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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第691話 炎の洞窟の守護神

 炎の洞窟最奥のさらに奥の隠し部屋に入ったライト達。

 そこには炎の女王が言うように、高い祭壇の上に巨大な卵が鎮座ましましていた。


「やっぱり暗黒神殿で見た卵と同じだね……」

「ああ、祭壇の作りなんかもほぼ同じだな」

「ほええええ、これが炎の洞窟固有の守護神のもとなの? すっごい大きな卵だねぇ……」


 炎の女王に連れられたライト達は、高く聳える祭壇の前で首を真上にして見上げる。

 その祭壇や卵の大きさなど、これまでに見てきた湖底神殿や暗黒神殿のそれらと全く同じ仕様―――これもいわゆる『コピペ』というやつである。


「ていうかさ、この卵、何で孵化しないんだろ? ここは炎の洞窟なんだし、卵が孵化するための温度なら十二分に足りてると思うけど……まさか、暑過ぎて茹で卵になっちゃってるとか?」

『ゆ、茹で卵……!?!?!?』


 ピースがついぽろりと零した、あまりにも素直過ぎる所感に炎の女王がガビーン!顔になっている。

 言うに事欠いて守護神の卵が茹で卵などとは、不敬極まりない。全く以て不謹慎以外の何物でもないとんでも発言だ。

 しかし、この炎の洞窟という場所柄とその特性上、そうした懸念が自然と湧き出てしまうのもある意味致し方ないことでもある。


「おいコラ、ピース。お前ね、不吉なこと言うんじゃないよ。守護神が生まれる予定の卵が茹だる訳ねぇだろ」

「そうだよ!この卵は特殊で特別な卵なんだから!他の普通の卵とは孵化の仕方も違うんだよ!」

「おっとっと、ごめんごめん!……そうだよね、守護神といえば神様なんだから、このくらいの温度で茹だるはずないよね!炎の女王ちゃん、ごめんね!」


 呆れるレオニスとプンスコと怒るライトに、思いっきり窘められたピース。

 慌てて先程の素直過ぎる所感を取り消して、炎の女王にも謝っていた。


「炎の女王様、大丈夫ですからね!今ピィちゃんが言ったように、守護神の卵はちょっとやそっとのことではびくともしませんから!だからこそ、孵化するのもすごく大変なことなんですよ」

