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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第749話 黒い粘液体の正体

 その後、話は自然と先日のユグドラツィ襲撃事件のことになっていった。


『ツィの身体の中に巣食い、生命を蝕み貪り続けていたあの邪悪な存在……それはやはり、シアやラグスのところにも襲撃を繰り返しているという連中―――『廃都の魔城』なる者達なのですか?』

「多分な。絶対にそうだという物的証拠はないが、俺の中では間違いなく奴等の仕業だという確信がある」

『それは、何か根拠があるのですか?』


 物的証拠がないのに、何故レオニスは襲撃事件の黒幕が廃都の魔城の四帝だと断言できるのか。

 気になってさらに問うたユグドラエルに、レオニスが冷静沈着に答えていく。


「ああ。まずツィちゃんの身体からずっと滲み出ていた、黒い炎のような瘴気……あれは廃都の魔城の空気に酷似していた。そしてそれは、八咫烏の里にいるシアちゃんも同じことを感じていたそうだ。そうだよな、マキシ?」

「はい。僕もシアちゃんがそう言っていたのを、この耳で直接聞きました。シアちゃんは『あれはかつてこの里を襲いし数多の骸骨ども、それらがまとっていた禍々しい気配と同じものである』と言っていました」


 レオニスから話を振られたマキシも淀みなく答える。


「それだけじゃない、他にも奴等が関係していることを示すものがある。これは、今まで誰にも話したことはなかったんだが……」

「最後にツィちゃんの身体から出てきた、黒い粘液質の化物……あれとそっくりの彫像を、奴等が根城にしていた場所で見たことがある」

「「『!!!!!』」」


 レオニスの言葉に、質問していたユグドラエルだけでなくライトやラウルも大きく目を見開きながら驚いている。

 確かにレオニスがそれを答える前に『今まで誰にも話したことはない』という前置きをしていたが、まさか最後にユグドラツィの幹から這い出てきたあの黒い粘液体に見覚えがあるとは想定外にも程がある。

 思わずライトが心底びっくりしながらレオニスに問い返した。


「レオ兄ちゃん、あの目玉もどきに見覚えがあったの!?」

「ああ。あれとそっくりというか、ほぼ同じものをラグナ教のエンデアン支部の地下室で見たんだ。ほら、お前にも話だけはしただろ? エンデアン支部の地下室に、廃都の魔城の四帝と謎の彫像があったって」

「ああ……そういやそんな話をしてたね……」

「あの黒い粘液体の巨大な眼球や、そこから無数の腕が生えている姿がな、エンデアンで見た巨大な邪神像にそっくりだったんだ」


 レオニスの言い分に、ライトも驚きながら納得している。

 かつてレオニスがラグナ教エンデアン支部で見たという、廃都の魔城の四帝の彫像。そして一際大きな謎の邪神像を、四帝が守護するように四方を囲んでいた、というのはライトもレオニスから話に聞いてはいた。


 そしてレオニス曰く『ラグナ教の悪魔潜入事件での調査で見たことだから、あまりあちこちで話す訳にもいかなくてピースにも話せなかった』とのこと。

 確かにラグナ教の悪魔潜入事件に関しては、国家元首であるラグナ大公から厳重な箝口令が敷かれている。

 故に神樹襲撃事件の立役者であるピースに対しても、打ち明ける訳にはいかなかったのだ。


「じゃあ、やっぱりツィちゃんを襲ったのは、廃都の魔城の四帝で確定なんだね。というか、その邪神像の正体は一体何なんだろうね? まだ誰にも知られていない、四帝よりももっと強い敵がいるってことなのかな?」

「エンデアン支部の地下室にあった像を見る限りでは、そうとしか思えんな。エンデアン支部にいた魔の者達の話によると、そいつは悪魔幹部達に『初代』と呼ばれていたらしいが……」

「!!!!!」


 レオニスが話の流れの中で発した『初代』という言葉に、ライトはさらなる衝撃を受ける。

 ライトにはその『初代』という謎の言葉に、心当たりがあったからだ。



『初代、だと……!? それって、BCOの中で『廃都の魔城の四帝を使役している謎の存在』の名前じゃねぇか!』

『廃都の魔城の四帝の裏には、さらに強力なボスがいることは冒険ストーリーで仄めかされていたし、言われてみればBCOの初代も目玉っぽい姿に腕が何本も生えていたが……』

