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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
新しい生活

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第824話 陽気と寛容と救い

 それぞれに賑やかに過ごした土曜日の翌日。

 ライトとラウルはツェリザークに出かけることにした。

 前日の夕方は自身の歓迎会を盛大に開いてもらい、帰宅が午前様になるほど遅く帰ってきたというのに、何とも元気なことである。


 ちなみにレオニスは、これまた珍しく昼過ぎまで寝ていた。

 今回は間違って酒を飲んだ訳ではない。だが、冒険者仲間の「ほれ、ちょっとだけ飲んでみ?」「このカクテルならほとんどジュースみたいなもんだぜ?」と勧められて、試しに甘めのカクテルを一口二口飲んでみたらやはり酔っ払ってしまった、というオチである。

 唯一幸いだったのは、カクテルを口にしたのが歓迎会第二部の終盤、午前零時手前頃だったことか。


 ふぇぇぇぇ……と机に突っ伏して寝てしまったレオニスを見たグライフ。パン!パン!と二回手を叩き、参加者の衆目を集める。


「レオニスが酔って寝てしまったので、今日のところはひとまずこれで解散しますよ。皆さん、お疲れさまでした」

「うぃー、お疲れー!」

「レオニスって、ホンット酒弱ぇなぁ」

「全くだ。最強の冒険者の唯一の弱点と言っても過言じゃねぇな」

「ま、完全無欠の超人じゃないところが逆に人間らしくていいがな」

「違ぇねぇ」

「「「ワーッハッハッハッハ!」」」


 飲めないレオニスに酒を飲ませておいて、何とも酷い言い草で高笑いする冒険者仲間達。

 だが、その中の誰かが言う通りで、素面の時には世界最強の冒険者にも弱点の一つや二つはある。

 レオニスの場合はそれがアルコールであり、酔い潰れて無防備な顔で寝転ける様が逆に人間らしさがあって親しみやすいというものだ。


「おい、誰がレオニスの旦那を家まで連れてくんだ?」

「そりゃあもちろん、ラウルの兄ちゃんだろ?」

「そりゃそうだ、ラウルの兄ちゃんはレオニスんちで住み込みの執事してんだもんな」


 冒険者達の目が一斉にラウルに向けられる。

 その頃ラウルは何をしていたかというと、皆が飲み食いした皿やジョッキを厨房に下ろす手伝いをしていた。

 歓迎会が解散ということで、大量の食器類を下ろし始めたようだ。

 自分が主役の歓迎会だというのに、こんなところでまで食器類のことを気にするところが何ともラウルらしい。


「おーい、ラウルの兄ちゃんよ、こっち来てくれやー」

「おう、ちょっと待っててくれ、これだけ先に下ろしてから行くから」

「……ラウルの兄ちゃんって、何気に働き者だよなぁ」

「全くだ。今日の主役なんだから、皿下ろしなんてしなくていいのになぁ」

「……しゃあない、俺らも手伝うか」

「そうだな、さっさと片付けを終わらせてやろうぜ」


 いそいそと皿を下ろすラウルの姿に、普段は片付けの手伝いなんてしない冒険者達も手を貸し始める。

 今日の主賓自ら働いているというのに、自分達だけぼーっと待つのはさすがにバツが悪いとみえる。

 何はともあれ、ラウルとともに食器類をどんどん下ろしていく冒険者達。

 その間ラウルはテーブルの上を布巾で拭き、乱れた椅子もきちんとテーブルに合わせて仕舞っていく。


 ちなみにレオニス以外にも酔い潰れてしまった冒険者達がいるが、それらは店の端のテーブル席にまとめて寝かされている。

 その者達は、ラウルに飲み勝負を挑んで負けた者達だ。

 どれも飲み勝負には自信のある者達だったのだが、いくら飲んでも酔わないラウルの前に尽く惨敗を喫したのだ。


 泥酔して動かなくなった者達が、死屍累々とばかりに店の端に増えていった。その数は何と十人を超える。

 そんな者達にも、ラウルは店の毛布を借りて背中に掛けてやっている。

 きっと翌日の朝になったら、ガンガンに痛む頭を抱えながらのそのそと起きることだろう。


 テーブルの上には、グライフが魔術師ギルドで購入しておいた解毒剤が人数分置かれてある。

 解毒剤の瓶の下には『解毒剤の代金は、冒険者ギルドのスレイド書肆の口座宛てに振り込んでくださいね』というメモがしっかりと挟まれている。

 酔っ払いの体調まで気遣うグライフは、本当に頼れる幹事である。


「はい、お疲れさーん」

「皆、手伝ってもらってすまなかったな」

「ぃゃぃゃ、主役だけ働かせるのも悪いしな」

「皆で片付けりゃこれこの通り、あっと間だぜ!なー!」

「「「なーーー!」」」


 ひと仕事終えてスッキリとした表情の冒険者達。

 そう、皆やれば出来る子なのである。

