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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第762話 八咫烏姉妹の紹介といつもの依頼

 ラグナロッツァ孤児院を出たライト達。

 一行が次に向かうは魔術師ギルドである。


「ピィちゃん、元気にお仕事してるかなー」

「有給休暇もとっくに終わってるからな、また馬車馬の如く書類仕事に追われてるだろうな」

「ギルドマスターってのも、本当に大変だよねー。レオ兄ちゃんには絶対にできなさそう」

「ハッハッハ、俺に書類仕事とか無理に決まってんだろ!」


 道すがら、のんびりと会話するライト達。

 確かに脳筋族のレオニスには、書類仕事は絶対に向いていないだろう。だが、それを声高に笑い飛ばしつつ認めるのもどうかと思うが。


 すると、レオニスの両肩に留まっていたムニンがライトに質問してきた。


「ライト殿、そのピィちゃんという方にお会いしに行くのですか?」

「うん、そうだよ!ピィちゃん……えーと、こないだのツィちゃんの事件の時に、皆といっしょ戦ってくれたピースって人。すごい魔術師なんだよ!」

「おお、あの時我等と共闘した魔術師ですか!」


 ライトの言うピィちゃんが、先日の神樹襲撃事件の際に八咫烏達とともに戦ったピースだということを知り、ムニンとトリスの顔がパァッ!と明るくなる。


「空飛ぶ棒のようなものに乗って、空中を自在に駆け巡っておられた人ですよね!」

「ええ、我等八咫烏と比べても何ら見劣りしない、それは見事な空中戦を展開しておられました」

「レオニス殿といいピース殿といい、人族もあのように自由自在に空を飛べるとは、知りませんでした」

「あの時私達は……自身の認識が如何に古びた前時代的なものであったかを、思い知らされました」


 まだ記憶に新しい神樹襲撃事件、その時に彼女達が見た人族の奮闘を思い出しているのか、ムニンもトリスもレオニスの肩の上で目を閉じうんうん、と頷いている。

 だがしかし、ムニンもトリスも一つだけ勘違いをしている。そもそも翼を持たぬ人族は、空を飛べない生き物である。

 そう、レオニスやピースといったいわゆる『人外代表格』を基準にして物事を考えてはいけないのだ。


 そうしているうちに、目的地である魔術師ギルドに到着したライト達。

 早速建物の中に入り、玄関正面にある窓口でレオニスが受付嬢に声をかけた。


「ピースに会いに来たんだが、今いるか?」

「はい、今日も執務室にてお仕事をなさっておられます」

「ありがとう」


 ピースがいることを確認したレオニス、早速ギルドマスター執務室に向かう。

 本来なら魔術師ギルドの長であるピース相手に、アポ無し訪問はあり得ないことなのだが。門前払いを食らわずに顔パスで通してもらえるのは、レオニス他極一部の者だけである。