『え、ちょっと待て、サイサクス世界の初代ってあんなに強いのか!? BCOの初代はあんなに強くなかったぞ!? ……って、BCOで最初に倒す初代はただの残滓で劣化版、本体は別のところにいる、という設定だったけど……』

『つーか、いくら廃都の魔城の四帝を束ねる真の黒幕だからって、いくら何でもありゃ強過ぎだろ!? 劣化版の方だって、それなりに実力や装備が伴っていないと勝つのは無理ゲーだったのに……』

『……あれ、本当に人の力だけで倒せるもんなんか……?』



 ライトの頭の中で、様々な思いや困惑が入り乱れる。

 ライトの記憶では、BCOにおける『初代』とは廃都の魔城の四帝を倒した後に出てくる敵だ。四帝全てを倒した後に現れる、廃都の魔城の真の主とされている。

 しかし、その詳細はライトにもよく分かっていない。BCOの中で出てきた『初代』は朧げなシルエットのみで、その実力も劣化版。

 初代の真の実力も本体の居場所も、まだ未公開だった。


 本当なら冒険ストーリーを進めていくことで、その謎も少しづつ解けていっただろう。

 だが、前世でライトがBCOをプレイしていた時には、まだそこまで物語(ストーリー)が進められていなかったのだ。


 愕然としているライトの顔を、レオニスが心配そうに覗き込む。


「ライト、どうした? 顔色が悪いが、大丈夫か?」

「……あ、うん、大丈夫。エンデアンはとても良い街なのに、そんな邪神像があることに改めて驚いちゃって……」

「そうだな。あの街は海に面してて、人の出入りや交易も盛んで海の幸も美味しいし、気候も温暖で過ごしやすくて良い街なんだがな……その反動か知らんが、デッちゃんやら邪神像やら何気に物騒なことも多いんだよな」


 顔色の悪さから体調を問われたライト、咄嗟に適当に誤魔化す。

 その誤魔化しが効いたのか、レオニスもうんうん、と頷きながらライトの言い訳に同意している。


「ねぇ、レオ兄ちゃん……あの時に倒した目玉、初代、だっけ? あれでもう大丈夫、なのかな……?」

「さぁな……それは俺にも分からんが、あれで滅ぼしたと喜ぶのは早計だろうな。廃都の魔城の連中というのは、何しろしぶとい。何度殲滅させてもいつの間にかシレッとした面して戻ってきやがる。四帝ですらそれなんだから、それより上の初代とやらも相当しぶといとみておいて間違いはないだろう」

「だよね…………」


 レオニスの論は全て正しい。

 これまで人類は、その総力を挙げて幾度となく廃都の魔城を討滅してきた。なのに、数年もしないうちに廃都の魔城は四帝配下の魔物で埋め尽くされていく。その度に地獄の底から舞い戻ってくるのだ。

 四帝ですらそうなのだから、四帝の背後に控える初代が一回の敗北で消滅するとは到底思えなかった。


 するとここで、ユグドラエルがレオニスに向かって話しかけた。


『私達神樹は今まで誰に与するということもなく、ただただこの世界を見守り続けてきました。ですが……』

『事ここに至っては、もはや認めざるを得ないでしょう。廃都の魔城は我等神樹族の敵です』

『ここ天空島のみならず、あまつさえシアやラグスにも邪な目的で奇襲をかけているだけでも許し難いというのに……』

『ツィを蹂躙し、その生命まで奪おうとしたこと―――絶対に許さない』


 ユグドラエルが『絶対に許さない』と呟いた瞬間。その場にいた全員が、ゾワッ!とした悪寒に襲われ背筋が凍る。

 それは、神樹族の三姉妹の中でも最も穏やかなユグドラエルが見せた本気の憎悪。極限まで冷えきった低音の呟きは、人類最強の男レオニスをも心胆寒からしめる。


『レオニス、ラウル、マキシ、そしてライト。貴方達にお願いがあります』

「……何だ? 俺達にできることなら何でもする」

『ここから動くことのできぬ私に代わり、ツィの敵を討ってくれませんか。貴方達の尽力により、此度ツィは運良く事なきを得ましたが……もし貴方達の力添えがなければ、ツィは悪漢どもの手により殺されていたことでしょう……それが私にはたまらなく恐ろしい』


