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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第663話 三番目の弟

「この子にはどんなご飯をあげればいいの?」

「卵と同じで、基本的に何でも食べるよ。でも、お肉で孵化させたから、多分お肉が一番好きなんじゃないかなぁ?」

「ていうか、この子、種族は何なんだろう? ただの狼じゃないよなぁ?」

「そしたら今度、ぼくもラグーン学園の図書室で調べてみるね。『黒い狼』で探せばきっと何の種族か分かると思うから。……あ、それかレオ兄ちゃんにも聞いておくね!レオ兄ちゃんも何気にいろんなこと知ってるから」


 晴れてオーガの里の一員となった黒妖狼のために、これから何ができるか、何をしてやれるかを探るべく、子供達がライトにあれこれと質問をしている。

 生物博士でもなければ動物学者でもない、一見ただの子供のライトに何故尋ねるのか?と思わなくもないが、皆ライトの知識量の豊富さに頼っているようだ。


 そんな中、誰かが呟いた一言が何故か辺りに大きく響く。


「この子の名前は?」


 一瞬にしてシン……と静まり返り、『……ぁー……』という空気が流れる。

 確かにいつまでも『この子』と呼ぶのは不便極まりない。早急に固有の名前をつける必要がある。

 しかし、言葉を操る種族にとって名付けはかなり重大な意味を持つことが多い。オーガ族もその例に漏れず、新たな命が誕生した際にはその家の長老、つまり最年長者が決定する慣わしがあった。

 祖父母がいれば祖父もしくは祖母、上の世代がいなければ父母が子につける、それがオーガ族の一般的な名付けである。


 そして今回の黒妖狼のケースはかなり複雑だ。

 どこかの家で生まれたオーガの子供でもないし、そもそも拾ってきた卵を孵化させたので誰が両親ということもない。

 つまり、この黒妖狼の名前を決めるべきは果たして誰なのかすら、すぐには決められない状況だった。


 誰もが決めかねて戸惑う中、ライトがルゥに向かって話しかけた。


「そしたら、ルゥちゃんとラキさんとリーネさんが話し合って決めればいいんじゃないですか?」

「え? 私とパパとママ、で……?」

「うん。ここにいる皆で拾った卵を孵化させるために頑張ったけど、一番頑張ったのはルゥちゃん達だし。それに、この子もルゥちゃんに一番懐いているようだからさ。だったらこの子は、これからルゥちゃんのおうちでいっしょに暮らしていくんでしょ?」

「「「……!!」」」


 ライトの言葉に、ルゥもラキも、そしてリーネも息を呑む。

 名前の件もそうだが、これからこの黒妖狼の子供を誰の家で面倒をみるかも全く決まっていなかった。

 だが確かにライトの言う通りで、ここにいる者の中ではラキ宅で預かるのが最善なことは間違いない。

 黒妖狼はルゥに一番懐いているし、ラキは一族の族長であり様々な事柄の決定権を持つ。そして夫婦して最強の戦士であり、未知の生物を預けても大丈夫だろう、という安心感が何よりも皆の中であった。


 そのことを皆が暗黙のうちに了解し、誰もが頷く。

 そうした空気を察したルゥは、期待と不安の入り混じった声で両親達に問うた。


「じゃあ、この子を私のおうちに連れて帰ってもいいの?」

「……そうだな。ルゥが持ってきた卵だし、卵が孵るまでずっと見届けたのだから、生まれた後もルゥが責任を持って接しなければな」

「ええ、ルゥがちゃんとこの子の面倒をみてあげるのよ」

「やったー!ライト君、パパ、ママ、ありがとう!」


 両親の了解を得られたルゥ、飛び上がらんばかりに大喜びしている。

 嬉しさのあまり、満面の笑みで黒妖狼に頬ずりするルゥ。黒妖狼はそれを厭うことなく、いっしょに頬ずりし合っている。


「あらあら、族長宅に四番目の御子が生まれたようなものですね」

「実にめでたいことですわね!これは近いうちに、里を挙げての盛大な祝いの宴を開かなくてはね!」

「その時は、是非ともラウル先生やライト君もお招きしましょう!」


 ルゥと黒妖狼の交流を見たご婦人方が、その和やかさに感化されて嬉しそうに盛り上がっている。

 ご婦人方は早速近くにいたラウルやライトに「宴を開く時には、是非とも来てくたまさいね!」と誘い、二人とも「もちろんだ」「絶対に参加させていただきますね!」と喜んで受けている。


