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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第709話 ピースの診断

 しばらく黙々とユグドラツィ周辺の片付けをしていたレオニス達。

 そしてふと気がつけば、太陽が真上に上ってきている。

 それに気づいたレオニスが、ラウルとピースに声をかけた。


「おーい、そろそろ昼飯にするかー?」

「ああ、もうそんな時間か」

「そだねー、小生もぼちぼちお腹空いてきたよー」


 三人は片付けの手を止めて、一ヶ所に集まった。

 レオニスが地面に敷物を敷き、ラウルがおにぎりやサンドイッチなどの手軽に食べられるものを適当に出していき、ピースは三人に浄化魔法をかけた後敷物の上に座りワクテカ顔で待機している。

 そしてレオニスの「いっただっきまーす!」のかけ声を皮切りに、それぞれが昼食を手に取り食べていく。


「さすがにこの量は、一日じゃ片付けは終わらんなぁ」

「だねぇ。三人がかりでもあと二日くらいはかかりそうー」

「それでもご主人様達が来て手伝ってくれたおかげで、だいぶ捗ったよ。ありがとうな」

「いいってことよ」

「うんうん!まぁでも、小生がお手伝いできるのは今日くらいだけどねぃ」

「それだけでも十分だ。……ま、ツィちゃんもまだもうしばらく寝てるだろうから、のんびりやるさ」


 レオニスとピースは午前中の二時間ほど手伝っただけだが、辺りを見るとまだ蟲の死骸が山ほど残っている。

 するとここで、レオニスがぽつりと呟く。


「しかし、夏に大量の蟲の死骸を放置し続けるってのもなぁ……炎天下で腐敗が進むのも早いんじゃね?」

「「………………」」


 レオニスの呟きに、ラウルとピースの食べる手が止まる。そしてラウルの首はグギギギギ……という軋んだ音を立てつつ、レオニスの方にラウルの顔が向けられていく。

 眉目秀麗なラウルの目は大きく見開かれ、言葉を失うどころか息すらも止まってしまっているようだ。


 何の気なしにふとレオニスが思わずもらしたその呟きは、決して食事時にしていいような話ではない。だが、現実問題として直視を避けていい問題でもない。

 季節は夏真っ只中。ユグドラツィの豊かな緑の葉の繁みを失った今、この周辺は夏の暑い日射しを浴び続ける。

 その炎天下の日射しを、長時間浴び続けた首狩り蟲の死骸がどうなるか―――日を置かずすぐに腐敗が進行するであろうことは、想像に難くなかった。


 しばし時が停止していたラウルとピース。

 はたと我に返ったラウル、手に持っていたハンバーガーをバクバクバクバク!とものすごい勢いで食べていく。

 数秒でほぼ全部を口に詰め込み、咀嚼する間も惜しいとばかりにゴクン!と一気に飲み込んでから、スクッ!と立ち上がった。


「……よし、片付けを再開するぞ。ご主人様達もサクッと食べ終えて早いとこ復帰してくれ!」

「お、おう……」

「人手が多いうちに、少しでも片付けを手伝ってもらわなきゃならんからな、よろしく頼む!」

「う、うん……」


 ラウルはそう言い残すと、さっさと片付けに戻ってしまった。

 それまで倒木の処理をしていたラウルだったが、少なくともすぐには腐敗しない倒木は後回しにして、再び蟲の死骸の処理の方に回ったようだ。

 何やらラウルはまた土魔法で穴を掘っている。焼却炉代わりの深い穴を増産するつもりらしい。

 焼き場を増やして処理能力を爆上げしてやる!ということだろう。

 ラウルの勢いに呆気にとられていたレオニスとピースも、慌てて今食べていた分を急ぎ食べ終えて片付けの手伝いを再開していった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その後ラウルの働きにより、蟲の死骸処理用の穴を十個から二十個に大増量したレオニス達。

