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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第745話 美味しいものは別腹

 ドライアド達の案内で、雷光神殿に向かうライト達。

 二つの神殿が並び立つ島は、泉のある島からよく見える位置にありとても近い。


『あっちのキラキラしてる方が、雷の女王様がいらっしゃる神殿よ!』


 ラウルの右肩にちょこんと乗っているドライアド、モモが左右に並ぶ神殿の向かって右側の方を指差しながら皆に教える。

 ちなみに先程マキシに絶世の美女モードを披露してみせたのは、実はこのモモだったりする。なかなかに負けん気の強い精霊である。

 そしてモモ以外のドライアドも、ラウルやレオニスの肩や頭に乗っかったりおんぶされているライトのように背中によじ登りながらしがみついている。

 空を飛ぶのが苦手な訳でもなかろうに、何ともものぐさなドライアド達だ。


「ホントだー、右側の神殿の方が少しキラキラ感強いねー」

『でしょでしょー?』

「というか、モモ達は木の精霊なのに雷は苦手じゃないのか?」

『雷が苦手? そんな訳ないでしょ、雷の女王様は私達が生まれた時からずーっと同じ天空島に住む仲間ですもの』

『もし雷が苦手なドライアドがいるとしたら、それは貴方のように地上に住むドライアドね!』

「そうか……雷が苦手なのは、俺のような地上で生まれた妖精や精霊だけってことか……」


 雷光神殿に向かうドライアドが、全く雷を怖がる様子がないのを不思議に思ったラウルだったが、モモ達からの答えを聞いて納得している。

 雷がその強烈な力で樹木に甚大な被害を与えるのは、地上にある樹木だけに対してであって、そもそもこの天空島で落雷することなどないのである。

 故に同じドライアドであっても雷に対する認識は真逆で、天空島出身のドライアドは全く平気で地上出身のドライアドは恐れ慄くのだ。


 そんな会話をしているうちに、二つの神殿がある島に辿り着いた。

 レオニスやラウル、マキシが島に降り立ち、ライトもレオニスの背から下りて上陸する。

 すると、雷光神殿の中から二人の女王が出てきた。

 一人は黄金色に近い輝かしい色で、背中まであるふわふわの髪の毛の雷の女王。もう一人は白に近い眩い色で、同じく背中まである真っ直ぐな髪の光の女王。

 雷の女王がパタパタと駆け寄ってくるのに対し、光の女王はゆったりと歩いてくる。

 こんな小さな仕草一つにも、彼女達の性格の違いが如実に現れていて何とも面白い。


『ようこそ、いらっしゃい!』

「雷の女王様、こんにちは!」

『間を置かず、こんなにすぐにまた会えるとは思わなかったわ』

「光の女王様も、こんにちは!」


 ライト達の来訪を、快く出迎える女王達。

 彼女達と会うのが二度目のライトも、女王達の歓迎に嬉しそうに挨拶をする。

 すると、女王達はマキシを見て物珍しそうに問うた。


『……あら? そこにいるカラスは……八咫烏ね?』

『まぁ、何て珍しい。知識としては知っているのだけど、この天空島で竜以外の翼あるものは初めて見たわ。貴方、名は何というの?』

「初めまして、こんにちは。僕は八咫烏のマキシと申します。今日はライト君達が皆様方に、先日の御礼をしに行くと聞いたので、不躾ながら僕も同行させてもらいました。女王様方にお会いできて、とても光栄です」


 雷の女王に名を聞かれたマキシが、早速名乗り今日来た理由を軽く話す。

 恭しく頭を下げながらも、物怖じせず流暢に会話できるマキシを女王達は感心しながら見つめている。


『皆、先日の神樹ユグドラツィの事件は本当に大儀だったわね。夜中に起きたことだから、私達には精霊達の目を以てしても詳細を見ることはできなかったけど……帰ってきたパラスから、貴方達が獅子奮迅の戦いで敵を退けていたというのは聞いているわ』

『ええ。皆の懸命の働きによって神樹が救われたこと、本当に嬉しく思うわ』


 女王達の労いの言葉に、レオニスが一行を代表して応える。


「いや、こちらの方こそ礼を言わねばならない。ヴィゾーヴニルが駆けつけてきてくれなければ、あの戦いは絶対に勝てなかった。俺達が無事勝利を収め、ツィちゃんを助けることができたのは、女王達の英断あってこそだ」

