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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第791話 さらなる良案

 ライト達が昼食の準備をしている間に、ラウルは作業員達の要望に応えて氷の洞窟の氷入りの水を振る舞っていた。


「カーーーッ!美味(ンめ)ェーーーッ」

「コレよコレ!暑い夏には特に染みるーーー!」

「はぁぁぁぁ……生き返るわぁ……」


 ラウルが建設作業員用に差し出した、ウォータージャグ並みに大きな急須型の水入れ。

 そこから各自のコップに水を入れて、ゴクゴクと飲み干していく作業員達。ラウルを知る者達は、我先にとばかりに水を欲しがり飲んでいく。

 その様子を、他の作業員達は訝しがりながら眺めている。


「お前ら、たかが水一杯に何をそんな必死になってんの?」

「ああー、お前らはこの奇跡の水の美味さを知らないもんな」

「奇跡の水って……ププッ、大袈裟だなwww」

「いンや!これは決して大袈裟なんかじゃねぇぞ!いいからお前らも一杯、いや、一口だけ飲んでみろって!」

「はぁーーー? しゃあねぇなぁ、全く……そこまで言うなら……」


 ただの水を『奇跡の水』と言い張って憚らない作業員が、訝しがる同僚のコップに半分にも満たない二口分程度の水を注ぐ。

 コップ満杯になるまで並々と注がずに、その分を自分のコップに二杯目のおかわりとして注ぐあたり、なかなかにちゃっかりとしている。

 そして、同僚に言われるまま水を飲んだ作業員。一口飲んだだけで、すぐにその目が大きく見開かれていく。


「……!!な……何だ、この水の美味さは……!?」

「な? 俺らの言った通りだろ?」

「これ、酒とか回復剤じゃないよな? どう見てもただの水、だよな……?」

「もちろん!酒なんか一滴も入ってねぇぜ!なぁ、ラウルさん?」

「おう、これはただの氷水だぞ」


 ラウルが出した水の、あまりの美味しさに作業員達が驚きながら繁繁と己のコップの水を眺める。

 その見た目は無色透明の液体で、どう転んでも水にしか見えない。味や匂いとて無味無臭で、酒や回復剤が入っているとも思えない。

 本当に何の変哲もない氷水にしか見えないのに、口に含んだ途端にただの氷水とは思えない美味さが口いっぱいに広がるのだ。

 そのからくりを知らない者達は、頭の上に『?????』をいっぱい並べながら不思議がっていた。


「しっかしラウルさん、今日の氷水は特に美味ぇな!」

「アレか? 俺ら久しぶりに飲ませてもらうから、余計にそう感じるんかな?」

「そうかもなー。あれから四ヶ月経ってるし」


 二杯目の氷水を遠慮なくゴクゴクと飲む作業員達の疑問に、ラウルは事も無げにシレッと答える。


「いや、前の時より今日の氷水の方が間違いなく美味いと思うぞ」

「そうなのか? 前と何か違うところがあるのか?」

「ああ、これは氷の洞窟で直接採ってきた氷だからな」

「「「!?!?!?」」」


 ラウルから聞かされた答えに、思わず噴き出しかける作業員達。

 以前レオニス邸でのガラス温室工事の時に、ラウルが出す水の美味しさの秘訣は『ツェリザークで採取した雪や氷を用いているから』というのは聞いていた。

 だが、まさか今回はさらにそこからパワーアップしているとは、作業員達も夢にも思わなんだのだ。


「ゲホッ、ゴホッ……こ、氷の洞窟の氷、だってぇ……?」

「そりゃツェリザークの雪や氷よりも美味い訳だわ……何、ご主人に頼んで採ってきてもらったのか?」

「いや、皆で氷の洞窟に出かけた時、帰りに俺とライトが採取してきた」

「「「ブフッ!」」」


 またも想像の斜め上をいくラウルの答えに、作業員達は再び噴き出しかける。

 ラウルが勤める屋敷は、当代きっての世界最強冒険者レオニスが所有しているものであることは、彼らも四ヶ月前に知っている。

 故に、心優しき主人が執事のために氷の洞窟に出向き、山ほど氷を採取してきたものかと思いきや。『皆で氷の洞窟に出かけて』『子供(ライト)といっしょに採取した』と言うではないか。


