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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第681話 マナー違反と贅沢な提案

「そうですか……では、しばらくは様子見ということになったのですね……」

「ああ。このまま約束通り、ディープシーサーペントが現れなければ良し。万が一現れたら、その時は再び俺が交渉の場に立つ。そういうことになった」

「レオニスさんは、エンデアン所属の冒険者ではないのに……我が街の厄介事ばかり押しつけてしまって、本当に申し訳ございません……」


 レオニスから話を全て聞き終えたクレエは、項垂れるようにレオニスに頭を下げながら小さな声でぼそぼそと呟く。

 クレア十二姉妹特有のいつもの快活さは全くなく、伏し目がちで塞ぎ込むような暗い顔のクレエ。ディープシーサーペントのエンデアン襲来の真実を全て知った今、彼女が暗澹たる気持ちに沈むのも無理からぬことだった。


 するとここで、レオニスが何を思ったか、簡易ベッドに座ったままのクレエの頭を突然ワシャワシャと乱暴に撫でた。


「…………ッ!ちょ、待、レオニスさんってば、いきなり何をするんですか!?」

「クレエ、お前にそんな暗い顔は似合わないぞ?」

「!!……だ、だからって!うら若き女性の頭を、こんなぐしゃぐしゃになるまで掻き回すなんて!どう考えてもマナー違反でしょう!?」


 レオニスの突然の仕打ちに、クレエは慌てて頭を手櫛で直しつつ顔を赤くして怒る。

 レオニスの大きな手で乱暴に撫でられたクレエの頭は、ぐっしゃぐしゃのボロボロのアホ毛が立ちまくりになってしまった。これはクレエならずとも、女性なら誰でも普通に怒るところであろう。

 だが当のレオニスは、怒るクレエを宥めもせずにニカッ!と笑う。


「そうそう、その意気だ!……クレエ、お前はそんな風に落ち込むよりも、俺を叱り飛ばすくらいがちょうどいい」

「…………!!」


 レオニスの眩しくも爽やかな笑顔に、クレエはハッ!となる。

 乱暴な仕草に見えるレオニスのそれは、彼なりの慰め方であり気遣いでもあるのだ。

 そのことに気づかないほど、クレエは愚鈍ではない。不器用なレオニスならではの心遣いに、クレエはだんだんと落ち着きを取り戻していく。

 フッ……と小さく笑ったクレアは、早速反撃に出る。


「……またまたぁ、金剛級冒険者ともあろうお人が何を寝言吐いてるんです? 寝言は寝て言うものですよ? 私が一体いつレオニスさんを叱り飛ばしたと言うんですか? レオニスさんが時折吐く寝言を、やんわりと窘めることはあっても叱り飛ばすだなんて。そんなはしたないこと、私は一切した覚えはありませんよ?」

「ぐぬぬ……」

「そもそもレオニスさんは、私のことを途轍もなく勘違いしておられます。私なんて、幼い頃から今日に至るまで『穏やかを着て歩く温和の塊』と言われ続けてきてるんですからね? 少しは私を見習ってくれてもいいんですよ?」

「ぐぬぬぬ……お前ら姉妹って、ホンット言うこと同じだよね……」


 レオニスなりの励ましが効いたのか、本日二回目の『寝言は寝て言え』アタックがクレエから放たれる。

 そういえば、十二姉妹の長姉クレアもその昔自分のことを「幼い頃から今日に至るまで『常識を着て歩く模範の塊』と言われ続けてきている」と評していたことがある。

 この姉妹、本当に言うこと成すことほぼ同じレベルである。


 そして今のクレエの言葉は、いつもの立て板に水のような流暢さこそないものの、それでもその口調は先程よりもしっかりとしている。

 いつもならここでレオニスががっくりと項垂れ、クレア十二姉妹の完全勝利となるところなのだが。クレエが微笑みつつ呟く。


「……ああ、でも……そうですね。温和なだけじゃ、冒険者なんて危険な稼業は務まりませんね」

「……そうだな。ていうか、俺だって冒険者の中ではおとなしい性格の方だと思うぞ? 俺より気の短い奴なんていくらでもいるし、喧嘩っ早い奴らを仲裁するのだっていつも俺の役目だし」

