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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第733話 バッカニアの実力とレオニスの実力

 氷の洞窟最奥の大広間を出て、洞窟の入口に向かうライト達一行。

 道中でバッカニアがレオニスに、今後どう行動するのかを尋ねる。


「なぁ、レオニスの旦那、これからどうすんだ?」

「そりゃもちろん。ここに来たもう一つの目的、氷蟹を狩りまくるぞ」

「くッそー、やっぱそうなるんか……」


 氷の女王との謁見のあれやこれやのどさくさ紛れに、レオニスが氷蟹のことを忘れてそのまま帰らないかなー……と一縷の望みを持ちつつ尋ねたバッカニア。見事にその願いは叶わなかった。

 がっくりと項垂れつつしおしおと萎れるバッカニアに、スパイキーやヨーキャが努めて明るく振る舞いながら励ましの言葉をかける。


「バッカニアの兄貴、ここまで来たらもう諦めなって!年貢の納め時ってヤツだ」

「そうだヨ!バッカ兄の借金一気にチャラにする大チャンスだヨ!キャッホーィ☆」

「だから!ありゃ借金なんかじゃねぇ!レオニスの旦那が勝手に水増ししまくってるだけだ!」


 励ましにもならないスパイキー達の言い分に、バッカニアがガーーーッ!と反論する。

 何とも騒がしい限りだが、バッカニアが萎れたままよりはずっといい。そしてこれがいつもの『天翔るビコルヌ』の風景であり、彼らの定番スタイルなのだ。


 賑やかなバッカニア達はさて置き、レオニスがラウルに声をかける。


「ラウル、お前はどうすんだ? 自分の分の氷蟹を自前で狩るって話だったが、氷の採取もしたいんだろう?」

「そうだな……今日はできるだけ氷の採取をしたいかな。氷蟹を狩るのは次でもいいし、何なら今日ご主人様達にたくさん狩ってもらってそれを譲ってもらってもいいんだし」

「ま、そりゃそうだなー」


 ラウルは氷蟹よりも氷の採取を優先したいらしい。

 ツェリザークの雪や氷は、ユグドラツィの大好物というだけではない。普段の料理にも愛用しているラウルにとって、在庫枯渇は割と本気で死活問題だったりする。

 通常魔物でリポップする氷蟹は次回に回してもいいが、ツェリザークの氷は本気で今すぐにでも欲しいのだ。

 今のラウルの中では『氷蟹<<<<<氷の洞窟の氷』なのである。


「じゃ、俺はバッカニア達とここら辺で魔物狩りをするから、ラウルはライトやアル達と出口に向かってくれ。氷を採るだけなら出口付近でも全く問題なかろうし、シーナが近くにいりゃ魔物も寄ってこないから氷の採取も安全にできるだろ」

「そうだな、魔物に邪魔されずに氷の採取をできるのはありがたいな。ライトもそれでいいか?」

「うん!ぼくもラウルの氷集めを手伝うよ!」


 レオニスとバッカニア達はその場に留まり、ライト達は洞窟の出口に向かう。

 それぞれのすべきことをするために、ライト達は二手に分かれていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ライト達が出口に向かってから、しばらく経った後。

