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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第754話 疲れた時に効くもの

 ウルス達が鍛錬場に出かけてから、二時間ほど経過した頃。

 ようやくライト達がいるユグドラシアのもとに、レオニス達が帰ってきた。


「ただいまー」

「あッ、レオ兄ちゃん!おかえりー」

「人化の術の練習はどうだ?」

「うん、ミサキちゃんもアラエルさんも頑張ったよ!ミサキちゃんは五分くらい人化の姿が続けられるようになったんだ!」

「おお、そりゃすげぇな!」


 帰還したレオニスがライトと和やかに話していると、はるか後方からウルス他鍛錬組が戻ってきた。

 族長のウルスだけは、まだ何とかしっかりとした足取りで歩いている。だがそれ以外の子供達は、皆一様にボロボロで見るからにヘロヘロに疲れきっている。


「レオ兄ちゃん達の方はどう?…………って、聞くまでもないかなー」

「昼飯の腹ごなしにちょうどいい程度に運動してきたぜ!」


 ニカッ!と爽やかな笑顔で答えるレオニス。

 疲れなど全くないかのように涼しい顔で話すレオニスの後ろでは、ヨロヨロの千鳥足の八咫烏達が地面にへたり込んでいる。


「も、もうダメ……これ以上動けない……」

「フギン兄様より厳しい教官が……この世にいようとは……」

「ていうか、何あの無尽蔵の体力……」

「あれ、ホントに人族……?」

「お前達……失礼なことを言ってないで、しゃんとしなさい……シア様の御前であるぞ……」

『まぁ、ウルス、貴方もかなり疲れているようですねぇ……』


 ヨレヨレにへばりきった鍛錬組。ウルスが情けない子供達を窘めるも、そのウルス自身もかなりヨレヨレである。

 そんな彼らを見たユグドラシアが心配そうに呟き、アラエルが「あらあら、まぁまぁ……」と言いながら傍に駆け寄る。


 アラエルがすぐさま皆に回復魔法をかけるが、どうも効き目が薄いようだ。

 それもそのはず、既にレオニスが全員にエクスポーションと回復魔法を施してある。そう、レオニスとて別に動物虐待をしている訳ではないし、彼らへのアフターケアもバッチリしてあるのだ。

 ならば何をそんなに草臥れきっているのか?と言えば、ひとえに精神的なものと泥汚れなどの物理的要因である。


 八咫烏の里でレオニスが特訓を行ったのは、今日が二度目。前回の特訓ではフギンとムニンも参加していたので、そのキツさを知っていた二羽は内心恐れ慄いていた。

 だが、他の面々は今回が初めてのこと。レオニスに傷を負わせるどころか、触れることすらままならない圧倒的な力の差を見せつけられて茫然自失である。


「皆、モクヨーク池で水浴びしてさっぱりと汗を流して、羽根を整えてきた方がいいわ」

「……そうするか……皆、モクヨーク池に行くぞ」

「「「「……はぁーい……」」」」


 アラエルの提言に従い、重い足取りでモクヨーク池のある方角に向かうウルス達。

 トボトボと歩くその後ろ姿のあまりの侘しさに、レオニスがため息をつきながらウルス達を引き止める。


「はぁ……しゃあないなぁ。皆そんなに疲れたんなら、小鳥サイズになって俺の肩にでも乗れ。俺がモクヨーク池まで連れてってやるから」

「ホントッ!? 乗る乗るー!」

「では、お言葉に甘えて……」

「レオニス殿、かたじけない……」


 レオニスの厚意に素直に甘えるウルス達。皆次々と手乗り文鳥サイズになって、早速レオニスの身体に乗っかる。

 レオニスの右肩にはフギンとムニン、左肩にはトリスとケリオン。肩に乗りきらなかったウルスとレイヴンをレオニスがとっ捕まえて、己の頭にポイッ、と乗せる。

 瞬時に八咫烏まみれになったレオニスは、ライトに向かって話しかけた。


「ライト、俺はウルス達を連れてモクヨーク池に行ってくるから、ラウルといっしょにおやつの準備しといてくれ」

「分かった!疲れた時には甘い物が一番効くもんね!」

「そゆこと。じゃ、よろしくなー」

「いってらっしゃーい!」


 頭と肩に文鳥サイズの八咫烏を乗せたレオニスは、モクヨーク池に向かって出かけていった。

 レオニス達を見送ったライトが、張り切りながらラウルに声をかける。


「ラウル、皆の疲れが一瞬で吹っ飛ぶような、美味しいおやつをよろしくね!」

「おう、任せとけ。マキシとミサキちゃんも手伝い頼むぞ」

「もちろんだよ!」

「うん!ワタシもお手伝いするー!」


 しばらくしたら帰ってくるであろう鍛錬組を労うべく、ライト達皆でおやつの準備を整えていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ただいまー」


