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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第756話 姉達の悔恨

 ムニンとトリスがラグナロッツァに初めて来た日の翌日。

 ライト達は朝から皆で四人と二羽揃って朝食を摂っていた。

 ライト達四人はトーストにサラダ等の普段と変わらぬ朝食で、ムニンとトリスには巨大トウモロコシの粒をバラして蒸したものをとても美味しそうに食べている。


「レオニス殿、この黄色い粒のようなものは一体何なのですか?」

「これはトウモロコシという野菜、植物の一種でな。普通はもっと小さいものなんだが、特殊な製法でより大きくしているんだ」

「トウモロコシ、ですか……とても美味ですね、里の土産に持って帰りたいくらいですが、持ち帰ることは可能ですか?」


 食卓に出されたトウモロコシを食べながら、あれこれと質問するムニンとトリス。どうやらトウモロコシの味がとても気に入ったようだ。

 巨大トウモロコシの粒は一個一個がレオニスの拳大なので、体格の良い八咫烏達の軽めの朝ご飯としても最適なのだ。


「ンー、土産に持たせてやってもいいが……人化の術が上手くなって、手足が自由に使えるようになれば栽培……育てて収穫することもできるようになるぞ?」

「本当ですかッ!? トリス、これは是非とも人化の術の会得を頑張らなければね!」

「ええ!絶対に人化の術を会得してみせるわ!」


 トウモロコシを持ち帰れるか?というトリスの質問に、レオニスが人化の術の会得を強く勧める。

 実際トウモロコシをそのまま持ち帰ることも十分可能だが、それではただの旅行土産で終わってしまう。

 どうせなら八咫烏の里でも栽培できるように、そして人化の術の会得のモチベーションにもなるように、というレオニスの二重の思惑は、張り切る八咫烏姉妹の反応を見るに見事に効いているようだ。


