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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第738話 学ぶ姿勢

 ユグドラグスの根元で始まったお茶会は、和やかな空気に包まれていた。


「あ、そういやまだライトのことをラグスに紹介してなかったよな。ライト、竜王樹にご挨拶しな」

「うん!竜王樹さん、初めまして!ぼくはライトと言います、レオ兄ちゃんといっしょに暮らしてます!」

『初めまして、こんにちは。ライト君、君のことはツィ姉様やシア姉様からもよく聞いているよ。君に会えてとても嬉しいよ、はるばる来てくれてありがとう』

「こちらこそ!ツィちゃんやシアちゃんの兄弟に会えて、ぼくもとても嬉しいです!」


 物怖じすることなく、明るく堂々と挨拶をするライト。

 そのハキハキした溌剌さに、ユグドラグスも嬉しそうに歓迎の意を表す。


『ライト君、君達には姉様方がいつもお世話になっていて、本当に感謝しています』

「いえいえ、ぼく達もツィちゃんやシアちゃんには加護をもらったり枝を分けてもらったりして、いつもお世話になってますし」

『まぁ、何と礼儀正しい子でしょう。まるで我が君の幼い頃を見ているようですね!』

『白銀……恥ずかしいからやめて……/////』


 礼儀正しいライトの挨拶ぶりに、ニコニコ笑顔の白銀の君がご機嫌な声でライトを讃える。

 その例に引き合いに出されたユグドラグスが、恥ずかしそうに小声でゴニョゴニョと呟いている。

 照れるユグドラグスの根元で、白銀の君がさらにライトに話しかける。


『其方も将来はこのレオニスのように、冒険者とやらになるのですか?』

「はい!ぼくの父さんも冒険者だったんです!だから、父さんやレオ兄ちゃんに負けない立派な冒険者になりたいんです!」

『そのための修行などもしているのですか?』

「はい、毎朝カタポレンの森の中を走ったり、魔法の使い方が上手になるように練習したりしてます!」

『幼い身でありながら殊勝な心がけ、実に天晴れですね……人の子の持つ時間は、とても短いもの。その短き中にあって、輝ける未来を掴むべく努力するのはとても良いことです』


 幼子に話しかける白銀の君の眼差しが、とても柔らかいものになる。

 長寿を誇る竜族や神樹達には、長くてもせいぜい百年程度しか生きられない人族というのは、哀れな存在である。

 だが、生き急ぐように短い人生を全力で駆け抜ける生き様は、白銀の君にはまるで散りゆく桜の花のように愛おしくも思えるものだった。


 そんな感傷に浸る白銀の君の後ろでは、鋼鉄竜他中位ドラゴン達がお茶代わりのエクスポーションを瓶ごと飲んでは喜んでいる。


「……(パリン、バキン、モクモク、ゴッキュン)……」

「「「「()()ぇーーー」」」」

「コレ程美味(ウメ)ェモンハ、コノ世ニネェナ!」

「全クダ!」

「レオニス、オカワリー!」

「「「オカワリーーー!!」」」


 彼ら中位ドラゴン達がエクスポーションの瓶ごと食べるのは、もう致し方ないこととして諦めるとして。エクスポーションがお茶会のお茶として喜ばれるというのがどうにも解せぬ。


