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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
新しい生活

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第825話 冒険者たる者の心得

「へー、昨日はそんなに盛り上がったんだねー」

「ああ。午後六時からの開始時間を一時間繰り上げて五時から一部を始めて、午後九時に参加者を入れ替えてから二部を開始したんだ」

「歓迎会で二部制にするとか、そんなん初めて聞いたよ……でも、それだけラウルの歓迎会にたくさんの人が集まってくれたってことだよね。良かったね、ラウル!」

「本当にありがたいことだ」


 日曜日の午前中から、城塞都市ツェリザークに向かうライトとラウル。

 道中で、前日行われたラウルの歓迎会について話を聞いていた。


 今日ライト達がツェリザークに向かうのは、二つの目的がある。

 一つは氷の洞窟での氷採取。

 前回バッカニア達『天翔るビコルヌ』と氷蟹狩りも兼ねて氷の洞窟を訪ねてから、早くも半月以上が経過した。

 その間にもラウルは、ユグドラツィにせっせと洞窟の氷や融けた水を与えたり、ラグナロッツァ孤児院の建設現場を訪ねた時にはガーディナー組の職人達に氷水を振る舞ったりしていた。


 美味しい料理ともてなしに拘りのあるラウルは、求められればいつでも最上級のものを提供する。故に、ツェリザークの氷の消費量もかなりハイペースだ。

 しかし、今はまだ九月に入ったばかり。ツェリザークの初雪が降るという十月まではまだ遠い。

 ここらで一度、ツェリザークの氷を補充しておきたい、というのがラウルの一番の目的である。


 そして、もう一つの目的はライトの『ルティエンス商会に行きたい』というものだった。

 ツェリザークにルティエンス商会という店を構えるロレンツォは、BCO世界とライトの正体を知る数少ない人物である。

 場所柄頻繁に行き来することは難しいが、それでもこうして機会があれば何度でも訪ねてロレンツォと話をしたいと思うライト。

 もちろんラウルの氷狩りも手伝うが、今日はそれ以上にルティエンス商会へ行くのが楽しみで仕方ないようだ。


 今日は氷の洞窟だけでなく、街中にあるルティエンス商会も訪ねるので、冒険者ギルドの転移門を使うことにするライト達。

 冒険者ギルド総本部では、ラウルが早速他の冒険者達に声をかけられている。


「よう、ラウルの兄ちゃん!昨日は楽しかったぜ!」

「俺は残念なことに、昨日まで他の街に出かけててよぅ……兄ちゃんの歓迎会には参加できなかったんだ。また飲み会があったら俺も誘ってくれよな!」

「昨日ラウルの兄ちゃんに飲み勝負で負けたヤツらな、まだ食堂の隅っこで寝かされたまま起きてきてねぇんだぜ。ちょっくら覗いて見てみ?」


 昨晩の歓迎会の礼を言う者、参加できずに残念がる者、そして昨日参加して飲み勝負の惨敗者の現状を示唆する者、皆ラウルに気安く話しかけている。

 特にまだ寝かされているという、冒険者達のことが気になったラウルとライト。まだ開いてない扉越しに食堂内を覗いてみると、確かに奥の方にまだ数人がテーブルに頭を乗せてぐーすかと寝ている。