 再びユグドラシアのもとに戻ってきたレオニス達。

 行きはレオニスの肩や頭に乗っかっていったウルス達も、普段のサイズに戻って帰還してきている。

 ボロボロだった羽根は綺麗に整い、皆小ざっぱりとしていて気分もそれなりに晴れたようだ。やはりモクヨーク池は、八咫烏の里に欠かせない霊験あらたかな泉なのである。


「皆おかえりなさーい!おやつの支度できてるよ!」

「おう、ありがとうな。そしたら早速いただくか」


 昼食時と同じ敷物に、皆それぞれ同じ位置に座る。

 敷物の上には一口サイズの揚げドーナツ、プチシュークリーム、一口大にカットされたアップルパイ、チョコレートトリュフなどのラウル特製極上スイーツが所狭しと並べられている。

 どれも八咫烏達が烏の姿のままで食べられるように、というラウルの配慮がなされた心尽くしのラインナップである。


「皆、鍛錬お疲れさま!いッただッきまーーーす!」

「「「いッただッきまーーーす!」」」


 挨拶の後に早速おやつをいただく一同。

 まず次女トリスがプチシュークリームを食べて「美味しーーーい!」と叫び、ケリオンやレイヴンも「美味(ンま)ッ」と声を上げる。

 そして堅物のフギンやムニン、ウルスまでもが「美味ぁい……」と小声で呟いているではないか。

 頬を押さえながら、絶品おやつに舌鼓を打つウルス達。レオニスの特訓の後のラウルの極上甘味は、さぞや美味であろう。


 ちなみにユグドラシアにも、おやつとしてシャーベットを出している。氷の洞窟の氷を細かく砕き、その上にメロン果汁を振りかけたものを根元に置いてあるのだ。

 そのシャーベットの高さはラウルの身長ほどもあり、まるで雪で作ったかまくらのようにも見える。とはいえ、そんな巨大なシャーベットでも高さ200メートルを超えるユグドラシアから見たら、手のひら程度のほんの小さな塊に過ぎないのだが。


