第815話 様々な思い出
アドナイでの指名依頼任務を無事完了したライト達。
その後冒険者ギルドアドナイ支部で依頼完了の報告を終え、街の定食屋で昼食を摂ってからラグナロッツァに帰還した。
ちなみにライト達が食べた昼食は『レモンの唐揚げ定食』である。
ここで間違えてはいけないのは『唐揚げレモン』ではなく『レモンの唐揚げ』である。
メニューの名前を見たライト達も『まさか、レモンをまるごと唐揚げにしたヤツじゃないよね??』と思いつつ、おそるおそる注文してみたところ、本当にレモンの唐揚げが出てきたのだ。
ただしそれは一個だけで、他の唐揚げは普通に鶏肉の唐揚げだった。
どうやら『カラッと揚げたレモンを搾って、唐揚げにかけてお召し上がれ☆』ということらしい。
全部の唐揚げをレモンにしたら、さすがに暴動もしくは激烈クレームが巻き起きるだろうことは店側も理解しているようだ。
レモンたっぷりの唐揚げを堪能したところで、ラグナロッツァに帰還しすぐに屋敷に戻ったライト達。
その後レオニスは冒険者ギルド総本部に今日の任務の報告をしに出かけていき、ライトは明日からラグーン学園二学期開始ということでのんびり休憩、そしてラウルは早速『ぬるぬるドリンク特濃レモン味』の研究を始めた。
ライトも特濃レモン味の味見や特性を知りたかったので、ラウルの研究にくっついて眺めることにした。
空間魔法陣を開き、特濃レモン味を一本取り出すラウル。
早速栓を開けて、小鉢に少量垂らしてのお味見である。
ラウルはまず小鉢を傾けたり、くるくると円形に回して揺らしてみたり、香りを嗅いだりしている。真剣な眼差しで行うそれは、まるでワインのテイスティングのような優雅な仕草だ。
もっとも今日のそれはヴィンテージワインなどではなく、ぬるぬるドリンクなのだが。
「ふむ……確かに粘度的には、他のぬるぬるドリンクとほぼ同じっぽいな」
「だねー。匂いは普通の黄色のぬるぬるドリンクよりも、レモンの香りが強い?」
「そうだな。柑橘類特有の爽やかな香りが強めで、色も若干こっちの方が黄色味が強いな」
「一番の問題は、そのお味というか酸味の強さだよねぇ……普通のレモンの五倍とか十倍とか書いてあったよね……」
「……よし、味見といくか」
粘度、色、香りのチェックが済んだら、いよいよ味見だ。
小鉢に人差し指を入れて、液体にチョン、チョン、と軽く触れるライトとラウル。
そしてその人差し指をパクッ!と咥えて舐めた。
「「~~~~~~ッ!!」」
売店での謳い文句通り、あまりの強烈な酸味に二人の目は >< になり、口も x になる。
瞬時に口の中いっぱいに広がる酸味、その強さに堪えながら声にならない声でしばし悶絶するライトとラウル。勝手に出てくる大量の唾液を何度かゴクリと唾を呑む。
ようやく口中の酸味が消えたところで、二人はほぼ同時に「プハーーーッ!」と息を吐いた。
「こ、これは……間違ってもゴクゴク飲んじゃいけないヤツだぁ……」
「ああ……ゴクゴク飲むどころか、軽く一口含むのすら無理だわ」
「でも、唐揚げに一滴二滴垂らしたりするくらいなら良さそうだねー」
「ああ。魚のムニエルとかにも合いそうだし、ドレッシングに数滴混ぜるのも良さそうだ」
飲むのは無理でも、料理のアクセントとして使えそうだ、という意見で一致したライトとラウル。
そう、この特濃レモン味はそこら辺の酢よりはるかに酸っぱい。例えて言うなら、これをゴクゴク飲むのは酢をビールジョッキでがぶ飲みするのと同義である。
この世の中、好き好んで酢をがぶ飲みするようなドMなどそうそういないだろう。これはアドナイでも罰ゲームアイテム化しても致し方ない。
とはいえ、少量使う分にはいろいろと使い道もありそうだ。
二人はその後も水で薄めてみたり、他の調味料と混ぜ合わせたり、様々な試行錯誤を楽しんでいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ラウルと理科実験のような試行錯誤を楽しんだ後は、明日から再開するラグーン学園の持ち物チェックなどをして過ごしたライト。
カタポレンの森を散策するには少々時間が少ないし、ましてや転職神殿や素材採取に出かけるにはもっと時間が足りない。
夏休みの最終日の午後くらい、ゆっくり過ごすのもいいだろう―――ライトはそう考えたのだ。
晩御飯もレオニスとともにカタポレンの家でゆっくりと食べる。
夏休みに入ってから、こんなにゆっくりとご飯を食べることなんてほとんどなかったな……とライトは思う。
お風呂にも入り、風魔法の練習を兼ねて自分で髪の毛を乾かすライト。ドライヤーなんてものはないが、魔法で代用できるのは素晴らしいことだ。
そうしてレオニスにおやすみの挨拶をした後、ライトは自室に入りベッドにゴロンと寝転がる。
天井を見上げながらマイページを開き、職業習熟度やイベントページなどに目を通していく。
マイページを一通り見終えたところで、早々にページを閉じたライト。
夏休み中に起きた、様々な出来事を思い出していた。
夏休み入る前の日の、魔力テスト。思った以上に出力デカくてびっくりしたなぁ……やっぱ俺、普通の人より魔力がバカ高いんだな。
その次の日には天空島に行って、天空樹のエルちゃんや光の女王様、雷の女王様に会ったっけ。竜の女王様の背中に乗って天空島に行けるなんて、すっごい贅沢だよね!
