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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第713話 活動再開

 ユグドラツィを襲った事件が終息し、ユグドラツィ自身の意識も無事戻ったことで一安心したライト達。

 ただし、事件そのものが完全に解決した訳ではない。倒したのは謎の黒い粘液体であって、背後にいるであろう黒幕の廃都の魔城の四帝を倒した訳ではないからだ。


 とはいえ、それら裏側に潜む真の敵をすぐに倒すことは不可能だ。それに、ひとまずユグドラツィが心身ともに無事だったことは素直に喜ばしいことである。

 なので、それまで一時中断していたライトの夏休みのあれやこれやを再開することにした。


 ライト達の当初の計画のうち、中断していたのは以下の五つである



 1.氷の女王に謁見(日帰り)

 2.八咫烏の里訪問(一泊二日)

 3.竜王樹に謁見(日帰り)

 4.ファングの街(日帰り)

 5.氷蟹狩りツアー(日帰り)



 このうち八咫烏の里訪問と竜王樹謁見は、少し後回しにすることにした。

 八咫烏の里は、ユグドラツィ襲撃事件にて援軍に来てくれた礼もしなければならないためである。

 その際にはまたラウルの作るご馳走を持参することを約束したため、その用意や支度をする準備期間が少々必要なのだ。

 竜王樹謁見も、白銀の君がユグドラツィのもとに駆けつけてきていた。その時にライト達とも会って話をしたばかりなので、竜王樹訪問ももう数日後でもいいか、となったのである。


 残る三つのうち、二つは氷の洞窟関連だ。

 だが、この氷の洞窟という場所もなかなかに曲者で、夏といえどもそれなりの準備をして挑まねばならない。

 さすがのライト達も、炎の洞窟行きとユグドラツィ襲撃事件を連続でこなした直後に氷の洞窟に挑む気にはなれなかった。


 という訳で、消去法により残った選択肢はファングの街となった。

 ファングの街には、ライトやラウルがオーダーした特注のワンドや包丁を受け取りに行くだけだ。ならば冒険要素は絡まないので、一日のんびりと過ごせるはずである。

 ライト達の疲れきった心身の今しばらくの休養も兼ねるつもりで、ユグドラツィが目覚めた日の二日後にライト、レオニス、ラウルの三人でファングの街に繰り出した。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 冒険者ギルドネツァク支部の転移門を出て、まずライト達が一番最初に向かったのは斧職人ガラルドの工房。

 ここにはライトの同級生のイグニスの父親、スヴァロが鍛冶職人の修行で勤めているのだ。

 イグニスから父親と母親宛の手紙を預っており、ファングに行った時には必ず手渡すと約束しているのである。


『戦斧ガラルド工房』という看板が掲げられた店に辿り着いたライト達。早速店の中に入っていく。


「ごめんくださーい」


 ライトが先陣切って店の中で呼びかけると、奥の方から人が出てきた。

 イグニスの父、スヴァロである。


「いらっしゃーい……って、ライト君か!」

「イグニス君のお父さん、こんにちは!」

「ようこそいらっしゃい。こないだはイグニスからの手紙を届けてくれてありがとう」

「どういたしまして!今日もイグニス君からお父さんお母さん宛の手紙を預ってきました!」


 ライトはスヴァロに挨拶をすると、アイテムリュックからイグニスの手紙を二通取り出した。今回も父親宛と母親宛が別々にあり、どちらもとても分厚い封筒になっている。

 イグニスの思いの丈が詰まった二通の手紙を、ライトがスヴァロに手渡した。


「いつもありがとう……君には本当に世話になってばかりだな」

「そんなことないです!ぼくの方こそ、イグニス君にはいつも仲良くしてもらってますし!それに、ここにいるラウルもペレ鍛冶屋さんにはいっつもお世話になってるんですよ!ね、ラウル?」

