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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第785話 人族の叡智

 ユグドラツィの根元で、ラウル特製サンドイッチやおにぎり、ハンバーガーなどを食べるライト達。

 ナヌスの重鎮達も、彼ら用に小さく切られたサンドイッチを頬張っては「おお、こりゃ美味いのぅ!」「手軽に食べられていいですね!」などと大絶賛している。

 フギンはタコ焼き、レイヴンは唐揚げが大好物のようで、こちらも「美味しーい!」「やはりラウル殿の作る料理は絶品だな!」と絶賛しつつ、結構な勢いで食べている。


 そうして一頻り昼食を食べた後、食後の一休みも兼ねてのんびりしながら結界作りについての話し合いを始めた。


「いつもの結界作りとかなり勝手が違うと思うが、どう進めていくんだ?」

「敷地の広さだけで言えば、オーガの里の方がはるかに広い。だが、上の方に魔法陣が作れない以上は、その分地面に数を増やして上辺まで補わねばならん」

「具体的には、何個の魔法陣を設置するんだ?」

「それを先程から皆で話し合っていたところでな。オーガの里では専用の特大魔法陣を地面と樹上に各十個づつ、計二十個を設置しておる」

「じゃあ、ここでもその特大魔法陣?を地面に二十個、設置すればいいのか?」


 ヴィヒトの話を聞いたレオニスが、その前例に倣い問いかける。

 確かに地上の面積だけで言えば、ユグドラツィのいるこの場所よりもオーガの里の方がよほど広いだろう。

 彼らは鬼人族、成人男性の身長は5メートルを超える巨体の種族。その集落は広大だ。

 だが、ヴィヒトの顔は悩ましげに見える。事はそう簡単にいかないようだ。


「いや、上辺まで十分に結界の魔力を届けるには、それよりもっとたくさんの魔法陣を設置した方が間違いないだろう。オーガの里の倍、四十個もあればあの高みにまで届く、はず」

「……他にも何か問題があるのか?」

「設置するだけならいいんだ。だがそれだけの数の魔法陣の魔力を、今後果たしてどうやって維持していくか……それが最大の問題なのだ」

「ぁー……そういうことか……」


 渋い顔で答えたヴィヒトの語る問題点に、レオニスも納得しながら頷く。

 ナヌスの里の結界はもちろん、オーガの里の結界もナヌスが維持管理を任されている。

 結界運用開始を祝う宴の時に聞いた話では『結界のメンテナンスは五日に一回、ナヌスの魔術師がオーガの里に出向き結界の八方から同時に魔力を注入することで維持していく』ということだった。


