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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
新しい生活

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第891話 ジョブシステムの存在理由

 ジョブシステムとは、埒内の者達のためのもの―――

 ヴァレリアの口から発せられた予想外の答えに、思わず思考が停止しかけるライト。

 そんなライトの戸惑いを知ってか知らずか、ヴァレリアはその理由を語っていく。


「この世界にジョブシステムがあるのは、主に三つの理由がある」

「え!? 三つも理由があるんですか!?」

「うん。それを今から順を追って話していくね。……まずはそのために、それらの理由たり得る大前提を確認しておこうか」


 ヴァレリアは右の人差し指を立て、時折指揮棒のようにくるくると動かしながら話し始める。


「ライト君。君はこの世界が『ブレイブクライムオンライン』がベースとなっている、ということを知っているね?」

「は、はい、それはもちろん……」

「そんな背景を持つこの特殊な世界は、一体誰のために作られたと思う? 運営という名の創造神の営利目的という、身も蓋もない根源理由を除いて考えてごらん」

「そ、それ、は……」


 ヴァレリアの問いかけに、ライトはしばし黙して考え込む。

 ソーシャルゲームなんてものは、ゲーム会社が金銭的利益を求めて作るものだ。

 ゲームで遊ぶユーザーを楽しませて魅了し、様々な欲望を煽り立てて課金させて金銭的利益を得る。そうした営利活動の手段の一つに過ぎない。

 そういったソシャゲの根源的な存在意義を除き、他の理由を考える。

 誰のために作られたか。先程のヴァレリアの言葉と合わせて考えると、得られる答えは一つ。


「ぼく達ユーザー……ですか?」

「そう。ここは君達のような埒外の者達のために作られた世界だ」


 ライトが導き出した答えに、ヴァレリアがコクリと頷く。


「そもそもBCOとは、君達をもてなすために作られたゲーム世界だ。他のゲームなんかにもよく出てくる、武器屋や防具屋、道具屋に薬屋、宿屋にギルド、時にはファッションショップやカジノなんて施設も、全てはゲームとして遊ぶユーザーのために用意されたものだ」

「そして、ゲーム内でユーザー以外に出てくる人物。旅の途中で仲間になる人物や敵対組織の構成員、店屋の店員、あるいはゲーム進行を手助けしたりヒントを与えたりする、私みたいな案内キャラクターなんかもいるか。ま、それらは総じて『NPC』と呼ばれる存在だね」

「埒外でゲームとして遊ぶ君達は、これらのNPCは当然知っているだろう。だがそこには、名有りのNPCだけではない。ゲームには全く出てこない、名も無きモブ達だってたくさんいる」


 それまで滔々と語っていたヴァレリアが、ここでくるっ!と踵を返してライトの方に向き直った。


「この世界が現実のものとなった時。名も無きモブ達もゲーム世界そのままに、一生ずっと名無しのモブのままでいていいと思うかい?」


 ヴァレリアの唐突な質問に、ライトは一瞬固まりかけながらも即座に首を横に振る。

 そもそも『名無しのモブA』や『通行人』『道具屋の店主』などと紹介されるのは、ゲームやドラマ、アニメの世界の話。

 本編や話の筋に無関係だから適当に省略されているだけであって、これら個々の人物にも本当はちゃんとした名前や役割があるはずなのだ。


 ライトが首を横に振り否定したことに、ヴァレリアは満足そうな笑みを浮かべる。


「そう、答えは『否』だ」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 凛としたよく通る声で断言するヴァレリア。

 BCOのNPCであるヴァレリアが、自身を含めたNPCのことを語るというのも何とも不思議な図だ。

 だが、彼女にも何かしらの信念めいたものがあるのだろう。

 その後も力強い声で、NPCに対する理論を熱く語っていく。


「彼ら彼女らにだって、表の物語では決して語られることのない人生を持たせる必要がある。一人一人がそうした物語、『この世界で生きて刻んできた歴史』を持たなければ、この世界の中で生きていく上で存在が確立できないからね」


 人差し指を立てながら語るヴァレリアの話を、ライトはじっと聞き入っている。

 確かにゲーム世界で出てくる人物というのは、かなり限定的だ。

 カードゲームのようにコレクションしていくタイプのゲームでも、せいぜい数百人がいいところだろう。

 だが、現実に生きる世界となると、そういった人物だけでは成り立たない。


 生まれたばかりの赤ん坊や乳児幼児、決して主要キャストにはなれなさそうなおじさんおばさん、腰を曲げて杖をついて歩く年寄り等々、様々な老若男女がいて当然であり、むしろそうした人物がいない世界の方が余程(いびつ)と言えるだろう。


