

「ありがとう」


 ユグドラツィの言う通り、早速反対側に回るライト達。

 ユグドラツィの幹は何しろ大きくて、裏側にナヌス達がいても全く見えないのだ。

 神樹の巨大な根元をぐるりと回った先には、ナヌス達が日陰で涼んでいた。


「おお、レオニス殿!」

「よう、ヴィヒト達。待たせちまったか?」

「いやいや、我等が少々早めに来ていただけのとこ。お気になさらず」

「そうそう!レオニス殿に作っていただいた、あの転移門?のおかげで、ツィちゃん様のところに馳せ参じるのも一瞬ですからね!」

「ほんにあれは素晴らしい!特に年寄りには誠にありがたいモノじゃて」

「全く全く。長距離の移動は、年寄りの身体にはキツイからの」

「おかげで早めに来て、ツィちゃん様と楽しくお話させていただいておったわ!」

「「「ワーッハッハッハッハ!」」」


 先に来ていたナヌスは八人。一番最初にユグドラツィと会った面々である。

 待たせたんじゃないか?というレオニスの心配を他所に、当のナヌス達は高笑いする程ご機嫌である。


 確かに人族がナヌス達にもたらした新たな移動手段、転移門は大いな利益となるだろう。

 もともとナヌス達の魔術の腕や魔力の高さは折り紙付きだが、それでも重鎮達の平均年齢はかなり高い。

 老いた身で何度も遠くにあちこち移動するのは、鞭打つ程にしんどいに違いない。

 うんうん、と頷き感心しきりのナヌス達に、レオニスは早速本日の本題に入る。


「そしたら早速配置を始めたいんだが。どのように配置すればいい?」

「まずは東西南北の四箇所に設置。その次に、東西南北の間の中間地点四箇所に配置。さらに八箇所の間に八個設置。これを繰り返していき、最終的には六十四個の結界用の駒を均等に配置する」

「分かった。駒はかなりの重量があるからな、俺とラウルで配置しよう」

「そうしていただけると助かる。レオニス殿、まずは六十四個の駒全部、ここに一度並べていただけるか? 魔力の強さを見て、東西南北とその間の計八箇所に置く駒を決めたい」

「承知した」


 ヴィヒトの要請を受けて、レオニスは空間魔法陣を開いて結界用の駒を取り出し始めた。

 一個づつ出して、地面に置いて並べていく。

 ヴィヒト達ナヌスはそれらの駒を一つ一つ丁寧に見ていき、取り置きしたい駒をラウルに頼んで列から少し外しておいてもらう。


 ライトやレオニスの目には、それらはぱっと見ではほぼ大差ない作りにしか見えない。だが、ナヌス達は違う。

 彼らの目と感覚は、駒から放たれる魔力の多寡をはっきりと捉えるのだ。

 結界の基幹である東西南北に最も魔力の強い駒を据え、その次に強い駒を北西北東南西南東の四方向に置き、より均一な魔力を以て更なる強固な結界にしよう!という訳だ。


 ナヌス達が駒の選定をしている間に、レオニスとライトは方位磁石で東西南北の正しい方角を調べたり、ユグドラツィ本体からの距離を測定して駒の置く位置を決めて目印をつけておく。

