第886話 日曜日の過ごし方
天空島第二の泉『アクアの泉』を作った翌日の日曜日。
この日は各自が好きなように活動していた。
レオニスはラウルとともに、前日に引き続き朝から天空島に出向いていた。
いや、本当はレオニスとしては二日連続で天空島に出向くつもりはなかったのだが。天空島の畑の栽培運営を一日でも早く軌道に乗せたいラウルに頼み込まれ、半ば無理矢理引っ連られてこられた形での訪問だった。
とはいえ、天空島での野菜収穫が安定すれば、神殿守護神であるヴィゾーヴニルとグリンカムビの能力強化も見込める。
二羽の神鶏の戦力大幅アップは、近々邪竜の島討滅戦への参戦を予定しているレオニスにとっても非常に望ましいことだ。
そのための環境整備は、巡り廻ってレオニスの利益にも繋がる。その整備を整えるのだって、早ければ早い程いい。
故にラウルの「ご主人様よ、手伝ってくれ」という天空島への連行にも、何だかんだ言いつつ結局は付き合うことになるのである。
天空島専用転移門を使い、カタポレンの家の畑から天空島の畑の島に移動したレオニスとラウル。
レオニスは土魔法で畑の土を深さ10メートル以上掘り起こす担当、ラウルはパラス他約二十人の天使に野菜栽培の手順を教え込む。
ちなみにこの二十人というのは暫定的なもので、百人全部を一度に相手取るのはラウルでもキツいためである。
まずは二十人にラウルが徹底的に指導し、その二十人が今度は他の天使に指導していく、という段階的な方針にしたのだ。
天使達を集めてアクアの泉の横に移動し、プランターのような長方形の大きな木箱を用いて種からの発芽を実践して見せるラウル。ラウルの手のひらより少し小さめの巨大なトウモロコシの種は、カタポレン産の巨大トウモロコシがもととなっている。
巨大トウモロコシの種を一粒づつ等間隔に埋めていき、アクアの泉の水をたっぷりかけてから植物魔法をかけていく。
すると、間を置かずして土からヒョコッ!とトウモロコシの芽が出てきたではないか。これにはパラス他天使達も感激しきりである。
「おおお……これがドライアド達から得た加護の力か……」
「この畑の運営のために、これからは我ら天使も全員植物魔法を使えるようにならねばならんな」
「よし、後で我らドライアド達のもとに頼みに行くぞ!」
トウモロコシの素早い発芽に感動したパラスが、天使達全員の植物魔法習得を決意したようだ。
パラスの決意に、その場にいた天使達も右手を高く掲げて「「「おーーーッ!」」」と気勢を上げて呼応している。
天使達全員分の加護となると、それは必然的に百人分を超える大仕事になるのだが。果たしてドライアド達は大丈夫なのだろうか。
ドライアドの泉でのんびりとしている幼女達、今頃その背にゾクッ!とした悪寒が走っているに違いない。
余談ではあるが、その後天使達は一日につき十五人づつ、【ドライアドの加護】をドライアド達に付与してもらったらしい。
天使一人につきドライアド約二十人が手を繋ぎ輪となって、輪の中央に立つ天使に加護を与えていく。
ドライアド達も百体以上いるので、必ず一人一回は加護を行うとして全員総がかりで事に当たれば天使五人分。
これを一日三回、一週間ぶっ続けでやり遂げたドライアド達。
後に彼女達はこの時のことを『今生分と来世分と来々世分以上の仕事をしたわ!』と語っていたという。
普段はのんびりとしているドライアド達が、天使達の頼みを受け入れて懸命に頑張った甲斐があり、その後天使達は野菜栽培のスペシャリストとなっていった。
種や苗はラウルが定期的に持ち込み、時には天空島で育てた野菜から種を採取して再び蒔いて育てたりもした。
神鶏達が好んで食べるトウモロコシやニンジン、キュウリ、サツマイモ等々、季節を問わず様々な野菜が天空島を彩る日もそう遠くないだろう。
話を現在に戻そう。
木箱で種から育てた五本の苗を、レオニスが深く耕した畑エリアの最も隅、泉に一番近い場所にラウルが丁寧に植え直していく。
苗を植え直す前に、土の中にラウル特製殻肥料を適宜混ぜることも忘れない。
そして空間魔法陣から二十個ものバケツを取り出し、天使達一人一人に手渡した。
「このバケツで泉の水を汲み、野菜の苗に朝晩水遣りをしていくんだ」
「ほう、これは『バケツ』という道具なのか。確かに水を汲み出すのに便利そうだな」
「一応ここに二十個置いておくが、もし取っ手が取れたり壊れたりしたら新しいものと交換するから、遠慮なく言ってくれ」
「承知した」
手渡されたバケツを、物珍しそうに上下左右動かしながら繁繁と眺める天使達。バケツの中を覗き込んだり、中には帽子のように頭に被ってみる者もいる。