『そ、そうなのか……?』

「はい!今からレオ兄ちゃんに協力してもらって、それを証明してみせます!」


 茹で卵という言葉に大ショックを受けた炎の女王、涙目になりながらライトを見つめる。

 半泣きでうるうると潤んだ瞳で見つめる炎の女王に、ライトは力強く応えながらレオニスの方に顔を向けた。


「レオ兄ちゃん、まだお餅あるよね?」

「おう、一応あるぞ。前回暗黒神殿で使った分くらいはまだ余裕であるし、ラグナロッツァに戻ればラウルからまた分けてもらえるから心配すんな」

「だよね。そしたら早速卵にお餅をあげてくれる?」

「了解」

「『お餅を……あげる???』」


 二人は簡単に打ち合わせをすると、早速レオニスが祭壇の上に飛んで空間魔法陣を卵の真上に下向けで開く。

 そして卵の上からライスシャワーの如く聖なる餅を降らせて、卵に大量に与えていく。

 卵の上から降ってきた餅は、余すことなく全て卵が吸収していく。今回も聖なる餅は卵の孵化に有効なようだ。


 レオニスが聖なる餅を卵に与えている間、ピースは不思議そうな顔をしている。

 まぁ確かにこの光景を見たことのない者にとっては、すぐには理解し難いであろう。実際ライトにだってその原理は全く分からない。

 ただただ『BCOのシステムだから』としか言いようがないのだ。


 そんな卵孵化初心者のピースと炎の女王に向けて、ライトは丁寧に解説をしている。


「ライっち……あれは一体、何をしているの?」

「あれはね、この卵に栄養を与えているんだ。卵にあげているのは、去年の暮れの大晦日に拾った聖なる餅だよ」

「栄養……あの聖なる餅で栄養が摂れるもんなの?」

「うん。暗黒神殿にもここと全く同じ祭壇と卵があってね? そこでも聖なる餅をたくさんあげることで、ちゃんと卵が孵化したんだ」

「そうなんだー……話だけ聞いてるとすんげー謎いけど、実際目の前の卵がどんどん餅を吸収してるもんねぇ……てゆか、聖なる餅は一個だけでもかなり回復力が高いから、卵の孵化に用いるのは最適かも。守護神が誕生するためのエネルギーな訳だから、それこそ膨大な量が必要だろうし」


 ライトの解説を謎いと言いながらも、納得しつつ独自の見解も述べるピース。

 実際ライト自身も、この卵の孵化方法は未だに謎いと思う。だが、実際に眼前で繰り広げられている光景を目の当たりにすると『こういうもんなんだな』と納得せざるを得ない。

 まさに『百聞は一見に如かず』である。


 そして炎の女王は、レオニスが餅を与える様子を祈るような眼差しでじっと見つめている。

 これまで迎えたくても迎え入れられなかった、炎の洞窟の守護神が誕生するかもしれないのだ。炎の女王が手に汗握りつつ、今か今かと待ち構えるのも無理はない。


 レオニスが聖なる餅を大量に与えていくにつれて、巨大だった卵はどんどん小さくなっていく。

 与えるエネルギーの量に反比例して小さくなっていくというのも、神殿の卵ならではの現象である。

 しかし、巨大だった卵が小さくなっていくと同時に、下から見上げているライト達にはほとんどその様子が見えなくなっていった。


「ンー、ここからじゃよく見えないな……ライっち、小生が運んであげるから祭壇の上に行こう!」

「うん!炎の女王様も行きましょう!」

『相分かった』


 卵の変化を間近で見たいピースが、ライトをおんぶして祭壇上に飛び上がっていく。

 祭壇上の卵の大きさは、ライトの身長くらいまで凝縮していた。

 そこからさらに聖なる餅を与えていくレオニス。そうしてライトの身長の半分くらいまで小さくなった頃、卵の殻に罅が入った。


「あッ、殻に罅ができた!もうすぐ生まれるよ!」

「おおッ、ついに炎の洞窟の守護神が誕生するんだね!」

『おおお……何をどうしても変化のなかった卵が……ついに孵化するのか……』


 卵の孵化直前を目の当たりにしたライト達は、興奮を隠せない。

 一体どんな守護神が生まれるんだろう?という期待が、ここにいる全員に満ちる。

 レオニスは、卵の上に降らせる聖なる餅の量を減らしながらも、絶え間なく与え続ける。

 そうして卵の殻の罅はどんどん増えていき、ついに中から赤い何かが出てきた。


 卵の殻が全て割れ落ち、中にいたものの全貌が見えた時。

 レオニスが、たった一言だけ呟いた。


「これは……朱雀……?」


 ライトの身体より小さくなった卵から出てきたのは、深紅に燃え盛る鳥―――朱雀だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ライトとレオニス、ピースと炎の女王、四人が祭壇上に集まり卵から生まれた朱雀を取り囲む。

 四人とも息を呑みつつ無言のまま眺めているが、ライトは頭の中で懸命に考えていた。



『これは……間違いなく朱雀、だよな……? なりはかなり小さいけど』

『BCOでも四神は全部レベル2のレイドボスだったもんな……確か討伐依頼を出していたのはクレア嬢だったか?『大量に汗をかけるのでダイエットしたい人には超オススメですが。それ以外の人々は、干ばつや熱中症に悩まされているのでこれは大変です』とか言ってた記憶がががが』