「何、もしかしてお前ら、このガラス瓶さえ食えりゃいいの?」

「インヤ、ソンナコトハナイ!」

「ソウダソウダ!コノ、エクスポーションナル液体モマタ、実ニ美味ナモノダ!」

「モトヨリ美味イ、液体ノ美味サヲ、コノ瓶ガ、サラニ!引キ立テテイルノダ!」

「液体ト瓶、ドチラガ欠ケテモ、コノ美味サハ成リ立タン!」

「そういうもんなんか……?」


 半ば呆れたように問いかけたレオニスに対し、中位ドラゴン達が猛烈な勢いでレオニスの論を否定する。

 確かにレオニスの疑問は尤もで、中位ドラゴン達は毎回実に美味しそうに瓶をパリパリと噛み砕きながら飲み込んでいる。

 ならば、ガラス瓶なら何でもいいのか?とレオニスが考えたのも当然のことである。


 しかし、中位ドラゴン達に言わせれば決してそんなことはないらしい。

 エクスポーションの液と瓶が奏でるハーモニーが大事なのだ!と力説する獄炎竜や鋼鉄竜。

 そのあまりの熱意に、レオニスはただただ気圧されるしかない。


 するとここで、その騒がしさに白銀の君がレオニス達の方を振り返る。


『あ、レオニス。私にもエクスポーションのおかわりをいただけますか?』

「お、おう、白銀もエクスポ好きなんだな……」

『ええ。この地では決して味わえない、絶妙にして天にも昇る心地良き高貴なる味です』

「そ、そんなにか……」


 さり気なくおかわりを要求する白銀の君に、レオニスは拍子抜けする。

 てっきり『其方達、我が君の御前で煩いですよ?』とか怒られるのかと思ったのだが。何と、白銀の君までエクスポーションのおかわりをねだってくるとは夢にも思わなかった。


 ここシュマルリ山脈南方に来る度に、レオニスの手持ちのエクスポーションが三桁単位で減っていく。

 竜族への手土産と思えば安いものだが、そろそろエクスポを買い足さなきゃならんかなー……と考えるレオニスだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 賑やかなお茶会の中、ユグドラグスが根元で解けていく氷の洞窟の氷を味わいつつ、ぽつりと呟く。


『僕にもウィカさんのような能力があったらいいのに……』

「それは…………まぁ、ラグスがそう考えるのも分からんでもないが……」

「うなぁーん?」


 ユグドラグスの呟きの意味するところを、レオニスは即座に察する。

 竜王樹の周囲にいる竜族達は、間違いなく強力無比だ。それぞれが翼を持ち、空を飛んでどこへでも移動できる。

 だが、ウィカのように水場さえあれば瞬時に遠距離移動できるというような能力はない。


 遠距離を瞬時に移動できる手段があれば、先般カタポレンの森で起きたユグドラツィの危機にも対応できるのに―――

 何もできずに手を拱いているしかなかったユグドラグス。その時の悔しさ、歯痒さは今も彼の心に深い傷となって強く残っていた。


『レオニスさん、人族にも長距離を瞬時に移動できる手段があるのですよね?』

「ああ、俺達人族には『転移門』という瞬間移動の手段がある。ただし、転移門を設置するには様々な制約があるし、俺の一存でどこにでも作れるもんじゃないが」

『そうですか…………』


 ユグドラグスの問いに、レオニスが的確かつ誠実に答える。

 人族が転移門を用いているのは事実だが、どこにでもホイホイと増設できるものではない。

 悪用を防ぐために、冒険者ギルドなり魔術師ギルドなりの公的機関に登録する必要があるし、それを怠れば処罰対象になる。

 レオニスとてユグドラグス達に協力してやりたいのは山々だが、さすがに転移門をこのシュマルリ山脈南方に作ってやる訳にはいかなかった。


『これまで僕は、このシュマルリの山々に囲まれて過ごすことに、何の疑問も不満もありませんでした。ですが…………今回のことで、それは全くの間違いだったということに気づいたんです』

「ユグドラグス……」

『神樹だ、竜王樹だと持て囃されたところで、僕自身は何もできない唐変木、独活の大木です』

「「「………………」」」


 沈み込むユグドラグスに、何と声をかけていいのか分からないライト達。

 だが、ユグドラグスはただ落ち込んでいるだけではない。

 先程レオニスに檄を飛ばされたユグドラグスは、前向きに考えていた。


『レオニスさん……可能ならば、僕にその『転移門』というものの仕組みを教えていただけませんか?』

「転移門の仕組みを……か?」

『ええ。人族が用いている長距離瞬間移動の仕組み、その理論を学ぶことで僕もそれを使えるようになりたいんです。もっとも、理論を学んだところで果たしてきちんと運用できるかどうかまでは分かりませんが……』