天空島にいた天空神殿や雷光神殿の守護神も、やっぱりBCOのレイドボスだったなぁ。……ドライアドも可愛かったし、何より念願の閃光草が採取できてイベントが前進して本当に良かった!
一旦止まっていたエリトナ山の残骸の片付けもできたし、火の女王様や炎の女王様も喜んでくれたし……
海の女王様のところでは、あのディープシーサーペントのデッちゃんの実物にも会えたし……
海樹のユグドライアさんは、ちょっとだけとっつきにくかったけど……でも、彼や周りの人魚達が人間から受けた仕打ちを思えば、そうなっても仕方ないよな……
ライトの脳裏に、この夏休みで体験した様々な思い出が蘇る。
上記以外にも、ライト専用の特注ワンドがようやく入手できたり、バッカニア達『天翔るビコルヌ』とともに氷の洞窟探検したり、そのバッカニアの実家であるヴァイキング道場を訪問したり。
夏休み終盤には、マキシの兄弟達が人化の術の会得のために次々と人里見学に訪れて、様々な場所に案内したりもした。
振り返れば振り返るほど、かなり過密スケジュールだったなぁ……と思うライト。だがその分、たくさんの出会いと喜びを得られたと言えよう。
しかし、この夏休みは喜ばしいことばかりではなかった。
数々の出来事の中で、唯一の悲劇にして最もライトの中で強烈に印象に残っている事件。それは『神樹襲撃事件』である。
どうしてこのカタポレンの森に、いるはずのない首狩り蟲が大量に涌いたのか。
何故ツィちゃんの中に、廃都の魔城の四帝以上の存在とされる『初代』が巣食っていたのか。
どれ程考えても、ライトには答えが見つけられない。答え合わせしてくれる者もいないし、BCOの冒険ストーリーを追おうにもライトの記憶ではストーリーは完結していなかったから。
それらの不穏な要素は未だ解決に至らないが、それより何より一度は完全に閉ざされたユグドラツィの意識が無事戻ったことが一番嬉しかった。
ボロボロに傷ついたユグドラツィを復活させるために、超貴重なアイテムであるエリクシルを全て使い切ることになってしまったが、それでもライトが後悔することなど全くない。
しかし、今まではエリクシルがあるからこそある意味無謀なこともできていたのだが、在庫ゼロとなるとそうもいかなくなる。
またフォルに、エリクシルを拾ってきてくれるように頼んでみようかな……それともアレかな、ウィカやミーナ、ルディにも頼んでおこうかな……
それか、ツェリザークのルティエンス商会のロレンツォさんに、CPでエリクシルと交換できないか相談してみようかな……
これまでの夏休みの思い出をずっと考えていたせいか、ライトの瞼がだんだん重たくなっていく。
明日からまた学校が始まるんだ……ラグーン学園の皆と会うのは久しぶりだな……皆、元気にしてたかな……ああ、皆へのお土産も明日渡さないとな…………
そんなことを思いながら、いつの間にかライトは眠りに落ちていた。
ようやく、ようやくライトの夏休みが終わりを迎えました。
思い起こせば、この『初めての夏休み』という名で新章を開始したのが第618話のこと。投稿の日付は2022年9月23日でした。
そこから今日まで約七ヶ月、話数にして200話近くもかかるとは。作者自身全く夢にも思わず_| ̄|●
後書きで『まだもうちっとだけ続くんじゃ』と書いたのも、果たしていつのことだったかもう思い出せません・゜(゜^ω^゜)゜・
しかし、これだけ壮絶に長く話が続いた分だけ、ライト達もたくさんの知己を得て着実に力を着けています。
これからも、勇者候補生であるライトの『勇者への道』は続くのです!