 想定外にも程がある回答に、作業員達はひそひそ話をしている。


「あの坊っちゃんまで氷の洞窟に連れてくとか……すげーな」

「やっぱ世界的に有名な冒険者の家ってのは、何から何まで違うな」

「ああ、教育方針から執事の質から飲み食いするもんまで、俺らとは全部次元が違うわ……」


 ラウル達を知る作業員がゴニョゴニョ話している傍で、知らない作業員達がここぞとばかりに氷水をおかわりしている。

 そんな大人数で飲んでいたら、ラウルが出した氷水はあっという間に空っぽになってしまったようだ。


「おお、もう終わりか……」

「いやー、すんげー美味い水だったな!」

「兄ちゃん、ありがとうな!」


 空になった特大急須をラウルに返却する作業員。

 礼を言いながら返す屈託のない笑顔に、ラウルも笑顔で応える。


「そしたら次はこっちだ。冷たい麦茶だから、昼飯といっしょに飲んでくれ」

「いいのか!? ありがとう!」

「おーい、今度は麦茶の差し入れだぞー!」

「何ッ!? ラウルさんの麦茶だとぅ!? 俺にもくれ!」

「くッそー、もっと大きなコップを持ってきておくんだった!」

「今日の仕事はこれで勝つる!」

「今度からは皆で平等に分けるぞ!」

「「「おう!!」」」


 ラウルが間を置かずに出してきた、麦茶入りの特大急須に作業員達が大喜びしている。

 最初は『たかが水一杯』と言っていた作業員達も、その美味しさを知った今ではもう侮ることは決してない。

 何とも賑やかな作業員達の様子に、ラウルも楽しげに彼らを眺めていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ライト達も昼食の支度が整い、ガーディナー組の皆とともに建物の日陰で昼食を食べ始めた。

 今回はイアンとも話をしたいので、ライト達の座る敷物の中にイアンを呼んで座ってもらっている。


「おお、今日は可愛らしい文鳥を二羽もお連れなんですねぇ。もしかして、新しいペットか従魔ですか?」

「いや、知り合いから数日の間だけ預かってるんだ」

「そうなのですか。勝手に飛んで逃げずにお昼をともにするとは、とても賢い子達なのですねぇ」


 ライトの手からラウル特製たまごボーロを食べさせてもらっている、フギンとレイヴン。ただの文鳥に扮するため、おとなしくたまごボーロを啄む八咫烏兄弟はなかなかに可愛らしい姿である。