『……ま、いずれにしても朱雀は炎を象徴する四神だから、この炎の洞窟の守護神に最も相応しいとも言えるかな』



 ライトの目の前にいるそれは、見た目はふっくらむっちりとした鳥の雛。

 しかし、これはただの鳥の雛ではない。身体は燃え盛る炎のような深紅の羽に包まれていて、翼も紅い羽根で鮮やかな緑色で縁取られている。

 鶏冠も見目鮮やかな緑色で、身体の後ろには孔雀の羽のような長くて美しい尾が六本生えているのが分かる。

 これはライトが知るところのBCOの朱雀の色合いと合致しており、この雛が大きくなったらライトがよく知る朱雀になるのだろうな、という姿をしていた。


「朱雀、か……こりゃまた大物が降臨したもんだ」

「だねぃ……でも、朱雀には【炎帝】という別名があるくらいだし、この炎の洞窟にはもってこいな守護神だねぃ!」

『【炎帝】……そのような素晴らしき守護神を、我が洞窟に迎え入れることができるとは……何という僥倖、身に余る光栄か……』


 レオニスが開口一番呟いたように、レオニスもピースも朱雀という存在のことは知っているようだ。

 ピースの言葉の中にあった【炎帝】という朱雀の別名を聞いた炎の女王は、感激の面持ちで朱雀を眺めている。

 そんな炎の女王に、ライトが小さな声でそっと囁く。


「炎の女王様、朱雀を抱っこしてあげてください」

『えッ!? わ、妾が朱雀様を抱っこなど……そんな畏れ多いことをしても良いのだろうか?』

「もちろんです。これから朱雀は、炎の女王様とこの炎の洞窟でいっしょに暮らしていくんですから」

『そ、そうだな……』


 ライトの説得に納得したのか、炎の女王が恐る恐るその手を朱雀の方に差し伸べていく。

 ふっくらまん丸の朱雀の雛は、まだ若干眠たそうな顔をしている。孵化したばかりで、まだ完全には目覚めていないのだろうか。

 炎の女王は朱雀の雛を刺激しないよう、そっと抱き抱えて胸の辺りまで持ち上げた。


 炎の女王の胸元で、うとうとと船を漕ぐ朱雀の雛の何と愛らしきことよ。

 今にもまたスピスピと寝入りそうな朱雀の雛を見て、ライト達もため息を洩らしながらじっと見入る。


「うわぁ……朱雀の雛、可愛いねぇ……」

「うん……大きくなったらもっとゴツくなるんだろうけど、生まれたばかりの雛のうちはすんげー可愛いねぇ……」

「つーか、朱雀が生まれたせいか、何だか部屋ん中が暑くなってきたな」

「「あー、確かに……」」


 全員が朱雀の雛を見入る中、レオニスがふと洩らした言葉にライト達も頷く。

 確かにレオニスの言う通りで、卵が孵化する前と後では部屋の温度が3℃か5℃は違うような気がする。

 もっとも、ライト達は全員防熱耐熱仕様の装備を着用しているから、多少気温が上がったところで全然である。それどころか、マグマの熱ですらも害せないのだから、気温が50℃や100℃になっても平気であろう。