「フフフ……レオニスさんはこれからもずっと、そのままでいいと思いますよ」


 穏やかな笑みを浮かべるクレエに、レオニスは安堵した。

 一時はどうなるかと思ったが、これならもうクレエも大丈夫だろう―――レオニスはそう思いつつ、座っていた椅子から立ち上がる。


「そうか。クレエのお墨付きをもらえるとは、俺もなかなかに出世したもんだな」

「ええ、私のお墨付きは誰にでもホイホイと出すものではありませんからね。かなりの激レア物ですよ?」

「そのお墨付きに恥じぬよう、これからも精進するとしよう」


 レオニスは簡易ベッドの上部横に置かれていたクレエのベレー帽を手に取り、クレエの頭にそっと被せた。

 クレア十二姉妹のトレードマークの一つである、ラベンダー色のベレー帽。その縁には帽子と同生地の可愛らしいフリルが全周ついていて、前方には冒険者ギルドの紋章ワッペン、後方にはラベンダー色の幅広のリボンがあしらわれている。

 このベレー帽は、ラベンダー色と同じくクレア十二姉妹の象徴にしてスペシャルな制服の重要なパーツ。これを被ることで、クレア十二姉妹はさらに輝ける唯一無二の存在となるのだ。


「じゃ、俺はそろそろ帰る。クレエもあまり無理すんなよ」

「今日は本当に……いろいろとお世話になり、ありがとうございました。このお礼はまたいつか、必ずお返しさせていただきます。ライト君やラウルさんにも、どうぞよろしくお伝えくださいませ」

「ああ、その礼とやらを楽しみにしてる。じゃ、またな」


 レオニスに被せてもらったベレー帽を、両手で直しつつ深く被るクレエ。

 クレエの穏やかな笑顔に見送られながら、レオニスは仮眠室を後にした。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 クレエの無事を見届けたレオニスは、ラグナロッツァに帰還するべく事務室に向かう。各冒険者ギルドに設置されている転移門は、事務室のさらに奥の一室に設置されているからだ。