「………………」


 ユグドラグスの願いを聞いたレオニスが、しばし無言になり考え込む。

 レオニスは転移門の開発者であるフェネセンと親交があるため、転移門の仕組みや理論を熟知している。実際カタポレンの家やラグナロッツァの屋敷に転移門を設置したのも、レオニス自身の手によるものである。

 だから、その理論を教えようと思えばユグドラグスに教えることもできるのだ。

 ユグドラグス自身はそんなことを全く知らないが、図らずもレオニスはユグドラグスが転移門の教えを乞うのに唯一最適な人物だった。


「……分かった。今日はもうあまり時間がないから、また今度教えよう」

『本当ですか!? ありがとうございます!』

「ただし。さっきラグスが自分でも言っていたが、理論を教えたからと言って必ずしもそれを使えるようになるとは限らんぞ?」

『もちろんそれは分かっています!』

「……ま、結果はともかく、やる気があるのは良いことだしな。やるだけやってみるのも良いと思う」


 右手で己の頭をガリガリと掻きながら、ふぅ……と軽くため息をつくレオニス。

 ここで『人族の世界では違法だから』と断るのは簡単なことだ。だが、神樹という高位の存在が人族に教えを乞うということは、普通に考えてあり得ないことだ。

 己が求める力を手に入れるために、自尊心も何もかもかなぐり捨てて識者に救いを求める―――その懸命な姿に、レオニスは心動かされたのだ。


 レオニスから快諾を得られたユグドラグスが、これ以上ない程に嬉しそうに礼を言う。


『ありがとうございます、レオニス先生!これからご指導ご鞭撻の程、どうぞよろしくお願いいたします!』

「え、ちょ、待、俺が先生!?」

『はい!貴重な知識を教えていただくのですから、先生と呼ぶのは当然のことです!』

「そそそそんな……神樹から先生呼ばわりされるとか……すんげーむず痒いいいい」


 ユグドラグスの、レオニスを下にも置かぬ先生呼びに、当のレオニスが悶絶する。

 それまでずっとレオニス達の話をおとなしく聞いていたライトが、ここで参戦する。


「レオ兄ちゃん、いえ、レオ兄ちゃん先生!ぼくもラグスさんといっしょに転移門の仕組みを勉強したいです!」

「ラ、ライト!お前まで『レオ兄ちゃん先生』とか変な呼び方すんじゃねぇ!」

「えー、でもー、教えてもらうんだから先生、だよね?」

『そうですね!ライト君、僕といっしょにレオニス先生から学びましょう!』

「はい!」


 ライトとユグドラグス、生徒同士?が結託して学ぶ意思満々であることを見せつける。

 ライトからも先生呼ばわりされたレオニスが「ぐおおおおッ!」と叫びながらゴロゴロと左右に転がっている。

 先生と呼ばれることが余程むず痒いようだ。


 そんなレオニスを、白銀の君や中位ドラゴン達が楽しそうに笑いながら見ていた。

 シュマルリ山脈南方でのお茶会風景です。

 お茶会に最も喜ばれる飲み物が回復剤とか、拙作の生みの親である作者ですらも意味分かりません。

 ですがまぁ、お茶を振る舞われる側が喜んでいるのだから、問題ないでしょう!……多分。


 そして、レオニスがユグドラグスの先生になることが決定。

 たかだか百年しか生きられない人間が、千年近く生きる神樹の先生になるなど普通では考えられないことなのですが。

 新たなる力を得るためならば、人族相手にも頭を下げることのできるユグドラグス。穏和な性格の中にもなかなかに強かを持つ、心の強い子なのです。

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