 残骸の後片付けを再開してから、しばらくした頃のこと。

 ライトがユグドラツィのものに駆けつけてきた。


「ラウルー、レオ兄ちゃーん、ピィちゃーん、いるー?」

「おう、ライト、こっちだー」


 ライトの声を聞いたレオニスがまず反応し、同じくその声を聞きつけたラウルやピースもライトのもとに寄ってきた。


「お、ライトも来てくれたのか?」

「うん!午前中は学園の夏休みの宿題をしてたんだ。来るのが遅くなっちゃってごめんね」

「そんなことないさ。きっとツィちゃんだって喜んでくれてるさ」

「だといいな!」


 レオニス達より遅くに来たことを詫びるライト。

 他のお出かけがしばらく延期になったので、今日のライトはラグーン学園の夏休みの宿題をすることにしたのだ。


 まだ残っていたプリント類やらポスターを描いたりしていたが、やはりユグドラツィのことが気になって仕方がないライト。

 午後はユグドラツィのお見舞いに行く!と決め、昼ご飯を一人で食べた後すぐに駆けつけてきた、という訳だ。


「ところで、皆は今何をしてるの?」

「主に蟲どもの死骸の後片付けをしている。さっさと片付けんとな、蟲どもが腐り始めたら敵わん」

「あー……そうだねー……」


 ラウルの言葉に、小さな声で同意しつつ納得するライト。

 ライトもまた炎天下での蟲の死骸の放置がどうなるか、すぐに想像できた。


「よし、そしたらぼくもお片付けの手伝いするよ!」

「いいのか? 蟲の死骸とか重たいぞ?」

「大丈夫!レオ兄ちゃん、ぼくでも何かお手伝いできることはある?」

「そうだなぁ……ああ、そしたら風魔法の練習を兼ねて、穴に入れた蟲の死骸や枝葉の乾燥を手伝ってもらうか」

「分かった!」

「……くれぐれも、威力調整を怠るなよ?」

「うん!任せて!」


 ライトに話を振られたレオニスが、ライトでも手伝えそうな風魔法の乾燥を提案した。

 確かにライトは夏休み入る直前に、各種魔法の適性を見るテストをした。その結果、地水火風の四属性の魔法が使えることが分かっている。

 中でも風魔法を用いた乾燥作業なら、子供のライトでも十分手伝いの戦力となるはずだ。

 ただし、テストの時のようにとんでもない威力を発揮されたら敵わないので、そこら辺はレオニスもしっかりと釘を刺してきたが。


 レオニス達に倣い、マスク代わりのバンダナで口元を覆い隠すようにして装備するライト。土埃避けと瘴気避けも兼ねた簡易的な対処である。

 するとここで、ピースがライトに話しかけてきた。


「ライっち、いいところに来てくれたね!そしたら小生、神樹の様子を観察する方に回っていいかな?」

「うん、いいよ!魔術師ギルドマスターのピィちゃんに診察してもらったら、ツィちゃんが目覚めるのも早くなるかもしれないしね!」

「ありがとう!まだ悪いものが残っていないかとか、ちゃんとよーく調べてくるからねぃ!」


 ライトという新たな片付け戦力の援軍が来たことで、ピースはユグドラツィの観察に回るという。

 もともとピースは、ここにはユグドラツィ襲撃事件の現場検証や振り返りの総括をしに来たのだ。

 話の流れと状況的に後片付けに加わっていたが、日の明るいうちに現場検証もきちんとしておかねばならないのである。


 後片付けの手伝いの続きをライトに任せ、早速マイ箒に跨がってユグドラツィのあちこちを調べ始めるピース。

 何枚かの呪符を取り出して置いてみたり、ポーションやエーテルっぽい瓶から液体をかけたりしているようだ。

 根元から幹、上部で僅かに残っている太い枝やその分岐点の窪みなど、ピースはその鋭い観察眼で隅から隅までじっくりとしていく。


 その間ライトは、レオニスの言いつけ通り風魔法で枝葉や蟲の死骸を乾燥させていく。

 例えば切った木を乾燥させる場合なら、木の中に内包されている水分を水球のイメージで取り出すこともできるが、蟲の死骸相手にそれはあまりしたくない。


 いや、BCOの魔物由来の素材として『首狩り蟲の体液』とか、おそらくは実際に存在するはずだ、とライトも思う。虫系魔物の素材においては、その体液もまたド定番のアイテムだからだ。

