第746話 優雅なお茶会 in 雷光神殿
雷光神殿の中にある豪華な応接ソファの横に、ラウルがテーブルを出してスイーツその他の用意を始める。
ドライアド達に出すマカロンを四つに切り分けたりなどの作業があるためだ。
テーブルの周りに群がり、ラウルの作業の様子をじっと見つめるドライアド達。これでもラウルの邪魔にならぬよう、ドライアド達も一応配慮しているのだ。
マカロンを待ち侘びるドライアド達のワクテカ笑顔が実に輝いている。
彼女達の期待の眼差しを一身に浴びるラウルだが、その手元が狂うことなどない。菓子用のまな板の上で、サクサクと手際よくマカロンを切り分けては種類ごとで分けて皿に乗せていく。
マカロンを切り分け終えたら、次は女王達に振る舞うスイーツの番だ。
何を出そうか迷ったラウルだったが、ここは一つ原点回帰としてアップルパイを出すことにした。
ホールのアップルパイを取り出し、八つに切り分けてから再び一枚に見えるように形を整えつつ大皿に乗せる。
お茶はアップルパイによく合う紅茶を選択。ティーカップは公国生誕祭の時に買ったティーセット。透明なガラスの器に、縁には金色のレース模様、中程にはいくつかの蝶々があしらわれている。
ティーカップとソーサーだけでなく、ティーポット、シュガーポット、クリーマーまで全てに揃いの美しい模様が入っている。まさに女王達に出すお茶に相応しい、ラウル渾身のチョイスにして本格的な一式だ。
『何かとても良い香りがするわね』
『木や花の香りとも違う、素敵な香りね!』
『ラウルー、マカロン早く食べたーい!』
マカロンやアップルパイが乗った皿を、ライトや人化したマキシがお手伝いとして女王達が座って待つテーブルに運んでいく。
ちなみにライト達の飲み物は、いつもと変わらずぬるぬるドリンクやブラックコーヒーなどである。
それら全ての準備が整い、ようやくラウルが席に着いた。
「よし、じゃあラウル特製スイーツをいただくとするか。いッただッきまーーーす!」
「「「『いッただッきまーーーす!』」」」
レオニスの食事の挨拶が済んだ途端に、ドライアド達がわらわらとカット済みのマカロンの皿に群がる。
苺、キャラメル、メロン、チョコレート等々、十種類以上の色とりどりのマカロン皿に、幼女姿のドライアド達が群がる光景は、何とも微笑ましい。
一方女王達は、まずアップルパイを一口食べる。
ラウルの十八番のスイーツ、アップルパイを食べた二人の女王達の目が見開かれる。その顔はパァッ!と明るくなり、驚きに満ちている。
『まぁ、何て美味しいのかしら!』
『外側はサクサクとしてて香ばしく、中はしっとり甘くて……すごく贅沢なハーモニーね!』
バクバク!とまではいかないが、女王達のアップルパイを食べる勢いが止まらない。
まくまく、もくもく、もっもっもっもっ……と一心不乱にアップルパイを食べている女王達の、何と愛らしきことよ。快活な雷の女王はもとより、普段はクールな印象の光の女王までが夢中になって食べている。
それを見たライトが、人知れず内心で『女王様が可愛い過ぎるぅーーー!』と激しく悶絶している。
女王達はアップルパイがとてもお気に召したようで、食べながらラウルに質問をしている。
『これ、中は何かの果物、果実よね? 一体何を使っているの?』
「林檎という果物を砂糖で煮詰めたものを、パイ生地に包んで焼くんだ」
『林檎なのね……林檎という果実が成る木があることは知っているけど、天空島には林檎の木はないのよね……残念……』
『でも、地上の果実を持ち帰るだけなら、パラスにお願いすれば可能、かも?』
アップルパイをとても気に入った様子の女王達、天空島に林檎の木がないことをとても残念がる。
まぁ確かに、こんな高度の高い天空島で林檎の木が育つとは到底思えない。しかし、だからといって林檎一つのために天空島警備隊隊長のパラスを地上に派遣するのは如何なものか。
そして、アップルパイとともに出された紅茶を一口二口飲む女王達。
出した紅茶には砂糖もミルクも入れてないが、そのままの紅茶でも満足しているようだ。
『この、紅茶という飲み物?も、とても美味しいわね!』
『ええ……でも、紅茶の美味しさもさることながら、この器の美しさといったら……本当に綺麗で素敵な器ね……』
