第90話 華やかなドレス
投稿予約時間を間違えていて、いつもの12時投下できておりませんでした。
申し訳ございませんでした。
鍛冶屋の破壊神問題は後回しにするとして、今はこの休日のひと時を全力で楽しむことに注力しよう!と心に決めたライト。
皆で歩いていると、今度は衣類や生地屋、雑貨屋などが集まるエリアに入った。
ここは武器防具屋エリアとは打って変わって、ショーウィンドウにきらびやかな衣装やアクセサリーが飾られてとても華やかなオーラに満ちている。
「うわぁ、こういうドレス、いつか着てみたいなぁ」
「イヴリン、これ着てどこ行くの?」
「んー、特に行くとこはない……ぐぬぬ……っていうか、ジョゼってば女の子の夢を壊すようなこと言わないでよ!」
「あはは、ごめんごめん」
ショーウィンドウに綺麗に飾られたドレスを見て、目をキラキラ輝かせたり落ち込んだりプンスコむくれたり、表情をコロコロ変えて忙しいイヴリン。
ちょっと天然が入ってるっぽいジョゼに振り回されながらも、真剣に怒っている様子でもなく仲良く戯れている。
「ジョゼのおうちも貴族だし、いつかこういう綺麗な服着て社交界デビューとかするの?」
「いやー、うちは万年平子爵家だからねぇ。そんな華々しい場所とは無縁だよ?」
「そうなの?貴族にもいろいろあるのねぇ」
「そうそう、第一うちには礼服で着飾るほどの財力はないからね。もういっそ平民になっても大差ないんじゃないか?とぼくは思うよ」
「そっかー。じゃあジョゼも平民になっちゃう?」
「ぼくはなっても全然いいんだけど。父さんや母さんはさすがにそう簡単には受け入れられない、かなぁ」
なかなかに世知辛い話を繰り広げる、ジョゼとイヴリン。
確かに、貴族と名乗る全てが贅沢かつ潤沢な財力を持つ訳ではないだろう。
だが、当のジョゼはそれを悔しがったり恥じたりするでもなく、自然なこととして受け入れているようだ。
少々天然でのんびりマイペースな感じの彼に、ライトは好感を持った。
「ハリエットさんだったら、間違いなく社交界デビューするよね?その時にはきっと綺麗なドレス着るんじゃない?」
「ハリエットちゃんなら、これよりもっとすごいドレス着そうだよね!」
社交界話繋がりで、ジョゼがふとハリエットの方を見ながら話しかける。
ハリエットの話題になった途端、列の後ろで何をするでもなく一行を見守っていたウィルフレッドが俄然張り切りだした。
「君達もそう思うかい?僕もハティの社交界デビューは、とても楽しみにしているんだ!」
「ああでもハティは美人で可愛くて素晴らしいレディだからなぁ、変な虫もたくさん寄ってくるだろう。楽しみであると同時に、今から心配でならないよ」
「ちなみにハティのドレスは、超一流ブティックのオーダーメイドで作る予定さ!」
「兄様、もう本当にやめてください……」
いやー、こりゃ本当に重度のシスコンだ。
うちのレオ兄もよく俺のことすんげーベタ褒めしてくるが、ここまでじゃないぞ……
将来ハリエットさんの彼氏になる人は、さぞかし苦労するんだろうなぁ。
そんなことを思いながら歩いていると、前から見覚えのある顔の女性が歩いてきた。
女性の方もライトに気づいたようで、声をかけてきた。
「あら?もしかして、ライト君?」
その女性は、以前レオニスに連れられてラグーン学園の制服を買いに行ったアイギスの末妹、メイだった。
その手には複数の買い物袋が携えられている。
「あっ、メイさん。お久しぶりです!」
「やっぱライト君だよね?人違いだったらどうしようかと思っちゃったー!」
「メイさん、すごい荷物ですね。お買い物ですか?」
「うん、今日は私お休みの日だからねー。セイ姉さんに頼まれた生地の調達も兼ねて、自分用のお買い物堪能中なの!」
「そうなんですね。ぼくも今日はラグーン学園の同級生に、市場の案内してもらってるんです」
「そっかー。ライト君もこれからラグナロッツァに長く住むなら、いろんなお店知っておいた方がいいもんねー」
メイはそう言うと、ライトの後ろにいたイヴリン達をちらっと見ながら続けて言う。
「せっかくの友達との時間を邪魔しちゃ悪いから、私はもう行くけど。良かったら、ライト君もまたうちの店に来てね?」