 そんな姉達を、マキシは心配そうな目で見つめながら彼女達に声をかけた。


「姉様方、ここにいる間は家主のレオニスさんとライト君、そして執事のラウルの言うことをよく聞いてくださいね?」

「もちろんよ」

「絶対に知らない人についていっちゃダメですよ? 決して皆から離れてどっかに飛んでいっちゃダメですからね?」

「分かってるわ!」

「ここにいる皆、レオニスさん達はとても良い人達ですけど、この屋敷の外には怖い人や悪いことを考える人族だってたくさんいるんですからね?」


 ムニン達に口を酸っぱくしてあれこれと注意するマキシ。最初のうちこそおとなしく聞いていた彼女達も、次第にうんざりしてきたようだ。


「ンもー、そんなことくらい分かってるわよ……マキシ、貴方、人里に出てからだいぶ口うるさくなったわね?」

「ホントホント。貴方がそんなおしゃべりさんだったとは、今初めて知ったわ!」

「うぐッ……そ、それは……姉様方の身の安全を思うからこそですね……」


 オカン化したマキシとその姉達の反撃。八咫烏家族の微笑ましいやり取りに、ライト達も思わず笑みが零れる。


「そうですよ、お姉さん達。マキシ君はお姉さん達が危険な目に遭わないように、心配してるんですよ」

「そうだぞー。それに、マキシだってここに住み始めて最初のうちは外に一歩も出なかったし、出たとしてもラウルに今と全く同じことを言われてたもんなぁ?」

「そうそう。マキシの警戒心の無さが危なっかし過ぎて、いっつも俺が口うるさく注意してたもんなぁ」

「ぅぅぅ……は、恥ずかしい……」


 ライト達がマキシをフォローするも、かつての自分にまつわる思い出話をされたマキシは顔を赤くして俯く。

 そんな恥ずかしがるマキシに、ムニン達も思わず微笑みを浮かべる。


「フフフ、もちろん分かってるわよ。マキシは家族思いの子ですもの。私達を心配して言ってくれているのよね」

「ええ、マキシは昔から優しい子だったもの」

「ね、姉様達まで……」


 姉達の追撃にさらに顔が真っ赤になるマキシに、ラウルが声をかけた。


「マキシ、そろそろ家を出る時間だぞ」

「あッ、そうだね!では僕はこれで失礼しますが、レオニスさん、姉様方をよろしくお願いいたします」

「おう、任せとけ」


 そろそろ出勤時間が迫るマキシ、慌ててレオニスに改めて姉達の世話を頼みつつ頭を下げる。

 もちろんレオニスに否やはない。大事な客人ならぬ客鳥をおもてなしする気満々である。

 そしてマキシはムニンとトリスにも声をかける。


「姉様方も、今日一日楽しく過ごせますように!」

「ありがとう、マキシ」

「マキシもお仕事頑張ってね!」

「はい!いってきまーす!」


 姉達に挨拶をしたマキシは、明るい笑顔で食堂を出ていった。

 パタパタパタ……と廊下を駆けていくマキシの足音が聞こえなくなった頃、ムニンが誰に言うでもなく呟く。


「……マキシ、とても元気になったわね……本当に良かった……」

「ええ……里に居た頃に比べたら、見違えるほど明るくなりましたね……でも……」

「そうね……やはりあの子にとって、あの里は決して居心地の良い場所ではなかったものね……」

「あの子を守ってやれなかった私達は、不甲斐ない姉だったわ……」


 マキシが出ていった、食堂の出入口。もう既に誰もいないその出入口を、寂しげな瞳でずっと見つめ続けるムニンとトリス。

 明るく逞しくなったマキシの姿に喜びを感じる反面、かつて八咫烏の里で無能者の烙印を押された末弟を守りきれなかった―――そんな己の不甲斐なさを悔いているのだ。


 そんな姉達の、懺悔にも近い呟きに何と返していいものやら分からないライト達。

 だが、沈痛な空気をものともしない者がここに一人。


「過ぎたことをここでくよくよ考えても仕方ないぞ」

「それは……そうなのですが……」

「確かにマキシはもう二度と―――カタポレンの森で生きていくことはない。行ってもせいぜいツィちゃんのところや目覚めの湖に遊びに行くとか、素材集めを手伝うとかくらいだ」

「「…………」」


 ラウルの言葉に、ムニンもトリスも無言になる。

 マキシは八咫烏の里に居続けることに堪えきれず、ついには自ら家出して里を飛び出したのだ。

 そんな彼が自分の力で見つけ出した己の居場所、それは大親友であるラウルやライト、レオニス達がいるこのラグナロッツァであることを、ムニン達も理解していた。


 心なしかしょんぼりとしながら俯くムニン達に、ラウルが静かに語りかけ続ける。


「マキシはこれからも、俺達とともにこのラグナロッツァという名の人里で暮らしていくだろう。だがそれはそれとして、あんた達家族と完全に縁が切れた訳じゃない。あんた達だって、これからまたマキシとともにたくさんの楽しい思い出を作っていけばいいんだ」