 執務室に到着したレオニスが、コン、コン、と二回ノックしてから扉を開ける。

 するとそこには、いつものように書類の峰々が堆く出来上がっていた。


「あー、ピース、いるか?」

「その声はッ!我が愛しのレオちん!」

「「「……愛しの……」」」

「いるいる、いるよ!小生ここにちゃんといるよッ!!ちょっと待っててねッ!」


 執務机の書類の山の後ろから、誰かの両手がブンブンブブブン!と左右に大きく振っているのが見える。

 それは誰あろう、魔術師ギルドマスターのピースである。


 その手が消えたかと思うと、執務机の横からヒョイ、とピースが出てきた。

 特別な来客を歓迎する気満々のピース、それはもうニッコニコの花咲く笑顔でライト達を出迎えた。


「レオちん、よく来てくれたね!おお、ライっちにラウル君もおるではないの!ささ、皆こっちに座って座ってー♪」

「ピィちゃん、こんにちは!」

「仕事中に邪魔して悪いな。ご主人様よ、用事はまた今度にして後日出直した方がよくないか?」

「ラウル君、そんな殺生な!邪魔して悪いだなんて、とんでもないこと言わないで!三人とも正真正銘小生の救世主なんだよ!?」

「……だそうだ。ま、もう時間的にも夕方だし、そんなに長居はしないさ」

「ああッ、レオちんまでつれないこと言わないでッ!」


 ライトとラウルがピースに軽く挨拶をする。

 そして仕事の山に囲まれたピースに、ラウルが気を遣って日を改めて出直すことを提案するも、ガビーン顔のピースが大慌てで引き留める。

 ラウルはピースと出会ってまだ日も浅いので、彼の日常や性格などほとんど分かっていない。故に、ラウルにしては珍しい気遣いが仇になっているのだ。


 とりあえず執務室中央にある応接ソファに、ライト達三人が座る。

 ピースはいそいそとお茶の支度をしに行き、しばらくしてワゴンとともにソファのところに戻ってきた。


「ぃゃー、こないだの有給休暇がもう大昔のことに思えるくらいに久しぶりだねぃ!」

「そうか? まだ一ヶ月も経ってねぇぞ?」

「レオちん、知らないの? 有給休暇の一日と仕事する日の一日はね、時間の流れる速度が超違うんだよ? どちらも同じ二十四時間に見えてもね、有給休暇は仕事の日の百倍以上は時間の流れが早いんだから!」

「ンな訳あるか……まぁ、休みの日ほどあっという間に終わるってのは分かるがな」


 ピースがお茶とお茶菓子をそれぞれの前に置きながら、レオニスと他愛ない会話を繰り広げる。

 来客へのおもてなし準備が整ったところで、ピースもソファに座り早速話を切り出した。


「で、レオちん、今日はどしたの?…………ってゆか、その可愛らしいカラスちゃんはナぁニ? もしかして、レオちんところで飼う新しいペットのお披露目をしに来てくれたのん?」

「違ぇよ。これはムニンとトリス、こないだの神樹襲撃事件の時にお前といっしょに戦った八咫烏だ」

「ああ、八咫烏!道理でカラスが喋ってた訳だ!はいはい、知性も神格も高い八咫烏なら、そりゃ人語を操れて当然だぁね!」


 レオニスの両肩にいたムニンとトリスを紹介されて、ピースが納得顔で頷いている。

 あの時は事件の真っ只中で、誰がどれでどういう種族で、といった紹介など全くできなかった。

 あれから多少の月日が流れ、八咫烏達が人化の術を会得するためにこうしてラグナロッツァに出てきた。

 この機会を逃す手はない。ピースにも八咫烏族長一族を順次紹介していこう!とレオニスは考えた、という訳だ。


「えーと、どっちがムニンちゃんで、どっちがトリスちゃん? つか、性別は?」

「それは、せっかくだから各々自己紹介してもらおうか」

「「はい」」


 レオニスがムニン達に自己紹介を促すと、二羽ともに快諾して自己紹介をし始めた。


「ピース殿に初めてご挨拶させていただきます。私はムニン、カタポレンの森にて大神樹ユグドラシア様をお守りする八咫烏一族、その族長ウルスが長女にございます。以後お見知りおきを」

「私はトリス、ムニン姉様と同じく族長ウルスが次女にございます。本日は人族きっての魔術師にお会いできて、とても嬉しゅうございます」

「へー、二羽とも女の子なんだね!しかも八咫烏一族族長の娘さんかー、小生こそこんな美しい漆黒のレディー達にお会いできて光栄の極みだよ!」


 いつも以上に畏まった挨拶をするムニンとトリス。

 彼女達は今、八咫烏一族の代表として人里に来ているも同然だ。族長一族の名に恥じぬよう振る舞っているのだ。

 そしてピースはピースで、ムニン達が八咫烏一族の族長の娘と聞きキラキラとした瞳で彼女達と対面できたことを大喜びしている。

 二羽のことを『メス』とは言わず、『女の子』そして『漆黒のレディー』と称えるあたり、ピースもなかなかに紳士である。


「ムニンちゃん達は、ラグナロッツァに何をしに来たの? 観光とかレオちんの家に遊びに来たの?」

「いえ、それらももちろん目的の一つですが、我等にはもっと大きな目標がありまして」

「はい。我等も人化の術を会得すべく、様々な人族の観察に来たのです」

「あーーー、人化の術ね!確かにそれができたら、君達ももっともっといろんなことができるようになるよねぃ!」

「「はい」」


 ムニン達の目的を聞いたピースも納得している。

 その後ピースはムニン達と様々な話をした。

 兄弟姉妹全部で七羽いること、その中の四男にして末弟であるマキシが人化の術を得ていること、そしてそのマキシは八咫烏の里から出て今はこのラグナロッツァで暮らしていること、その居候先はレオニス邸であること等々。