 彼らの肩に掛けたはずの毛布も床に落ち、中には床に大の字になって寝ている者もいた。


 今はまだ朝の九時で、食堂内には他の店員は来ていないようだ。

 だが、午前十一時からの開店に合わせて、その一時間前には追い出されて店の入口に放り捨てられることだろう。

 あと一時間の猶予のうちに、自ら起きて退店できればいいのだが。あの様子じゃ、叩き出されてようやく起きるくらいだろうな……とライトもラウルも密かに思う。


 酔っ払い達の無事を心の中で祈りながら、ライトとラウルは受付窓口に向かう。

 受付窓口では、今日もクレナが元気に職務をこなしていた。


「クレナさん、おはようございます!」

「よう、受付の姉ちゃん、おはよう」

「あらぁー、ライト君にラウルさんではありませんかー。おはようございますぅー」

「日曜日もお仕事お疲れさまです!」

「うふふ、ありがとうございますぅ。そんなことを言ってくれるのはライト君だけですよぅ」


 朝の挨拶とともに、クレナの日曜出勤を労うライト。

 冒険者ギルドは年中無休なので、一年365日常に稼働しいつも誰かしらが窓口に座っている。

 もちろん職員達は交代で休みを取っているのだろうが、それでもやはり土日祝日くらいは休みたいもんだろうになぁ、冒険者ギルドの職員さんってホント大変な仕事だよなぁ……とライトは思う。


「お二人とも、今日はどちらへお出かけですか?」

「氷の洞窟の氷をもらいに、ツェリザークに行くんです」

「?????」


 クレナが何気なく訪ねた行き先に、正直に答えるライト。

 だが、それを聞いたクレナは不思議そうな顔で小首を傾げる。


「あのー、大変言い難いことですが……如何にツェリザークが極寒の地であっても、まだ雪は降ってませんよ? あの地に雪が降るのは、早くても十月入ってからでして……」

「あ、はい、それはレオ兄ちゃんから聞いて知ってます。だから、氷の洞窟で直接(・・)氷をもらいに行くんです」

「ぇーと、えーと……氷の洞窟は年間を通してずっと凍っているので、そこに氷を採りに行く……ということまでは何とか分かるんですが……直接氷をもらう(・・・)、とは……?」


 ライトの返事に、クレナがますます混乱している。

 如何にツェリザークといえども、まだ雪が降る季節ではない。

 なのに、ライトはツェリザークに『氷をもらいに行く』と言う。

 行き先も『氷の洞窟』と言っているのだから、ライト達は氷の洞窟に直接氷を採りに行くのだということは、クレナにも何とか理解できた。


 だが、『氷をもらう』という言葉の意味がクレナには分からない。

 もらうという行為は『誰かに何かを譲ってもらって受け取る』という意味である。

 あの氷の洞窟に、ライト達に氷を譲渡してやることができるとしたら、それは洞窟の主である氷の女王唯一人だ。

 如何にクレナが超絶有能な受付嬢であっても、まさか氷の女王が人族にそのような許可を出すとは到底予想できないようだ。


 そんなクレナに、ライトがちょいちょい、と手招きをした。

 ライトの手招きに応じたクレナに、ライトはそっと耳打ちする。


(えーとですね、ここだけの話なんですが。実はぼく達、氷の女王様とお友達になりまして)

(……え?)

(氷の女王様にも、いつでも氷を採りに来ていいって許可をいただいてるんです)

(……ええ?)

(もちろんぼくやラウルだけじゃなく、レオ兄ちゃんも氷の女王様に認めてもらえてまして)

(……えええ?)

(というか、ラウルなんて氷の女王様に惚れられて、告白までされちゃってますからね!)

(……ええええッ!?)