 レオニス達の周囲に、不穏な空気が混じるようになる。

 強大な力を持つシーナが去り、氷の洞窟の魔物達が表に出てこようとしているのだ。


「レ、レオニスの旦那……」

「もうそろそろ魔物が出てくるぞ。氷蟹以外の魔物も出てくるだろうが、いちいち選り好みしちゃいられん。出てくる奴は全部倒すぞ」

「「「お、おう!!」」」


 レオニスの発破に、改めて気合を入れ直すバッカニア達。

 氷の洞窟を住処とする魔物は、氷蟹の他に凍砕蟲、蒼氷鬼、ブリザードホーク、氷魔兵、アイスライムなどがいる。どれも洞窟の外にはいない、氷の洞窟特有の固有種だ。

 とはいえリポップする通常魔物なので、見た目は他の地域に棲息する同種の色違いコピペなのだが。


 そしてバッカニア達の前に、一匹の凍砕蟲が現れた。

 こいつは翼竜の大好物であるビッグワームの同型色違いだ。強さは後発フィールドである氷の洞窟の凍砕蟲の方が上である。

 凍砕蟲が、バッカニア達に向かって勢いよく糸を吐き出した。

 この巨大な虫が口から吐く糸は、貴重な織物糸として使われていてツェリザークの名産品の一つとしても有名だ。


 だが、凍砕蟲から直接食らうのは危険だ。氷のように冷たい糸で捕縛されると、洞窟外の大抵の生き物は凍えて動けなくなってしまう。

 織物や生地として売られている品物は、人の手できちんと処理されているからこそ活用できるのだ。


 凍砕蟲が吐き出した糸を避けたバッカニアが反撃に出る。

 腰に佩いていた長剣を、すらりと抜いたかと思うと凍砕蟲に向けて勢いよく駆け出した。


「食らえ!千片万華(せんぺんばんか)!!」


 目にも留まらぬ素早い斬撃を繰り出すバッカニア。

 その斬撃は、糸を吐き出してきた凍砕蟲だけでなくその後ろで次に襲いかかろうとしていた氷魔兵やアイスライムまでまとめて仕留める。

 その見事な剣捌きは、普段ののほほんとしたバッカニアからは想像もつかない華麗さだ。


「おおー、相変わらずバッカニアの剣の腕はすげぇな!」

「そりゃそうさ!バッカニアの兄貴はホドの街一番の剣術道場の息子だからな!」

「そうそう!バッカ兄の剣術はホドでも一二を争う腕前だからね!キシシ!」

「よ、よせよ、お前ら……照れるじゃねぇかー」


 バッカニアの剣術を褒めるレオニスに、スパイキーもヨーキャも我が事のように胸を張る。

 この三人、全員ホドという街の出身であり、家も近所同士の幼馴染なのだ。


 バッカニアは、こう見えて実は剣術道場の息子である。

 今でも実家の道場は、ホドで最も有名な剣術道場として繁盛しているという。ただし、長兄がバッカニア並みに剣術が優秀だったのと、バッカニアが四番目の息子ということもあり、バッカニアが道場の跡継ぎになることはなかった。

 ちなみにスパイキーは花屋の息子で、ヨーキャは大工の棟梁の息子である。

 幼馴染に褒めちぎられたバッカニアは、照れ臭そうにしながらも嬉しそうである。


 レオニスやバッカニア達は、雑談しながらも絶え間なく襲いかかってくる雑魚魔物を倒し続ける。

 スパイキーが土魔法で石礫を作り出し、ヨーキャが風魔法でスパイキーの石礫を加速させながら飛ばす。

 石礫を食らった魔物達は、吹っ飛んだり気絶する。そこをバッカニアが剣術でトドメを刺して仕留める、という連携プレーだ。


 途中、レオニス達の目当てである氷蟹も何匹か出てきた。

 氷蟹に石礫を当ててベコボコにする訳にはいかないので、氷蟹だけはバッカニアの華麗な剣術のみで対応する。

 相手によって臨機応変に対応を変えることのできる『天翔るビコルヌ』は、やはり実力あるパーティーなのである。


 ちなみにレオニスはその間何をしているかというと、バッカニア達が倒した魔物を空間魔法陣に収納している。

 バッカニア達『天翔るビコルヌ』の冒険探索実績を証明するために、レオニスがポーターを務める格好だ。


 そうして順調に魔物狩りをしていたレオニス達。

 それまでずっとレオニス達目がけて襲いかかってきていた魔物が、突如途絶えた。

 息が上がりかけていたバッカニアが、呼吸を整えつつ周囲を見回す。


「……何だ? これでもう打ち止めか?」

「…………いや、違う。ボスクラスのお出ましだ」


 バッカニアの言葉を即時否定するレオニス。

 その言葉を裏付けるかのように、ズズン、ズズン……という、軽い地響きが起こる。

 そうしてレオニス達の前に現れたのは、アイスライムの変異体だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「「「「………………」」」」


 レオニス達の前に現れた、アイスライム変異体。その巨大さに、レオニス達はただただ呆然としながら見上げる。

 見た目は通常のアイスライムとほぼ変わらないのだが、サイズが違う。

 通常のアイスライムは普通のバケツの一杯分か、大きめのものでも二杯分程度だ。だが、今レオニス達の目の前にいるアイスライムは、バケツどころか浴室(・・)二つ分くらいの大きさがある。