「これ、あまり広くない部屋の中だから暑いのかな?」

「とりあえず広間の方に戻ってみるか」


 ライト達はそう言うと、隠し扉を通って炎の女王の広間に戻ってみた。

 すると、体感温度としてはまだ広間の方が涼しく感じる。

 しかし、これから先はどうなるか分からない。朱雀誕生により、この炎の洞窟内の温度が今よりもっと高くなる可能性は十二分にある。


「これ、プロステス領主にも知らせておいた方が良さそうだな……」

「うん……もしまた外の暑さが厳しくなったら、プロステスの人達も大変だしね」

「朱雀は瑞鳥だから、誕生そのものはとても喜ばしいことだけど。気温変化が起こるとなるとまた別問題だからねぇ。しばらく様子見してもらうように伝えとくべきだねーぃ」


 ライト達が広間の中を見渡しながら、あれこれと相談をしている。

 よく見ると広間の至るところにある火溜まりが、明らかに勢いを増しているのだ。これは朱雀が誕生したことによる影響かもしれない。

 いずれにしても、これは炎の女王の穢れを祓う前の酷暑が再来する恐れがある。


 すると、炎の女王が心配そうな顔でライト達のもとに来た。


『此度の朱雀様の誕生が、汝等人族にとって何か不都合でもあるのか?』

「ああ、いや、不都合って訳じゃないんだが。また洞窟の外の気温が上がる可能性があるって話でな」

「うん、朱雀は炎の化身とも言われてるからねぃ。ただ、外の世界にどれくらい気温に影響が出るかは、しばらく様子見するしかないかなぁ」


 心配そうに尋ねる炎の女王に、レオニスとピースがやんわりと酷暑の可能性があることを伝える。

 それを聞いた炎の女王は、懸命に朱雀を擁護し始めた。


『それはきっと、然程問題にはならぬと思う。朱雀様が成長なされば、身にまとう炎の温度や出力を抑える術を自然と身につけられよう』

「そういうもんなのか?」

『そうとも。妾だって、年がら年中全力でボーボーに燃えておる訳ではないぞ?』

「ああ、言われてみりゃ確かにそうだな」


 炎の女王が展開する理論に、レオニスも納得する。

 彼女自身が言うように、炎の女王とて四六時中高温で燃えている訳ではない。身体の外に漏れる魔力を抑えるように、無意識下のうちに制御されている。

 というか、そうでなければ炎の女王の周囲にあるものは高温に耐えきれず、全てが燃え尽きてしまうだろう。

 現状そうなっていないということは、炎の女王自身が炎の温度を制御できている証である。


「とはいえ、この炎の洞窟に新たな守護神が誕生したことは、どの道プロステス領主にも報告しておいた方がいいことだからな」

「そうだね、ウォーベック侯爵様ならきっと喜んでくれるよ!」

「人里の方でも経過観察は絶対に必要だもんねーぃ」


 この炎の洞窟は、プロステスという都市と密接な関係にある。

 故に、そのプロステスの最高責任者である領主アレクシスにもそのことを伝えておく必要は絶対にある―――これが、レオニスとピースの共通した見解だった。


『そうか……妾も朱雀様をお世話して、一日も早く大きく成長していただけるよう邁進する故、人里への連絡やら手配は汝等に任せる。どうかくれぐれも、よしなに頼む』

「分かった。じゃあ俺達は、今からプロステスの領主のもとに向かうとしよう」


 レオニスの言葉に、ライト達も炎の女王に向けて別れの挨拶をする。


「炎の女王様、今日もいろいろとありがとうございました!エリトナ山に出かけたり、朱雀の雛まで見ることができてとても楽しかったです!」

『妾の方こそ、今日もいろいろと世話になった。特に守護神を迎える手伝いをしてくれたこと、心より感謝する』

「小生も勲章とか雫とか、すんげー貴重なものをたくさんもらえて、本当に嬉しかった!ありがとうね!炎の女王ちゃんも元気でね、また会いに来るからね!」

『汝等も元気でな。また会える日を楽しみにしておるぞ』


 ペコリと頭を下げるライトに、花咲くような笑顔で炎の女王に礼を言うピース。

 広間から去り行くライト達の背を、炎の女王は胸元でうたた寝をしている朱雀の雛とともにずっと見送っていた。

 炎の洞窟の守護神誕生です。

 四神はこのサイサクス世界にも存在していて、はるか前にラグーン学園の図書室にあったのおまじない本の中で、おまじないの材料として青龍が名前だけ出てきています。


 そして、卵の孵化に用いられることが多い聖なる餅。今回も聖なる餅が大活躍!!……って、相変わらず謎い名称ですが( ̄ω ̄)

 一般的に市販されている切り餅というのは、一個あたりの重さ約50g、約120kcalだそうで。

 これを二千個投入とすると、その重さ100000g=100kg、カロリーは240000=24万kcalということに( ゜д゜)

 24万kcalって、どれくらいのものかイマイチ想像つきませんが。100kgの餅と考えると、かなりのものですよねぇ。

 守護神誕生ともなると、それくらいの供物が必要になるのでしょう。逆に考えれば、生贄とか物騒なことをせずに済むだけかなり平和な誕生方法ですよね( ´ω` )

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