第716話 一日早いプレゼント
新年あけましておめでとうございます。
今年も執筆頑張りますので、ご声援いただけましたら嬉しいです。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
ユリウスに案内されて、店内エリアに移動するライト達。
ライトが欲しいのは、ワンドを腰に佩くための帯。主力商品である杖ではないので、他の周辺商品とともに店舗内の端の方に数種類が展示されている。
展示品の前にまで来たユリウスが、ライト達に商品の解説をする。
「こちらが杖を身に着けて装備するための帯でございます。当工房が信頼を置く一流の革職人が、丹精込めて作り上げた一点物です」
「子供のライトでも着けられるものとなると、どれがいい?」
「そうですね……お子様向けのものはありませんが、女性向けのものに新たにベルト穴を増設すればライト君でも使えるようになるかと」
「そしたら女性向けの品をいくつか出してもらえるか?」
「承知いたしました」
ショーケースの中に綺麗に並べられた品物の中から、二つを手に取りライトの前に差し出した。
「こちらが女性用のワンドホルダーです。今ある在庫の中ですと、色はこの濃茶と赤茶のどちらかになりますが……」
「そしたら、この濃茶でお願いします」
「畏まりました」
二色を提示されたライトは、迷うことなく濃茶を選ぶ。
やはり女性向けだけあって、濃茶も赤茶も男女どちらでも身に着けられる色だ。個人的に濃茶の方が気に入ったので、ライトはそれを選んだのだ。
次にユリウスは、レオニスに向かって問うた。
「レオニスさん、ベルト穴の加工は如何いたしますか?」
「このまま持って帰りたいから、そのままでいい。ベルト穴の一つや二つ、自分達で何とかするさ」
「承知いたしました」
このやり取りを聞いていた周囲から、何故か少しだけざわめきが起こった。
それは、工房主直々の接客が気になって気になって仕方がない従業員や、従業員以外の何も知らない客達の『えッ!? この店のものは全部高級な一点物なのに、自分達で適当に改造するの!?』という無言のうちの驚愕のざわめきである。
だがしかし、従業員がそれを表立って口にしたり非難することはない。
彼らはレオニス達が工房主であるユリウスの貴賓客であることを知っている。
雇い主の接客を邪魔したり阻害する程、彼らも愚かではない。
そもそもユリウスが自ら接客すること自体、かなり珍しいことだ。
これまでの例で言えば、王侯貴族の中でも侯爵以上でないとユリウスが出てくることはない。伯爵以下は全て貴族担当の従業員が接客している。
工房主自らが接客をする―――それはこの『至高の杖ユリウスの館』において特例中の特例なのだ。
「では、専用のお箱にお包みいたしますので、こちらにお越しください」
「あ、そういうのはいい。このまま持ち帰るから、会計だけ頼む」
「畏まりました。ではあちらのお部屋にご案内いたします」
高級店につきもののお高い梱包を拒否し、会計だけ促すレオニス。
ユリウスはライトが所望した濃茶のワンド用ホルダーを手に持ったまま、別室に移動した。この工房の杖は高額商品が多く、その支払いもセキュリティのため別室で行われることが多いのだ。
ユリウスの案内で、店内エリアのすぐ隣にある別室に入ったライト達。
応接ソファに座り、空間魔法陣から財布を取り出すレオニス。ホルダーの代金である2400Gをユリウスに差し出した。
「本当はこのお代も不要なくらいなんですが……」
「ま、これくらいは収めといてくれ」
「ですよね。レオニスさんならそう仰ると思いました」
ふふふ、と苦笑しながら代金を受け取るユリウス。
代金をきちんと支払ったことで、ホルダーも晴れてライトのものになった。
2400Gとは日本円にして24000円、なかなかにいいお値段だ。
だが、超一流の工房が提供する品物だ。このくらいの値段はして当然なのだろう。
ホルダーを買ってくれたレオニスに、ライトが嬉しそうに礼を言う。
「レオ兄ちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして。明日はお前の誕生日だからな、一日早い誕生日プレゼントだ。ワンドと合わせて俺とツィちゃんからのプレゼントだ、大切に使ってくれ」
「うん!!……あ、そういえば夏にはツィちゃんの誕生日祝いもしないとね!」
「そうだな。ツィちゃんも元気になったことだし、ライトの誕生日にツィちゃんの誕生日パーティーをするか」
「賛成ー!」
レオニスの思いがけない提案に、ライトが両手を上げて賛成する。
今日は八月十一日、そしてライトの誕生日は八月十二日。そう、明日はライトの九歳の誕生日なのである。
「おお、明日はライト君の誕生日なのですか。それはおめでとうございます。ライト君は何歳になるのですか?」
「九歳になります!」
「やはりライト君も、将来はレオニスさんと同じ冒険者になるのですか?」
「はい!」
ユリウスに将来の夢を聞かれたライトは、とびっきり明るい笑顔で首肯する。
