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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
新しい生活

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第884話 天空島第二の泉

 ユグドラエルとしばしの歓談を楽しんだアクア。

 ふと左側の空を見上げつつ呟く。


『さて、天空島の主にもご挨拶できたことだし。そろそろ僕の成すべきことをしてきますね』

『そうですね。まだ日は高いとはいえ、空が明るいうちに諸々を済ませなければなりませんものね』

『はい』


 アクアが見上げた方向は、新たに畑にする予定の島がある方向だ。

 そちらにはラウルやマキシがいるので、その気配を敏感に感じ取っているのだろう。

 するとここで、光の女王がアクアに向かって話しかけた。


『そしたらアクア様、』

『アクア君』

『うぐッ』


 アクアに向かって声をかけた光の女王に、容赦なくダメ出しをするアクア。

 水の女王や海の女王、イードなど同属性の眷属からの様付けはしょうがないとして、水属性ではない他の仲間からはどうしても君付けで呼ばれたいらしい。

 思わぬダメ出しに言葉が詰まる光の女王だが、アクア直々のダメ出し&所望とあらば否とは言えない。

 気を取り直しつつ、改めてアクアに声をかける。


『アクア……君、そしたら畑の島へ行く前に、私達の神殿守護神とも会っていっていただけませんか?』

『もちろんいいよ。どこにいるの?』

『今はというか、いつもエル様の』

『エルちゃん』

『うぐッ』


 アクアを君付けで呼んでOKだと思ったら、今度はユグドラエルからダメ出しを食らう光の女王。

 この神樹族も、何気に呼称に関してはかなりの拘りがあったりする。

『アクア君のことを君付けで呼べるなら、私のことも『エルちゃん』と呼べるわよね? ね??』という、強い期待に満ちた圧を、光の女王はこれでもか!というくらいにひしひしと感じる。