 そして、ライトがその気になれば生産職スキル【遠心分離】を使って、瞬時に水分だけを取り出すことも可能だ。そうすれば、完全に水分を失った死骸の方も、乾燥しきって粉々の状態になって焼却処分もかなり楽になるはずである。

 しかし、今ここでそれを素材として取り出す気はライトにはさらさらなかった。


 まずレオニス達のいる前で【遠心分離】を実行する訳にはいかないし、何よりここに転がる数多の残骸はユグドラツィを襲撃し傷つけ続けた敵。そんな憎き敵を、素材として活用するなど論外だった。

 もし将来的に『首狩り蟲の体液』が必要になる時が来るとしても、それを得るのは今ではない。

 必要になった時に、また新たに首狩り蟲を探して採取すればいいのだから。


 そんなことを考えながら、ライトは風魔法を使って蟲の死骸や神樹の枝葉を乾燥させていく。

 夏の日中の空気よりも熱い温度の熱風を当てて、ドライヤーをかけるようにして水分を徐々に飛ばす。

 大きくて深い穴なので、弱い出力では迅速な効果が期待できない。なので、気持ち少し強めの熱風をしばらく当ててから別の穴に移動する。

 熱風を当ててからしばし放置して冷ます、を順繰りに繰り返すことで効率良く乾燥させていくのだ。


 そうして何度か穴の中での焼却をこなし、とりあえず目に見える範囲の蟲の死骸はなくなった。まだ周辺の森の中にいくらか残骸が残っているかもしれないが、ユグドラツィの周囲は一通り綺麗にできたので良しとすべきか。


 同じ頃にピースも一通り調査し終えたのか、レオニス達のところに下りてきた。


「おう、ピース、調査は終わったんか?」

「うん!とりあえず一通り見るべきところは見たよー」

「じゃ、時間もちょうどいいから皆で報告しながらおやつにするか」

「賛成ー!」


 時刻は午後四時手前だが、休憩も兼ねておやつにしながらピースの話を聞くことにした。

 昼食を食べた場所と同じところに再びレオニスが敷物を敷き、ラウルが空間魔法陣から適当におやつを数種類取り出し、ライトが様々な飲み物をアイテムリュックから取り出し、ピースが四人全員に浄化魔法をかけてから敷物の上に座りワクテカ顔で待機している。


「「「「いっただっきまーす!」」」」


 四人は食事の挨拶をした後、思い思いに好きなスイーツを手に取り食べていく。

 そして話は事件当日のあれやこれやに移っていく。


「しっかしピースよ、あの五枚重ねの浄化砲はさすがにビビったぞ……あんなんするんだったら、先に言っといてくれよ」

「ぃゃー、どこでどうあの黒い炎のもとが聞き耳立てたり覗き見してるかも分かんないじゃん? だから直前まで誰にも明かせなかったし、あの天使ちゃんとの話し合いだってすんげー上空に移動してから作戦立ててたからね?」

「まぁなぁ、そう言われりゃ仕方ないかとは思うがな……にしても、すんげー威力だったな、アレ。ありゃ門外不出扱いになるのも当然だわ」


 ヴィゾーヴニルの鳴き声の浄化の力を増幅させた、ピースの魔法陣。

 その規格外の威力は、同じく規格外のレオニスを以てしても驚愕させるに値するものだった。


「そうなのよね。この力が広く知られると、それこそ小生の人生は今まで以上に拘束されることになっちゃうのよ」

「だろうなぁ。あの力があれば、他国への侵略やら戦争やら思いのままに蹂躙し放題だもんなぁ」

「そゆこと。だからレオちんもライっちも、ラウル君もあのことや小生の特技に関してはこれからも誰にも言わないでね?」

「承知した」

「もちろんだよ!」

「おう、ツィちゃんの恩人の秘密なら、俺も絶対に死守するぞ」


 ピースの要望に、ライト達三人は即時快諾する。

 あの力が悪用されたら、それこそ洒落にならない事態になることは火を見るより明らかだ。

 ピースの力を知っているのは、これまでは師匠であるフェネセンとピースの両親だけだったという。そのフェネセンも両親も、弟子や我が子の身を案じてその力は絶対に他人に見せるな、と言いつけていた。