「でね、こうした様々な人物達に様々な人生や意味、個性なんかを持たせるのに、ジョブシステムはかなり有効なんだ。人間成長して成人になれば何かしらの職業、つまりは仕事を持つもんだしね」

「もっとも? ジョブシステムの中には『遊び人』とか『ギャンブラー』とか、職業とも呼べないようなふざけた代物が極稀に出てくることもあるけどね!」

「あ、ちなみにジョブを得る前の子供のジョブは『子供』だよ。ほら、よく言うでしょ、『子供は食べて寝て遊んで学ぶのが仕事だ』ってね」


 真面目な話の直後に、ジョブシステムの欠点を笑い飛ばすヴァレリア。

 確かに『遊び人』や『ギャンブラー』が真っ当な職業とは到底思えない。

 しかし、悲しいかな、世の中真面目な人間ばかりではない。それを思うと、そうした一見ふざけたようにしか見えないジョブにもきっと何か意味があるのだろう、と思えてくる。


「これが一つ目の理由。二つ目の理由は、埒外の者と埒内の者の不平等さ、格差を埋めるというものだ」

「不平等に、格差……ですか?」

「そう。埒外の君が使える『職業システム』は、埒内の者には絶対に使えない代物なんだよ」

「えっ!? そうなんですか!?」

「そうだよ。だってBCOのシステムの全ては君達、埒外の者のために作られたんだもの。それを埒内の者が使えるはずないでしょ?」


 今のところ、ライトだけが使える職業システム。

 これまで明言されたことはなかったが、ヴァレリアの口から『埒内の者には絶対に使えない』と明かされたことに、ライトは改めて驚きを隠せない。

 だが、そう言われれば思い当たる節もあった。


「そ、そういえば……初めてぼくがこの転職神殿に来てミーアさんに出会った時、レオ兄ちゃんといっしょだったけど……レオ兄ちゃんは動けずに、時が止まってましたね……」

「だろうね。彼は非常に強い力を持ってるけど、それでも埒内の者であることに変わりはないし。それに、この転職神殿も『勇者候補生』である君達のために用意されたものだからね。ここのシステムは勇者候補生以外には使えないんだよ」


 ヴァレリアの話を聞き、道理で……とライトは内心で納得している。

 この世界ではジョブシステムが主流であると知ったライトが、己の知る職業システムは完全に失われかけていたかのように思えていた時期。

 ライトはレオニスに頼み込んで、旧教神殿跡地と呼ばれるこの転職神殿にやってきた。

 その時のレオニスは、神殿跡地に入ることはできたものの、ライトがミーアの姿を認めた途端に時間が停止して動けなくなってしまった。

 何故そんなことになったのか、ライトには全く分からなかったが、今のヴァレリアの話を聞いてようやく理解できた。

 この転職神殿は、埒内の者には作動しないのだ。


「ちと話が逸れたね、話を戻そう。ライト君もよく知る通り、この職業システムは非常に優秀かつ強力なものだ」

「六種の職業は勇者が修めるに相応しいものばかりだし、習熟度を上げることで様々なスキルを使えるようになる。何なら勇者にならなくたって、回復スキルをいつくか覚えるだけでも人生は相当変わるだろうね」

「しかし……こんなに強力なシステムを使えるのは、埒外の者だけなんだ」


 伏目がちに語るヴァレリアの声は、その眼差し同様に暗く沈む。

 それは非力な埒内の者達への憐憫の情なのか。


「これってさ、実に、実に不公平だとは思わないかい? 剣士や魔術師、回復師、そうした前途有望かつ強力なスキルを、埒外の者ならいつでも自由に利用できるというのに。埒内の者達にはそれが許されていないんだ」

「そして、そのことを哀れに思った『誰かさん』がいてね。その『誰かさん』は、埒内の者達にも職業システムに負けないくらい優秀な前途や将来を選択させてやりたい、と―――そう思ったんだ。そうした願いにより作られたのが、ジョブシステムなんだ」