『うちのヴィーちゃんが役に立って何よりだわ!』


 深々と頭を下げて礼を言うレオニスに、ライトやラウル、マキシもそれに倣い頭を下げる。

 レオニス達の心からの礼に、女王達も満足げに頷いている。


『ささ、ここで立ち話も何だから、中に入りましょ!』

『そうね、前回はずっと外でお話してたけど、今日はお客人をもてなさなくてはね』

『雷の女王様のおうちー♪行こ行こー♪』


 女王達の招きに、ライト達が返事をする前にドライアド達がこぞって喜んでいる。

 嬉しそうにライト達の手を引っ張るドライアドに、ラウルが「ドライアドは客人じゃないだろう?」と苦笑いしながら言うも、ドライアド達の『いーのいーの、細かいことはキニシナーイ!』という言葉には勝てないようだ。


 もちろんライトだって、女王達の招きを断ることなどあり得ない。

 どれほど神殿の中も外もコピペで真同じであろうとも、女王達の住処に招かれること自体がとんでもない栄誉なのだから。

 ニコニコ笑顔でいそいそとついていくライトに、レオニスもマキシもまた苦笑いしながらドライアドに引き連れられていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「「「「……おおお……」」」」


 雷光神殿の中に入ったライト達は、その内装の予想外の豪華さに思わず息を呑む。

 豪奢なソファにテーブル、シャンデリアにコレクションボード、天蓋付きベッド等々、さながら王侯貴族の邸宅のような様々な調度品があるではないか。

 思わず神殿内をキョロキョロと見回すライトが、雷の女王に問うた。


「女王様、これは地上から持ってきたものですか?」

『そうね、地上から持ってきたものもあるし、パラス達が見様見真似で作ったものもあるわ』

「すごいな……まるで宮殿のようだ」

『全部地上の人族の文化を参考にしたものだけどね。光の精霊達の目を通して地上の様子が伺えるから、良いと思ったものは積極的に取り入れることにしてるのよ!』


 レオニスが感心しきりの中、ラウルもライトに倣い雷の女王に質問した。


「そしたら台所とか厨房もあるのか?」

『さすがにそれは私達精霊には不要だから、作ってはないわ……』

「そうか、そりゃ残念だ」


 ラウルのあまりにも微妙かつ場違いな質問に、レオニスが呆れたように呟く。


「精霊に、んなもん必要ある訳ねぇだろう……」

「いやいや、そんなこと分からんぞ? だってドライアドや水の女王、ウィカなんかも、俺が作るスイーツやご馳走を喜んで食べるじゃないか?」

「そりゃまぁ、そうだが…………精霊なんかは基本的に、大気中に漂う魔力なんかを自然に摂取するから食事は不要なんだよな?」


 ラウルの堂々たる言い分にレオニスはたじろぎつつも、近くにいたドライアドや女王をキョロキョロと見ながら同意を求める。

 すると、周囲のドライアドがレオニスの問いに答えた。


『そうね、自然が多い場所なら空気を吸うだけで生きていけるわよー』

『でも、それとは別に美味しい食べ物があれば普通に食べるわよー。私達にとって美味しいと思える食べ物や飲み物は、それだけで魔力が満ちるし』

『そうそう。美味しいものは別腹よ!ねー♪』

『『『ねーーー♪』』』


 幼女姿のドライアドが、きゃらきゃらと楽しそうに『美味しいものは別腹説』を唱える。

 これは人間で言うところの『甘いものは別腹』と同類であろう。


「だったら、台所とか厨房があればいろんな美味しいものを作れるのに……」

「……ラウル、よく考えろ。確かに精霊達は美味しいものを食べることもできるだろう。だが、作った後の洗い物だの片付けだのまでできると思うか?」

「………………」


 未だに台所がないことを残念がるラウルに、レオニスがその手をラウルの肩にポン、と置きながら問いかける。

 そう、精霊達は『食べる専門』であり、食べた後の諸々の片付けなどするはずもないのだ。

 レオニスの尤もな言い分に、横で聞いていたライトは思わず『光の女王が皿洗いしている図』や『ドライアドが鍋やコップを棚に仕舞う図』を想像してしまう。


 ……うん、絶対に片付けとかしないだろうな。そりゃまぁ確かにね、女王様達が皿洗いするところとかちょっと見てみたい気もするけども。

 あー、でも女王様は人間でいうところの王様とか皇帝とかのすっごく偉い人達と同じだと考えると、もとから皿洗いとかする立場じゃないよね。そうすると、皿洗いや片付けをするのは中級や下級の精霊の仕事になるのかな?