 冷えきったユグドラエルの声が一転し、僅かにその声音が震えている。

 今回は運良く周囲に助けてもらったが、いつも必ず誰かに助けてもらえるとは限らない。

 神樹と言えど、所詮は樹木。咆哮樹のような雑魚魔物ならともかく、巨大な神樹達はその場から一歩も動くことができない。

 他者に攻撃されたとしても自発的に逃げたりできないし、反撃に出ることすらままならないのだ。

 そのことが恐ろしい、というユグドラエルの心情は、理解して有り余るものだった。


『二度とこのような理不尽な悲劇が起こらぬよう、廃都の魔城を討ち滅ぼさなければなりません。そのために私ができることがあれば、何でもしましょう。ですから……貴方達も協力してもらえませんか』

「……何だ、そんなことか」


 ユグドラエルの懇願に、レオニスがフフッ、と不敵な笑みを浮かべる。


「エルちゃんの頼みがなくとも、ツィちゃんの敵は俺達が討つ。俺達の大事な友達であるツィちゃんを、あんな酷い目に遭わせた奴等を―――俺達が見逃してやる訳ないだろう?」

『……そうですね。ツィは本当に良い友に恵まれましたね』

「もちろんツィちゃんだけじゃないぞ? シアちゃんやラグス、イアやエルちゃんだって、俺達の大事な友達だ。もしエルちゃんを苛める悪い奴がいたら、その時は俺がギッタンギッタンのコテンパンに叩きのめして追っ払ってやる」


 レオニスの頼もしい言葉に、ユグドラエルの声音もいつの間に普段の柔らかな口調に戻っていく。


『フフフ……それは頼もしいことですね』

「……ま、俺が駆けつけるより先に、ヴィゾーヴニルやグリンカムビが敵を蹴散らして終了する可能性の方が高いと思うがな」

『では、ヴィーちゃんやグリンちゃんに負けないよう、貴方達に私の加護を授けましょう』


 ライトとレオニス、ラウル、マキシ、四人の周りに温かい風が優しくそよぐ。

 それと同時にユグドラエルの緑の葉からキラキラとした粒子が発生し、ふわふわとライト達の身体に降り注いだ。

 降り注ぐ光の粒は、ライト達の身体に染み込むように吸い込まれていく。


「おおお……これは……」

「何て凄い力だ……」


 レオニスとラウルが思わず呟く。

 光の粒が吸い込まれていく程に、身体の中に新たな力がどんどん湧いてくるのが分かるのだ。

 温かい風が止む頃には、ユグドラエルの加護の付与が完了した。

 四人の中で、ライトが真っ先にユグドラエルに礼を言う。


「エルちゃん、ぼくにまで加護をくれてありがとうございます!」

『どういたしまして。ライト、貴方も先日の事件の時にツィを助けてくれましたからね。これはほんの気持ちばかりの御礼ですよ』


 明るく大きな声で礼を言うライトに、ユグドラエルも思わず微笑む。

 ライトに続き、レオニスやライト、マキシも口々に「ありがとう」と礼を言っている。

 世界最古の原始の神樹からの加護を得たライト達。これ程心強いことはない。


 サイサクス世界の全ての敵である廃都の魔城。そこに潜むのは四帝だけではない。初代というさらなる強大な敵が背後に控えている。

 だが、如何に強大な敵であろうとも、ライト達が逃げることはない。親兄弟の仇であり、友の仇であり、世界を蝕む敵。それら全てを根絶しなければ、ライト達に真の平和は訪れないのだ。

 その殲滅を改めて心に誓う四人だった。

 ユグドラツィ襲撃事件の黒幕、黒い粘液体の正体が明かされる回です。

 ぃゃ、あの黒い粘液体=エンデアンの邪神像にそっくり=初代=実はBCOボスだった!というのは、早いうちから作者の中で確定していたんですがー。事件当時とその直後もしばらくピースが皆とともにいたので、明かす場がなかなか作れなかったんですよねぇ(=ω=)

 だってー、ピースにまでその話をしたら『情報漏洩=国家反逆罪=死刑!』になっちゃいますし。


 そして、今回新たに天空樹ユグドラエルの加護をもらったライト達。

 まずは邪竜の島の殲滅のための第一歩ってとこですかね!

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