第797話 弟がもたらした縁と兄の心からの応援
オーガの里への手土産を用意できたライト達。
ラグナロッツァの屋敷からカタポレンの家に移動し、そこからオーガの里に向かう。
「オーガの里は、ナヌスの里の隣にあるんですよー」
「ほう、一昨日お会いしたナヌスの方々と知己の仲なのですね。我等はオーガというのは種族名くらいしか知らぬのですが、鬼人族の一つですよね?」
「ええ、人族の間でオーガ族は『額に角がある亜人族』という認識ですね。身体がとても大きくて、身長なんてレオ兄ちゃんの三倍くらいあるんですよー」
「レオニス殿の三倍の大きさ、ですか。それはさぞ立派な体格なのでしょうな」
森の中を駆けるライトの横で、文鳥モードで飛びながらオーガ族の特徴などをライトから聞くフギン。
ちなみにマキシとレイヴンも、木々の間を駆け抜けるライトとともに飛ぶために文鳥モードになっている。
レイヴンは、ライト達の後ろで話を聞きながらマキシと話をしていた。
「マキシもオーガの里に行ったことはあるのか?」
「いいえ、僕はまだナヌスの里もオーガの里も訪ねたことがないんです」
「せっかく里の外に出たんだから、お前ももっといろんなところに出かければいいのに。広い世界をもっと知りたいんじゃなかったのか?」
「それはもちろん、この広い世界もいつかは見て回りたいんですけど……今はアイギスでの修行に打ち込みたいんです!」
マキシが八咫烏の里を飛び出してから、もう一年。
その後一度は里帰りし、家族皆の前でもう里には戻らない宣言をしたマキシ。
その時に『果てしなく広がる世界をもっと知りたい』と言っていたことを、レイヴンは覚えていたのだ。
「……そうか。確かにお前が前にくれた土産、あれもそのアイギスというところで作ったものなんだよな? どれもとても綺麗で、魅力的なものばかりだったもんな」
「ええ!先日もカイさん達のご好意により、ムニン姉様とトリス姉様に素敵なお土産をいただいたんです!」
「あー、こないだムニン姉様達が里に帰って来た時にしてた首飾りか……すんげーキラキラしてて綺麗で、姉様達もすんげー嬉しそうだったなぁ」
かつてマキシが里帰りの時に、皆に配ってくれた土産の品々。
アイギス製の数々のアクセサリーの美しさに、皆瞬時にして心を奪われたものだったことをレイヴンは思い出していた。
そしてレイヴン達が里を出立する直前、人里見学から帰郷したムニンとトリスの胸元にも美しい首飾りがかけられていた。
彼女達の誇らしげな顔―――それは間違いなく、マキシがもたらした人族との縁の賜物だった。
「……ま、マキシも人里で頑張れよ。兄ちゃんも上手く人化できるようになったら、マキシの様子を見に遊びに行くから」
「はい!僕もいつか兄様や姉様、父様や母様やミサキがラグナロッツァに遊びに来てくれる日を、心より待っています!」
兄からの応援の言葉に、マキシは心から嬉しそうに微笑んでいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして皆で移動していくと、オーガの里に到着した。
だが、ここでレオニスがあることに気づく。
「ここから先は、マキシとフギン、レイヴンの三羽分の【加護の勾玉】が要るな」
「あー、そういえばそうだね……ぼく達はいつもそのまま入れるから、ついつい忘れちゃうけど……」
レオニスが思い出したのは、ここオーガの里に入るにも【加護の勾玉】が必要であることだ。
ライトが言うように、既にその身に【加護の勾玉】を宿しているライトやレオニス、ラウルだけなら、いつでも顔パスで出入りできる。
そのため忘れがちになってしまうのだが、ライト達以外の者も連れて入ろうとするとその者達の【加護の勾玉】も用意しなければならないのだ。
「すまんが、皆ここでちょっと待っててくれ。ラキに勾玉を借りてくる」
「いってらっしゃーい!」
レオニスが里の中央に向かって駆け出していくのを、ライト達は結界の近くで立ち止まりながら見送っている。
レオニスの姿が見えなくなった頃、フギンがライトに向かって話しかけてきた。
「ライト殿、レオニス殿が【加護の勾玉】を借りてくる、と仰っていましたが……それは、一昨日ナヌスの里でお借りしたのと同じものなのですか?」
「そうですよ。オーガの里の結界は、ナヌスの人達に作ってもらったものですからね」
「「!!!!!」」
ライトの答えに、フギンとレイヴンが固まる。
ナヌスの里の結界は、魔力が高いとされる八咫烏であるフギンとレイヴンですらも破れなかった代物だ。
その時の悔しさ、敗北感が八咫烏兄弟の中に蘇る。
そんな兄弟に、横にいたラウルが小声で囁く。
「今日も結界に挑んでみるか?」
