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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第808話 アドナイの重大事案

 ライトがアドナイの冒険者ギルド受付嬢、マリサと初めて顔合わせをして無事挨拶を交わしたところで、マリサがレオニスに向かって問うた。


「さて、レオニスさん、本日はどのようなご用件でアドナイにいらしたのですか?」

「あー、前にも一度ここで聞いたことはあるんだが……その後フェネセンは、再びここに立ち寄ったりしてないか?」

「はい、以前遺跡出土品をこちらで提供していただいた時以来、こちらには一度もいらしておりません」

「そうか……」


 レオニスは早速フェネセンのことを尋ねたのだが、マリサによると例のアイテムバッグをこのアドナイ支部で提出してから一度もここには来ていないという。

 望みは薄いと思ってはいたが、予想通りの答えでライトが俯いてしょんぼりとしている。

 そんなライトを見たマリサが、ライトに向かって声をかけた。


「もしかして、ライト君はフェネセンさんのことをご存知なんですか?」

「はい。フェネぴょんはレオ兄ちゃんのお友達ということで、ぼくもたくさん仲良くしてもらいました」

「フェネぴょん……またフェネセンさんらしい愛称ですねぇ」


 ライトのフェネぴょん呼びを聞いたマリサが、一瞬だけ呆気にとられたかと思ったらクスクスと笑い出した。

 どうやらマリサもフェネセンのへんてこりんな癖、謎の愛称呼びのことを知っているらしい。

 しょんぼりとしているライトに、マリサが優しい口調で話しかける。


「ライト君は、クレア姉さん達がフェネセンさんから『クレアどん』と呼ばれているのは知ってますか?」

「はい、クレアさん達以外のもいくつか知ってます!レオ兄ちゃんは『レオぽん』で、グライフは『ぐりゃいふ』ですよね!」

「そうですそうです。フェネセンに気に入られた人は皆、いつの間にか変な愛称をつけられちゃうんですよねぇ」


 マリサの問いかけに、俯いていたライトは顔を上げて明るい声で答える。

 親しい者の名の後ろに、必ず何かしらくっつけて呼ぶのがフェネセンの拘りであり流儀。

 それは彼ならではの親愛を込めた行動であり、フェネセンからへんてこりんな呼び方をされるのは、裏を返せばそれだけ親しい間柄であることの証でもあるのだ。


「ちなみに私達マリア姉妹の場合はですねぇ、名前の後ろに『っちぇ』がつくんですよ。マリア姉さんは『マリアっちぇ』で、私の場合だと『マリサっちぇ』になりますね」

「マリサっちぇ、ですか……可愛いような、微妙なような……?」


 マリサが続けて語るには、マリア姉妹の場合『○○っちぇ』と呼ばれるのがデフォらしい。

 こないだの俺の『ライぴっぴ』に比べたら、はるかにマシだよな……とライトは内心思いつつも、それでも可愛いんだかどうだか何とも判断し難い微妙な線である。


「ちなみにライト君の場合は、フェネセンさんから何と呼ばれているんですか? フェネセンさんと仲が良いのでしたら、絶対に普通の名のままでは呼ばれてませんよねぇ?」

「えーと、ぼくの場合は『ライトきゅん』って呼ばれてます」

「まぁ、案外普通っぽいというか、可愛らしい呼び方ですねぇ?」

「でも、危うく『ライざえもん』になるところでしたけど……それはレオ兄ちゃんが阻止してくれたから助かりました」

「……そ、それは……回避できて本当に良かったですねぇ……」

「……はい……」


 話の流れでマリサにライトの愛称を聞かれたライト。

 『ライトきゅん』とその前の候補だった『ライざえもん』を正直に答えたところ、マリサの顔が思いっきり引き攣っている。

 かつてレオニスが先んじて阻止してくれた本来の愛称候補は、誰が聞いてもドン引きレベルのようだ。

 マリサの引き攣り顔を見たライト、もしかしたら『ライざえもん』より『ライぴっぴ』の方がまだマシかもしんない……と思い直す。


 そして、ライトとフェネセンがとても親しい仲だとアピールできたところで、ライトがマリサに話を切り出した。


「ぼく、フェネぴょんに会いたいんですけど、今どこにいるか分からなくて……もしかしたら、またアドナイに来ているのかも!と思って、今日はレオ兄ちゃんといっしょに来たんです」

