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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第694話 不穏な空気の出処

 部屋を出たライトとピースは、たまたま廊下にいたメイドをとっ捕まえてすぐに領主のいる部屋まで案内してもらう。

 そして部屋の中に入り、まだ起きていたアレクシスに先程の出来事をピースが掻い摘んで説明していく。


「……そうか、確かにそれは喫緊で帰らねばならぬ案件だな」

「レオちんはもう窓から飛び出していっちゃったんで、小生達も今からレオちんを追いかけてカタポレンの森に向かう」

「こんな夜中に突然帰ることになっちゃって、本当にすみません」

「いやいや、それは気にしないでくれたまえ。君達にも守るべきものがたくさんあるだろうからな」

「また後日、レオ兄ちゃんと改めてご挨拶しに伺います!」

「ああ、君達も気をつけてな。皆の武運を心より祈る」


 夜中に突然帰宅することを謝るライトに、アレクシスは理解を示す。

 一通りの義理を果たし、説明や挨拶を済ませたライトとピースは領主邸を後にして、冒険者ギルドプロステス支部に向かった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 一方レオニスは、冒険者ギルドプロステス支部の転移門を使ってラグナロッツァの屋敷に直接移動していた。

 ライトやレオニスが、普段拠点としているラグナロッツァの屋敷やカタポレンの森の家。その二箇所の転移門は冒険者ギルドに正式登録されているので、冒険者ギルドにある転移門ならどこからでもダイレクトに移動することができるのだ。


 二階の旧宝物庫から出て、一階に下りていくレオニス。

 いつもなら、晩御飯の後でもラウルは厨房で何かしらの料理関連の作業をしている。例えばそれは、新しい調味料の試行錯誤などの研究だったり、あるいはライトやレオニスに依頼されたスイーツ作りだったり、時には巨大野菜などの食材の下拵えだったり。

 それらはラウルにとっては仕事ではなく、大好きな趣味に没頭しているも同然の、充実した楽しい過ごし方である。


 ひとまずレオニスは厨房に向かいながら、その途中の廊下でもラウルの名を呼びかける。


「ラウル!いるか!」

「いたらすぐに来てくれ、ラウル!」


 普段ならその名を呼ばずともすぐに出てくるし、例えすぐに出てこなくとも呼べば必ず目の前に姿を現すのに、今日に限ってラウルは一向に現れない。

 そのうち厨房に到着したが、厨房の中にもラウルの姿がない。ならば、と思い食堂や風呂場を覗いたり、二階に戻ってラウルの部屋に行ってみるも、どこにもラウルの姿は見当たらない。

 それどころか、ラウルの部屋の隣のマキシの部屋にも誰もいない。

 今この屋敷の中は完全にもぬけの殻で、ラウルどころかマキシすらもいないようだ。


 時刻は夜の十時を回った頃。

 こんな時間に二人とも不在なのは、明らかにおかしい。

 ラウルもマキシもどちらかと言えばインドア派で、夜遅くに外で飲み歩いたりすることなどまず絶対にあり得ないのだ。

 人一人いない静かな屋敷の中で、レオニスはしばし考え込む。


「もしかして……ラウルのところにも何か知らせがいったのか……?」

「…………とりあえずカタポレンの家に行ってみるか」


 カタポレンの森に異変が起きているならば、万が一に備えてレオニス以外の戦力も集めてから向かう方がいい。

 先程ライトにだけプロステスでの留守番を言い渡したのも、ピースには異変の調査に同行してもらうつもりだったからだ。

 ラウルならば十分戦力に値するし、何よりラウル自身もカタポレンの森出身の妖精である。


 プーリアの里を飛び出すまでは、ラウルにとって良い思い出など何一つない場所だった。だがそれでも今は神樹と交流を得たり、畑を作って巨大野菜を育てて収穫したり等々、カタポレンの森ならではの絆を少しづつ深めてきている。

 今のラウルなら、カタポレンの森の異変に対して積極的に解決するよう尽力するだろう―――そう考えたレオニスは、ラウルと合流するためにプロステスから一旦ラグナロッツァの屋敷に戻ったのだ。


 だが、誰もいないのでは仕方がない。

 当てが外れたレオニスは再び二階の旧宝物庫に戻り、転移門でカタポレンの家に移動していった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 時は少し遡り、その日の夜の八時頃のこと。

 ラウルとマキシは、いつも通りラグナロッツァの屋敷で晩御飯を食べ終えて食堂でのんびりしていた。


「ライト君やレオニスさんは、今頃プロステスで晩御飯食べてるかなぁ」

「そうだな、どこか適当に宿屋を見つけて何か食ってる頃だろうな」

「僕、人里ってまだこのラグナロッツァくらいしか知らないんだけど……他の街ってどんなだろう? ラウルはプロステスには行ったことある?」

「プロステスはまだ行ったことはないな。エンデアンやネツァク、ツェリザークなんかは何度も行ったことがあるが」

「ラウルも冒険者になってから、いろんなところに出かけるようになったもんね。エンデアンに、ネツァク? そこはどんな街なの?」

「エンデアンってのは海に面した都市で、魚や貝などの海産物が美味しいことで有名だ。ネツァクには、前にお前も食べた砂漠蟹という名産品があって―――」


 マキシがこのラグナロッツァに来てから、もうすぐ一年になろうとしている。八咫烏の里を飛び出した時から数えれば、既に丸一年が経過した。

 今でこそマキシもアイギスで働き、人里での暮らしや人族の習慣にもだいぶ慣れてきた。だが、そんなマキシでもまだラグナロッツァの外には出たことがない。

 もっともそれは、マキシが他の街に出かける余裕も理由も全くなかったからでもあるのだが。


 しかし、今日はライトとレオニスがプロステスで泊まりがけのお出かけをしているということもあって、ラグナロッツァ以外の人里への興味が湧いたらしい。

 ラウルが語る、他の街―――エンデアンやネツァク、ツェリザークの話を楽しそうに聞き入るマキシ。聞いてる途中で「ラウルって、本当に料理が好きだよねー」と笑いながら、楽しそうに相槌を打つ。


