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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての夏休み

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第628話 天空樹との語らい

 天空島から遠く離れた地にいる、弟妹達の魂―――分体が込められた置き物を抱き、一頻り感慨に浸ったユグドラエル。

 気持ちも落ち着いてきたところで、改めてライト達に話しかけてきた。


『……時に、貴方達の名をまだ聞いていませんでしたね。改めてお聞きしてもよろしいですか?』

「ああ、自己紹介が遅れてすまない。俺の名はレオニス。見ての通り人族で、冒険者をやっている。よろしくな」


 名を問われたライト達は、一行の代表者であるレオニスを皮切りに順番に名乗っていく。


「……あ、ぼ、ぼくは、ライトと言います!レオ兄ちゃんと同じく人族で、レオ兄ちゃんの本当の弟じゃないけど、ほとんど弟みたいなもんです。えっと……天空樹さんに会えて、本当に嬉しいです!よろしくお願いします!」

「俺の名はラウル。プーリア族という妖精だが、今はこのご主人様達の執事として、人里に住んで暮らしている。ツィちゃんの兄姉に会えて光栄だ。今後ともよろしくな」

『我が名は白銀、竜王樹ユグドラグス様のお側に仕えし竜の女王。我が君の姉君に御目文字叶いましたこと、誠に恐悦至極に存じます』


 それぞれが簡単に自己紹介していく。

 その間ユグドラエルの枝がずっとさわさわと揺れ動いていて、心地良い葉擦れの音が優しく響いている。


『レオニスにライト、ラウル、白銀、ですね。ここに来るくらいですから、皆既に私の名を知っているでしょうが……私の名はユグドラエル。この世界で一番初めに神樹に至った者です』

「ツィちゃん達から話には聞いている。六本の神樹の中で、一番上のお姉ちゃんなんだってな」

『お姉ちゃん……うふふ、何だかとっても良い響きですね。これまでそのように呼ばれたことなど、ただの一度もありませんでしたから……すごく新鮮に感じます』


 レオニスに『お姉ちゃん』と言われたユグドラエルが、とても嬉しそうな声で笑う。

 ユグドラエルが他の誰かからそう呼ばれることなど、確かに今まで一度もなかっただろう。天空樹の周辺にいて守り世話をする者達は、ユグドラエルのことを主と崇め奉っているだろうし、この近辺にはユグドラエルを姉と慕う資格のある神樹もいないのだから。