「そうだったんですかぁ。でも……フェネセンさんって、もともと凧の糸が切れて1mmくらいしか残ってないようなお人ですからねぇ……我々冒険者ギルドはもちろんのこと、魔術師ギルドでさえもその所在を常に把握するなど到底無理ですし」


 ライトの話に理解を示しつつも、目を閉じ頬に手を当てながら困り顔でため息をつくマリサ。

 フェネセンが何よりも嫌うのは、他者からの束縛や拘束。

 理由なき拘束はもちろんのこと、正当性のある理由があっても彼自身が心底その理由に納得しなければ、絶対に従わないのがフェネセンという大魔導師である。

 そのことは、フェネセンを知る者達や組織の間では広く知られているので、彼がヘソを曲げないように自由にさせているのだ。


 するとここで、レオニスがマリサに向かって問いかけた。


「なぁ、マリサ、フェネセンはここを出た後にどこかに行くとかいう話はしてなかったか? 氷の洞窟と天空島に行く、と言っていたことまでは分かっているんだが」

「そうですねぇ……確かにあの時フェネセンさんは「氷の洞窟に行くんだー♪」と仰っていましたが……それ以外は特に言及していませんでしたねぇ……」

「そうか……分かった」


 やはりアドナイでは、フェネセンのその後の行方の手がかりは得られないか―――レオニスは内心で考えていた。


「ありがとう、忙しいところを邪魔してすまなかったな」

「いえいえ、どういたしまして。こちらこそ、むしろお役に立てず申し訳ないですぅ」

「そんなことはないさ。……あ、これ、今日の通行料な」

「まぁまぁ、貴重なものをありがとうございますぅー♪」


 レオニスはマリサに礼を言いながら、空間魔法陣を開いて何かを取り出した。転移門の使用料代わりの魔石である。

 そして取り出したばかりの魔石を、レオニスがマリサに手渡す。

 それを受け取ったマリサは、ほくほく顔で歓迎している。このアドナイでは魔石の流通量があまり多くないので、たった一個でもかなり貴重で嬉しい品なのだ。


「もしフェネセンの行方とか何か分かったら、すぐに俺にも教えてくれ。ラグナロッツァのクレナか、もしくはディーノのクレアにでも伝えておいてくれれば助かる」

「分かりました。レオニスさん達はこれからどうするんですか? もうラグナロッツァへお帰りで?」


 通行料の魔石を渡し、今にもラグナロッツァに帰りそうなレオニスにマリサがこれからの予定を問うた。

 実際レオニスとしては、このままラグナロッツァに帰るなり別の街に移動するなりしても良かったのだが。

 マリサに改めてそう問われると、もう少しアドナイを見て回ってもいいかな……とレオニスは考え始めた。


「ンー、そうだなぁ……せっかくここまで来たんだし、アドナイの土産物屋でも見て回ってから少しばかり周辺の魔物狩りでもしていくかな」

「でしたら!是非ともレオニスさんに引き受けていただきたい仕事があるのですが!」

「ン? 俺への指名依頼か?」

「えーとですね、今すぐ関連書類を持ってきますので少々お待ちくださいね!」


 マリサが両手をパン!と合わせてレオニスに頼み込む。

 そしてすぐさま奥の事務室に向かって、パタパタと小走りに駆けていくマリサ。何かレオニスに依頼したいことがあるようだ。

 しかし、レオニスはこのアドナイという土地にはあまり縁がない。今日の訪問だって、レオニスの人生の中で三度目か四度目といったところだ。


 滅多に来ない場所なのに、俺に依頼したい仕事って一体何だ?とレオニスが訝しがっていると、先程の宣言通りマリサがすぐに窓口に戻ってきた。

 そして手に持った書類を、レオニスに見えるように差し出して広げる。


「これは、今から五日前に当支部に寄せられた報告なんですが。声には出さずに目で追うだけで、この場で内容を読んでいただけますか?」

「分かった。どれどれ…………」


 とりあえず、マリサが出してきた報告資料に目を通していくレオニス。