 如何に光の女王といえど、それに抗うことなど到底許されない。

 光の女王はしばし深呼吸を繰り返し、呼吸を整える。

 そして、ふぅ……と一息ついた後、覚悟を決めたかのように再び口を開いた。


『この天空島には、私の天空神殿と雷の女王の雷光神殿の二つがあって、二体の神殿守護神がいるのですが。普段は天空樹の天辺、エルちゃん様の頭上に留まっているのです』

『そうなんだ。じゃあ今もエルちゃんの上に留まってるの?』

『はい。早速ここに呼びますね』


 光の女王が天空島の神殿守護神達の解説をした後、木の上にいるであろう神鶏達に向かって『グリンちゃん、ヴィーちゃん、いらっしゃい』と声をかけた。

 すると、しばらくしてバッサバッサという音が聞こえてきて、神鶏達がその姿を現した。


『……クケコケケェ……』

『……コケケコッケ……』


 千鳥足とまではいかないが、心なしかフラフラとした飛び方で降りてきたグリンカムビとヴィゾーヴニル。

 地面にふわりと降り立つと、二羽とも嘴を大きく開けて『ふゎぁぁぁ……』という欠伸のような仕草をする。

 どうやら二羽とも昼寝をしていたようだ。


『あら、グリンちゃんもヴィーちゃんもお昼寝してたの?』

『クエァ……』

『コケェ……』

『貴方達、いつもはお昼寝なんてあまりしないのに……珍しいこともあるものねぇ』


 眠たそうな目で顔を寄せてくるグリンカムビに、光の女王が優しく頬を撫でる。

 光の女王に言わせれば、神鶏達は日中にうたた寝程度に寝ることはあってもガッツリ昼寝することはあまりないらしい。

 おそらくだが、今日は二羽ともカタポレン産巨大野菜をたんまり食べたので、お腹いっぱいになって眠たくなったのだろう。

 そんな寝ぼけ眼の神鶏達に、光の女王が優しい口調で語りかける。


『お昼寝していたところをごめんなさいね。でも、今日は特別なお客様がいらっしゃってるの』

『グリンちゃんやヴィーちゃんと同じ神殿守護神で、湖底神殿守護神の水神アクアs……君が、この天空島に来てくださったのよ』

『グリンちゃんもヴィーちゃんも、自分達以外の神殿守護神に会ったことないでしょう? さ、二羽ともアクア君にご挨拶してくれる?』


 光の女王の話を聞いた神鶏達の目が、次第に開いていく。

 彼女の言うように、グリンカムビもヴィゾーヴニルも自分達以外の神殿守護神を見たことは一度もない。

 それだけに、他の神殿守護神がどのようなものなのか、とても興味があるようだ。

 そんな神鶏達のもとに、アクアの方から近寄って声をかけた。


『初めまして。僕の名はアクア。地上にある目覚めの湖にある湖底神殿の守護神だよ』

『クエコケケ、ケコケケ!』

『クルッココケ、クエァ!』

『グリンちゃんにヴィーちゃん、僕も君達に会えてとても嬉しいよ。これからは僕のことも、是非とも『アクア君』って呼んでね』

『コケッ!』

『クルァ!』


 にこやかに挨拶を交わすアクア達。

 ライトとレオニスには神鶏達が何と言っているのか分からないが、アクアはちゃんと彼らの言葉を理解して会話ができているようだ。


『よし、じゃあ皆で畑の島に行こうか』

『コケケケ!』

『クエェェ!』

『そしたら皆も背中に乗ってね』

「うん!」

「おう、お邪魔するぞー」


 アクアの呼びかけに、グリンカムビもヴィゾーヴニルもバッサバッサと翼を羽ばたかせる。

 ライトはアクアに乗り、アクアの横には水の女王が寄り添う。レオニスはヴィゾーヴニルに乗り、光の女王はグリンカムビに乗る。

 神殿守護神の背中を各人が独り占めできるとは、何という贅沢か。


 ユグドラエルの『いってらっしゃーい』というのんびりとした声援を受けつつ、ライト達は畑の島に向かっていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ライト達が神殿守護神達の背に乗り、天空樹の島から飛ぶこと約十数秒。

