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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
新しい生活

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第846話 トラウマを乗り越えて

 ユグドライアの極太枝を入手したライトとラウル。

 ユグドライアに他の神樹の話を聞かせたり、褒美や枝を譲り受けたり、気がつけばかなりの時間をここで過ごしていた。


 もしライト達が戻るより先にディープシーサーペントが目覚めたら、女人魚達を遣いに出して知らせてくれると海の女王は言っていたが、まだ遣いの人魚は来ていない。

 なので、まだディープシーサーペントは寝こけていると思われるが、それでもそろそろ海底神殿に戻らないといけない。


「ラウル、そろそろ海底神殿の方に戻ろうか」

「そうだな、ディープシーサーペントも起きてくる頃だろうし」

『ああ……そういや今日のお前達は、デプ助のために海底神殿に来てたんだったな』


 ライトの呼びかけに、ラウルだけでなくユグドライアも反応する。

 そろそろ別れの時が近づいていることを察したようだ。


『今日は久々に楽しい時間を過ごすことができた。ありがとう』

「こちらこそ!イアさんとたくさんお話ができて、しかもたくさんの宝物までいただけて、とっても楽しかったです!」

「初対面の俺にまでいいもんくれてありがとう」

『いいってことよ。それより最後に俺から、お前達にやるもんがあるから受け取れ』

「「???」」


 これまでにも既にたくさんの宝物(ガラクタ)をもらったというのに、まだ海樹から何かくれるものがあるという。

 一体何だろう?とライトとラウルが考えていると、ふと身体の奥から力が漲る感覚が湧いてきた。

 それはまるで熱い潮流のような、魂の奥底から無限に湧き出てくるような感覚。これと似た感覚を、これまでライトもラウルも何度か経験したことがある。


「これは……加護、ですか?」

『ああ。お前達に俺の加護を与えた』

「【海樹の加護】か……基本弱っちい妖精族の俺が、今よりさらに強くなれるならこれ程ありがたいことはない」

「イアさん、ありがとうございます!」

『礼には及ばん。ツィの生命を助けてくれた恩返しだ。もっともツィの生命に比べたら、俺の加護の一つや二つなんかじゃ到底足りんがな』


 嬉しそうに礼を言うライトやラウルに、ユグドライアも照れ臭そうにはにかむ。

 世界に六本しかない神樹族の加護は、どれも強力なものばかりだ。

 海樹からの思いがけない贈り物に、ライト達が喜ぶのも当然である。


『お前達の仲間の赤いやつ、レオニスにも次にここに来た時に加護をやるから、そう言っといてくれ』

「分かりました!レオ兄ちゃんも喜んでくれると思います!」

「ああ。あのご主人様も、力や知識に対して貪欲だからな。きっと大喜びするだろう」

『だといいがな』


 今ここにいないレオニスの分の加護も、次回対面時に付与することを約束するユグドライア。

 レオニスも神樹襲撃事件の解決の立役者であり、皆のまとめ役として中心的な役割を担い見事事件解決に導いた。

 そんな大役を果たしたレオニスの存在を、ユグドライアが失念するはずがない。レオニスに対しても必ずその恩に報いることを、ユグドライアは固く心に誓っていた。


「では、また来ます!」

『おう、いつでも来いよ』

「皆も元気でな」

『我等人魚族は、いつでも貴方方を歓迎しよう』


 ユグドライアやマシューと別れの挨拶を交わしたライトとラウル。

 海底神殿に戻るべく、もと来た道へと進んでいく。

 新たな友である人族と妖精族の去りゆく後ろ姿を、海樹は男人魚達とともにずっと眺めていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そうして海底神殿に戻ったライトとラウル。

 海底神殿の横では、ディープシーサーペントが『もにゃもにゃ……赤い悪魔めぇ~~~……ボクちんが成敗してくれるぁぁぁぁ……』と寝言を漏らしている。

 ディープシーサーペントが言う『赤い悪魔』とは、言わずもがなレオニスのことである。ディープシーサーペントは夢の中で、レオニスをけちょんけちょんに叩きのめしているのだろうか。