 それを見たイアンが、感心したようにフギン達を褒める。


 そしてライト達はおにぎりを、イアンは愛妻弁当を食べながら会話を続ける。


「最初の打ち合わせでは、竣工は十二月中旬って話だったが。建設は順調に進んでるか?」

「はい、おかげさまで今のところ何の問題もなく進んでおります」

「そうか、それなら安心だ。年内には引っ越しできるよう、シスターにも荷物をまとめておくよう伝えとくわ」

「もし万が一、何らかの事情により遅れが出ましたら、その時はレオニスさんに迅速にお伝えいたします」

「よろしく頼む。あの辺の再開発がいつから始まるか知らんが、とにかく年内には立ち退かなきゃならんからな」


 新ラグナロッツァ孤児院の建設が順調と聞き、レオニスもほっとしている。

 だが、その完成は今から三ヶ月半も先のことだ。もしその途中で大型台風や長雨に見舞われたら、竣工や建物の引き渡しが遅れる可能性もある。

 そうならないよう願うばかりだが、未来(さき)のことなど誰にも分からない。


 もし万が一にも年内に引っ越し不可能となったら、最悪俺の屋敷に全員泊まってもらうか……数日っつーか、半月くらいなら何とかなるだろ。

 レオニスがそんなことを考えていると、イアンが再開発の件について触れる。


「そういえば、あの一帯の再開発計画の件ですが。この度我が社も入札に参加し、建物全般の解体及び瓦礫の撤去を請け負うことになりまして」

「おお、そうなのか。仕事を落札できたんだな、そりゃ良かった」

「ありがとうございます。で、ですね。解体作業が始まるのが、来年の一月四日からなんですよね」

「そうなのか」


 イアンの話によると、貧困街と化しつつあるラグナロッツァ孤児院周辺地域の再開発事業に、ガーディナー組も加わるようだ。

 ガーディナー組が建物の解体と瓦礫撤去を行うということは、整地やその後の建設計画などは他社が行うのだろう。

 現代日本でいうところのJV、共同企業体のようなシステムか。


「ですから、ここだけの話……孤児院の皆様方の引っ越しは、遅くとも来年の一月三日までにできていればいいことになります」

「そうか、そりゃ良いことを聞いた。……まぁな、誰だって年末や正月三ヶ日くらいは休みたいもんな」

「そういうことですね。もちろん新ラグナロッツァ孤児院の建設の方も、全力を尽くしていく所存です。もし万が一多少工期に遅れが出ようとも、何がなんでも年内には完成させてみせます」

「頼りにしてるぞ」

「お任せください!」


 イアンの『ここだけの話』に、レオニスも頷きながら聞いている。

 役所からは『年内には立ち退くように』と言われてはいるが、年が明けた元旦の一月一日から再開発が開始する訳ではない。

 解体工事が始まるのが、イアンの情報通り三ヶ日明けの一月四日からならば、最悪その前日の一月三日までは居座れるということである。


 もちろんそれより前に引っ越しできれば一番良いが、こればかりはその時になってみないと分からない。

 冒険者たる者、常に最悪の事態も考えておかねばならないので、イアンがもたらしてくれた情報はレオニスにとってありがたかった。


「近いうちにシスターも連れて下見に来るから、その時はまたよろしくな」

「はい、いつでもお越しください。施工主様の満足のいく仕事をするためにも、施工主様の見学は大歓迎ですから」

「そう言ってもらえるとありがたい。ガーディナー組に依頼して、本当に良かったよ」

「ご期待に応えられるよう、これからも頑張ります」


 シスターを連れての下見を快く受け入れるイアンに、レオニスは微笑みつつ感謝する。

 するとここで、レオニス達の話がだいたい終わったと思ったラウルがイアンに話しかけた。


「イアン、俺もあんたに相談したいことがあるんだが、いいか?」

「はい、何でしょう?」

「実はだな、前に依頼した『四阿組立キット』をもう一つ二つ、再注文したいんだが」

「ああ、以前ご注文いただいた『四阿組立キット』、ですか?」

「そう。実は訳あって、カタポレンの森の木を丸太に加工したものがまたたくさん出てな―――」


 もう一つイアンに相談したいこと、それはラウルの四阿組立キット再注文。

 何故再び大量の丸太を得るに至ったかまでは話さなかったが、とにかく大量の丸太を何らかの形にしたい、ということをイアンに伝えるラウル。

 すると、それまでラウルの話を静かに聞いていたイアンが徐に口を開いた。


「……それなら今度はログハウスキットをお作りになられては如何でしょう?」

「ログハウスキット?」

「ええ。その名の通り、ログハウスを建てるのに必要な材料一式がセットになっている商品のことです。ラウルさんが特注した四阿組立キットをさらに大型化させた品ですね」

「ほう、そんなものがあるのか?」


 イアンの話に、思いっきり身を乗り出して聞くラウル。

 ラウルが注文した『四阿組立キット』をさらに上回る品、『ログハウスキット』なるものが存在するとは驚きだ。


「丸太はラウルさんの持ち込みということですので、それ以外の部分、ネジや釘などの必要な部品の用意や丸太の加工などを、当社が請け負いましょう。組み立て方も書類に書いてお渡ししますので、ラウルさんが建てたいと思った場所にいつでもログハウスを建てられますよ」