「楽しい、思い出……」

「そう、あんた達がラグナロッツァに遊びに来たりな。それに、マキシだってちゃんと八咫烏の里に里帰りしてるじゃないか」

「……そうですね……」


 ラウルの言葉に、俯いていたムニン達も少しづつ顔を合わせる上げてラウルを見る。

 基本ラウルは空気を読まない妖精だが、彼の言葉にはさり気なく相手を思い遣る優しさも常に含まれているのだ。

 そしてラウルの優しさを裏付けるべく、ライトやレオニスもまた明るい声で同調する。


「そうだね、ラウルの言う通りだよ!ムニンさん、トリスさん、明日はマキシ君の職場見学に行けますし、今日はぼく達といっしょに目一杯楽しみましょうね!」

「ああ、八咫烏の里ではお目にかかれないものをたくさん見せてやろうじゃないか。なぁ、ラウル?」

「おう、ヨンマルシェ市場の案内なら俺に任せとけ」


 ライト達は二羽の姉達を励ますように、笑顔で頼もしい会話を繰り広げる。

 三人の心遣いに、ムニンとトリスもまた悔恨を吹っ切るべく明るい顔で答える。


「初めての人里見学は、とても緊張しますが……皆様にご迷惑をかけぬよう尽力いたします!」

「私もムニン姉様とともに、人里の文化を見て学びます!」

「「よろしくお願いいたします!!」」


 レオニスに向かって二羽揃って頭を下げて礼を尽くすムニンとトリス。

 八咫烏姉妹の中ではムニンが一番の堅物だが、トリスもまた八咫烏の気質を強く持っていて根が真面目なのだ。

 まるで体育会系のような八咫烏姉妹の挨拶に、レオニスもニヤリと笑う。


「その意気だ。よし、そしたら俺達は一旦カタポレンの家に戻って朝の仕事をこなしてくるから、その間にラウルは食器の片付けやら屋敷の掃除なんかを済ませておいてくれ」

「了解」

「ムニンとトリスは、ラウルのやることを横で見てるといい。分からないことがあったら、ラウルを質問攻めにしてもいいぞ」

「「分かりました!」」


 今の時刻は午前の八時半手前。

 市場に繰り出すにはまだ少し早いので、ライトとレオニスは出かける前に朝の日課をこなし、ラウルは執事としての仕事をこなすことにする。

 レオニスの指示は実に適切なのだが、ラウル的にはその言い方が微妙に引っかかるようだ。

 呆れたような顔で、ラウルがレオニスに物申している。


「ぉぃぉぃ、ご主人様よ、質問攻めにしてもいいぞって、何つー言い草だ……」

「何言ってんだ、ラウル。屋敷に寝泊まりする客をもてなすのも、執事の立派な仕事だぞ?」

「そりゃそうだが……」

「それに、この屋敷の中だけでもムニン達が見たこともない、物珍しいものに溢れているだろうからな。ちゃんと答えてやってくれ」

「……分かった。ご主人様達も朝の日課頑張れよ」

「おう、任せとけ!」


 レオニスの巧みな話術に見事丸め込まれたラウル。

 レオ兄のこの巧みな話術が、クレア十二姉妹にも通じればいいのに……でも、クレアさん達に勝てる訳ないか。だってクレアさんは『サイサクス大陸全ギルド受付嬢コンテスト』の殿堂入りしているんだし。邪龍の残穢に余裕で勝てて、最上級鑑定スキルまで持ってるクレアさんに勝てる人間なんて、きっとこの世にいないだろうね!

 ライトがそんなことを考えながらレオニスを見ていると、レオニスがライトの視線に気づき不思議そうな顔でライトに話しかけた。


「どうした、ライト。俺の顔に何かついてるか?」

「え!? あ、いや、うん、そんなことはないよ!ちょっと考え事していただけー」

「そっか。んじゃとっととカタポレンの家に移動するぞー」

「うん!」


 それまで『レオニスの顔を見ながらクレアに勝てない理由を考えてました』などとは、口が避けても言えないライト。上手く誤魔化すことに成功したようだ。

 もっともそれは、普段はあまり物事を深く考えないレオニスのスルー力、そしてキニシナイ!大魔神の申し子であることにもだいぶ助けられているのだが。


「じゃ、いってきまーす!ラウル、ムニンさんとトリスさんのお相手よろしくね!」

「おう、ご主人様達も気をつけていってこいよー」

「レオニス殿、ライト殿、お勤め頑張ってくださいね!」

「私達もラウル殿について、勉強頑張ります故!」

「はーい!」


 ラウルと八咫烏姉妹の激励を受けて、ライトとレオニスはカタポレンの家に移動していった。

 お出かけの前の、朝の風景のひとコマです。

 久しぶりにラウルのKYスキルが発動しましたが、それよりもっと脅威的な事案が発生。それは、レオニスの話術絡みでクレア嬢の名前が出てきたこと。

 ぃゃ、本当にこんな場面でクレア嬢を出す気などサラサラなかったんですけどね?( ̄ω ̄) 気がつけば、何故かライトの脳内にクレア嬢が降臨してきたという……


 これって一体何なんでしょう、作者自身本ッ気で不思議で仕方ないんですが……

 もしかしてクレア嬢が『最近私の出番が少な過ぎるんじゃないですか? もっと私を活躍させてくれてもいいんですよ?』と訴えてきておられるのでしょうか?( ̄ω ̄;≡; ̄ω ̄)

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