 あっという間に畑の島に辿り着いた。

 上空から見る旧鍛錬場の島は、そのほぼ半分が既に掘り起こされているのが分かる。きっとラウルとマキシが頑張って、土魔法で懸命に開墾作業を進めたのだろう。


 開墾されていない平地に着地する、アクアとグリンカムビとヴィゾーヴニル。

 神鶏達の姿を見たラウルとマキシ、そして雷の女王とパラスが早速駆け寄ってきた。


「ご主人様達、おかえりー」

「皆さん、おかえりなさい!」

『皆おかえりー!』


 ライト達のもとに駆け寄ったラウル達。

 二羽の神鶏だけでなく、アクアもいることにすぐに気づく。


「ン? 水の女王だけでなく、アクアも来たのか?」

『うん、僕も新しい泉作りに協力しに来たんだ』

「おお、それはありがたい。水神の協力があれば、より強力な泉になること間違いなしだな」

「ホントだね、すごくありがたいことだね!」


 水の女王を呼びに行ったライト達が、まさかアクアまで連れてくるとはラウルもマキシも思ってもいなかった。

 だが、アクアが同行してきた理由を聞き、頷きながら喜ぶ。

 その一方で、光の女王が雷の女王やパラスにアクアが何者であるかを説明している。

 そちらの方でも『水神!? まさに新しい泉を作るに相応しい御方じゃない!』『何という僥倖……』と大歓迎されているようだ。


 そんな中、早速レオニスがパラスに向かって声をかける。


「パラス、どこに泉を作るか決まったか?」

「ああ。こちらに来てくれ」


 レオニスの問いに、すぐさまパラスが反応して移動し始める。

 パラスが移動したのは、天使の宿舎から最も離れた反対側の平地だった。


「ここに泉を作ってもらいたい」

「分かった。泉の大きさはどれくらいにする?」

「そうだな……一応鍛錬場も残すということだから、残した部分の一割から二割くらいでどうだろうか?」

「それくらいがいいだろうな」


 泉の位置や大きさ等、だいたいの方針を決めたところでレオニスが空間魔法陣を開く。

 レオニスが取り出したのは、ウォーハンマーのような戦鎚。戦鎚の爪状の方を地面に当てて、ガリガリと削りながら線を引いていく。

 大まかな円形状の線を引き終えたレオニス、次はその内側の土を取り除くべくライトとマキシに声をかける。


「ライト、この線の内側の土を取り除くための土魔法をかけてくれ。ラウルはライトが盛り上げた土を畑の方に移してくれ」

「分かった!」

「了解ー」


 レオニスの要請に、ライトは張り切りながら応じる。

 地面に向けて両手を翳し、土魔法をかけ始めるライト。

 それまで固かった地面がボコボコと盛り上がり、柔らかい土に変化していく。

 その柔らかくなった土を、今度はラウルが大きな塊に凝縮して持ち上げる。

 凝縮した塊の土を開墾した畑に移し、ドン!と畑の上に置くラウル。そしてすぐに塊を再び柔らかい土に戻す。

 これを何度か繰り返せば、土の引っ越しの完了だ。


 大まかな泉の器が出来上がり、最後の仕上げはレオニスが担当する。

 泉となる器の内側を覆うように、岩を出していくレオニス。器が土のままでは、泉の水が溜まることなく全て地面に漏れてしまうからだ。

 ゴツゴツとした適当な形の岩だが、泉の縁にも高めに岩を作って囲んでいく。


 泉の器が完成したところで、レオニスは水の女王とアクアに話しかけた。


「水の女王、アクア、今作ったこの器の中に泉を作ってもらえるか?」

『お安い御用よ!』

『ここまで綺麗に器を作ってくれたら、後はもう楽勝だね』


 それまで泉の器作りを見ていた水の女王とアクア、ようやく真打ち登場!と言わんばかりに意気揚々と前に進み出る。

 そして水の女王が器の中心に向かって右手のひらを翳し、アクアは泉の器の上空に浮かび発光し始めた。


 水の女王が右手のひらを翳してから、僅か一秒か二秒。

 瞬く間に泉の器の中央から水が湧き出した。

 透明度の高い清浄な水が、泉の器をどんどん満たしていく。

 そうして一分もしないうちに、大きな泉が出来上がった。


 泉の水が満ちたところで、アクアの発光はさらに強くなる。

 これはアクアの水神としての能力解放であり、全身全霊全力で新たな泉に祝福を与えているのだ。

 こうして天空島第二の泉は、あっという間に完成した。


「「「「『『…………おおお…………』』」」」」


 出来上がった泉に、その場にいた全員が思わず感嘆の声を漏らす。

 アクアの祝福が降り注いだ泉は、清浄な光をまとっている。

 水の女王が生み出した泉の水も、もとから清らかで透明だった。その水が水神の祝福により、ますます輝きを増すように煌めいていた。


 皆が泉に見惚れる中、アクアが前肢をチョイチョイ、と動かす。

 すると泉の水がいくつかの小さな水玉となり、ライト達一人一人の顔の前にふよふよと飛んでいった。

 もちろんライト達だけでなく、二人の女王や二羽の神鶏達の分も等しく水玉が用意されている。


『皆、泉の水の味が気になるよね? さ、試しに飲んでみて』

「え、味見していいの? アクア、ありがとう!」

「早速いただこうか」

「「「「いッただッきまーーーす」」」」


 目の前に用意された、飴玉一つ分あるかないかくらいの小さな水玉。

 味見用に差し出されたそれを、早速ライト達はパクッ!と口に含んだ。


「……!!すっごく美味しい!」

「砂糖も何も入っていないはずなのに、甘く感じるな!」

「これは……ツェリザークの雪にも負けんな」

「小さな粒なのに、魔力が満ちていくのが分かります!」


 泉の水の美味しさを口々に絶賛するライト達。

 そして絶賛するのはライト達だけではない。天空島の面々もまた驚きに満ちた顔をしていた。


『何という……何という極上の甘露でしょう……』

『こんなに美味しい水は、私でも生まれて初めてかも……!』

「これ程の水になるとは……」

『コケコケケ!』

『クエエェェ!』


 二人の女王もパラスも大きく目を見開き、神鶏達も羽をばたつかせて大喜びしている。

 パラスが思わず漏らしたように、正直なところ三人とも新しい泉の水にそこまで過大な期待は寄せていなかった、というのが偽らざる本音だ。

 それは、決して水の女王やアクアの力を侮っていたとかいう意味ではない。ただ単に、水遣りのための水に過度な期待を持つ気はなかったというだけである。


 しかしそれは、良い意味で完全に裏切られた。

 水の精霊の長である水の女王、そして水を司る神アクア。

 水属性の頂点たる二者が力を合わせて作った泉、その水がただの水の範疇に収まる訳がないのだ。


『こんなにも素晴らしい水で育てる野菜……どれ程美味しくなるのか、想像もつかないわ……』

『でも、ものすごく素晴らしいものになることは間違いないわね!』


 予想をはるかに上回る泉の水の出来に、二人の女王が手放しで大絶賛する。

 その横で、ライトやラウルがアクアに向かって何やら話しかけている。


「ねぇ、アクア。新しい泉ができた記念として、空き瓶に何本か水を詰めて持ち帰っていい?」

『もちろん。好きなだけ持っていっていいよ』

「お、そしたら俺もバケツに何杯か持ち帰っていいか? 是非とも俺の料理に使ってみたいし、ツィちゃんにも味見させてやりたい」

『いいよー。僕と水の女王が作った泉だからね、何があっても水が枯れることなんてないし』

「「ありがとう!」」


 アクアの快諾に、水マニア二人が満面の笑みで礼を言う。

 いつ何時、どこにいても水に対する情熱を失わないライトとラウル。

 もしこのサイサクス世界に『利き水世界選手権』なるコンテストが催されたなら、間違いなく二人は速攻で殿堂入りするであろう。


 こうして天空島第二の泉の作成計画は、大成功のうちに完了したのだった。

 天空島第二の泉の作成計画実行です。

 畑の島に行く前に、天空樹の島にて光の女王が二度もダメ出しを食らっていますが。光の女王に遠慮なく物申せる存在というのも、実はなかなか少ないんですよねぇ。

 光の女王は、普段から冷静沈着かつ嫋やかで物腰も柔らかく、それこそ理想の淑女を体現したかのような存在。そんな彼女が、一度ならず二度も『うぐッ』と言葉に詰まる場面というのは、かなり貴重なシーンかもしれません(^ω^)

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