 ピースはそれらの話を、ふむふむ、へむへむ、ほむほむ等々、師匠(フェネセン)譲りのへんてこりんな相槌を打ちながら聞いていた。


「いやー、レオちんとこには妖精さんの執事さんだけでなく、八咫烏の子まで居候してるなんてすげーね!」

「つーか、ラウルのことはともかくマキシの正体は誰にもナイショな?」

「もちろんもちろん!八咫烏なんて貴重な存在がバレたら、いつどこで誰に狙われるか分かったもんじゃないからねぃ!このピース、守るべき秘密は絶対に誰にも漏らさないよ!」

「よろしくな。……さて、今度は俺の本題に入らせてもらおうか」


 ムニン達の紹介と彼女達の目的が無事明かされたところで、今度はレオニスが今日の目的を切り出した。


「……ま、本題っつってもいつもの依頼と何ら変わらないんだがな」

「いつものってーと、アレ? 浄化魔法の呪符のご注文?」

「そうそう。前回描いてもらったものは、ツィちゃんの事件の時に全部使っちまったからな」

「あー、そだねー。あん時小生がレオちんの手持ちの浄化魔法の呪符を全部預かって、瘴気を抑え込むために使っちゃったもんねー」

「そゆこと」


 レオニスの本題とは、浄化魔法の呪符『究極』の注文である。

 ピースが作る浄化魔法の最上級呪符『究極』は、今やレオニスにとって欠かすことのできないアイテムだ。

 レオニスが使える浄化魔法では祓いきれないような、強大な呪いや穢れ。それらを発見した時に、すぐにでも使えるようにまた大量注文しておかなければならない。


「そしたら、今度は何枚要る?」

「そうだな、前回は余裕を持って二百枚描いてもらったが……それでもすぐに足りなくなっちまった」

「だねぇ……そしたら三百枚とかいっとく? 二週間くらい時間をくれれば、三百枚くらい描けるよ?」

「……いや、五百枚頼みたい。納期は特にないが、いつ何時事件が起こるか分からんからな。なるべく早めに作ってもらえるとありがたい」

「五百枚!ウヒョー、ピィちゃん嬉し泣きしちゃうッ!」


 レオニスがピースに頼んだ枚数は、何と五百枚。

 その枚数の多さに、ピースが嬉しそうに両手で頬を押さえながらくねくねと動き出した。これもまた師匠(フェネセン)直伝の『喜びの舞』である。

 レオニスからの呪符の大量作成依頼は、ピースが書類仕事から抜け出す絶好の口実となるのだ。


「とりあえず代金はこれで頼む」

「おおぅ、研磨済みの魔宝石だねぃ!……ルビーにサファイア、エメラルド……どれも極上品なのが、小生の素人目にも一目見ただけで分かるよ!」


 浄化魔法の最上級呪符五百枚分の代金として、レオニスが空間魔法陣から魔宝石を取り出してテーブルの上にそっと置いた。

 ザラッ……と小さな音を立てて無造作に置かれた、色とりどりの魔宝石。その数五十個、全てレオニスが幻の洞窟で採掘した宝石で、しかもアイギスのセイが研磨した極上かつ大粒の逸品揃いである。


 レオニスが差し出した美しい魔宝石を手に取り眺めながら、魔宝石の主な用途であるピースがアイテムバッグの話をし始めた。


「ぃゃー、あれから魔術師ギルドのアイテムバッグ研究の方針を転換してね。容量拡張はひとまず横に置くことにして、兎にも角にも一般市場への早期普及を第一の目標とすることに決まったんだ」

「そりゃ良かった。魔宝石の追加が必要なら、いつでも言ってくれ。俺でできることなら喜んで協力させてもらうから」

「ありがとう、レオちん!」


 レオニスの申し出に、ピースが嬉しそうに礼を言う。


「これだけたくさんの報酬をもらったからには、レオちんのご依頼の五百枚を最優先で描かないとね!」

「それはありがたいが、お前の机に山積みになっている書類仕事もきちんとこなしてくれよ? でないと俺、仕事のお邪魔虫認定されて魔術師ギルド出禁にされちまうかもしれんからな」