 廊下を移動しながら肩を押さえつつ腕を回したり、頭を後ろに反らせて首を左右に動かすレオニス。今日一日のあれやこれやで、さすがにレオニスも少し疲れたようだ。


 そうして事務室の扉を開き、ふぅ、という小さなため息とともに無言で中に入るレオニス。

 他のギルド職員は帰宅もしくは出払っていて、職員が一人か二人しかいない閑散とした事務室。夜ももう遅くなったこの時間では、当然の光景か。

 しかし、その閑散とした事務室の中に、何とライトとラウルがいた。


「あッ、レオ兄ちゃん!おかえりなさい!」

「よう、ご主人様、お疲れさん」


 椅子に座って対面で話していたライトとラウル。

 事務室に入ってきたレオニスを見たライトがまず駆け寄り、その後をラウルが悠然と歩いて事務室の入口に近づいていく。

 先にラグナロッツァに帰ったものとばかり思っていた二人が、まだエンデアン支部内にいて自分を出迎えたことにレオニスはとても驚いていた。


「何だ、二人ともまだここにいたのか? 先に帰るように言っといたのに……」

「うん!ぼく達もクレエさんのことが心配だったし、レオ兄ちゃんといっしょに三人で帰りたかったから!」

「ライトもこう言ってるし、俺も別に急いでラグナロッツァに帰らなきゃならん理由もないしな」


 クレエの介抱やエンデアン支部上層部への説明や報告等々、かなり時間がかかるだろうから、ライト達には先にラグナロッツァに帰るように伝えておいたはずなのに。

 それでも自分の帰還を待ってくれていたライトとラウル。二人の姿を見て、レオニスの心もじんわりと温かくなっていく。


「ねぇ、レオ兄ちゃん帰ってきたから、早く晩御飯にしよ? ぼくもうお腹ペコペコー」

「本当ならこのまま外で飯を食っていってもいいんだが、ライトがいるからそうもいかん」

「あ、そっか、ぼくまだ子供だから酒場に入る訳にはいかないもんね……二人ともごめんね」

「気にすんな。いつも通り家に帰ればいいだけのことだ。そしていつも通り、俺の美味い飯をたらふく食わせてやる」

「やったー!」


 お腹が空いて早く晩御飯が食べたい!とライトがねだるも、外には食べに行けないというレオニス。

 サイサクス世界には、現代日本でいうところのファミリーレストランはない。昼間は普通に定食屋も開いているが、夜になれば酒場に早変わりする店ばかりだ。

 そしてまだ十歳にもならないライトを連れて、夜の酒場に入る訳にはいかない。

 こういう時ライトは、ファミレスやコンビニなど現代日本ならではの文化を恋しく思う。


 だがそこは、万能執事であるラウルがフォローする。

 ラウルの作る食事は、どれも一流料亭や高級レストラン顔負けの美味しさを誇る。そしてその作り置きを空間魔法陣に入れて出来立てを保存できるため、いつでもどこでもすぐに食事ができる。

 そう、わざわざ外食などに頼らずとも、ライト達には最高級の食事が常に約束されているのだ。


「レオ兄ちゃん、早くおうち帰ろ!でもって、クレエさんの様子も聞かせて!」

「おう、そしたら一度カタポレンの家に行って、そこからラグナロッツァの屋敷に移動するか」

「それ、いいねぇ!そしたら総本部から屋敷まで歩いて帰る時間も省けるね!」

「今日は皆一日ずっと動きっ放しだったからな、たまにはそれくらいの贅沢をしてもバチは当たらんだろ」

「賛成ーーー!」


 ライトの帰宅を促す言葉に、レオニスが贅沢な案を出す。

 いつもならここで一旦ラグナロッツァの冒険者ギルド総本部に移動し、そこからレオニスの屋敷に戻るのだが。今日は転移門を二回使って、さらなるショートカット移動をするという。

 例えて言うなら、いつもの帰宅ルートがタクシー移動ならば、ショートカット移動はさながらプライベートジェットで移動するようなものだ。


 普段なら絶対にそんな贅沢はしないが、如何に今日のスケジュールが過密だったかを思えば、最後にそれくらいの贅沢をしても許されるだろう。

 話がまとまったところで、レオニスがライトとラウルに向かって声をかける。


「じゃ、皆で俺達の家に帰るとするか」

「うん!」

「ラグナロッツァの屋敷でお疲れさんの打ち上げでもしようぜ」

「皆で帰ろう!」


 こうして三人は転移門を利用し、ラグナロッツァに帰っていった。

 これにてようやくエンデアンでの一日の終了です。

 作中にクレアの過去の発言『常識を着て歩く模範の塊』がありますが、これは第58話での出来事です。ぃゃー、あまりに大昔のこと過ぎて、どの回での発言だったかサルベージするのに結構苦労しました><

 第58話なんて初期も初期の二桁台で、しかも623話も前とかもうちょいで二年経過という大昔のネタでございます。


 でもって、二話前のクレエの『またまたぁ(中略)寝言は寝て言うものですよ?』というクレア十二姉妹特有の口癖も、実は文章として出すのはちょうど100話ぶりのことで、実際にクレアが黄金週間中に発言した時から数えたら実に212話ぶりだったりします。

 まぁ夏休みに入ってからクレア十二姉妹の出番が全くなかったので、これだけ間が開くのも当然っちゃ当然なのですが。


 いずれにしてもクレア十二姉妹はネタの宝庫なので、物語の中に出すだけで楽しかったりします。……って、こんなこと書いたら作者の脳内にお住まいになられているクレア嬢に叱られそうだ…(´^ω^`)…

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