 ここでの仕事を受けるかどうかは、レオニスの考え一つだ。

 だが、マリサに『是非とも引き受けていただきたい』とまで言われたら、レオニスとしても無碍にする訳にはいかない。

 まずはその仕事とやらの内容確認だけでもしておくか、と思いながら書類の文字を目で追っていく。

 そして、レオニスの目が大きく見開かれるのに然程時間はかからなかった。


「!!……マリサ……これは……」

「ええ。内容が内容だけに、生半可な者には依頼できないんですよねぇ……」

「確かにな。これに対処するには、黄金級……いや、聖銀級以上でないとマズいな」

「そうなんですぅ。ですが、このアドナイを拠点とする冒険者で、現時点で最も階級が高いパーティーは白銀級なんですぅ……」


 レオニスが思わず息を呑んだ報告書。

 そこには『単眼蝙蝠の群れを発見した』という内容が書かれていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その報告書によると、今から六日前のこと。

 とある冒険者パーティーが、アドナイ郊外にある渓谷の入口で素材採取をしていたところ、単眼蝙蝠の群れが巣食う小洞窟を発見したのだという。


 最初は三匹くらいの単眼蝙蝠を見かけただけだったが、妙な胸騒ぎを覚えた冒険者達が蝙蝠の後を追ったところ、それらが小さな洞窟に入っていくのを見たそうだ。

 パーティー内の斥候役が探知魔法で小洞窟内部を確認したところ、少なくとも五十匹以上はいるというではないか。

 これは非常事態だ!と速攻でアドナイの街に戻った冒険者パーティー。すぐに冒険者ギルドアドナイ支部に駆け込んだ等の経緯が、資料に克明に記されていた。


 今の冒険者ギルドでは『十匹以上の単眼蝙蝠が一ヶ所に集まっているのを目撃した場合、必ずどこかのギルドに速やかに報告しなければならない』と義務付けられている。

 素材採取をしていた冒険者パーティーはその規則に則って、冒険者ギルドアドナイ支部に報告を上げたのだ。

 そして何故それが義務化しているのかと言えば、単眼蝙蝠は廃都の魔城の四帝の尖兵として使役されていることが判明したからである。


 かつてカタポレンの森の中で起きた、オーガの里の襲撃事件。

 屍鬼将ゾルディスの指揮のもと、側近マードンが大量の単眼蝙蝠を率いてオーガ族の里を強襲し、とことんまで追い詰めて苦しめた。

 しかし、それがオーガ族と屍鬼将の単なる諍いならば、ライトとレオニス以外の人族は対岸の火事として特に気にも留めなかっただろう。

 だが、実際にはそうはならなかったどころか、冒険者全員に報告義務まで課せられるに至ったのは、襲撃事件で『屍鬼化の呪い』が駆使されたからだった。


 単眼蝙蝠が屍鬼化の呪いを振り撒く尖兵となると、人族としても看過する訳にはいかない。

 単眼蝙蝠はどこにでもいる、それこそ人族の住む街の近くでもよく目撃されるようなありふれた雑魚魔物だ。

 そんなどこにでもいるような、割と身近な魔物から突如屍鬼化の呪いをかけられたら、たまったものではない。人族の街の一つや二つ、簡単に滅亡してしまうだろう。

 故に、レオニスから襲撃事件と屍鬼化の呪い発見の報告を受けた冒険者ギルドは、事の重大さを鑑みて報告義務化を全支部に即時発布したのだった。


「集団の単眼蝙蝠の発見の報告が出たのは、報告の義務化以来初めてのことでして。冒険者ギルドとしても、速やかに対処したいところなのですが……誰を洞窟に向かわせるか、一向に決まらず難航しておりまして……」

「万が一、対処中に屍鬼化の呪いやら廃都の魔城の四帝配下が突然出てきたら、洒落にならんってことか」

「ですですぅ……こんな重大事案、正直このアドナイだけでは荷が重過ぎてどうにもならないんで、もういっそのことマルクト支部かラグナロッツァ総本部に救援要請するか、という話にまでなってまして……」