 その一方で、四番目の子供など生んだ覚えのないラキ夫妻は「え"ッ!?」「お、お前達、な、何を……」と激しく動揺しているが、ここで「そんな訳あるか!」などと強く否定すれば、黒妖狼のことをも拒絶していると受け取られかねない。

 故に二人ともびっくりしながらも『四番目の御子』ということ自体は否定しなかった。


 ちなみにラキの方はただただびっくりしていただけだが、リーネの方は頬を赤らめていて、夫婦で微妙な差が生じているようだ。

 さらにルゥはルゥで、四番目の子と聞いてさらに嬉しそうにライトに話しかけた。


「ライト君!この子が私の弟か妹なんですって!」

「うん、そうだね!ルゥちゃんもまたお姉さんになったんだね、おめでとう!」

「ありがとう!……って、この子、弟? それとも妹? どっちかしら?」


『四番目の御子』の話の流れで、黒妖狼の性別に話が及ぶ。

 ライトは黒妖狼のステータス画面で、この子が男の子だということを知っている。

 だが、ここで『ステータス画面を見たから知ってます!この子は男の子です!』とは、口が裂けても言えない。

 なので、ライトは一芝居打つことにした。


「ルゥちゃん。この子のお腹が見えるように、脇の下から抱っこしてみてくれる?」

「……こう?」

「そうそう。……どれどれ…………うん、男の子だね!」


 ルゥがライトの指示通りに、黒妖狼を縦状になるように抱っこし直す。

 ライトは黒妖狼の下腹部をモショモショと(まさぐ)りつつ、思惑通りタマ(・・)を発見した後高らかに男の子宣言をした。

 ライトの打った一芝居とは『タマがあれば男の子、なければ女の子』という、実に単純明快にして誰でも理解できるものである。


「そっかぁ、三番目の弟かぁ……妹だったら、私のお下がりの服とか着せてあげられたのにー」


 タマつき(・・・・)と聞き、ほんの少しだけ残念そうなルゥ。

 これがもし黒妖狼が女の子だったら、初めての妹ということになり、それこそルゥはさらに大喜びしたことだろう。

 だがしかし、こればかりは持って生まれたものなのでどうしようもない。

 というか、ルゥよ。もし黒妖狼が女の子だったとしても、人型のオーガの服を四つ足の狼に着せるのは無理だと思うのだが。


 ルゥの下の兄弟は男の子二人なので、できれば妹がほしかった、というのがルゥの偽らざる本音だろう。

 だが、ルゥは決してそんなことを口にはしない。

 性別判明から三秒後には気持ちを切り替えて、明るく前を向くルゥ。


「でも、弟の世話なら任せて!レンやロイだって、いっつも私がお世話しているもの!」

「そうね、ルゥは面倒見の良いお姉ちゃんですものね」

「うん!弟が増えて嬉しい!」


 ルゥは母親のリーネの手伝いとして、普段から弟のレンやロイの面倒を見ているので、幼子の世話をするのは得意だ。

 日頃のお姉ちゃんスキルを発揮し、ますますその腕に磨きをかける勢いで張り切るルゥ。

 その流れで「ママ、次は妹を生んでね!」とルゥが元気良くお願いした時には、夫婦して「グフッ!」と噴き出したのはご愛嬌である。


 そしてルゥ達の少し横にいるラウルとオーガのご婦人方も、何やら宴の話で盛り上がっている。


「じゃあ、族長の四番目の子供の誕生を祝う宴には、俺が食材を提供しよう」

「まあ!ラウル先生が宴の料理用の食材を持ってきてくださるんですか!?」

「ああ。子供が生まれたことを祝うためのものなんだからな、とびっきり美味しいものを作らなくちゃな」

「そんなの絶対に美味しいに決まってますわ!そしたらラウル先生、宴に出すお料理のメニューを私達といっしょに考えてくださいね!」

「おう、いつ宴が開かれるかは分からんが、それまでに皆で仕込みや下準備を頑張ろうぜ」

「「「はいッ!!」」」


 小さな卵一つから、里全体で盛大な宴を催すまでに事が発展してしまった。

 だが、自分達とは明らかに違う種族である黒妖狼を、紆余曲折を経ながらも最後は快く受け入れてくれたオーガ族の人達。その懐の深さ、おおらかさに、黒妖狼の真の主であるライトはただただ感謝するばかりである。