 今回その言いつけを破ったのは、世にも貴重な神樹ユグドラツィを救うために他ならない。

 そのことに対して恩義しかないライト達は、ピースの秘密を絶対に守り抜くだろう。


「……で、ピースの目から見てツィちゃんの様子はどうだった? 何か怪しいものが残ってたりはしなかったか?」

「うん、それは大丈夫だよ。試しに浄化魔法の呪符の一番弱いやつ、松竹梅セットの『梅』を樹体に貼ってみたけど、何の反応も起きなかったから」

「そうか、一番弱いやつなら少しの瘴気でもすぐに黒ずんでダメになるもんな」

「そゆこと」


 ピースの解説に、レオニスはすぐに納得する。

 邪気そのものを祓うには、効果が強いものほど有効なのは当然だ。だが、効果が弱い呪符は逆にその効果の持続性の無さで邪気の検知に使える、という訳である。

 そう、世の中何でも効果が強けりゃいいというものではないのだ。弱いものは弱いなりに使い道がちゃんとあるのである。


「根元から幹の真ん中、上に残った枝まで何ヶ所か貼りつけてみたけど、どこも無反応だった。だから、瘴気や悪い氣の類いはもう神樹の中に全く残ってないと断言してもいいよ」

「そうか、それは良かった。なら、今後どうすればツィちゃんが目覚めてくれるか、だな……」


 ピースの診察?により、ユグドラツィの中に邪気が全く残っていないことが判明した。これは、ライト達にとって間違いなく朗報である。

 そうなると、次はどうすればユグドラツィが目覚めるかに問題が移っていく。

 するとここで、ライトが口を開いた。


「……そしたらさ、ツィちゃんの大好物のお水をたくさんあげていくのはどうかな?」

「大好物の水、か?」

「うん。ぼく達人間なら、美味しいものを食べて元気をつけることができるけど、ツィちゃんは樹木だからさ。美味しいお水をあげることくらいしかできないし」

「……そうだな。そしたら後でツェリザークの雪や氷、ライトの得意なブレンド水をたくさんあげてみるか」

「……うん!!」


 ライトの提案に頷きつつ同意するレオニスに、受け入れてもらえたライトも嬉しそうに返事をする。

 すると、ライトの横にいたラウルがすくっ、と立ち上がった。


「ツィちゃんも暑くて喉が乾いてるだろう。俺達といっしょに食べるように、ツェリザークの雪のシャーベットをおやつにあげてくる」

「いってらっしゃい!」


 早速ユグドラツィの根元にいき、空間魔法陣から巨大な雪玉を取り出して幹と根の境目辺りにドスン、と置くラウル。

 その雪玉は、夏の熱い空気を受けてみるみるうちに溶けて小さくなっていく。

 雪解け水がユグドラツィの根の間にゆっくりと滲み込んでいく様を、ラウルだけでなくライト達もまた静かに見守っていた。

 襲撃事件の事後処理その他諸々です。

 作者がこの物語を綴っている今は年末の真冬の真っ只中で忘れがちなのですが、作中時間は八月初旬なんですよねぇ。

 真夏のクッソ暑い時期に、大量の蟲の死骸放置とか……うひー、字面だけでも本気で洒落なんない事態になってしまうぅぅぅぅ><


 そして、本文には全く関係ない作者のコロナワクチン接種事情。

 今のところ副作用はこれといって出ていませんが、接種したのが今日の午後四時頃だったので。まぁ出るとしたら明日起きてからでしょう。

 あんま熱出ないといいなー。こればかりは個人差とかあるからどうしようもないんですけど。

 今夜もまた枕元にバファリン様と麦茶を置いて寝ることにします!

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