魔法が存在するファンタジー世界で、こんな原始的な水遣りというのも奇妙な話ではある。だが、ほとんどの天使達は水魔法が使えないというし、そもそもこの天空島でバケツを使うような場面などこれまで皆無だったので、そのレトロさは一周回って斬新ささえ感じる。
そしてバケツを与えられたパラスが、早速泉の水を汲みトウモロコシの苗に与えてみる。
すると、トウモロコシの苗は瞬く間にぐんぐんと成長し、あっという間にラウルやパラスの背丈を越してしまった。
だが、まだ雄しべや雌しべが出てきていない。これはカタポレンの畑同様に、巨大野菜となる可能性が高そうだ。
「おおお……あの小さな種が、あっという間にこんなに大きくなるとは……地上で育つ野菜というのも、こんな風に成長するものなのか?」
「いや、普通の土地で育てた野菜はこんなにすぐには大きくならん。カタポレンの畑だけは例外で、森の魔力を吸い取って巨大な野菜になるがな」
「では、この天空島の野菜も『アクアの泉』から得る水によって、巨大な成長を遂げている……ということか?」
「多分な」
目の前で大きく育ったトウモロコシを見上げつつ、会話するラウルとパラス。
昨日作られたばかりの『アクアの泉』、その水の効果は予想以上のすごさだ。その霊験灼かさを目の当たりにして、皆感嘆することしきりである。
パラスなど泉の前で合掌し、目を閉じ頭を垂れながら「ありがたやー、ありがたやー」と感謝の言葉?を頻りに述べていたくらいだ。
ちなみにラウルが天使達に野菜の栽培を指導している間、レオニスは畑の外出に煉瓦を埋めて縁取り状態に飾りつけたり、ログハウス横に道具置場にするための小さな小屋を建てたりしていた。
他にも光の女王のもとに出向き、フェネセンが置いていったという転移門の図面を回収し、その代わりにレオニスがカスタマイズした天空島専用転移門の設計図と交換で置いていったり、何かと忙しく動き回っていた。
その後の数日間は、ラウルのみが天空島を訪れて各種指導を行っていった。
そうして旧鍛錬場がその半分を畑に転向させてから半月後には、天空島の畑に数多の緑や実りが生い茂っていった。
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レオニスやラウルが天空島で、野菜栽培の手助けをしていた頃。
ライトは転職神殿に出かけていた。
ライトが転職神殿に行く時は、いつも午前中の早い時間から訪ねている。だがこの日は少し違って、転職神殿に着いたのはお昼少し手前の午前十一時過ぎ。
何故かというと、昨日のうちに【聖祈祷師】の職業熟練度がMAXに到達できていなかったためである。
朝の魔石回収兼走り込みの修行ルーティンワークを終え、レオニスとともに朝食を摂った後ライトは自室に篭り、今日の行動予定の計画を立てる。
「くッそー……昨日はほぼ丸一日天空島にいて、ほとんど熟練度上げできなかった……でも楽しかったからいいけど」
「とはいえ、ミーナ達との約束もあるし、今日の昼頃までには何としても熟練度MAXにして【聖祈祷師】をマスターしないとな……」
「幸い今日はレオ兄もラウルも朝から天空島に行くって言ってたから、夕方頃まで好きなように過ごせる。さて、何をして熟練度上げするかな」
ブツブツと独り言を呟きながら、今日一日何をして過ごすかを考えるライト。
アレがいいか、コレがいいか、あれこれ考えた末に結論を出した。
「……よし、今から一時間ほど解体作業をして、その後転職神殿に行く前に咆哮樹狩りをしていくか」
まず、まだ解体していない魔物の死骸を【解体新書】で素材別に分けていく。
そしてその後、転職神殿に行く前に近くの山で咆哮樹を狩りまくる。
どちらもSPを使う作業なので職業熟練度上げになるし、素材分け&素材採取も兼ねることができて一石二鳥である。
行動方針が決まったライトは、早速家の外の解体作業場に向かっていった。
天空島での怒涛の一日が終わり、翌日の日曜日です。
ホントはレオニス&ラウルの天空島での作業続行と、ライトのお出かけを半々くらいで書くつもりだったのですが。出来上がってみれば、天空島での作業話が七割方になっちゃったという…( ̄ω ̄)…
ていうか、前話から何やらパラスの性格が面白おかしな方向に向かいつつある気がするのですが……気のせいですかね?( ̄ω ̄;≡; ̄ω ̄)
でもまぁね、今は初めての訪問時や神樹襲撃事件の時のように緊張感バリバリって訳でもないですし。
平時の時くらい、のんびりのほほんとしていても罰は当たらないでしょう!……多分。