そんなライトの眩しい笑顔に、保護者であるレオニスはもちろんのことラウルも嬉しそうに微笑む。
「そうだよな、ライトも俺やグラン兄と同じ冒険者になるんだもんな!」
「俺もこないだ冒険者になったばかりだが、ライトが冒険者になるまでに少しでも階級を上げて立派な先輩にならんとな」
「こんなに立派な先達に囲まれて、ライト君の将来が今から楽しみですね」
「そ、そんな……でも、皆の期待に応えられるように頑張ります!」
嬉しそうに話す大人達の喜びように、ライトも照れ臭そうにはにかむ。
すると、ここでユリウスがレオニスに向かって問いかけてきた。
「ところで……先程のお話ですと、ユグドラツィ様の誕生日も明日なのですか?」
「あー、ツィちゃんの細かい誕生日まではさすがに分からんのだがな。ツィちゃんの記憶によると、どうも夏に生まれたっぽい。それで、誕生日のパーティーを夏にしようって約束してるんだ」
「そうなのですか……ユグドラツィ様が生まれたのは夏なのですね。それは初めて知りました」
神樹に詳しいユリウスでも、さすがに神樹一本一本の誕生日までは分からないようだ。
それもそのはず、一番歳若い竜王樹ユグドラグスですら齢九百歳を超えるのだ。そんな大昔のことを、ユリウスが知りようはずもない。
「ツィちゃんはあと五年で千歳になるんだと」
「それは目出度いですね!……私も五年後には、是非ともユグドラツィ様の誕生日祝いに行きたいものです」
「ンー……まぁ魔力吸収の魔導具を複数持てば、魔力耐性のない人間でも数時間はカタポレンの森に滞在できるが……」
「そうなのですか!? その時は是非ともごいっしょさせていただきたいのですが!!」
レオニスがぽろりと呟いた言葉に、ユリウスが身を乗り出して食いついてきた。
あまりの食いつきっぷりに、レオニスも「ぉ、ぉぅ……」と言いながらタジタジしている。
「だが、あんただって工房の仕事が忙しいんだろう? それこそ杖の特注の仕事が、何年先まで全部埋まって決まってるんだろ?」
「来年からは、当工房でもお盆休みを一週間設けることにします!そうすれば堂々と休みを取れて、従業員の福利厚生にもなりますし!」
「ぉ、ぉぅ……それはまぁ、良いこと、なんだろうな……」
五年後のユグドラツィの生誕千歳の誕生日を祝うためだけに、工房の休暇としてお盆休みを新設するというユリウス。
なかなかに強引な方策だが、経営者だからこそできる技である。それに、休みが増えるのは従業員にとっても良いことである。
「レオニスさん!明日ユグドラツィ様にお会いするのでしたら、この不肖ユリウスが心よりユグドラツィ様の誕生日をお祝い申し上げていた、とよろしくお伝えくださいませ!」
「あ、ああ、承知した」
「直接お祝いの言葉を伝えられないのが、甚だ残念ではありますが……五年後には絶対に、絶ッッッ対に!このユリウスもお祝いに駆けつけます!ともお伝えください!」
「分かった。ツィちゃんにちゃんと伝えておこう」
「ありがとうございます!」
今年のユグドラツィの誕生日パーティーに行けないことを、くッーーーッ!と呻きながら悔しがるユリウス。
さすがに今日聞いたから明日は臨時休業にする!とまではいかないようだ。いくら経営者といえども、そこまでの強権を振るう訳にもいくまい。
テーブル越しに座るレオニスの両手をガッシリと握り、ブンブンブブブン!と激しく上下に振るユリウス。本日二度目の感激の握手である。
「さ、ワンドも無事受け取ってホルダーも買ったことだし、そろそろ次の工房に行くか」
「うん!ユリウスさん、今日はいろいろとありがとうございました!」
「こちらこそいろんなお話を伺えて、とても楽しいひと時を過ごすことができました。神樹の枝のワンドも大切にお使いくださいね」
「はい!」
将来ともにユグドラツィの誕生日を祝う約束を交わしたライト達。
超ご機嫌のユリウスに、店の外まで見送られながら『至高の杖ユリウスの館』を後にした。
改めまして、新年明けましておめでとうございます。
読者の皆様方は、年末年始をどのようにお過ごしでしょうか。
作者はまぁ毎年寝正月が定番で、コタツでぬくぬくゴロゴロしながらスマホでポチポチとサイサクス世界の物語を綴っております。
本当は一日家の中でゴロゴロしたかったのですが、豚の角煮に使う生姜を買い忘れてしまい。今日の夕方にスーパーにちょっとだけ買い物に行きました。
地元系スーパーは軒並み元旦休み&二日からの営業で開いてなかったので、他県系スーパーに出かけたのですが。なかなかに繁盛していました。
スーパーやコンビニなど、年末年始も変わらず働く人達がいてくれるおかげで、私もこうして買い物できるのよねぇ……と感謝することしきりでした。
拙作は相も変わらず基本スローペースですが、これからも読者の皆様方に楽しいと思ってもらえるような物語を書けるよう、日々頑張ります。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます<(_ _)>