 ライトのひそひそ話に、クレナはどんどん目を丸くしながら声にならない吃驚を上げる。

 最後の方など、両手で口を押さえながら必死に堪えるクレナ。

 今日も驚きのナイショ話をされたクレナだが、『驚きのあまりその内容を声高に叫んでしまい、周囲にバラしてしまう役どころ』といった間抜けな役割には絶対に陥らない。

 冒険者達のプライバシーを懸命に守るその姿勢は、まさしく受付嬢の鑑である。


 必死に驚きを堪えるクレナに、ナイショ話を打ち明け終えたライトがニッコリと笑いかける。


「そういう訳で、ぼく達これからツェリザークに行くんですー」

「そ、そうなんですか……でもまぁ、ツェリザークで快適に過ごせるのも今のうちですからねぇ。冬になる前に氷の洞窟に行くのもアリだとは思いますよー」

「ですよねー」


 ライトの屈託のない笑顔に、クレナの緊張状態も次第に解れてきたのか話す言葉も流暢さが戻ってきた。


「こちらはまだまだ残暑厳しい日もありますが、向こうはすっかり秋の空気だと思いますよー」

「あー……向こうは十月に雪が降るんだから、九月の今はもうとっくに秋なんですねー」

「ですですぅー」


 ラグナロッツァでは九月はまだ暑い日が続くが、ツェリザークではもうすっかり秋だという。

 初雪が十月に降るのだから、その手前の九月は気温も景色も完全に秋になっていて当然だろう。

 ツェリザークは夏が最も短いが、秋もまた夏同様ほんの僅かな期間しかないのだ。


「いずれにしても、お気をつけていってきてくださいねぇー」

「ありがとうございます!今日はラウルもいるから大丈夫です!」

「そうですねぇ、ラウルさんがいらっしゃれば大丈夫でしょうけど……氷の洞窟に行くのでしたら、警戒を怠ってはいけませんよ? そういう場所では、何が起きるか分かりませんからね?」

「はい。『汝、驕ることなかれ』、ですよね!」

「そうですそうです。ライト君、よくご存知ですね!」


 ライトの身を案じるクレナのアドバイスに、ライトもまたハキハキと答える。

 ライトが言った『汝、奢る驕ることなかれ』とは、冒険者登録時に全員に配られる小冊子『冒険者の手引き~一流冒険者に至るための基礎知識とコツ~』の第五章その一の題名だ。


 その小冊子には、冒険者たる者の心得がこれでもか!というくらいに緻密かつ熱く濃く語られている。

 ライトはこの小冊子を題材に、夏休みの課題の読書感想文を書き上げた。ちゃんとした読書感想文にするために、何度も何度も繰り返し小冊子を読み返した。

 そのため、ライトは小冊子の内容をすっかり覚えてしまっていたのだ。


 もちろんクレナも、それが小冊子から引き合いにした言葉だということを瞬時に理解していた。

 思いがけないライトの答えに、クレナがとびっきりの笑顔になる。


「ライト君、よく分かっていらっしゃいますねぇ。そう、冒険者たる者、常に危機感を持って事に挑むべきです!」

「はい、ぼくも将来レオ兄ちゃんのような立派な冒険者になるために、今から小冊子を何回も読んでます!」

「本当に素晴らしいですぅー。ライト君もまた、ラウルさん同様将来有望な冒険者さんになれますよー」

「ありがとうございます、クレナさんにそう言ってもらえると心強いです!」


 クレナから最上級の賛辞を受けたライト、花咲くような笑顔になる。

 クレア十二姉妹からの心からの応援は、冒険者にとって何にも勝る元気の源なのだ。


「じゃ、今日も転移門をお借りしますね!」

「お二人とも、お気をつけていってらっしゃーい」

「はーい!」「ありがとうよ」


 クレナに見送られながら、ライトとラウルは奥の事務室に向かっていった。

 ライトとラウルの日曜日の始まりです。

 前話の冒頭でも、ツェリザークに行くというのはちろっとだけ触れていたのですが…(=ω=)…

 前話はすっかりラウルの歓迎会の詳細を語る回となってしまいました(´^ω^`)

 そして今話は今話で、ツェリザークに行くまでの前振りで4000字超えてしまったので、ここで一旦分割。


 駄菓子菓子。今回も、いつもと変わらず些事しか語っていないように見えますが。

 冒険者のバイブルとも言える小冊子『冒険者の手引き~一流冒険者に至るための基礎知識とコツ~』を再登場させることができて、作者的にはかなり満足(・∀・)

 それに、ライトもクレナとたくさん話すことができて大満足してることでしょう。

 何てったってライトは、それはもう筋金入りのクレア十二姉妹の大ファンですからね!(^∀^)

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