 そして直営食堂をきれいに片付け終えた後、誰かがラウルに声をかける。


「さ、ラウルの兄ちゃん、最後の大仕事が残ってるぜ?」

「ああ、寝ちまったご主人様を連れて帰らなきゃな」

「つーか、ラウルの兄ちゃん一人で大丈夫か? 何ならグライフに付き添ってもらうか?」

「貴方方、どこまでも私を扱き使う気満々ですね……」


 甘いカクテルの一口二口で、完全に寝てしまったレオニス。

 その突っ伏しているテーブルの周りを、ラウルやグライフ他冒険者達が取り囲みながら相談している。


 レオニスはぱっと見そこまでゴツい体格ではないが、それでも長身かつ筋肉質なので体重は見た目以上にかなり重たい。

 しかも完全に意識がなく力が抜けきっていて、抱き抱えるとますます重たく感じるはずだ。

 冒険者達もそれを危惧して、ラウルのサポートにグライフをつけようとしているのだ。


 だが、今のラウルにはレオニスを持ち上げることなど造作もない。

 ラウルは突っ伏しているレオニスのお腹の辺りに肩を潜り込ませ、ヒョイ、と難なく担ぎ上げたではないか。

 それはまるで米俵を持ち上げるかのような動作で、しかも軽々とやってのけるのだから、周りにいた冒険者達もびっくり仰天である。


「おおお……ラウルの兄ちゃん、見かけによらず力持ちなんだな!」

「まぁな、これくらいのことは出来て当然だ」

「これなら、荷物持ちになるだけでも十分な戦力になるよな。どこのパーティーからも引っ張りだこだと思うぜ?」

「そうか。そりゃありがたいが、俺は当分単独でいいかな。一人の方が気楽だし、もし誰かと組むとしてもいいとこご主人様くらいだろうな」

「まぁなー、一番身近なレオニスと組んだ方がいいわなー」


 多数の冒険者達に囲まれながら受け答えするラウル。

 二回に分けた歓迎会で数時間過ごすうちに、もう周囲の冒険者達ともすっかり打ち解けたようだ。


「じゃ、俺はこれで帰らせてもらう。今日は俺のために盛大な歓迎会を開いてくれてありがとう」

「何の何の、いいってことよ!俺達も久しぶりに楽しい飲み会に参加できたしな!」

「ラウルの兄ちゃんが妖精だってのには驚いたが、マスターパレンが認めた冒険者だってんなら俺達の仲間だもんな!」

「そうそう!レオニスの旦那ともども、これからは俺達とも仲良くやっていこうぜ!」

「何かあったら、俺達にも相談してくれよな!」


 気の良い冒険者達が、にこやかな笑顔でラウルに歓迎の意を示す。

 皆浴びるほど酒を飲んでいるはずなのに、普段と変わらず会話できていることがすごいと思うラウル。

 もっとも、ラウル自身も酒には全く酔わないので、あまり他人様のことを言えないのだが。


「つーか、ラウルの兄ちゃんもかなり酒強ぇんだな!」

「俺ら冒険者と飲み勝負して無敗とか、グライフの再来かと思ったぜ」

「なぁ、今度グライフと飲み比べしてくれよ!」

「おお、それいいな!もしかしたらグライフの初黒星を見れるかもしれんぞ!」


 ラウルの飲みっぷりに、呆れるどころか大いに気に入った様子の冒険者達。

 今度は大酒飲みで知られるグライフと勝負しろ、とけしかけてきた。

 やんややんやと盛り上がる冒険者達に、勝手に祭り上げられたグライフが文句を言う。


「貴方方ねぇ……どこまで私を扱き使うつもりなんです?」

「ぃゃ、だってなぁ? 俺達、グライフが飲み比べで負けたところなんて見たことねぇし」

「グライフよ。ここは一つ人族代表として、世紀の大勝負に挑むべき時だ!」

「そうだそうだ!人族対妖精の、世紀の一騎打ちだ!」

「勝負する時は、絶対に俺達も呼んでくれよ!しっかりと見届けるからよ!」


 グライフの抗議などものともせず、ますます勝手に盛り上がる冒険者達。

 他人事だと思って勝手なことばかり言って……とブツブツ文句を言うグライフだが、その言葉に耳を貸すような者達ではないことはグライフも百も承知である。

 ラウルはレオニスを肩に担いだまま、改めて冒険者達に頭を下げる。


「グライフとの飲み勝負はともかく……俺もお前らに何かあったら力になるから、ご主人様ともどもこれからもよろしくな」

「おう!頼りにしてるぜ、期待の新人君!」

「まぁでもな、レオニスの旦那の身内って時点で既にただの新人君じゃねぇけどな!」

「全くだ!」

「「「ワーッハッハッハッハ!」」」


 礼を尽くすラウルに、冒険者達はラウルの肩をバンバンと叩きながら歓迎する。相も変わらず陽気な高笑いが直営食堂内に響き渡る。

 この底抜けの陽気さと寛容さが、ラウルだけでなくレオニスにとっても救いになっているのだ。


 直営食堂の入口に向かって歩き出したラウル。

 グライフが先んじて扉を開き、ラウルが外に出た後を冒険者達もぞろぞろとついていく。

 皆ラウルとレオニスを見送るために、外までついていってるのだ。


「じゃ、またな」

「おう、レオニスをしっかり介抱してやってくれよ!」