「……いいえ、今日は控えておくことにします」
「俺も止めときます……一昨日勝てなかったもんが、今日勝てるとはとても思えんので……」
「そうか。ま、それが賢明だな」
今もラウル達の前に目の前に立ちはだかっているであろう、ナヌス謹製の目に見えない結界。
ラウルも先日ナヌスの里でこの結界に挑んだが、尽く退けられて手も足も出なかったことは記憶に新しい。
あれ程に頑強な結界に常時守られているなら、オーガの里も安泰だな―――ラウルは内心で安堵する。
そしてしばらくすると、レオニスがラキとともにライト達のもとに戻ってきた。
「お待たせー。ラキを連れてきたぞー」
「レオ兄ちゃん、おかえりー!ラキさん、こんにちは!」
「おお、ライトにラウル先生。先日の宴では世話になったな」
「よう、ラキさん。七日ぶりだな」
ライトとラウルの姿を見たラキが、二人にも丁寧な挨拶をする。
今からちょうど一週間前、オーガの里では使い魔の卵から孵化した黒妖狼のラニを里の一員として迎え入れる宴を開いたばかりだ。
しかもその三日前には、『天翔るビコルヌ』のスパイキーの上着問題を解決すべく、オーガ族の子供服のお下がりをもらいに来ていた。
ここ最近、何かとオーガの里を訪問する機会が多いライト達である。
するとここで、ラキがキョロキョロと周囲を見回し始めた。
「ところで……今日我が里に招き入れたい客人とは、どこにいるのだ?」
「ああ、それはだな、ライトとラウルの肩に留まっている三羽だ」
オーガの里に入るための【加護の勾玉】を三つ貸してほしい、とレオニスに頼まれて同行してきたラキ。
その貸し出し対象がぱっと見では見当たらないことに、不思議そうな顔で周囲を見回しているのだ。
それに対し、レオニスがマキシ達のことを指して教える。
マキシ達はまだ文鳥サイズのままだったため、ラキの目には映りにくかったのだ。
レオニスに解説された三羽は、慌ててライトやラウルの肩から飛び降り、ボフン!と本来の姿に戻りつつラキに挨拶をする。
「初めてお目にかかります。私は八咫烏一族族長が長子、フギンと申す者。以後お見知りおきを」
「同じく、八咫烏一族族長が三男、レイヴンと申します」
「同じく、八咫烏一族族長が四男、マキシと申します」
地面に降り立ち、恭しく挨拶をする三羽の八咫烏に、ラキもまた微笑みながら自己紹介を始める。
「丁寧なご挨拶、痛み入る。我はオーガ族族長のラキと申す。我等が大恩人のレオニスやライト、そしてラウル先生が行動をともにする者達ならば、我等オーガも心より歓迎する」
「こちらこそ、突然の訪問にも快く受け入れてくださり感謝いたします」
ラキの歓迎に謝意を表すフギンに、ラキがその手に持っていた【加護の勾玉】がついた腕輪をその首にそっとかけた。
そしてフギンに続き、レイヴンとマキシにもそれぞれの首に腕輪をかけていく。
「うむ、やはり首にかけるのがちょうど良さそうだな」
「大事なものをお貸しくださり、ありがとうございます」
「「ありがとうございます!」」
兄フギンに倣い、レイヴンとマキシも頭を下げつつラキに礼を言う。
とても律儀で生真面目な八咫烏兄弟に、ラキはますます笑顔になる。
「レオニスよ、お前が連れてくる仲間は本当に礼儀正しくて真面目な者達ばかりだなぁ。お前も仲間達に見習うべきところが多いのではないか?」
「ラキ、お前も大概失敬だね……」
「さぁ、こんなところで立ち話も何だ、皆良ければ我が家に来てくれ」
「「「はい!」」」
オーガ族族長に迎え入れられたマキシ達八咫烏兄弟は、ライト達とともにラキの家に向かっていった。
作中時間は八月下旬ですが、現実時間は四月の頭。
今日の作者は、桜を見にドライブしていました。
桜を見ると言っても特定の観光地などではなく、適当な道を適当に走り、街中至るところで咲き誇る桜並木を走る車の中から見るだけなのですが。
というか、作者でも行ける範囲内に桜の有名所がない訳ではないんですよ?(゜ω゜)
ただ、時期的に絶賛春休み中のせいか、その名所がものすんげー混雑しているらしくてですね…(=ω=)…
駐車場に入るだけで二時間三時間待ちした……なんて話を聞くと、根性なしの作者は「あ、そんなん無理」「そんなんするくらいなら、近所の川の桜並木を見るだけでいいわ」と早々に諦めてしまう訳ですよ(´^ω^`)
桜の花びらとともに吹く風の心地良さよ。今くらいの気温が一番いいですよねー。
暑からず寒からず、日が出ればぽかぽかと暖かくて、のんびり日向ぼっこしたらうっかり寝てしまいそう。
ここ最近の休日は法事ばかりで気も滅入りがちでしたが、今日は良い気分転換になりました。明日もまた執筆頑張るぞー!