 アドナイ支部の事情を察したレオニスに、マリサが申し訳なさそうに縮こまりながら小声で肯定する。

 だが、そこはクレア姉妹の従姉妹。転んでもタダでは起きない!とばかりに、突如レオニスの手を両手で握りしめ、ズイッ!と顔を近づけて迫った。


「ですが!今日!レオニスさんが!このアドナイに!来てくださったのは!まさに!天の!配剤!なのではないかと!私は!思うのです!」

「ぉ、ぉぅ……」

「レオニスさん!貴方は天がアドナイに遣わしてくださった救世主に違いありません!」

「そりゃちと大袈裟じゃねぇか……?」

「どうか!どうかこのアドナイをお救いくださいぃぃぃぃ!」


 必死の形相でグイグイと迫ってくるマリサに、レオニスは次第に仰け反りながら後退る。

 だが、マリサの両手でガッシリと手を握られたレオニス。どうにも逃げようがない。

 これは、レオニスが頷かなければ絶対に離してもらえないやつである。


「わ、分かった、分かったから落ち着けって……」

「では!件の洞窟の調査に出向いていただけますか!?」

「ああ、この調査は俺が請け負おう」

「ありがとうございますぅぅぅぅ!」


 念願叶い、何とかレオニスの承諾と言質を取ることができたマリサ。ようやくその手を離し、涙ぐみつつ全力で頭を下げて礼を言う。

 一方のレオニスも、鬼気迫るマリサに圧された形ではあるが、もとより看過できる案件ではない。

 単眼蝙蝠がいたからといって、必ずしも屍鬼化の呪いを振り撒く訳ではないだろう。だが、そうした前例がある以上は、危険な芽は未然のうちに摘み取っておかねばならない。


 顔面3cm前まで詰め寄られた、迫力満点のマリサからようやく解放されたレオニス。

 コホン、と軽く咳払いをしながら、早速マリサとの交渉に入った。


「ぁー、だがさすがに今すぐ洞窟に行く訳にはいかん。今日はライトも連れてきているし、俺の方もそれなりに準備を整えなきゃならんからな」

「それはもちろん!承知しておりますぅ!」

「そうだな……三日以内にはまたアドナイに来よう。それでいいか?」

「はい!それでよろしくお願いします!上の者にもそう伝えておきますので!」


 マリサの顔が、今日一番の笑顔になっていく。

 ここ最近は、ずっとこの事案で頭を悩ませていたのだろう。

 今はまだレオニスが依頼を引き受けたというだけで、事案そのものの完全解決には至っていない。

 だがそれでも、現時点で人類最強の冒険者であるレオニスに事案を請け負ってもらえただけで、マリサの心は軽くなっていた。


「……じゃ、マリサは洞窟の位置を明記した詳細な地図を用意しといてくれ。俺も今からラグナロッツァに戻って準備をしてくる」

「分かりました!」

「ライト、すまんな。そういう訳で今日はもうラグナロッツァに戻らなきゃならん」


 レオニスはマリサに指示を出した後、ライトに向かって謝った。

 本当なら夏休みの終わりに、フェネセンの情報を求めがてらアドナイで観光の一つもさせてやりたかったところなのだが。

 マリサから、それどころではない重大事案を持ちかけられてしまった。

 申し訳なさそうに謝るレオニスに、ライトは精一杯明るい声でレオニスに応える。


「ううん、大丈夫だよ、ぼくのことは心配しないで!それよりも、困っているマリサさんを助けてあげて!」

「まぁぁぁぁ、本当に、ライト君は何て優しい子なんでしょう……クレア姉さん達が、ライト君のことをそれはもう絶賛していたのも分かりますぅ……」


 ライトの気遣いに、マリサが目を潤ませながら感激している。


「じゃ、事務室の奥の転移門を使わせてもらうぞ」

「どうぞお使いください!」

「マリサさん、さようなら!」

「ライト君も、今日はありがとうございました!また今度、ゆっくり遊びに来てくださいねぇー!」


 早速ラグナロッツァに帰るライトとレオニスを、晴れやかな顔のマリサが手を大きく振りながら見送っていた。

 あら? フェネセンの行方の新情報は出なかったのに、別の事案が発生してしまいました。

 ライトの夏休みがもうそろそろ終わりそうだと思ったのに、一体どゆこと?( ̄ω ̄;≡; ̄ω ̄)


 ていうか、今回は何故か作者の脳内に突如マードンが浮かんできてしまったのが運の尽き。

『ナぁナぁ、潟湖さんヨ。えー加減、そろそろ我を起こしてくれてもイイノヨ?』と胡散臭い口調で囁くマードンの声に、作者は抗いきれませんでした……_| ̄|●

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