 しかしそれは、ナヌスの里とオーガの里がお隣さん同士だからこそできることだ。

 ナヌスの魔術師の送り迎えはオーガがするし、それがなくてもナヌスの足だけでも行き来できる距離にある。

 だが、ナヌスの里からここユグドラツィのいる場所はそうはいかない。ナヌス達が簡単にメンテナンスに出向ける距離ではないのだ。


「えーと、確かオーガの里の結界は五日に一度、魔力を注入したり手入れしてるんだっけか?」

「その通り。オーガの里なら我等もいつでも出向ける故、維持管理も容易い。だが……この神樹の御座す場所は、我等が出向くには遠過ぎてな」

「そしたら俺が五日に一度、ナヌス達をツィちゃんのもとに送り迎えしようか?」


 苦悩するヴィヒトに、レオニスが気軽に申し出る。

 確かにレオニスならば、ナヌス達をユグドラツィのもとにひとっ飛びで運べるだろう。

 何なら大きめの丈夫な籠を用意して、ナヌス達複数人を籠に入れて翼竜籠よろしく定期便役を務めてもいいのだ。


「そうしていただけるなら、我等としてもこれ程ありがたいことはないが……しかし、それではレオニス殿にもかなりの負担を強いてしまうことにはなるまいか?」

「いや、俺は別に気にならんし、五日に一度ならそこまで大した負担じゃないぞ?」

「うぬぅ……」


 レオニスの好意的な申し出に、ますます悩むヴィヒト。

 すると、それまでレオニス達の話を聞いていたライトがふとした。


「……ねぇ、レオ兄ちゃん。魔法陣を維持する魔力の供給が問題なんだよね?」

「ああ、結界の魔法陣を維持する魔力が必要ってことだからな」

「それなら、カタポレンの森の魔力を使えるようにすればいいんじゃないの? 例えばほら、いつもの普通の魔石を作る魔法陣のようにさ」

「…………!!そうか、あれを使えばいいのか!!」


 ライトの提案に、レオニスの目が次第に大きく見開かれていく。ライトが言わんとしていることを、レオニスは即時理解したようだ。

 目から鱗が落ちたかのような表情のレオニス。思いがけない提案に、しばし固まっていたが何とか我に返り、ガバッ!とヴィヒトの方に向き直った。


「ヴィヒト!ナヌスの結界の魔法陣の維持には、ナヌスが直接注ぐ魔力じゃなければダメとかいう縛りや条件はあるか!?」

「ぃ、ぃゃ、そういった条件付けは特にはないが……」

「なら、兎にも角にも魔法陣に魔力が補充できれば何とでもなる、ということでいいな!?」

「そ、そういうことになる、が……」


 レオニスの勢いに、タジタジになるヴィヒト。突如迫りくる勢いで質問してきたレオニスに、一体何事が起きたのかさっぱり分からないようだ。

 その横でライトはアイテムリュックから魔石を取り出し、手のひらに乗せて長老達に見せながら軽く説明をし始めた。


「えーとですね、これは『魔石』というものです」

「ほほう……一見するとただの透明な石なのに、かなり強い魔力を感じるのぅ……しかも、よくよく見るとその奥に虹色の煌めきが揺らめいてる……実に不思議な石だ」

「これは水晶ですね。他にもダイヤ、ルビーなどの宝石にカタポレンの森の魔力を溜め込んで、魔力が必要な時に使ってるんです」

「何と……そんな使い方があるとは!」

「実に革命的じゃのう!ライト殿、その石をよく見せていただいてもよろしいかな?」

「あ、どうぞどうぞ。お好きなだけ見てください!」


 ライトの解説に、長老達が驚きの表情とともに感嘆している。

 魔石という実物を伴っているだけに、ライトの話には実に説得力があり彼らも心底納得していた。

 長老の一人、ハンスに請われて魔石を渡すライト。小人族のナヌスでも持てるように、一番小さい通常の水晶の魔石を渡したのだが、それでもナヌスが持てばそこそこ大きな石に見える。


「おおお……石に魔力を溜め込むという発想は、我等ナヌスにはありませんでしたな」

「確かに……これも人族が持つ叡智の一つか……」

「以前族長も言っておられたが……確かに人族の持つ叡智は、我等が思う以上にはるか高みにあるようだの……」


 長老達が魔石の実物に感心している横で、レオニスがヴィヒトやヴォルフ、パスカルを相手に魔石生成の魔法陣の話をしている。


「俺達はいつもこの魔法陣を使って、石に魔力を溜め込んでいるんだ。要はカタポレンの魔力を取り込む装置と思ってくれていい」

「カタポレンの森の魔力を取り込む!? そんなことができるのですか!?」

「ああ、俺達は実際にそうしている。だから、これを使えば結界の魔法陣の魔力供給ができるんじゃないか?」

「確かに……カタポレンの森の魔力を利用することが可能なら……結界魔法陣をこの魔法陣の横、左右に一つづつくっつけるように配置すれば、半永久的に結界魔法を維持することができるでしょうな」