 ディープシーサーペントの横には、アクアが目を閉じて休んでいる。

 しかし完全に寝ている訳ではないようで、ライト達が近づくと目を開けてふよふよと泳ぎ始めた。


『ライト君、ラウル君、おかえりー』

「ただいま、アクア!」

「ただいま。アクアも留守番ご苦労さん」

『どういたしまして』


 褒めて褒めてー♪とばかりに、長い首を伸ばしてライトに頭を近づけて頬ずりするアクア。

 アクアの愛らしい仕草に、ライトも両手で思いっきりアクアの頭や頬を撫でまくる。

 生みの親であるライトに存分に撫でてもらって、アクアも目を細めて嬉しそうにしている。


「お留守番ありがとうね、デッちゃんはまだ寝てるの?」

『うん。でも、寝返りを打つ頻度が高くなってるし、そろそろ自然に目が覚める頃なんじゃないかな?』

「海の女王様と水の女王様は? 神殿の中でお話してるの?」

『うん。二人とも積もる話があるだろうからね。僕は彼女達姉妹の交流の邪魔をするつもりもないし、ここでデッちゃんが起きるのを待ちながらのんびりしてたんだ』

「そっか、アクアは本当にお利口さんだね!」


 ライトとアクアが仲睦まじくしていると、横にいたディープシーサーペントが突如ビッタン、ビッタン!と激しくのたうち回りだした。


「「『!?!?!?』」」


 軽く地響きが起こるくらいにクネクネと動くディープシーサーペント。

 びっくりしたライト達は慌ててディープシーサーペントから離れると、海底神殿の中から海の女王が飛び出してきた。

 ディープシーサーペントが起こした地響きが、海底神殿の中にいた女王達にも伝わったようだ。


『アクア様、今のはデッちゃんの目が覚める前兆です!……って、ライト達も帰ってきてたの?』

「はい、ちょうど今戻ってきたところです!」

『そうだったのね、おかえりなさい。……ほら、デッちゃん、そろそろ起きて? アクア様が遊びに来てくださってるわよ?』

『………………ンぁ?』


 ディープシーサーペントの横にいたライト達に気づいた海の女王。

 おかえりの挨拶もそこそこに、まだ寝ているディープシーサーペントのもとに行き、大きな蛇腹にそっと手を添える。

 すると、寝呆けた声とともにディープシーサーペントが目を覚ました。

 頭をもたげながら、のそのそと起き上がるディープシーサーペント。ニョッキリと大きな歯が覗く口から涎が垂れていて、実に愛嬌あふれた間抜け顔だ。


『ぅぇー……アクア君が、遊びに、来てくれてンの……?』

『そうよ、デッちゃん。しかも、デッちゃんが起きるまで待っててくださったのよ。さぁ、デッちゃんもしゃんと起きて、アクア様にご挨拶しましょう?』

『ぁーーーぃ……』


 まだ眠そうに目をシパシパとさせるディープシーサーペント。

 蛇龍神のディープシーサーペントには目を擦る手がないので、意識をはっきりとさせるにはまだもう少し時間がかかりそうだ。

 そして、ディープシーサーペントがふゎぁぁぁぁ……と大きな欠伸をする。その大口は全てを飲み込んでしまいそうで、のほほんと見ていたライトの背筋が思わず寒くなる。


 ディープシーサーペントはやがて大口を閉じ、ふぇ……ふにゃ……むにゃむにゃ……という気の抜けた声を出した後、ようやくアクアに挨拶わし始めた。


『ンぁー……アクア君、おひさぁー……ボクちんが起きるまで、待っててくれて、ありまとーぅ……』

『おはよう、デッちゃん。久しぶりだね、僕もデッちゃんに会えてとても嬉しいよ』

『そっかー……ボクちんも、アクア君に会えて、とってもうれぴーぃ!』


 アクアに向かって挨拶とお礼を言うディープシーサーペントに、アクアもにこやかな笑顔で彼との再会を喜ぶ。

 蛇龍神と水神は、世界でも指折り数える程しかいない神殿の守護神。同格の守護神に会える機会は滅多にないだけに、双方が再会を喜ぶのは自然の流れだ。


 そして、挨拶を終えたディープシーサーペントの方からアクアに今日の用向きを尋ねる。

 寝呆けていた口調もだんだんしゃんとしてきて、ディープシーサーペントの意識もようやく覚醒してきたようだ。


『アクア君、今日はどしたの? ボクちんや海の女王たんに、何か御用?』

『君に用事があるのは僕じゃなくて、ここにいるライト君とラウル君なんだ』

『ンンンン……? ライト君と、ラウル君……?? ……ッ!!』


 今日の用向きを尋ねられたアクア。

 ここに来る用事があるのはアクアではなく、ライト達だということをディープシーサーペントに正直に伝えた。

 だが、アクアが言う『ライト君』と『ラウル君』というのが一体誰なのか、すぐには分からないディープシーサーペント。小首を傾げた頭の上に『???』が浮いて見えるようだ。