 俯き加減だったヴァレリアが、ふと空を見上げつつ語る。

 遠くを見つめるような眼差しは、彼女の言う『誰かさん』を思い浮かべているかのようだ。


 ヴァレリアが語る二つ目の理由、『不平等や格差を埋めるため』。

 これもライトにも十分に理解できた。

 ライトだけが使える職業システムが強力無比であることは、異論の余地などない。

 職業システムとは、物理魔法問わず多岐に渡る攻撃スキルや魔法スキル、回復スキルにバフデバフスキル、それら全てを習得することができる。

 こんな素晴らしいシステムがあれば、誰だって使いたいに決まっている。例え勇者になる勇気など全くない者でも、回復スキルや身体強力スキルだけでも覚えておきたい、と思うはずだ。

 それがあれば、日々の生活がもっと便利になるだろうし、氷河期世代のライトが執着する就活だって余裕でクリアできるだろう。


 だが、この職業システムを使えるのは『勇者候補生』である埒外の者達のみ。

 埒内に生きる者は、どう逆立ちしても使えないのだ。

 ジョブシステムとは、これを哀れに思った何者かが埒内の者達のために作り上げたものだった。


 しかし、そうなるとますます気になるのが『誰かさん』だ。

 運営である創造神に匹敵するシステムを作り上げることのできる人物とは、一体誰なのだろう―――

 だが、今ライトがそれをヴァレリアに問うことは許されない。

 既に先程の質問の選択を迫られた時に、『誰がジョブシステムを作ったのか』は切り捨てたばかりだった。

 ヴァレリアがそれを『誰かさん』と置き換えて伏せるのも、きっとそのことを暗に仄めかしているのだろう。


 これはまた後日聞こう……と内心で決意するライト。

 さらに気になる三つ目の理由を聞くべく、ヴァレリアに問うた。


「一つ目と二つ目の理由は分かりました。ぼくも聞いてて納得できるものばかりです」

「そうかそうか、それは良かった♪」

「で、三つ目の理由は何ですか?」

「……ぁー、やっぱそれ聞きたい?」

「え? そりゃ聞きたいですよ? だってすっごく気になりますもん!」

「だよねー……ホントはコレ、あんま話したくないんだけど」

「え"ーッ!? そそそそんな……」


 何とも理不尽なヴァレリアの言い草に、ライトは愕然としつつも食い下がる。


「理由は三つあるって、ヴァレリアさんから言ったことじゃないですか……」

「うん、二つって言っとけばよかったーって、今後悔してるとこ」

「し、しどい……」


 理不尽なヴァレリアの言い草は、なおも続く。

 だが、ライトは決して諦めない。こんな気になる言い方をされたら、何が何でも聞きたくなるのが人間というものだ。

 その言葉はいつもライトに渋い顔をさせるが、今この時だけはそれを自ら使う。


「ヴァレリアさんは、一生懸命頑張る勇者候補生の味方なんですよね!?」

「うん」

「でもって、四次職マスターのご褒美として、何でも一つ質問に答えるって約束でしたよね!?」

「うん」

「だったら教えてくださいよぅ!ぼくだってさっき、ヴァレリアさんが言った通りに質問を一つに絞って選んだんだからー!」

「うん……そうだよね……」


 必死の形相でしがみつくライトに、最初は視線を斜め上に逸していたヴァレリアも次第に逃げられなくなっていく。

 ライトの追及の言葉は、どれもヴァレリアが自ら発した言葉。なので、当の本人であるヴァレリアこそ言い逃れようがない。

 下を向き頭をポリポリ……と掻くヴァレリア。観念したかのように頭を上げて、徐に口を開いた。


「三つ目の理由は……埒内の者達の中で、勇者に匹敵する人材を探し出すためなんだ」

 ヴァレリアが知るサイサクス世界の真実、その一端に触れる回です。

 おかげで何だか拙作にしては小難しい内容になってて、さらには容量的な問題で一回で全貌を明かしきれずに次回持ち越しとなってしまいましたが。


 というか、世界の真実に言及するの自体がすんげー久しぶりな気がするー。

 そもそもライトがヴァレリアに質問するのがまだ三回目だし、一回目はBCO世界の確認で二回目は課金通貨CPの解説講座だったから、それらは世界の真実には程遠く感じられるのかもしれません。

 とはいえ、CPの解説講座もライト的にはそれなりの衝撃はあったでしょうけども。

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