 レオニスがヴィヒト達の目の前で、魔石生成用の魔法陣を展開してみせた。

 レオニス達が運用している魔石生成用魔法陣は約1メートルはどの円型で、そこからさらに小さく凝縮してから設置している。

 だが、この広大なユグドラツィ周辺の平地で使うなら、そのままの形でも良さそうだ。むしろ別の魔法陣と接触させて運用するなら、もともとの大きさの方が望ましいだろう。


「この大きさならば、結界魔法陣を上下左右の四つに増やしてもいいのでは?」

「いや、それだと一つ一つの結界魔法陣の力が弱まるというか、分散してしまうのではないか?」

「それならやはり、二つまでに留めておいた方が結界の力をより強力に放出できそうですね」


 その場で様々な意見を交わすナヌス達。

 さすが魔法に長けた種族だけあって、皆それぞれに造詣が深そうだ。

 まだいろいろと話し合っているヴォルフとパスカルを背に、ヴィヒトは一旦話の輪から外れてレオニスに向き直った。


「レオニス殿、ひとまずその魔石生成用の魔法陣?を、我らに伝授していただきたい。その上で、里に帰ってから様々な実験や試行錯誤を行いたい」

「分かった。如何に魔法の達人であっても、今知ったばかりの魔法陣をすぐに活用するのは難しいだろうからな」


 ヴィヒトの要請に、レオニスが快諾しながら頷く。

 そしてライトから魔石の話を聞いていた長老達も、ヴィヒト達と合流して張り切り始めた。


「そうと決まれば、早く里に戻ろうぞ!」

「おお!この歳になって未知の魔法陣と出会えるとは、何という僥倖ぞ!」

「こりゃ腕が鳴るわい!」


 すぐにでも里に帰ろう!と促す長老達に、ヴィヒトやレオニスは苦笑いしながら応える。

 新しい魔法陣に一分一秒でも早く挑みたい!という姿勢は、まるで子供のような好奇心旺盛さである。


「じゃ、サクッとここを片付けるか。ライト、ラウル、片付けを始めるぞー」

「はーい!」

「了解ー」


 敷物やら皿をそれぞれに仕舞い込むライトとラウル。

 折り畳んだり皿を適当に重ねてから、アイテムリュックや空間魔法陣にポイポイー、と放り込むだけなので、一分もしないうちに片付け完了だ。


 そして全員が横一列に並び、ユグドラツィに向かって声をかける。


「じゃ、ツィちゃん、また来るな」

「ツィちゃん、さようなら!」

「次もまたツェリザークの氷をご馳走するからな」

「ツィ様、どうぞお元気で。八咫烏の里から御身の息災をお祈りしております」

「ツィちゃん様、またお会いできる日を楽しみにしてます!」


 ライト達と八咫烏兄弟の挨拶に、ユグドラツィも『またいつでもいらしてくださいね』『シア姉様にも、くれぐれもよろしくお伝えくださいね』などと返事をしている。


「ツィちゃん様、我等が森の守り神よ。必ずや我等が結界にてお守りいたしますぞ!」

「結界作成のための策をよく練ってから、またここに参りまする!」

「御身をお守りする結界を作るまで、今しばらくお待ちくだされ!」

「我等ナヌスと森の番人殿が組めば無敵じゃ!」

「ツィちゃん様も、大船に乗ったつもりでいてくだされよ!」


 ナヌス達が次々とかける頼もしい言葉にも、ユグドラツィは『本当にありがとう……』『貴方方にも苦労をかけてしまいますが、どうぞよろしくお願いしますね』『ええ、期待して待っていますよ』とそれぞれに声をかける。

 ナヌス達の力強い支援を得て、ユグドラツィも恐縮しながらもどこか嬉しそうな声音だ。


 六人のナヌスが八咫烏兄弟の背に乗り込み、レオニスとラウルもライトと二人のナヌスを連れて宙に浮く。


「じゃ、ツィちゃん、またな!」


 レオニスが別れの挨拶とともに、ナヌスの里に向けて飛び立っていく。

 次第に遠ざかっていくレオニスやラウル、八咫烏兄弟の背を、ユグドラツィはいつまでも名残惜しそうに見送っている。

 しばらくの間、まるでユグドラツィが手を振っているかのように枝葉がザワザワと大きく揺れ動いていた。

 今日はお彼岸であれこれと忙しく、投稿が遅くなってしまってすみません_| ̄|●


 ユグドラツィの結界運用の難点およびその解決の答えが出た回です。

 実際レオニスかラウルが五日に一度、翼竜籠よろしくナヌス達をユグドラツィのもとに送り迎えすることもできないことはないんですが。それを何年何十年と続けるのは、実際問題としてかなり厳しいですよねぇ。


 そして、ナヌス達の中でますます人族の叡智への評価がうなぎのぼりに。

 自分達には当たり前の習慣でも、他者から見たら全く当たり前ではなかったり、それこそ驚きに満ちたものに映るのもよくあることですよねー(・∀・)

 異種族交流に伴う技術交流とカルチャーショック。互いに良い刺激となることでしょう( ´ω` )

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