 実際のところ、ライトとディープシーサーペントが顔を合わせるのはこれが二回目のこと。ディープシーサーペントがライトのことをすぐに思い出せないのも致し方ない。


 アクアの視線の先にいるライトをじーっ……と見遣る。

 そしてしばし考え込んだ後、ズザザザザッ!と勢いよく後ろに後退ったではないか。


『こ、こ、この子ッ!みみみ見覚えがあるッ!』

『だよねー。こないだ僕達といっしょに、ライト君もここに来てたものね』

『ぁぁぁ、赤い悪魔の連れだった子ジャマイカーーー!』

『赤い悪魔??……ああ、レオニス君のことか』

『えッ、ちょ、待、何ナニ、嘘ウソ、また赤い悪魔がここに来てンのッ!?』


 プルプルと戦慄(わなな)きつつ、涙目で周囲をキョロキョロと見回すディープシーサーペント。

 どうやら彼はライトのことを『赤い悪魔(レオニス)の連れ』と認識していたようだ。


 かつてディープシーサーペントは、エンデアンを訪ねた際にレオニスにその尻尾をちょん切られている。

 ライトはレオニスではないのに、ライトを見ただけでレオニスを連想して全力で後退るのは、その時のトラウマがかなり強烈に残っている証左か。


 慌てふためくディープシーサーペントに、アクアと海の女王、そして海の女王より少し遅れて海底神殿から出てきた水の女王が懸命に宥める。


『デッちゃん、落ち着いて!レオニスはここにはいないわ!』

『そうだよ、デッちゃん。レオニス君は今別のところにいるんだ』

『安心して、デッちゃん。今日は貴方が喜びそうな話を持ってきたのよ!』


 水の女王が言った『貴方が喜びそうな話を持ってきた』という言葉を聞き、それまでクネクネと暴れていたディープシーサーペントの動きがピタッ!と止まった。

 そして、その言葉を放った水の女王の方に向き直り、その真意を質した。


『……ボクちんが、喜びそうな、こと?』

『ええ。デッちゃんが以前話していた、人族のこと。淡紫色のお姉さん? その人に会わせてくれるんですって。そうよね、ライト?』

「ぁ、はい!そうなんです!」


 水の女王に話を振られたライト。

 突然のパスではあるが、今日の目的をディープシーサーペントにも分かるようにきちんと説明していく。


『あの、淡紫色の、可愛(かあ)いいお(ねい)さんに、会わせてくれるの……?』

「はい。そのお姉さんはぼくやレオ兄ちゃんの知り合いで、クレエっていう人族の女性です。そのクレエさんに、デッちゃんが会いたがっていたということを話したら、クレエさんの方からもデッちゃんに会いたいって言ってくれたんです」

『お姉さんが、ボクちんに、会いたいって……ホント?』


 ライトの話に、ディープシーサーペントの表情がコロコロと変わり続ける。

 歯を剥き出しにしてニヨニヨと笑ったかと思えば、ハッ!とした顔になったり、眉をハの字にしてオロオロとしたり。百面相の如き表情の変化は、ディープシーサーペントの心情をそのまま反映していた。