「アハハハハ、ないない、それはなーい!…………多分?」


 書類仕事からの脱出の口実に使うのも程々にな?というレオニスの遠回しの言い分に、ピースは笑い飛ばした後ちょっとだけ不安そうになる。

 確かにレオニスの言い分ももっともで、書類仕事をサボり過ぎてもよろしくない。そのことはピースにも分かるようで、『愛しのレオちんが魔術師ギルド出禁になって、ここに来てもらえなくなったら困る!』ということに気づいたのだろう。


 そのせいか、ピースが急に真面目な顔になり、改めてレオニスの方に向き直った。


「とりあえず、レオちんの依頼分を作った後に小生も自分用に百枚描いて、常に持ち歩くことにするよ。緊急事態が起きた時にも対処できるようにね」

「ああ、それはいいな。備えあれば憂いなし、だしな」

「てゆかね、あの事件は実は小生にとってもかなり衝撃だったんだ」


 いつも明るく賑やかなピースが、いつになく真剣な顔で静かに語る。

 そのことがあまりにも珍しくて、レオニスが思わず問い返した。


「……お前が受けるような衝撃なんて、あの時あったか?」

「うん……小生ね、自分の描いた呪符に関してはそれなりの自信があったんだ」

「おう、間違いなくお前の作る呪符は最強無比だぞ?」

「うん、小生もあの事件の前までは心のどこかでそう思ってたんだ。だけど……最上級の『究極』百枚を以ってしても、あの瘴気を祓うことはできなかった。祓うどころか、ほんの少し抑え込む程度にしか効かなかった」

「それは…………」


 ピースが淡々と語る事実に、レオニスも言葉に詰まる。

 実際にレオニスがその時たまたま所持していた、浄化魔法の呪符『究極』約百枚。それを全部使っても、瘴気を祓うどころかほんの僅かな時間しか抑えることしかできなかった。

 そのことが、ピースにとってはかなりショックだったのだ。


 ピースは俯いたまま、ぽつりと呟く。


「レオちんは、いっつもあんな強大な敵と戦ってるんだね……」

「……ああ。廃都の魔城の奴等は、俺がこの手で絶対に滅ぼすべき敵だ。それは個人的な復讐でもあるし、人類、そしてこの世界全ての敵だからな」

「本当に……本当に尊敬するよ。あれは、書類仕事だけしていた小生には想像もつかないほどの強敵だった……廃都の魔城の四帝が『厄災の塊』と呼ばれる理由が心底分かったよ」


 レオニスの決意に、ピースも顔を上げてレオニスの瞳を真っ直ぐに見つめる。


「小生もレオちんの助けになれるよう、これからも全力で支援する。小生なんてまだまだ未熟者で、師匠の足元にも及ばないけど……それでもレオちんの力になりたいんだ」

「浄化魔法の呪符以外にも、必要なものがあったら何でも言って!さっきのレオちんじゃないけど、小生にできることなら何でも協力するから!」


 レオニスの瞳を真っ直ぐに見つめるピースの瞳にも、強い決意の炎が宿っていた。

 それは、あまりにも強大な敵に一人立ち向かう友を支えたい、その一心であった。

 そんなピースの決意に、レオニスもまた嬉しそうに微笑む。


「頼りにしてるぞ」

「うん!」


 短い言葉のやり取りだったが、レオニスとピース、互いの信頼がより深まった瞬間だった。

 ラグナロッツァ孤児院の次は、魔術師ギルド訪問です。

 午前中はヨンマルシェ市場散策と冒険者ギルド訪問、午後は市場に戻って爆買いツアーに孤児院訪問、そして魔術師ギルドにも足を伸ばし、過密スケジュールどころのレベルじゃないという…( ̄ω ̄)…

 でも、ムニンとトリスがラグナロッツァを見て回れるのは二日間だけなので、このギュウギュウの詰め込みスケジュールも致し方ないのですが。


 にしても、ライトの夏休みは一体いつ終わるんでしょう? 割と本気でというか、冗談抜きで見通しが立たないんですが…( ̄ω ̄)…

 誰かこの作者に、二学期開始がいつになるのか教えてくださいぃぃぃ><

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