 …………でも、人間と違って物を食べなくても生きていけるんだったら、何もわざわざ片付けが要る料理とかしないよねー…………


 ライトがそんなことを考えていると、どうもラウルもライトと同じことを考えていたようだ。


「まぁなぁ……俺は美味しいものを食べることが好き過ぎて、料理はもちろんその後の片付けの手間なんかも全然平気なんだが……他の精霊はそうじゃないよな」

「だろう?」

「ああ、プーリアにいた頃だって料理なんて概念は全くなかったしな……」


 思い返せば、料理好きの妖精なんてラウル以外に見たことがない。

 いや、妖精どころか人族以外の他種族で凝った料理をすること自体が稀であろう。

 考えれば考えるほど自分が異質なことに気付かされるラウル、目に見えてズンドコと落ち込んでいく。

 いつも自信に満ちたラウルが落ち込むとは、実に珍しいことである。

 そんな風に沈み込むラウルを見たライトが、慌ててフォローに入る。


「ラウル、そんなに落ち込むことないよ!料理が作れる妖精って、すっごく素敵なことだと思う!」

「そ、そうか……?」

「うん!少なくともぼくはラウルの作る料理が大好きだし、レオ兄ちゃんもマキシ君も絶対にそうだし!ウィカだってラウルのご馳走をいつも喜んで食べてるし!ね、皆そうだよね!?」


 ラウルを慰めるために、ライトはキッ!と鋭い眼差しをレオニスやマキシ、ウィカに向ける。

 その凄まじいまでの強い眼力を放つ眼差しには『皆そうでしょ!? そうだと言って!!』というライトの無言の圧力がこれでもか!というくらいに込められている。


「あ、ああ、もちろんだ!ラウルが作ってくれる料理は、いっつも美味しいよな!」

「ええ!僕は料理なんて全然できないので、美味しいものを作れるラウルを本当に尊敬してます!」

『うん、ラウル君の作るご飯は本当に美味しいよねー♪ 僕、ラウル君の作るおやつ、本当に大好きー♪』


 皆口々にラウルの料理の腕を褒め称える。

 皆に褒められ続ければ、ラウルも悪い気はしない。

 俯いていたラウルの顔がだんだんと上向きになり、明るくなっていく。


「……そうだよな。妖精は料理を作っちゃいけないなんて決まりはないしな」

「そうだよ!むしろ他の妖精がしないこと、できないことをできるラウルの方がすごいんだよ!」

「うん、ラウルはプーリアの里にいた頃からすごい妖精だって、僕は思ってたよ!」

「お褒めに与り光栄だ。よし、ここにはテーブルも椅子もあるし、皆に俺様の絶品スイーツを振る舞おうじゃないか」

「「『『やったぁー♪』』」」


 機嫌を良くしたラウルの言葉に、ライトやマキシだけでなくドライアド達まで大喜びしている。ドライアド達もスイーツを食べる気満々なあたり、ちゃっかりしている。


『ラウルー、早くおやつしよー♪』

『しよーしよー♪』

「おう、そう急かすな、ちゃんと皆の分を出してやるから」


 ニコニコ笑顔のドライアド達に引っ張られながら、テーブルのある場所に連れていかれるラウル。

 その様子を見た女王達もニコニコしている。


『何だかよく分からないけど、あの子達いつも以上に大はしゃぎで楽しそうねぇ』

『地上の食べ物を振る舞ってくれるようね。この天空島で地上の食べ物を出してもらえるなんて、滅多にないどころか初めてのことだから楽しみね!』


 光の女王も雷の女王も、ニコニコ笑顔でラウル達の後をいそいそとついていく。

 天空島で人族が食べるようなものや料理があるはずないので、女王達にとっても初めての経験らしい。

 こうして天空島の雷光神殿でのスイーツタイムが始まっていった。

 雷光神殿にて二人の女王様達との再会です。

 前回の初訪問の時には天空神殿側の庭でずっと話していたので、神殿の中には入らなかったのですが。入ってみたら、想像もできないくらいにゴージャスな空間が!

 というのも作中で書いた通り、光の女王は光の精霊の目を通して人族の街を見たり観察することができるんですね。

 光の精霊は昼間の明るいうちならどこにでも行けるし、本来なら厳重警備で人が入れないようなラグナ宮殿の中にも余裕で入れます。

 そうして得た様々な情報をまず光の女王が取り入れて、光の女王の天空神殿の内装を見た雷の女王が取り入れていく、という二段階での文化波及が天空島でも起きているのです。

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