 親しみが込められた『お姉ちゃん』という響きに、ユグドラエルがウキウキとした様子で喜ぶのも当然の流れである。


 だが、そんなウキウキな空気を全く読まない者がここに一人。


「そうなのか? ツィちゃんが酔っ払った時に『お姉ちゃんやお兄ちゃんに会いたーい!』って言ってたぞ?」

「……ちょッ、ラウル!それ、ツィちゃんが恥ずかしがるヤツ!」

「ン? そうなのか? ツィちゃんが酔っ払った話はもう皆知ってることだから、別に話してもいいかと思ったんだが」


 ライトが慌ててラウルを止めるも、時既にお寿司。

 樹木が酒を飲んで酔っ払うという失態まで暴露されてしまった格好である。

 すると、間を置かずしてライトが胸元に着けているタイピンや、レオニスの襟元のカフスボタンからほんのりと熱い空気が発せられてきた。

 ラウルが右手首に着けているバングルも例外ではなく、ラウルの右手首にじんわりとした熱が伝わる。


「……あ、これはツィちゃんが照れてるわ。ツィちゃん、あの話はまだ恥ずかしかったか? ごめんな」

「ラウル、お前ってやつは……見ろ、俺のカフスボタンの温度までどんどん上がってきてるじゃねぇか!」

「え、レオ兄ちゃんのもそうなの? ぼくのタイピンもホッカホカだよ……(アチ)ッ」

『其方達、一体何をやっているのですか……我が君の姉君の御前ですよ? 全く以てお恥ずかしいこと……』


 バングルに向かってユグドラツィに詫びるラウルを、レオニスが呆れ返りながら見つめている。

 三人が身に着けているユグドラツィの分体入りアクセサリーが、まるで携帯カイロのようにどんどん熱を持ち温かくなっていくではないか。


 ライトがタイピンに指を添えてみると、熱湯とまでは言わないが熱めのお風呂くらいの熱さまで上昇している。

 これは間違いなくユグドラツィが恥ずかしがっている。

 人間ならば、顔を真っ赤にして「~~~!!」という声にならない声で呻きながら、左右にゴロゴロ転げ回り悶絶しているようなものである。

 きっと今頃ユグドラツィは、カタポレンの森の中で身を捩るようにして悶えていることだろう。それはもうワッシャワッシャと激しく枝葉を揺らしまくっているに違いない。


 まるで喜劇の様相を呈しているライト達三人の会話を見て、ユグラエルがますます弾むような声で笑う。


『まぁまぁ、ユグドラツィはこんなにもたくさんの、愉快で楽しいお友達に恵まれたのですね。何と喜ばしいことでしょう』

「うん、まぁ、そう言ってもらえるとありがたい……」

「ぃゃ、俺としてはツィちゃんがお姉ちゃんに会いたい、そう言っていたことを天空樹にも知ってもらいたかっただけなんだが……ごめんな、ツィちゃん」


 ラウルが己の右手首にあるバングルを、左手でそっと撫でながら改めて詫びる。

 さっきのような軽いものではなく、本当に心から申し訳なさそうに謝っているところをみると、どうやらラウルも真面目に反省しているようだ。


 ラウルとしては、ユグドラツィが他の神樹皆に会いたいと願っていた、ということを天空樹にも伝えたかっただけだった。

 ユグドラツィの素直な気持ちを、言葉にしてユグドラエルに届けることで、念願叶ってユグドラエルのもとに来れた喜びをともに分かち合いたかったのだ。


 ラウルのその真意が伝わったのか、それまでボンボンに熱かったバングルの熱がどんどん治まっていく。

 それと入れ替わりに、今度はほんのりとした優しい温かさに変わっていく。

 ユグドラツィもラウルの気持ちを知ったことで、左右ゴロゴロ悶絶が治まり心が温かくなったのであろう。


『……こんなに素晴らしいものを、たくさん届けてくれてありがとう』

「どういたしまして。俺達はツィちゃん達の友達だからな。友達の切なる願いを、出かけついでに叶えたまでさ」

「そうですよ!ぼく達、いつもツィちゃんやシアちゃんにお世話になってますし!」

「ああ、ツィちゃんは俺の親友だからな。ツィちゃんが喜んでくれるならお安い御用だ」

『私も我が君の長年の願いを叶えることができて、本望にございます』


 ユグドラエルの心からの礼の言葉に、ライト達も本心で返す。

 人間と妖精、竜、そして神樹。様々な種族が互いを思い遣り慈しむ、心の交流が成された瞬間だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 届け物と自己紹介が一通り済んだところで、今度は白銀の君が一歩前に進み出た。

 竜王樹ユグドラグスの言葉を伝えるという、彼女にとって一番重要な使命を果たすためである。


『天空樹ユグドラエル様、本日私は我が君であるユグドラグス様のお言葉をお伝えしに参りました』

『まぁ、ユグドラグスの言葉、ですか。我が弟は何と言っておりましたか?』

『時折天から姉君の気配を感じては、いつかお会いしたいと思っておりました。神樹の始祖にして偉大なるユグドラエル姉様と、天に住まう全ての善き者達に、ますますのご清栄あれ。と……我が君は、そう申しておられました』


 白銀の君が、竜王樹から託された言葉を一言一句漏らさぬよう、ゆっくりと伝えていく。

 全ての言葉を伝え終えた白銀の君は、ふぅ……と小さく一息ついた。己の任務を全うしたことで、心からの安堵を得たようだ。


『神樹になって、まだ日も浅いあの子が……何と立派なことでしょう』

『我が君は、あの地においてなくてはならぬ御方。神樹としては歳若くとも、既に立派で偉大な存在となってございます』

『あの子がこんなにも立派な神樹になれたのは……白銀、貴方が傍にいて支えてくれているおかげなのですね』

『えッ!? ぃ、ぃぇ、決してそのようなことは……私のような若輩者には、過分な勿体なきお言葉です!』


 立派な神樹に成長した末弟に思いを馳せながら、白銀の君の功績を讃えるユグドラエル。

 一方の白銀の君は、天空樹からそんな労いの言葉をかけてもらえるとは夢にも思っていなかったのか、上擦った声で慌てている。

 常に冷静沈着な白銀の君が、このように慌てふためく姿など実に珍しいことである。


 おお、こりゃ面白ぇもんが見れたな!とばかりに、ニヨニヨと笑うレオニス。

 もちろん声を出して笑っていた訳ではないのだが、ニヨニヨオーラがダダ漏れしていたのか、白銀の君に速攻で気づかれてしまった。

 ニヨニヨ顔のレオニスと白銀の君、双方の目線がバチッ、とかち合う。


『こ、これ、レオニス!ななな何を笑っているのです!』

「ぁ? ぃゃー、白銀の君にも竜王樹以外に畏まる相手がいたんだなぁー、と思ってさ!」

『ここに御座す御方をどなたと心得ているのですか!? 畏れ多くも世界最古の偉大なる天空樹、ユグドラエル様ですよ!? 本来なら私如き若輩者がお目通りの叶うような御方ではありません!』