 しかし、メロンという果物を初めて味わうユグドラシアは『甘い香りがして、とても美味ですねぇ』と喜んでいる。

 八咫烏達はカタポレンの森の魔力だけで生きていけるので、食事を摂るという概念がない。故に狩りやら農耕といった作業も必要ない。

 そしてユグドラシアもそれは同じで、それまで果物などという存在自体知る由もなかったのである。


 一頻りおやつを食べ終えた頃には、空に赤味が射してきた。

 時間的にもそろそろ夕方と言って差し支えない頃合いだ。


「さて、日が落ちる前にラグナロッツァに戻るとするか」

「そうだねー、そろそろ帰らないとねー」

「ウィカ、帰りは俺達四人に八咫烏二羽も加わるが、一度に運べるか?」


 レオニスの帰宅宣言に、ライトも同意する。

 そしてラウルが横にいたウィカに、心配そうに尋ねる。

 行きはいつもの四人だったが、帰りは人里見学のためにムニンとトリスも加わることになったからだ。


『うん、さっきみたいなちっちゃい鳥状態なら大丈夫だよー』

「そうか、なら良かった。また二度に分けて運んでもらうのも悪いしな」

『何ならレオニス君やラウル君の服のポケットに入っててもらった方が安心かもねー。そうすれば、絶対に水中で落っこちてはぐれることもないしさ?』

「そうだな、万が一にも水中で離れ離れになったら困るしな」


 ウィカの提案に、ラウルやレオニスも頷きながら納得している。

 早速レオニスがムニンとトリスに向かって話しかけた。


「ムニン、トリス、そういう訳でさっきのちっこい状態になってくれるか?」

「「分かりました」」


 レオニスの要請に従い、ムニンとトリスがシュルシュルと小さくなって文鳥サイズに変化した。

 小さくなった二羽を、深紅のロングジャケットの左右の腰ポケット一羽づつ入れるレオニス。

 ポケットの奥深くまで突っ込むのはさすがに可哀想なので、ポケットから顔だけ出すようにして身体だけそっと突っ込んでいく。

 向かって右側のポケットにはムニン、左側にはトリス、それぞれちょこんと顔を出しているのが何とも可愛らしい。


「じゃ、俺達はそろそろ帰る。今日はシアちゃんの元気そうな声を聞けて良かった」

『私の方こそ、感謝してもし足りません。ツィの生命を救ってくれた御礼は、いつか必ずいたします』

「そんなの気にすんな。ツィちゃんもシアちゃんも、俺達の友達だろう?」

『……はい!』


 いつものように『友達なんだから、助けて当たり前』と、事も無げに軽やかに言い放つレオニスに、ユグドラシアも嬉しそうに返事をする。

 実際ユグドラシアのことを友達と言ってくれるのは、実はレオニスやライトが初めてだ。

 八咫烏達はユグドラシアを崇敬の対象としか見られないし、友達なんて畏れ多くてとんでもない!となってしまうのだ。


 すっかり元気を取り戻したウルスやアラエル、フギン達もムニンとトリスに声をかける。


「ムニン、トリス、人里でしっかり学んできなさい。そして、八咫烏一族の名に恥じぬ行動をするのだぞ」

「「はい!」」

「レオニス殿、不束かな娘達だが、どうぞよしなに頼む」

「承知した。また三日後に送り届けに来るからな。……って、ああ、そうだ、三日後にもまた訓練するか?」

「「「ウキョッ!?!?!?」」」


 レオニスの何気ない確認の言葉に、ウルス達が変な声を上げている。

 三日後にまたレオニスがからムニンとトリスを八咫烏の里に送り届けに来て、次の二組目であるフギンとレイヴンを入れ替わりでラグナロッツァに連れていく予定だ。

 レオニスとしては、その際に時間があればまたついでに訓練してもいいぞ?と希望を聞いただけだったのだが。そんな気は全くなかったウルス達にしてみれば、青天の霹靂にも等しい衝撃の問いかけである。


「いやいやいやいや、そこまでレオニス殿に手間をかけさせてしまっては申し訳ない!」

「そうか? 別に俺は手間とは思わんし、全然気にしないが……」

「そ、それに!そういった訓練は、是非とも全員が万全の体調の時にお願いしたい!人里見学の前後では、疲れが溜まっていたり気もそぞろになりがちだからな!」

「そっか、それもそうだよな。じゃあまた今度にするか」


 焦ったようにあれこれと言い募るウルス。その言い分に、レオニスも納得している。

 レオニスが納得して引いたことに、ウルスはもちろん彼の後ろに控えていたフギンやケリオン、レイヴン、そしてレオニスのポケットに入っているムニンやトリスまでもがほっ……と胸をなで下ろしている。


「じゃ、またな」

「皆さんも今日はゆっくり寝て休んでくださいね!また三日後に来ます!」

「父様、母様、僕はまたしばらく帰ってこれませんが、どうかお元気で!」


 大きく手を振りながら別れを惜しむライトやマキシ。

 レオニスやラウルとともにモクヨーク池に去っていくライト達を、八咫烏族長一族は彼らの姿が見えなくなるまでずっと見送っていた。

 レオニスの特訓第二弾 in 八咫烏の里です。

 特訓風景の詳細は本文中に書いていませんが、まぁ前回同様八咫烏一族の惨敗です。

 そして、疲れた時には甘い物が一番ですよね!(・∀・)

 今回のラウルの絶品スイーツは『八咫烏の姿のままでも食べられるもの』がコンセプトとなっています。

 その中に、最適なメニューの一つと思われるマカロンがないのは、八咫烏の里に来る前に天空島でドライアド達にたくさん振る舞ってしまったから。

 ドライアド達にはマカロンさえ与えておけばいいので、ある意味簡単と言えば簡単なのですが。ドライアドは人数も多いので、たくさんあってもすぐに在庫切れになっちゃうという(´^ω^`)

 今後ラウルの作るマカロンは、ドライアド専用品になってしまう、かも?

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