「そりゃありがたい!そしたら見積もりを出しておいてもらえるか? 後日ガーディナー組本部に受け取りに行くから」

「承知いたしました。三日以内に見積もりを出せるように、手配しておきます」

「ありがとう!やっぱイアンは頼りになるな!」


 自分が考えていた以上の良案を提示してもらえたことに、心底喜ぶラウル。あまりの嬉しさに、ラウルはイアンの両手を思いっきり握りしめながら上下に大きくブンブンブブブン!と振っている。


 イアンに相談したいこともだいたい伝え終えたところで、レオニスが口を開いた。


「皆昼飯も食い終わったところだし、そろそろ俺達はお暇するか」

「そうだね!皆さんの仕事の邪魔をしちゃ悪いもんね!」

「そしたらイアン、今日の三時の休憩時には皆にこれを出してやってくれ」

「おお、これはありがたい。作業員の皆も喜ぶことでしょう」


 そろそろ帰るか、となった時に、ラウルが空間魔法陣を開いて何かを取り出した。

 それは、ラウル特製クッキーがたくさん入ったバスケットだった。

 嬉しそうに微笑みながら、ラウルからバスケットを受け取るイアン。

 それを目聡く見つけた作業員の一人が、速攻でイアンに話しかけてきた。


「え、何ナニ、イアンさん、ラウルさんから何もらってんの?」

「目聡いですねぇ……ラウルさんから皆さん方に、今日の三時のおやつをいただいたのですよ」

「「「やったーーー♪」」」


 今日の三時のおやつにも、ラウルの差し入れが食べられると聞いた作業員達。

 再び万歳三唱よろしく、全員が花咲くような笑顔で両手を上げて大喜びしている。

 ラウルと既知のガラス温室建設担当組以外の者達も、等しく万歳している。それは、ラウルが出した超絶美味しい氷水と麦茶に彼らもすっかり魅了された証左である。


 昼食の後片付けを終えたライト達。

 ガーディナー組の面々に別れの言葉をかける。


「じゃ、これからも仕事頑張ってな」

「こちらこそ、たくさんの差し入れまでいただきありがとうございました」

「ラウルさん、また来てくれなー!」

「おう、またご主人様といっしょに様子を見に来るわ」

「「「またなー!」」」


 去り行くライト達に、建設作業員達が名残惜しそうに声をかける。

 十数人もいる作業員達が皆口々に別れの挨拶をしているので、とても賑やかだ。

 街中に戻っていくライト達の姿を見送ったガーディナー組。早速イアンが作業員達に声をかける。


「さ、皆さん、午後の仕事を開始しますよー!」

「「「おーーー!」」」

「午後のおやつはラウルさんのクッキーですからね!皆さん張り切って仕事しましょう!」

「「「おーーー!!」」」


 イアンの掛け声に、作業員達のボルテージが上がる。

 この後の新ラグナロッツァ孤児院の建設現場は、いつにも増して仕事に力の入る一日となった。

 新しいラグナロッツァ孤児院を建設している、ガーディナー組の面々とのあれやこれやです。

 後半の方で、ラウルが丸太の使い道の相談をしたことで出てきた『ログハウスキット』。これ、実在する商品です。

 ラウルの丸太の使い道に、四阿の他にもログハウスなんかどうかしら?と思い、検索してみたところ出てきまして。とあるサイトでの解説に


 ログハウスキットとは、ログハウスを建てるのに必要な材料一式がセットになっている商品のことです。建築に必要な材料はすべてカット済みで、各材料に番号が振られているものも多く販売されています。


 との解説が゜.+(・∀・)+.゜

 何ソレ、ステキ!それって四阿組立キットの上位版じゃーん!

 キット化した四阿を組み立てちゃうラウルなら、ログハウスだって作れるじゃーん!ということで急遽採用。

 ラウルがどこにログハウスを建てるかはまだ未定ですが。いずれどこかで日の目を見る日が来るでしょう( ´ω` )

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