 白銀の君の珍しい表情を垣間見た嬉しさに、レオニスはニカッ!と爽やかな笑顔で答える。

 そんなレオニスを見て、余計に恥ずかしくなりさらに顔が紅潮する白銀の君。照れ隠しのためか、白銀の君がこれまた珍しくガーッ!とあれこれ言い募っている。

 だがレオニスは、白銀の君の勢いに物怖じすることなく、横にいたラウルに話を振る。


「えー、白銀の君が若輩者なんて言ったら、俺ら人族なんてどうなるのよ? なぁ、ラウル?」

「全くだ。人族は全員ミジンコで、妖精の俺は毛虫か何かになるしかないな」

「だよなー」


 話を振られたラウルの見事な答えに、レオニスも両手を頭の後ろに組みながら納得しつつ頷く。

 竜の女王たる白銀の君が若輩者なら、人族のレオニスやライトなど本当にミジンコ以下に喩えられても仕方がない。

 妖精のラウルだってまだ118歳、神樹や竜族からしたら鼻タレ小僧の若僧でしかないのだ。


 だがしかし。ライトにしてみれば、もう少しマシなものに喩えてもらいたい。

 故にライトはラウルに向かって速攻で抗議した。


「えー、さすがにミジンコと毛虫はやだー!そこはせめてスライムとゴブリンくらいにしようよー!」

「ライト……それ、ミジンコ毛虫と大差ねえぞ?」

「ちゃんと手足がついてるだけマシじゃん!……って、スライムは手はあっても足はちょっと怪しいけどさ」

「じゃあ、俺ら人族はスライムで、ラウル達妖精はゴブリンな!」

「ちょっと待て……妖精がゴブリンってのはさすがにナシだろう……」


 人族と妖精族の喩えのあり方について、三人が喧々諤々の論争を始めた。三人とも、実に真面目な顔して議論を交わしている。

 それまでずっとプルプルと戦慄(わなな)いていた白銀の君が、とうとう我慢しきれずに特大の雷を落とした。


『其方達!いい加減になさい!天空樹の御前ですよ!?』


 白銀の君の怒声に、ライト達の身体がビリビリと揺れる。

 プンスコと怒る白銀の君に、天空樹が優しい声で宥める。


『これこれ、白銀。竜の女王がそう簡単に怒り散らすものではありませんよ。貴女が本気で怒気を発したら、大抵の者は正気を保つことすら不可能でしょうに』

『は……我が君の姉君の御前で、お見苦しいところをお見せしてしまい、誠に申し訳ございません。ですが……』


 ユグドラエルに宥められた白銀の君、慌てて天空樹の方に向き直り跪く。

 そしてユグドラエルに謝罪しながらも、レオニス達の方をちろりと見遣る。

 その視線の先にいるレオニス達。ユグドラエルが言うような、正気を保てずにぶっ倒れるどころかピンピンとしていた。


 しかも三人とも「怒られたのは、ユグドラエルの前で大きな声で雑談したからだな!」と思ったようで、何と今度は三人でしゃがんで輪を作りながらひそひそ声で話を続けているではないか。

 あまりにも斜め上の反応に、さすがの白銀の君もこれ以上ツッコミを入れる気にはならなかった。


『ユグドラエル様。見ての通り、この者達に常識など通用いたしません……』

『……そのようですね……』


 ライト達は、白銀の君の視線に気づくことなく議論を続ける。


「ラウルはゴブリンは嫌?ならポイズンスライムくらいにしとく?」

「ぃゃぃゃ、それもかなり酷くねぇか?」

「じゃあ、人族は小人のナヌスで、妖精は鬼人のオーガならちょうどよくね?」

「ンーーー……そこら辺くらいが妥当、かなぁ?」


 しばし小声で議論を交わし続けていたライト達だったが、ようやく落としどころを見つけたようだ。

 もとはといえば、白銀の君が発した『若輩者』という言葉がきっかけだったのだが。いずれにしても、竜の女王や世界最古の神樹を前に三人ともいい度胸である。


 白銀の君は、ハァ……ともはや諦めたようなため息をつき、ユグドラエルはしばし呆気にとられた後、楽しそうにクスクスと笑っていた。

 天空樹ユグドラエルとの対話です。

 ライト達の『他の神樹の枝で作った品をユグドラエルに届ける』という目的は前話で果たされたので、次は白銀の君のターン!という訳ですね(・∀・)

 途中ラウルがポロリと暴露した話に、ユグドラツィが左右に転げ回る悶絶プレイに展開してしまいましたが。

 大木が左右にゴロゴロ転がる図を想像すると、うどんやパイ生地などを麺棒で延ばす図が真っ先に浮かぶという、作者の想像力のお粗末さよ・゜(゜^ω^゜)゜・


 ちなみに後半部分、レオニスが白銀の君に対してかなり気安くなっていますが。これは中位ドラゴン達との親睦を図るために、シュマルリ山脈南方に通い続けた過程で得た賜物です。

 中位ドラゴン達とともに、度々ユグドラグスのもとに度々通っていたレオニス。ユグドラグスのもとを訪れるということは、必然的に白銀の君とも顔を合わせることになり、その結果白銀の君ともそれなりに仲良くなっていったのです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 3人固まってこそこそ話してるのが目に浮かびます。 楽しそうでなによりです。 更新お疲れ様です。応援してます。 ツィちゃんはどんまいです。
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