ガラス製のティーカップなので、カップの中の紅茶の色がよく見える。澄んだ紅茶の色と器に描かれた金色のレースと蝶々模様、そこに二人の女王達の身体から漏れ出る淡い光が相まって、相乗効果でよりキラキラと光り美しく映える。
美しい女王達と愛らしいドライアド達との初のお茶会は、終始和やかな空気に包まれていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて……おやつも一頻り食べたことだし、女王達にいくつか聞きたいことがあるんだが」
『いいわよ。私達で分かることなら、何でも聞いてちょうだい』
テーブルの上やラウルの膝、レオニスの肩やら頭に満腹状態のドライアド達がお腹を擦りながら寝そべっている中、レオニスが女王達に話を切り出した。
あまりにも締まらない図なので、ライトやマキシがレオニスやラウルに乗っかったドライアド達をそっと引き剥がし、お姫様抱っこよろしく両手で大事そうに抱えて天蓋付きベッドに運んでいく。
ケプー……と満足そうなドライアドは、全員おとなしくベッドに寝転がされている。
「前に邪竜の島を殲滅させる、と言っていたが……準備の方は進んでいるのか?」
『ええ。パラス達を始めとした警備隊の子達は、いつも以上に訓練に励んでいるわ』
「俺自身も討滅戦に参加する予定だが、他にも何か協力できることはあるか? あるなら遠慮なく言ってくれ、俺ができることなら何でもする」
『……そうね……』
レオニスの申し出に、二人の女王がしばし考え込む。
そして互いの顔を見合わせながら、コクリ、と小さく頷く。
そして光の女王の方から徐に答えを口にする。
『そしたら、先日の神樹襲撃事件でヴィーちゃんの力を最大限に増幅した魔術師、あの人間も連れてきてくれるかしら?』
「ピースのことか?」
『ええ。あの事件の時に、ヴィーちゃんが地上に到着して以降のことは何とか見えていたの。ヴィーちゃん自身の光が辺りを照らしていたから』
『あの邪悪な黒い塊は、ヴィーちゃんの本来持つ力だけでは倒しきれなかったかもしれない……それくらいに強大な敵だった』
『それを、あの魔術師の補佐によってヴィーちゃんが倒すことができたの。あれ程の力があれば、邪竜の殲滅をより確実なものにできるわ』
「ふむ……確かに……」
二人の女王達の言うことに、レオニスは顎に手を当てながらしばし考え込む。
あの時のピースの力があれば、間違いなぬ邪竜の島に巣食う邪竜を全て殲滅できるであろう。もっとも、あまりにも強力過ぎて島そのものまで墜落させかねないのだが。
だが、廃都の魔城の四帝の手駒となっている邪竜、その尖兵の拠点たる邪竜の島を殲滅させることは完遂させねばならない。
廃都の魔城の戦力を削ぎ落とすことこそが、いずれは奴等の殲滅に繋がるからだ。
そう思い至ったレオニスは、女王達に返事をする。
「よし、分かった。ピースにも討滅戦への参加の打診をしておこう」
『ありがとう!あの魔術師が来てくれれば、私達も心強いわ!』
「ただ、あいつは人族の組織の長をしてるんで、俺のようにいつでもどこでも出かけられる立場にないんだ。だから、決戦の日を早めに教えてくれるとありがたい」
『分かったわ。いつもは向こうから襲撃してくるのを撃退していたけど、今回はこちらから先制攻撃しましょう』
『邪竜の島に攻め込む日が決まったら、貴方に教えるわ。光の精霊を伝言のお使いに出すわね』
「分かった」
廃都の魔城の殲滅を誓うレオニスと、他者を害するためだけに使役される邪悪かつ哀れな存在を許さぬ二人の女王。
人族と属性の女王が、手を取り合って一歩づつ前進していた。
ぐおおおおッ、今日は朝から晩まで忙しくてほとんど執筆できませんでしたぁぁぁぁ><
しかも投下直前に電話かかってくるし_| ̄|●
でも何とか3000字以上は確保できたので、サクッと投下しちゃうー。
本当はね、アップルパイに合う紅茶が何かとかいろいろ書きたかったんですけども(=ω=)
作者は普段カフェオレくらいしか飲まない非紅茶派なので、付け焼き刃にしかならんのでやめときました(´^ω^`)
というか、今日は1月31日、2023年になってからもう一ヶ月が経過してしまいました。月日が経つのは本当に早(以下略