 ここで間違えてはいけないのは、その大きさは浴槽ではない(・・・・)浴室二つ分(・・・・・)をすっぽり埋め尽くしそうな大きさなのである。


 そして、変異体の証である巨大な核が二つ。

 水色のアイスライムの身体の上部に浮かぶ真っ青な二つの核は、さながら爛々と光る目玉のようである。

 ギラギラと鋭い光を放つ二つの核が、レオニス達を見下ろしている。


「ちょ、待、何だあれ……アイスライムにしちゃデカ過ぎねぇか?」

「ありゃ変異体だな。二つの目玉のような青い珠、あれがスライムの核で二つ以上あるのは変異体の証だからな」

「変異体!? それって、通常のやつより何倍何十倍強いやつじゃねぇか!……つーか、このデカさは洒落なんねぇ、レオニスの旦那、逃げよう!」


 バッカニアがレオニスに、慌てたように撤退を進言する。

 彼が慌て焦るのも無理はない。目の前にいるアイスライム変異体は、頭が通路の天井につきそうなくらいに巨大なのだ。

 そんな巨大なアイスライムにのしかかられたら、それこそひとたまりもない。


 レオニス達は先程氷の女王から加護をもらったので、アイスライム変異体による冷気攻撃などで凍傷を負うことは絶対にない。

 だが、物理的な圧力や窒息などは別問題だ。アイスライム変異体の身体に取り込まれたりすれば息ができなくなって窒息死するし、ただ単にのしかかられてもその重さで普通に圧死してしまうだろう。