「ああ。ペレ鍛冶屋には、今でも週二で刃物の研ぎを依頼している。ペレのおやっさんの腕前はラグナロッツァ(いち)だからな」


 スヴァロの礼の言葉に、ライトは恐縮しながら横にいたラウルに話を振る。

 ラウルは今でも週に二回、手持ちの包丁を一本づつペレ鍛冶屋に研ぎに出している。

 ラウルがペレ鍛冶屋に包丁を研ぎに出すようになってから、九ヶ月くらいは経過しているはずだが、未だに包丁研ぎの依頼を継続しているらしい。一体ラウルの包丁コレクションはどれくらいあるのだろう。もしかして、三桁どころか四桁突破しているのではなかろうか。


「そうだったのか!親子三代に渡り世話になりっぱなしとは、恩が溜まっていくばかりだな。何か少しでも恩返しができればいいんだが、さすがに君達は戦斧とは無縁だろうし……俺がラグナロッツァに帰るまで待っててもらうしかないな」

「あ、そしたら俺、作ってもらいたい斧があるんだが」


 恩返ししたくても当分できない、と申し訳なさそうにしているスヴァロに、突如ラウルが斧が欲しいと言い出したではないか。

 突然のことに、ライトが驚いたようにラウルに問うた。


「え? 斧? ラウル、斧なんて使うの?」

「ああ。砂漠蟹や氷蟹の解体用に、手頃な手斧が一つ欲しいんだ」

「あー、そういや前にそんな話してたねー」


 ラウルが作ってもらいたい斧とは、普通の斧ではなく各種蟹の解体用の手斧だという。

 さすがラウル、斧ですらも調理器具コレクション入りさせるつもりのようだ。

 すると、ライトとラウルの話を聞いていたスヴァロが話に加わってきた。


「砂漠蟹や氷蟹の解体用の手斧って……砂漠蟹職人みたいなことを言うんだな」

「そりゃネツァクのルド兄弟のところで話を聞いてきたからな」

「そうなのか!?」

「ああ、ルド兄弟は代々伝わるアダマント製の手斧を使ってるそうだな。俺もそれと同じようなアダマント製の手斧が欲しいんだが」

「ルド兄弟のことまで知ってるとは……」


 ラウルの話にスヴァロがびっくりした顔をしている。

 スヴァロ自身もルド兄弟のことを知っているようだ。

 最初はスヴァロも『砂漠蟹職人』とぼかしていたが、ラウルの口からルド兄弟の名が出たことで知り合い同士ということを確信していた。


「やはりルド兄弟もここで斧の手入れをしてるのか?」

「ああ。ルド兄弟が代々使う斧は、このガラルド工房の先々代が作った業物だからな。年に二回は必ず手入れに来ている」

「そうなのか。かなり付き合いが長いんだな」


 スヴァロの話によると、ルド兄弟が使う手斧はこのガラルド工房で作られた業物だという。

 ルド兄弟の手斧は彼等の三代前、曾祖父から受け継いだものだと言っていた。

 その製作者はガラルド工房の先々代。その時から今日まで、斧の手入れを通して双方長い付き合いがあるようだ。


 そういった長い付き合いがあるということは、信頼関係がしっかりと成り立っている証であり、信頼できる工房であることの裏付けでもある。

 是非ともこういう工房で手斧が欲しい、という気持ちがラウルの中でますます強まる。

 早速ラウルはアダマント製手斧のオーダー交渉に入った。


「そしたら、ルド兄弟の持つアダマントの手斧に近いものを一本作ってもらえるか?」

「とりあえず親方に相談してくる。今アダマントの鉱石の在庫があるかどうかも確認しなきゃならんし」

「アダマント鉱石がないかもしれないってことか?」

「ああ。アダマント製の戦斧は、余程の力自慢の斧使いでもないと注文が入らないんだ。そもそもアダマント自体がかなり貴重な特殊金属だし」


 ラウルが所望するアダマント製の手斧。

 アダマントという特殊金属は、数ある金属類の中でも屈指の重たい部類である。ルド兄弟の手斧のように、鉈や草刈り鎌などの小型の刃物に使われることも稀にあるが、その主な用途は戦斧である。


