第725話 想定外の行き先
ジョージ商会での買い出しを早々に切り上げて、ラグナロッツァの屋敷に戻ることにしたライト達。
道中でレオニスがバッカニア達に、これからの行動を説明していく。
「これから皆でカタポレンの森に移動するぞ」
「え? 何でまたいきなりそんなとこに行くことになるんだ?」
「オーガ族に会いに行くためだ」
「「「え"え"え"え"ッ!?」」」
レオニスの突然の提案に、バッカニア達は思わず絶叫に近い驚きの声を上げる。
「ぃゃぃゃぃゃぃゃ、オーガ族に会いに行くって、どゆこと!? まさか今からオーガ族の討伐に行くってか!?」
「討伐じゃねぇよ。カタポレンの森の目覚めの湖の近くに、オーガの里があってな。そこのオーガ族は皆穏和な性格で、俺達とは友達なんだ」
「オ、オーガ族の友達って……」
「そのオーガ族は、大人の男で5メートルくらい身長があってな。子供達でも俺と同じくらいの背丈なんだ」
「も、もしかして……そのオーガ族のお下がりを、スパイキーの服として譲ってもらおうってことか?」
「正解」
ライトがレオニスに耳打ちした案、それは『オーガ族の子供の装備を譲ってもらう』であった。
確かにオーガ族ならば、背丈はスパイキーの倍以上はある。
とはいえ、オーガ族の成人男性の装備そのままをもらっても、さすがのスパイキーでも大き過ぎて着られないだろう。だがレオニスと同じような背丈の子供達の服なら、問題なく着れるはずだ。
オーガ族の服装というと、男は腰蓑一丁、女はチューブトップやホルターネックなイメージがあるが、BCO世界のオーガ達は皆上はベスト、下は膝丈のゆったりとした半ズボンを着ている。
そして、冬の防寒着や行商で旅する際の装備としてマントも持っているはずだ。
それをスパイキーのために融通してもらおう、という訳である。
「オーガって、人族と友達になれるもんなんか……?」
「レオさんのことだ、きっとオーガの頭とガチの殴り合いか腕相撲でもして、相手を負かして認めさせたんだろう……」
「確かにオーガ族は脳筋戦士族として超有名だし、レオニス君も根っからの脳筋族だもんねぇ……すんげー馬が合いそう……ウヒー」
全く想定外の話に、バッカニア達がヒソヒソと小声で話し合っている。
スパイキーやヨーキャの推測がほぼ当たっているのが、また何とも面白いことだ。
そんな話をしているうちに、ラグナロッツァの屋敷が見えてきた。
屋敷の中に入ってすぐに、レオニスが空間魔法陣を開いて何かを取り出している。
それは、カタポレンの森の魔力を吸い取る魔導具だった。先日ピースに貸し出したのと同じものである。
「お前らはカタポレンの森の魔力の耐性はないだろうから、今のうちにこれを渡しとく。適当に選んで身に着けてくれ」
「お、おう……」
腕輪やペンダント、指輪などを次々と取り出してはバッカニアに手渡していくレオニス。
バッカニアは受け取った魔導具のうち、指輪と腕輪を選んで残りをスパイキーに渡す。
スパイキーは指輪とネックレスを取り、ネックレスチェーンに指輪を通して右手首にぐるぐる巻きにする。腕輪代わりとして身に着けたようだ。
ヨーキャはタイピンとブローチを受け取り、二つとも黒ローブの襟口に着けた。
一行は階段を上り、二階の旧執務室の奥にある旧宝物庫の前に着いた。
レオニスが扉の前に立ち、手のひらを翳して掌紋認証を経て扉を開ける。
旧宝物庫の中には、冒険者ギルドにある転移門と全く同じものが設置されている。ライト達がカタポレンの家を往復するために、普段から使用している転移門である。
それを目の当たりにしたバッカニア達、ただただ感嘆するばかりだ。
「レオニスの旦那、とうとう自分の屋敷の中にまで転移門作ったんのか……」
「そりゃあな、俺の仕事は基本的にカタポレンの森の警邏だし。ライトも今はラグーン学園に通っているから、この屋敷とカタポレンの森の行き来のためだけに作ったんだ。ちゃんと冒険者ギルドにも正式登録してあるぞ?」
「レオさん達は、今でもカタポレンの森に住んでるのか?」
「向こうとこっちの半々くらいかな。一日一回は森の警邏をしなきゃならんし、それ以外にも向こうでやらなきゃならんことが何かと多いし」
「レオニス君くらいの冒険者になると、いろんな仕事抱えててすんげー忙しいんだろうねぇ……ウハァー」
レオニス他五人全員が魔法陣の中に入り、転移の準備が整った。
「皆、転移門の陣の中に入ったな?」