「あ、その時にはあのおじちゃんも連れてきてもいいし、もちろんライト君一人で学校帰りに寄り道してくれてもいいのよ?」
「うちの姉さん達も、ライト君に是非とも会いたい!って言ってたから。絶対に来てね!」
「じゃあ、またね!市場散策、楽しんでねー!」
そう言うと、メイは大荷物とともに颯爽と帰ってしまった。
「ねぇ、ライト君。今の人、だぁれ?」
「はて。どこかで見たご婦人のような気がするんだが……」
「あら、兄様もですか?私も見覚えある方だとは思ったんですが……」
ライト以外の面々がいろいろと口にする。
「あ、えっとね、今のはアイギスってお店のオーナーの一人、メイさん。うちのレオ兄ちゃんと仲良い人なの」
「「「「…………!!!!!」」」」
ライトがメイのことを明かした途端、他の四人が目を見開いて驚愕している。
「アイギスのオーナー、だと……!?」
「あの超一流有名ブティックの……」
「貴族にもファンが多くて、夜会やパーティー用のドレス制作依頼も順番待ちがものすごいって話は聞いたことあるなぁ」
「……何かよく分かんないけど、すごい人なのね!?」
平民のイヴリンだけはいまいちよく分かっていなかったようだが、他の三人の驚きようにつられてつい皆と同じ驚きの表情をしていたらしい。
「さっきも話したハティの社交界デビューのドレス、アイギスにオーダーする予定なんだが」
「何年も前から予約を押さえておかないといけないほどの、人気の高いお店なんですの」
「このラグナロッツァの中でも、洋服関連では間違いなく一番人気のお店だよー」
レオ兄からも超一流だとは聞いていたが、そんなにもすごい人気のお店だったのか。
ハリエット達の話を聞くに、アイギスはドレスなどの裁縫技術だけでなく鍛冶技術も卓越していて、ドレスに合わせたアクセサリーや小物なども全てアイギスで作るらしい。
それによりドレス一式、いわゆるトータルコーディネイトの完成度がまさに完璧で、他の追随を許さないほどに抜群に素晴らしいのだそうだ。
そういやメイさんのお姉さん達、カイさん、セイさんだったかな、その人達もぼくに会いたいって言ってくれてるんだっけ。
よし、今度学校の帰りに寄り道でメイさん達のお店に行ってみよう。父さんや母さん、レオ兄ちゃんの昔話も聞きたいし!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ライト達が市場に到着してから二時間ほど経過しただろうか。日も高くなり、皆のお腹もぼちぼち空いてきた頃合いで、ジョゼが口を開いた。
「お腹空いてきたなー。そろそろお昼ご飯にしない?」
「賛成ー!」
「そうだね、皆のオススメのお店ってある?」
「というか、ハリエットさん達はこの市場のお店で食べてもいいの?」
「君達、心配は無用だよ。今日の僕達には、市井の庶民の暮らしをしっかり学ぶという目的もあるからね。よほど酷く汚い店でもない限り、文句は言わないよ」
ジョゼの最もな質問に、ウィルフレッドが問題ないと答える。
ハリエットの兄のウィルフレッドがそう言うのならば、大丈夫だろう。
とはいえ、子供達だけで入れる飲食店とかあるのだろうか?
ライト達が考えていると、イヴリンが提案してきた。
「そしたら、同級生のリリィちゃんのお店はどう?リリィちゃんのおうちはこの市場で『向日葵亭』っていう宿屋さんしてて、昼間は定食屋さんもやってるんだよ」
「ハティや君達の同級生のやっている店か、それなら何も知らない店よりは安心して食事ができそうだな」
「そうですね、私もリリィさんのお店に行ってみたいですわ」
「じゃあ、その向日葵亭にしようか」
皆の意見もまとまり、一行はイヴリンの道案内で向日葵亭に向かった。
ここで一句。『兄妹の 仲良きことは 美しき哉』
作者には、姉が一人いますが兄や弟はいません。なので、男兄弟というものがどういう存在であるか、全く知らないんですよねぇ。
異性の兄弟姉妹ってのは、お互いどんな存在なんでしょう?まぁ、仲の良し悪しもあるでしょうし、一概にこういうものだ!とは言えないでしょうけど。