 そして、オロオロとした顔で真偽を尋ねてきたディープシーサーペントに、ライトは力強く答えた。


「はい、ホントのことです!クレエさんとデッちゃんを会わせるために、ぼく達はここに来たんです!」

『そしたら、お姉さんは今どこにいるの? ここにはいない、よね?』

「クレエさんには海にずっと潜り続ける能力はないので、そのままでここに来るのは不可能です」

『だよねぃ……』


 改めて周囲をキョロキョロと見回すディープシーサーペント。クレエの姿を探しているようだ。

 だが、クレエはここにいないことを知ると、途端にしょんぼりとする。

 そんなディープシーサーペントに、ライトが懸命に今後の行動予定を話していく。


「レオ兄ちゃんがクレエさんを連れて、エンデアンの近くにある海の崖に向かっています。そしてぼく達は、その崖にデッちゃんを連れて行くためにここに来たんです」

『その崖?に行けば、淡紫色のお姉さんに会える、の……?』

「はい!……でも、クレエさんを海辺に連れ出すために、レオ兄ちゃんが向かっています。クレエさんに会うには、レオ兄ちゃんとも会わなきゃならないですけど……大丈夫ですか?」

『………………』


 ディープシーサーペントとクレエを会わせる―――それは、クレエのことを気に入っているディープシーサーペント自身が望んでいた願いだ。

 だが、その望みを叶えるためには、クレエの横にレオニスがいることを承知しておいてもらわなければならない。

 先程の反応を見るに、ディープシーサーペントのレオニスアレルギーは相当なものだ。

 もし万が一、クレエに会いたい気持ちよりもレオニスに会いたくない気持ちの方が勝るならば―――その時は、二者を引き合わせることを断念しなければならない。


 それを確認したライトの言葉に、ディープシーサーペントはしばし黙り込む。

 大きな口をへの字にしたまま動かないディープシーサーペントに、ライトはただただ彼からの言葉を待ち続ける。

 そしてようやくディープシーサーペントの口から、ライトへの返事が放たれた。


『……分かった。ボクちん、お姉さんに会いに行きたい』

「!!」

『お姉さんがいるのは、海辺の崖なんでしょ? いつもの人里の港じゃないんだよねぃ?』

「そ、そうです!他の人に邪魔されないように、人気のない崖で落ち合うことになってます!」

『ボクちんが人里の港に行かなければ、あの赤い悪魔だって斬りつけてくることはない……よね?』

「もちろんです!ていうか、レオ兄ちゃんだって、誰彼構わず斬りつけるような人じゃありません!だから、デッちゃんも心配しないで!」


 おずおずとレオニスの危険性を問うてきたディープシーサーペントに、ライトは慌ててレオニスを擁護する。

 そう、ディープシーサーペントにとってはレオニスは怨敵だが、本当はそんなことはないのだ。

 かつてレオニスがディープシーサーペントを斬りつけたのも、エンデアンという街を守るための正当防衛だったのだから。


『分かった……そしたら、今からその崖にボクちんを案内してくれる?』

「もちろんです!」

「……ぁ、女王たんにアクア君も、ボクちんといっしょに来てくれる? ボクちん一匹じゃ、行くの怖くて……」

『もちろんよ!私もついていくわ!』

『僕だって、アクア君のためについていくよ』

『私も皆といっしょに行くわ!』

『皆……ボクちんのために、ありまとう……』


 弱々しい口調で同行を懇願するディープシーサーペントに、水の姉妹もアクアも即時肯定する。

 アクアも水の女王も、今日はそのためにライト達についてきたのだ。

 ようやく話がまとまったところで、ディープシーサーペントが改めてライトに頼み込んだ。


『じゃ、チミっ子君、案内よろちくね』

「はい!……って、ぼくの名前はライトです。なので、ライトって呼んでくださいね!」

『うん、ライト君ね、分かった』

「じゃ、行こうか、ラウル」

「おう」


 ディープシーサーペントに『チミっ子』と呼ばれたライト、慌てて名前を名乗る。

 そしてラウルとともに、レオニスとクレエが待っているであろう崖に向かって全員で出発していった。

 海樹から加護をもらい、海底神殿に戻ったライト達。デッちゃんの寝起きとトラウマ克服に向けての第一歩です。

 この蛇龍神、見た目はかなりのブサイクちゃんなのですが。そのブサイクさを描写していくうちに、何故か作者の中で愛嬌マシマシになっていく不思議。

 まぁ根は悪い子ではないですし、中身は完全にアホの子なので、余計に可愛く思えるのかもしれません。もっとも、エンデアン住民には到底受け入れ難いでしょうけど。

 何はともあれ、念願叶ってクレエとの対面がもう少しで実現します。

 クレエとデッちゃんの逢瀬の行く末は、果たして如何に———

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