「「「オッケー」」」
「じゃ、行くぞー」
そうして五人はカタポレンの家に移動していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ラグナロッツァの屋敷から、カタポレンの家に転移したライト達。
行き着く先は、ライトの部屋。スッキリと片付いている部屋を、バッカニア達が物珍しそうに眺めている。
「おおお……ここがレオニスの旦那達が住むカタポレンの家、なんか?」
「おう、ここはライトの部屋だ。もともとこの転移門は、ライトがラグーン学園に通うために新設したからな」
「坊ちゃんの部屋なのか、きちんと片付けられてて偉いな」
「ホントホント。ボクら整理整頓苦手だから、片付け上手な人って羨ましいー……フゥー」
ライトはいつ人が来てもいいように、常に部屋を片付けてある。それは、自室の中に転移門があるのが原因である。
先日の神樹襲撃事件の時にもピースとともに転移してきたし、今日もまたバッカニア達『天翔るビコルヌ』の三人が突然訪問することになった。
ライトの部屋は、いわばカタポレンの森の第二の玄関口。間違っても汚部屋にして恥を晒す訳にはいかないのである。
ライトの部屋から廊下に出て、外に出るべく玄関に向かう。
廊下でバッカニア達が三人して「お邪魔しまーす」と他所様宅のお家訪問の挨拶をし、その直後に玄関から外に出て「お邪魔しましたー」と退出の挨拶までしている。
その都度挨拶をするとは、何とも律儀で生真面目な三人である。
家の外に出て真っ先に目につくのは、ラウルが開墾した畑。
森の木々と大差ないサイズのトウモロコシを始めとして、巨大なトマトやキュウリ、茄子にスイカまで実っている。その実のあまりの大きさは、嫌でもバッカニア達の目を引きまくる。
「な、なぁ、レオニスの旦那……あのでっけぇ木みてぇなのは、一体何なんだ……?」
「あー、これか? これはラウルが最近作った畑でな。オーガ族用に巨大な野菜を作りたくて始めたんだ」
「オーガ用の野菜……確かに俺達人族が普段食ってる普通の野菜じゃ、とてもじゃないがオーガには小さ過ぎるだろうなぁ」
「ていうか、あのトマト、もはや人の頭より大きいんじゃ……ヒョエー!」
バッカニア達が巨大野菜に度肝を抜かれていると、家の裏からヒョイ、とラウルが出てきた。
レオニス達の姿を見て、ラウルは不思議そうな顔で声をかけてきた。
「お? 何だ何だ、一体誰が来たのかと思ったら、ご主人様達じゃねぇか。ジョージ商会の買い出しは終わったのか?」
「あッ、ラウル!ラウルは野菜の収穫終わったの?」
「おう。収穫は一通り終えて、今は蟹殻を焼きながら倒木の丸太加工をしていたところだ」
ラウルが出てきたのを見て、ライトがラウルの方に駆け寄っていく。
ライト達が今いる場所から見て、家を挟んだ向こう側にはラウルが作った殻焼き用の焼却炉があり、倒木や切り出した木を丸太に加工するスペースもある。
今朝の朝食時に話していた通り、ラウルはここで巨大野菜の収穫や殻の焼却処理、丸太作りなどに勤しんでいたようだ。
「で? ご主人様達は何でカタポレンの森に?」
「ジョージ商会に買い出しに行ったはいいんだが、やはりスパイキーが着れそうなサイズの上着が売ってなくてな。かと言って、スパイキーをあの格好のままで氷の洞窟に連れていく訳にもいかん。もういっそのこと、オーガ族の装備品を譲ってもらおうか、という話になったんだ」
「あー、そういうことか……確かにスパイキーの身体に合う上着となると、普通には売ってなさそうだよなぁ。というか、むしろオーガのサイズの服の方が余程ぴったり合いそうだ」
「そゆこと。だから、今から皆でオーガの里に行くんだ」
レオニスがバッカニア達を連れてカタポレンの森に来た理由を、ラウルに話して聞かせるレオニス。
その理由に、ラウルも頷きながら納得している。
「ならついでに、俺もオーガの里についていっていいか? 俺もそろそろオーガの里の宴の話を詰めたいところだったし」
「おう、いいぞ。ただし、焼却炉の火はちゃんと落としとけよ。そのまま放置して、まかり間違って火事にでもなったら洒落にならん」
「了解。ちと焼却炉の処理をしてくるから、ご主人様達は野菜の実り具合でも眺めながらしばらく待っててくれ」
「はいよー」
レオニス達がオーガの里に行くと聞いたラウル、すかさず同行を求める。
近々オーガの里で催される宴には、その料理全般や食材をラウルが提供するのだ。