 ちなみにラウルの話は、マキシが笑うようにそのほとんどが食材絡みだったりする。何故ならそれらの街は『甲殻類や魚介類が豊富』という共通点があるからである。

 エンデアンは海鮮市場、ネツァクには砂漠蟹、ツェリザークには氷蟹。どの街にも、ラウルの心を鷲掴みにして離さない超有名な名産品がそれぞれにある。

 ラウルが他の街に出かける主な二つの理由、『冒険者ギルドの殻処理依頼で稼ぐため』と『美味しい食材がある』。この二つともを満たすのが、エンデアンやネツァク、ツェリザークなのだ。


 そんな話をしている最中、突如ラウルの言葉が途切れて無言になった。

 それまで楽しそうに話をしていたラウルの表情も、何故か一転して怪訝そうな顔になる。


「………………」

「ン? ラウル、どうしたの?」

「………………」


 ラウルが眉を顰めながら視線を落とす。

 その視線の先は、ラウルの右手首に向いていた。


「……おかしい」

「おかしいって、何が?」

「ほんの僅かだが、バングルから静電気のような……チリチリとした微かな痛みが来る。マキシ、お前のバングルの方はどうだ、何か感じるか?」

「えっ?………………ホントだ、僕のバングルからも何かおかしな波動が出てる……」


 ラウルの問いかけに、マキシも己の右手首にしていたバングルの異変に気づく。

 マキシのそれは、誰かから指摘されなければ分からないほどの本当に微弱な変化。だが、ラウルの方の異変はマキシよりも若干強く出ているようだ。


「…………マキシ、俺は今からカタポレンの森に行ってくる」

「えッ!? 夜のカタポレンの森はとても危険だよ!?」

「だとしても、行かなきゃならん」


 席を立ちながら放ったラウルの言葉に、マキシが驚きつつラウルを止めようとする。

 マキシが言ったように、カタポレンの森の夜はとても危険だ。

 空が明るいうちは出てこない大型の肉食獣や、対処が厄介なゴースト系魔物などが彷徨く―――それが夜のカタポレンの森の姿である。


 だが、マキシの制止にラウルが耳を傾ける様子は全くない。

 何故ならば、彼らの右手にあるバングルは神樹ユグドラツィの枝で作られたものだから。


 それは、かつてライト達がユグドラツィから譲ってもらった枝を、アイギスで装飾品として加工したうちの一つ。そこに改めて枝をくれた神樹自らの分体を入れてもらった、大事な木製の腕輪。

 分体を入れたアクセサリーを、各々が身に着けることでユグドラツィに様々な外の景色を見せてあげることができた。そのおかげで、ラウルはラグナロッツァの地下下水道で命まで救われたこともある。

 いわゆる『ポイズンスライム変異体遭遇事件』である。


 ラウルの命をも救ってくれた、ユグドラツィの分体入りの木製バングル。

 そんな大事な品から何かしらの異変が漂ってきたとなれば、ラウルもじっとしてはいられない。

 何が起きているかは、現状ではまだ何も分かってはいない。だが、ユグドラツィの身に危機が迫っているかもしれない時に、ただ黙って見過ごす訳にはいかなかった。


「もしツィちゃんの身に何かが起きてるなら、今度は俺が助けてやらなきゃならん。ツィちゃんは俺の命の恩樹だ。それに……恩の有る無しに拘わらず、ツィちゃんは俺の友達だ」

「……そうだね。だったら僕もラウルといっしょに行くよ。だってツィちゃんは、僕の友達でもあるんだから」

「…………」


 ラウルの言葉に、マキシは頷きながらもラウルに同行する決意を伝える。

 ラウルにしてみれば、マキシにはこのままラグナロッツァの屋敷で留守番していてもらいたい、というのが本音だ。あまり良くない兆候が出ている今、マキシまで危険に晒すことはしたくなかったからだ。


 だが、マキシだってラウルと同じくユグドラツィの友達だ、と言われれば否定はできない。

 それは紛うことなき事実であり、マキシにだって友を思う気持ちがあることをラウルも分かっているからだ。


「……分かった。じゃあ俺といっしょに行こう」

「うん!」

「俺は着替えてから行くから、お前は先に二階の転移門のある部屋に行って待っててくれ」

「分かった!」


 二人はそう言うと、それぞれ分かれて行動していった。

 闇の精霊がレオニスに伝えた不穏な空気は、どうやら神樹ユグドラツィのもとから出てきているようです。

 今まで拙作に出てきた神樹達の中で、ユグドラツィは一番最初に出てきた神樹。初出は第169話ですね。それからもう500話も経つのか……と、作者としても感慨深いものがあります。


 ライト達と神樹が初めて会話を交わしたのは、八咫烏の里にいるユグドラシアですが。ユグドラツィはそれよりはるか前からライトの憩いの場であり、初めての使い魔のフォルを卵から孵化させる時にも無言でその葉をライトに譲ってくれたりと、会話ができなかった頃からずっと友達でした。

 そんな大事な友の危機に、ライト達は果たして間に合うのか———

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