 目印は地面に✕マークをつけるだけという、原始的ではあるが一番簡単な方法だ。

 そうしている間に、ナヌスが厳選した八個の駒が決定した。


「では、まずこれを東、これを西に、こっちは南、これは北に置いていただきたい」

「「はいよー」」


 ヴィヒトが指定した駒を、レオニスとラウルがヒョイ、と持ち上げてそれぞれ東西南北に置いていく。

 二人は箸か石ころでも持つかのように軽々と持ち上げているが、実際には一個あたり100kg前後の重量がある。

 置き場所は予めライトとレオニスが測定して決めてあるので、後はそこに駒を置くだけだ。


 まずは主要の八方向に駒を置き、その後も駒の中間地点に新しい駒を置いていく。

 八方向の倍の十六箇所、十六箇所の倍の三十二箇所をそれぞれに置けば、六十四個の結界ポイントを結んだ正六十四角形の出来上がりである。


 レオニスとラウルが全ての駒を配置し終えた後は、ナヌス達の出番だ。


「さて、最後の仕上げといくか」

「さぁ、我等の出番ぞ!ツィちゃん様やレオニス殿達に、今こそ我等ナヌスの力をお見せする時じゃ!」

「「「応ッ!!」」」


 八人のナヌスは散開し、東西南北とその間の計八箇所の主要ポイントにつく。

 そして駒に手を添え、準備を整えて待つ。

 北の駒にいたヴィヒトが、渾身の声で七人のナヌス達に「今ぞ!」と合図を送る。

 そして八人同時に、一斉に駒に魔力を注ぎ込んだ。


 ナヌス達が魔力を込めた駒、海樹の枝の板が一瞬強烈な光を発した。

 そしてその光に呼応するように、左右の駒が次々と光っていく。

 それはまるで光のドミノ倒しのような、幻想的な光景だった。

 それから程なくして駒の光は次第に弱まっていき、一分後には収束していた。


 光が完全に収まったのを見届けたナヌス達が、自然とユグドラツィの根元にいたライト達のもとに集まっていく。


「今ので結界が起動したのか?」

「その通り。これで悪しき者はこの結界内に入ることは能わぬ」

「そうか、皆お疲れさま」


 ナヌスの言う通りなら、先日の神樹襲撃事件の時のような惨事は今後一切起きないということになる。

 いや、本当は実験検証したいところだが、結界が悪しき者を弾くかどうかはライト達善良な者達だけでは証明のしようがない。

 もし証明しようとするならば、ユグドラツィに悪意を持つ者をどこかから連れてこなければならないのだ。

 さすがにそれは不可能なので、今回だけは検証実験は無しとするしかない。


 するとここで、それまで皆の作業を黙して見守っていたユグドラツィが口を開いた。


『……先程作動させた結界……清廉なる魔力だけでなく、とても力強くて温かい波動を感じます……』

「あの駒はイアの枝で作って、エルちゃんの祝福を受けたからな」

『ええ……この熱く滾るような力強さはイア兄様、そして温かく優しい魔力はエル姉様の御力なのですね……』

「これからは、ツィちゃんの兄ちゃんと姉ちゃんがツィちゃんを守ってくれるんだ。……良かったな、ツィちゃん」

『………………』

「だいぶ遅くなってしまったが、俺とラウルからのツィちゃんへの誕生日プレゼントをようやく渡すことができたよ。ツィちゃん、これからもカタポレンの森の一員として、ライトやラウルともどもよろしくな」

『………………』


 レオニスの言葉に、ユグドラツィは感極まってしばらく言葉が出てこなかった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「さて。ツィちゃん様をお守りする結界も無事作れたことだし。我等は里に帰るとするか」

『まぁ、もう帰ってしまわれるのですか? 私からも貴方方に、何か御礼をしたいのですが……』


 ユグドラツィの喜ぶ姿を見て満足したナヌス達が、里に帰ると言い出した。

 空はまだ明るいが、ナヌス達が先程結界起動のために込めた魔力は相当量だったはずだ。それを考えると、早く帰宅して休みたいと思うのも無理はなかった。


 だが、ユグドラツィは名残惜しそうにしている。

 自分はしてもらうばかりで、何一つ報酬を出せていない、そう思っているようだ。

 そんなユグドラツィに、ナヌス達は明るい顔で笑い飛ばす。


「そんなことお気になさらず!」

「そうですぞ!我等はツィちゃん様をお守りする力添えができたことを、心から誇りに思っておるのですからな!」

「そうですそうです、此度の働きは末代まで語り継げる誇り。親兄弟や嫁、子や孫、皆に自慢できますわい!」


 基本厳つい顔立ちのナヌスが、皆相好を崩してユグドラツィに語りかける。

 それはナヌス達の言葉が嘘偽りない本心であることを表していた。

 もちろんユグドラツィにそれが分からないはずはない。

 ナヌス達の真心に触れ、ユグドラツィは再び感極まる。


『ナヌスの皆さん……本当に、本当にありがとう……これは私からのほんの気持ちです』


 ユグドラツィはそう言うと、八人のナヌス達に己の魔力を分け与えた。

 これは、ライト達に与えた祝福と同じものだった。


「ツィちゃん様……これ、は……?」

『僭越ながら、皆さんに私の祝福を与えさせていただきました』

「おおお……身体の奥底から魔力が漲ってくるようじゃ!」

『私にできることと言えば、これくらいしかないのですが……良ければ受け取ってください』

「良ければも何も!我等にはもったいないくらいの褒美でございます!」

「ツィちゃん様、ありがとうございます!」

「「「ありがとうございます!」」


 ユグドラツィからの思わぬ褒美に、ナヌス達はますます破顔しながら頭を下げて礼を言う。


「ツィちゃん様、当分は結界の様子を見に交代で毎日通いまする」

「何か不具合とか気になることがあったら、いつでも我等にお申し付けくだされ!」

『ありがとうございます。よろしくお願いしますね』


 ユグドラツィとナヌス。大樹と小人の絆がますます深まった瞬間だった。

 ユグドラツィの結界作り、その仕上げです。

 人族と小人族が協力して何かを成し遂げるというのは、サイサクス史上でも初めてのことかもしれません。

 作中でも書いた通り、結界の作動実験など検証はできませんが(それをするとなると、どこかから悪漢を連れてこなきゃならなくなる)ので、ここはナヌス達の結界術を信じて当面様子見です。


 そしてサブタイにもあるように、もともとこのユグドラツィの結界は八月の誕生日パーティーの時に、レオニスとラウルがユグドラツィにプレゼントすると言ったことが始まりでした。

 作中時間ではそれから一ヶ月半くらい経過していますが、何とか約束を守ることができてレオニスもラウルも、そして作者自身も一安心です( ´ω` )

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