ここ最近何かと忙しく、オーガの里を訪問できていなかったラウルだったが、まさに渡りに船である。
ラウルを待つ間、ライトがバッカニア達に巨大野菜や畑のことなど解説をしている。
「つーか、カタポレンの森で野菜を育てると、こんな大きくなるんか……」
「毎朝の水遣りの水にポーションとかエーテルを混ぜたりして、いろいろ工夫してるんですよー」
「これ、味はどうなんだ? 普通に食えるのか?」
「普通の大きさの野菜と同じで、とても美味しいですよー。むしろここで育った野菜の方が、味が濃くて美味しいかもー」
「そうなの!? ねぇねぇライト君、帰りにトマト一つもらってもいいかな? ボク、トマトが大好物なんだヨね!ウヒャヒャ☆」
「いいですよー。帰ったらラウルに一番良いのを選んでもらいましょうね!」
自分達の何倍も大きい野菜を、興味津々な目で下から見上げるバッカニア達。
他にも四阿を見ては「おお、四阿まであんのか!すげー!」と言いながら近寄っていったり、トウモロコシの根元の茎を眺めながら「こんなんほとんど木じゃん!」と驚愕している。
そうしてしばらく待っていると、ラウルがレオニス達のもとに戻ってきた。
「お待たせ。ちゃんと炉の火を落としてきたぞ」
「おう、そしたら皆でオーガの里に行くか。バッカニア、お前達森の中は走れるか?」
「チッチッチ。レオニスの旦那、俺達『天翔るビコルヌ』を舐めてもらっちゃ困るぜ? 俺達だって冒険者の端くれだ、日々の体力作りだって欠かしてねぇからな!」
「あ、俺も一応頑張るけども……走りはあんま自信ないから、ゆっくり行ってくれるとありがたいんだが」
「ぁー、ボクもあんま体力ないから自信なぁーい……つーか、身体強化の呪符使わないと……ムリポ」
レオニスの問いに、バッカニアは不敵な笑みを浮かべて超やる気満々の意思表示をしている。
だが、体力に自信があるのはバッカニアだけで、スパイキーとヨーキャはあまり自信がないようだ。
せっかくリーダーが張り切っているのに、他のメンバー二人の素直過ぎる有り様に「お、お前ら……俺が珍しく率先してやる気出してるってのに……」とがっくりと項垂れるバッカニア。
しかし、できないものをできる!と言い張って虚言になるよりは、最初から正直にできん!と申請した方が余程マシで誠実とも言える。
というか、リーダーが『珍しく率先しているのに』と自ら宣う時点でダメダメである。
バッカニア達の様子に、はぁ……とレオニスがため息をつく。
そして徐に空間魔法陣を開き、数枚の呪符を取り出してスパイキーとヨーキャに渡した。
「しゃあない、俺の手持ちの呪符をやるから使え」
「レオさん、いいのか!? ありがとう!」
「おう、明日の朝イチに魔術師ギルドに寄って補充すりゃ問題ない」
「レオニス君、愛してる!ウッキャー♪」
「ヨーキャ、お前ね、ピースみたいなこと言うんじゃないよ……」
レオニスが二人に渡したのは、敏捷アップの呪符(商品名:『韋駄天の呪符』)とスタミナアップの呪符(同:『持久力マシマシの呪符』)。
その二つを使えば、森の中で走るのも苦にならないだろう。
レオニスからの強力な支援に、スパイキーもヨーキャ大喜びしている。
その大喜びの二人の後ろで、バッカニアが羨ましそうに「……いいなぁー、俺も呪符使いてぇー……」と小さな声で呟いているが、残念なことにスパイキー達が呪符を勢いよくバリバリッ!と破く音に掻き消されてしまう。
「さ、じゃあぼちぼちオーガの里に行くぞ」
「「「「「おーーー!」」」」」
準備万端整った一同は、オーガの里目指して駆け出していった。
巨体スパイキーの上着問題を解決すべく、オーガの里に向かうライト達。
ぃゃー、前話で読者様から『10L以上のサイズって想像できない。オーガ族か?』という、実に鋭い感想をいただいた時には正直焦りました><
さすがに感想欄で次話のネタばらしをする訳にもいかず、バレない程度にお返事させていただいたのですが。
まぁ、ありきたりというか先が読めちゃう展開だったということですよね。これはひとえに作者の力量不足ということで反省_| ̄|●
でも、スパイキーは先祖代々人間で、オーガ族の血は入っていません!体格がずば抜けて大きいというだけで、それ以外は極々普通の善良な子なんです!……って、手入れ要らずの全自動形状記憶合金モヒカンヘアはちと普通じゃない、かも?( ̄ω ̄)