「そしたら、宴の日取りが確定したら教えてくれ。食事のメニューを決めたり、それに合わせた食材の準備や料理の打ち合わせもしたいから、少なくとも十日以上は猶予をくれるとありがたいんだが」

「承知した。ならばラウル先生やライト、レオニスの都合の良い日を先に教えてもらえると助かる」

「ああ、そうだな。ライト達はこの先しばらくあちこち出かけるらしいから、先にライト達の空いてる日を聞いておいた方が確実だろうな」


 宴の日取りについて話し合うラウルとラキ。

 ラウルとライトがオーガの里の宴にお呼ばれするなら、レオニスを仲間外れにする訳にはいかない。つまりは必然的にレオニスも招待客として参加することになる。

 そして今はライトが夏休み中なので、この先もあちこち出かける予定が詰まっていて忙しい。中には泊まりがけで出かける予定もいくつかあるので、そうした日を除外した上で宴の予定を立ててもらわなければならないのだ。


「そうか。ではライトよ、レオニスとも相談して皆が空いてる日を教えてくれ」

「分かりました!そしたらルゥちゃんも、宴が開かれるまでにはこの子の名前を決めてあげないとね!」

「うん!強くてカッコよくて、男の子らしい名前を考えておくわ!……フォルちゃん、私にこんな可愛い弟をくれてきてくれて、本当にありがとう!」

「フィィィィ♪」


 ラキの要請を快諾したライト、ルゥにも名付けの件で話を振る。

 きっと黒妖狼の名は数日のうちに決められて、そして宴の席で改めて披露されることだろう。

 そしてルゥは、ライトの肩にちょこんと乗っているフォルに向かって礼を言った。

 ルゥが黒妖狼を三番目の弟として迎えることができたのは、フォルが使い魔の卵を拾ってきたおかげだからである。

 新たな家族という、素敵な出会いをもたらしてくれたフォルにルゥが感謝するのも当然のことだった。


 ルゥに礼を言われて、フォルも嬉しそうに返事をしている。

 本当なら、フォルの主であるライトに渡すつもりだった品だった、使い魔の卵。

 本来の流れとは少々どころか全然違う、全く予期せぬ方向に進んでいってしまったが。結果良ければ全て良し。

 そう、その途中の過程が多少アレレー?でも、結果さえ万々歳ならそれでいいのだ。過程で起きた取るに足らない些事など、キニシナイ!のである。


 この人達なら、きっと大丈夫。黒妖狼はBCOの使い魔システムから生まれた子だけど、目覚めの湖のウィカや転職神殿のミーナ、ルディのように、この子もオーガの里でルゥちゃん達と仲良く暮らしていけるに違いない―――ライトはフォルの頭を撫でながら、心の中で密かに確信していた。

 黒妖狼の住処はルゥの家=ラキ家に決定。

 餌やりは他の子供達やご婦人方も参加したし、そもそも餌を提供したスポンサーは他ならぬラウルなのですが。まさかラウルが生まれたばかりの黒妖狼を、ラグナロッツァの屋敷に連れて帰る訳にもいきませんし( ̄ω ̄)


 そう考えた時、オーガの里の中で誰が黒妖狼を預かるのに一番適してるかといえば、やはりラキ家が最適なんですよねぇ。

 ルゥの下にもまだ幼い弟二人がいますが。三人の子供を絶賛子育て中のラキ家なら、そこに弟分が一匹増えたところで大差ないでしょう!(º∀º) ←鬼

 その分リーネの苦労や仕事が増えそうですが、きっとルゥがお姉ちゃんとしての役割を今以上に果たして、たくさんお手伝いをしてお母ちゃんを支えてくれるはず。

 頑張れ、リーネ母ちゃん!頑張れ、ルゥお姉ちゃん!

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