「いつかいっしょに依頼をこなそうな!」

「「「またなーーー!」」」


 グライフ達冒険者に見送られながら、レオニス邸に向かって歩き出すラウル。

 ラウルの肩では、米俵よろしく担がれたレオニスが「ンがぁー……もう飲めねぇぇぇぇ……」とうわ言を呟いている。


 午前零時を過ぎた夜の闇に消えていくラウル。

 その背を見送った冒険者達は、再び直営食堂の中に戻りながら安堵したように呟く。


「妖精族の冒険者とはなぁ……獣人族や竜人族の冒険者はぼちぼち見かけるが、妖精族まで冒険者になれるとはな」

「レオニスも、よくもまぁ魔の森で面白ぇもんを拾ってきたよなぁ」

「全くだ。でもまぁ、ラウルの兄ちゃんも悪い奴じゃないっつーか、普通に良い奴だし」

「頼もしい仲間が増えるってのは、俺達にとっても良いことだよな」

「「「なーーー!」」」


 そう言いながら、まだ飲み足りない者達が再びテーブルに着き酒を酌み交わす。

 そんな冒険者達を、グライフが呆れ顔で見ている。


「貴方方、まだ飲み足りないんですか?」

「俺達今日はそんなに飲んでねぇぞ? つーかグライフ、お前だって全然飲んでねぇだろ」

「そりゃ私は今日の歓迎会の幹事ですから。幹事が率先してがぶ飲みする訳にいかないでしょう」

「じゃ、今から歓迎会の二次会だ!歓迎会の主役は帰っちまったが、今からはグライフと飲み会だ!」

「やれやれ……貴方方には、本当に敵いませんね」


 まだまだ飲み足りない冒険者達の言い分に、グライフも苦笑いするしかない。

 グライフも先だって冒険者に復帰した身だが、その時にもレオニス主催の歓迎会でかつての冒険者達がグライフを快く受け入れてくれた。

 グライフもまた、冒険者仲間に救われた一人だった。


「では、今から私と飲み勝負をしたい者はいますか? いくらでも受けて立ちますよ?」

「ぃゃぃゃぃゃぃゃ……今更お前に飲み勝負を挑むような命知らずが、このラグナロッツァにいると思ってんのか?」

「いる訳ねぇっつーか、そんなんグライフのことを知らん新人モグリくらいのもんだよなぁ?」

「「「なーーー!」」」

「貴方方、本当にいい度胸してますね……」


 グライフが飲み勝負の相手を募るも、彼の酒豪ぶりを知っている冒険者仲間達は素気無くキッパリと否定する。

 歯に衣着せなさ過ぎる仲間達に、グライフは頬を引き攣らせながら容赦ない一撃を放つ。


「今起きて飲んでいる人達全員、二次会の会費もしっかり払ってもらいますからね?」

「何ッ!? そこは歓迎会の会費で賄えないのか!?」

「別途で会費が発生するのは当たり前のことでしょう。今から一人1000Gいただきますからね」

「おいッ!ラウルの兄ちゃんを呼び戻せ!レオニスに二次会の費用を出してもらうんだ!」

「酔って意識のない人に無茶言うんじゃありませんよ」


 二次会の費用を別途で請求するグライフに、冒険者達はガビーン!顔になる。

 今ここには、二次会会費のスポンサーとなってくれそうなレオニスはいない。

 皆財布を出して手持ちの金を確認しながら、グライフに交渉を持ちかけ始めた。


「でも1000Gは高過ぎるだろ!500Gに負けてくれ!」

「では900で」

「600!」

「800」

「700!」

「仕方ありませんねぇ……750。これ以上は負かりませんよ」

「よし!それなら何とか払えるぞ!」


 まるで八百屋か果物屋の競りのような値段交渉が続き、当初の四分の三の750Gという金額で決着がついた。


「よーし、そしたら朝まで飲むぞー!」

「「「おーーーッ!」」」


 再び盛り上がる冒険者達に、グライフは苦笑いしながら朝まで付き合ったのだった。

 ラウルの歓迎会の詳細です。

 詳細というよりは第二部終盤頃の、レオニスが酔い潰れて以降のやり取りが主ですが。


 レオニスの酒の弱さは、生みの親たる作者の酒の弱さをモロに反映しています。

 魔法のあるサイサクス世界では、解毒魔法をかければすぐに治る代物なんですが。

 でもねー、冒険や討伐の最中ならともかく、平時の飲み会という場でそれをしちゃったら、あまりにも無粋極まりないと思いません? 少なくとも作者は無粋だと思うのですよ。

 なのでレオニスも、飲み会という場では解毒魔法には頼らず挑んでいます。

 それで毎回酔い潰れてちゃ世話ないよなー、とも思いますけども('∀`)


 そして今回も、グライフがいいように冒険者仲間に扱き使われています(´^ω^`)

 グライフもそれなりに高位の冒険者で、結構な有名人のはずなんですがねぇ?

 でもまぁね、レオニスもグライフも、力があるからといって鼻にかけるような人物ではないので。周囲も彼らを心から慕いつつ、親しみをもって接しているのです(^ω^)

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