 しかし、焦りまくるバッカニアに比べて、レオニスはこれっぽっちも慌てる様子はない。

 それまで空間魔法陣に仕舞っていた大剣を取り出し、アイスライム変異体に向けて剣を構える。


「あいつは俺がやる。バッカニア達は後ろに下がってろ」

「わ、分かった。おい、スパイキー、ヨーキャ!ここから離れるぞ!」

「おう!」「うん!」


 レオニスの指示を受けたバッカニア、スパイキーとヨーキャにも大きな声で退避を促す。

 急いでその場を離れたバッカニア達が、遠くでアイスライム変異体と対峙しているレオニスを心配そうに見つめる。


 レオニスとアイスライム変異体が、しばし無言のまま睨み合う。

 先に動いたのは、アイスライム変異体。真っ青な二つの核が、ギラリ!と光ったかと思うと、レオニスに覆い被さるようにして襲いかかった。


 一方レオニスは、大剣に雷をまとわせてアイスライムの青い核目がけて斬撃を放つ。


「雷纏斬破!」


 横一閃に放たれた斬撃は、アイスライム変異体の粘体を切り裂いて核を両方とも上下真っ二つに割った。

 核を割られたアイスライム変異体は、巨体を維持できずにぐずぐずと崩れ落ちていく。


 見事にアイスライム変異体を討伐したレオニスのもとに、バッカニア達が駆け寄ってきた。


「うおおおおッ!レオニスの旦那、アンタやっぱすげーな!」

「ホントにな!あんなデカいアイスライムを一発で倒しちまうなんて!さすがはレオさんだ!」

「やはり金剛級冒険者ってのは、スゴイもんなんだねぇ……ヒーハー!」


 口々にレオニスを褒め称えながら駆け寄ってくるバッカニア達に、レオニスが慌てて声をかける。


「あ、おい!ここら辺アイスライムの粘液でビショビショだから滑るぞ!?」

「うおッ!」

「ひえッ!」

「あばばばば!」


 レオニスの忠告は一歩遅く、バッカニア達が通路内の地面にぶちまけられたアイスライムの粘液でツルッ!と滑っている。

 三人とも必死に両腕をぶん回して、バランスを取って体勢を立て直す。

 その甲斐あって、すっ転んでアイスライムの粘液にダイブしてベトベト塗れになることだけは何とか避けられたようだ。


「うおおおお、(あッぶ)ねぇー……」

「粘液が見えなかったわ……」

「スライム殺ったら粘液がぶちまけられるの、当たり前だヨね……ウヒー」


 息せき切りながら、何とかレオニスのもとに無事辿り着いたバッカニア達。

 一方でレオニスは、真っ二つに割ったアイスライムの青い核を空間魔法陣に収納している。

 そしてバケツと柄杓を取り出し、バッカニアに手渡した。


「あ、お前達、この粘液も集めてこのバケツに入れてくれるか?」

「え。この粘液も売れんの?」

「おう。アイスライム変異体の粘液は、特殊氷嚢の原材料になるらしいからな」

「特殊氷嚢? 何そのすごそうな響き」

「一度完全に凍らせたら、何もしなくてもその冷たさが最低でも三ヶ月以上保てて? なおかつノーヴェ砂漠を通る最中ですら完全に溶けきることなくラグナロッツァまで冷たさを保つんだと」

「「何ソレすごい!!」」」


 アイスライム変異体の粘液の効能?に、心底びっくりするバッカニア達。

 レオニスの言う特殊氷嚢とは、以前ライトがレオニスにツェリザーク土産として購入してきたものだ。

 その時に聞いた様々な話を、レオニスは今でもちゃんと覚えていたのだ。


「そんなすげーもんなら、買取価格もそれなりにありそうだな!」

「よーし、頑張って拾い集めるか!」

「レオニスくーん、ボクとスパイキー君にもバケツと柄杓貸してー!ヒャッハー!」

「おう、よろしくな」


 アイスライム変異体の粘液の知られざる価値を知り、バッカニア達も張り切って粘液集めに協力し始めた。

 掃除機のように強力な吸い取り機能のある魔法はないので、掬い取れそうな粘液をひたすらに柄杓で掬ってバケツに入れる。実に地味な作業だが、貴重な素材である粘液を集めることに誰も異論はない。


 そうしてアイスライム変異体の粘液をかき集めること、バケツ三十杯分。

 大量のバケツを、これまた空間魔法陣に収納していくレオニス。

 その成果に満足げな声で呟いた。


「これくらい集めればいいだろう」

「そうだな、こんだけ大量にありゃ十分だろ!…………って、レオニスの旦那、何でこんなにたくさんのバケツを持ってんの?」

「ン? そりゃまぁ……うちのライトが水コレクターでな」

「「「水コレクター???」」」


 レオニスがあまりにも大量のバケツを持っていたことに、疑問を隠すことなく素直にレオニスにぶつけるバッカニア。

 確かにバッカニアが疑問に思うのも無理はない。如何に冒険者という稼業が『備えあれば患いなし』を大原則としていても、さすがにバケツを三十個も五十個も持っているのは普通におかしいレベルである。


 そしてその答えが『ライトが水コレクターだから』というものだった。

 当然バッカニア達には理解できず、彼らの頭の上に『???』が無限に湧き上がっている。

 そう、その答えで納得するのはレオニスとライト、ラウルくらいのものなのである。


「……さ、じゃあそろそろ外に出るか」

「そうだな、氷蟹も何匹か仕留めることができたしな!」

「これでバッカニアの兄貴の借金も完済だぜ!」

「バッカ兄、借金チャラになって良かったねぇ!……ウルウル」

「だから!ありゃ借金なんかじゃねぇ!……って、これでチャラになるならもういいけどよ……」


 魔物狩りも一通りできて、アイスライム変異体というレアな魔物まで倒せたことに、大満足のレオニス。

 スパイキーもヨーキャも、バッカニアの借金がなくなったことに大喜びしている。

 唯一人、バッカニアだけが未だに『借金なんかじゃねぇ!』と抵抗しているが。完済して解放されるなら、もうどちらでもいいらしい。


 こうしてレオニス達の『氷蟹狩りツアー』は、無事閉幕したのだった。

 念願の『氷蟹狩りツアー』です。

 ぃゃー、拙作にしては珍しく久々に冒険らしい冒険話となっています。

 途中アイスライム変異体が出没しましたが、アイスライム変異体とか懐かしいー。

 その初出は第144話で、作中でもレオニスが言及していた通り特殊氷嚢の素材として登場しています。

 600話ぶりに実物のご登場、作者的に感慨深いものがあります。


 でもって、意外なことにバッカニアが剣の達人であることが判明。

 普段はツッコミ役をすることが多いバッカニアですが、黄金級間近の白銀級の実力は伊達ではないのです!

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