 しかし、アダマント製の戦斧は超重量級の武器で取り扱いがかなり難しい。それ故、斧専門工房であっても滅多に売れることがない。

 その上、アダマントの鉱石も採掘量がかなり少ない稀少な鉱石。お馴染みの鉄や銅などと違い、アダマント鉱石が常に工房にあるとは限らないのだ。


「お客さん方、うちの他にもまだこのファングに用事はあるか?」

「今から俺が包丁職人に特注した包丁と、この小さなご主人様用に特注したワンドの二つを受け取りに行かなきゃならん」

「そうか。そしたらファングの街を出る前に、またここに寄ってくれるか? それまでに親方に決めてもらうし、ライト君に手紙の返事も書いて渡せると思うから」


 この後の予定を聞いてきたスヴァロに、ラウルが正直に答える。

 ラウル達が他の工房に出かけている間に、アダマントの在庫確認や斧職人ガラルドと話し合って納期や金額を決めていくのだろう。

 もちろんラウルに否やはない。ラウルだけでなく、ライトもまた友人イグニスから託された使命があるのだから。


「承知した。もともとうちの小さなご主人様も、イグニスへの手紙の返事をもらいに再びここに来なきゃならんしな」

「うん!イグニス君もお父さんお母さんの返事のお手紙を、すっごく楽しみにしてるからね!」


 ラウルが横にいたライトの頭をくしゃくしゃと撫でる。

 友のささやかな願いを叶えようとするライトを、ラウルは無言のうちに褒め称えているのだ。


「ライト君、いつもありがとう。そしたらまた後で皆で来てくれ。アダマントの新作の手斧なんて、俺がここに修行に入ってから一度も受けたことがないから、値段は俺にも全く分からんが……親方に頼んで、出来る限り値段を抑えてもらえるように話しておくから」

「そりゃありがたい。俺も今からオリハルコン包丁の残りの支払いがあるんでな」

「……バーナードのところで、オリハルコン包丁なんてとんでも珍しい注文が入ったって話は、少し前にかなり話題になっていたが……お客さんが発注主だったのか……」


 値段を勉強するよう努力する、というスヴァロにラウルが嬉しそうにしている。

 そう、ラウルには今から半年前に包丁工房バーナードでオーダーしたオリハルコン包丁の支払いを控えているのだ。

 もちろんラウルとしても、これからも各種殻処理依頼で稼ぐつもりではある。だがそれはそれとして、新たに購入するアダマント手斧の価格が少しでもお安くなれば助かるというものだ。


 そしてスヴァロはスヴァロで、オリハルコン包丁を注文したのがラウルだと知りかなりびっくりしている。

 やはりこの職人の街ファングにあっても、ラウルが注文したオリハルコン包丁は相当に珍しいオーダーだったようだ。

 並み居る職人達の度肝を抜く規格外の特注、それこそがオリハルコン包丁なのである。


「じゃ、また後でくる。職人の親方さんに、くれぐれもよろしく伝えておいてくれ」

「分かった。手斧の値段交渉も頑張るが、まぁ俺もまだ弟子の身分なのであまり期待しないでくれるとありがたい」

「ああ、無理しない程度でいいからな」


 ラウルの新しいオーダーも一通り伝え終えたので、ライト達は工房を出るため入口の扉を開ける。

 外に出ながらの会話の中で、ライトがスヴァロに声をかける。


「イグニス君のお父さん、イグニス君に返事のお手紙たくさん書いてあげてくださいね!」

「ああ、ありがとう。今からまた急いで母さんにも手紙を書くよう伝えてくるよ」

「よろしくお願いします!」


 ガラルド工房での用事を全て終えたライト達は、店の外まで出てきたスヴァロに見送られながら工房を後にした。

 ユグドラツィの襲撃事件により中断していた、ライトの様々なお出かけ予定の再開です。

 第619話で挙げていた予定のうち、行けていないのは五つ。それらを再び予定を組み直して、まずは気軽に行けそうなファングの街に決定。

 これまでキツい話と戦後処理話が長く続いたので、しばらくはゆっくりゆったり過ごせるといいな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 日帰り予定が多い夏休みでしたね。 ツィちゃんが無事でよかったです。 更新お疲れ様です。応援してます。
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