第620話 ライトの魔力テスト
前世での破壊神トラウマを刺激され、ヨロヨロの千鳥足になりながら下校するライト。
だが家に帰れば、今日は魔法の威力テストが待っている。そのことを思うと、自然と気持ちも上向きになってくる。
ラグナロッツァの屋敷に着く頃には、すっかり元気を取り戻していた。
「ただいまーッ!」
「おかえり、ライト」
「レオ兄ちゃんは帰ってきてる?」
「まだ帰ってきてないが、もうそろそろ帰ってくるんじゃないかな。昼飯はこっちでライトといっしょに食うって言ってたから」
「そっか、じゃあレオ兄ちゃんが帰ってくる前に着替えてくるね!」
「いってらー」
元気良く帰宅したライトを、音もなく現れたラウルが出迎える。
ライトは着替えるために、すぐに二階に上がっていく。
通学鞄を置いて制服から私服に着替え、一階に下り手食堂に入った時には既にレオニスがいた。
「あっ、レオ兄ちゃん!おかえりなさい!」
「ただいま。ライトもラグーン学園の一学期終了、お疲れさま」
「うん!今から夏休みだー!」
「出かけた後の休日に、ちゃんと夏休みの宿題もするんだぞ?」
「分かってるよ!お出かけも夏休みの宿題も、ちゃんと全部頑張るって約束する!」
「その意気だ、頑張れよ」
ライトもテーブルに着き、レオニスとラウルといっしょに三人で食事を摂る。
昼食を食べながら、午後の行動について話し合いを進めていく。
「レオ兄ちゃん、お昼の後のぼくの魔力テスト?は、どんな風にやるの?」
「テストはカタポレンの森で行う。森の中なら、ライトの魔法威力が高くても周りに損害が出にくいからな」
「そうだね、森の中でやる方がいいよね」
ライトの魔力テストは、カタポレンの森に場所を移して行うという。
確かに周囲に木々しかないカタポレンの森ならば、ライトの魔法威力が多少高くても大した被害は及ぼさないだろう。
「家の周辺で土魔法を見てから、目覚めの湖に移動して火魔法、風魔法、水魔法のテストをする。湖の小島なら、水魔法はもちろんのこと火魔法や風魔法を使っても問題ないからな」
「あー、確かに目覚めの湖に行けば周りは水だから、火魔法使っても安全だよね!」
「そゆこと」
テスト場所は二ヶ所、自宅敷地内と目覚めの湖の小島で行うという。
それまで『森の中で火魔法とか使えるの?普通にダメだよね? どうやってテストするんだろ?』と思っていたライト、レオニスの案を聞いて超納得している。
「目覚めの湖に行くなら、早く行こうよ!テストが終わった後にアクア達と遊びたいから!」
「おう、ンじゃ昼飯とっとと食ってさっさと移動するか」
「ラウルはこの後どうするの?」
「ライトの土魔法のテストだけ、いっしょに見に行ってもいいか? その後畑の収穫や土作りをしながら、ご主人様達が目覚めの湖から帰ってくるのをのんびりと待つわ」
テスト内容が決まったところで、少しでも早く移動すべく昼食を食べるスピードをアップさせていく三人。
昼食をちゃちゃっと済ませたライト達は、早速カタポレンの家に移動していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カタポレンの家に転移門で移動し、早速外に出る三人。
晴れ渡る空は、野外での絶好のテスト日和である。
外でレオニスがライトに、魔法の発動の仕方をレクチャーする。
「魔法の発動において重要な点はいくつかある。詠唱、魔法陣の構築と理解、そして想像力だ」
「詠唱や魔法陣の構築は、市販されている各属性の初級魔法以上を使う時に必要になる。初級魔法や中級魔法程度なら、詠唱と想像力だけでも十分発動できる。だがそれ以上、上級や最上級ともなると魔法陣の構築と完璧な理解が必要になる」
「この中で、ジョブを得ていない子供のうちからでも使えるものといえば、想像力。いわゆるイメージ力ってやつだな」
レオニスがライトにも分かりやすいように、サイサクス世界における魔法の何たるかを説明していく。
ジョブも持たない子供が、どうやって魔法を使うんだろう?とライトは疑問に思っていたのだが、想像力が鍵となると聞いて得心する。
属性の素質と想像力があれば、子供でも魔法が使えるのだ。
そして本格的な魔法を駆使するには、詠唱と魔法陣が必要になる。それらは正式にジョブを得てから習得するものであり、子供には扱えない。
それらを使えるようになるまでは、想像力のみで魔法を使う。
そうすることにより、子供のうちは身体の成長や魔力の鍛錬などの下地作りに励む、という仕組みである。
好奇心旺盛な子供というのは、物事をあまり深く考えずに危険なことにもすぐに手を出してしまいがちだ。
そうした子供達の身を守るためにも、使える魔法を制限して危険から遠ざけることも必要である。
それがちゃんと仕組みとしてできているというのは、なかなかに合理的で理に適っているな、とライトは内心で感心する。
「想像力だのイメージ力だのと言うと、堅苦しく聞こえるかもしれんが。まぁ要は、火魔法なら火が燃えているところ、水魔法なら水が湧いている様子、風魔法なら風がビュービュー吹いてるところを想像すりゃいいんだ」
「火がボーボーに燃えているところを想像したら、強い火魔法になるの?」
「必ずしもそうはならんところが、魔法の面白くも難しいところでな。その威力は個人の資質によるところが大きいんだ」
イメージすることによって、幼い子供でも魔法が発動できる―――ならばその想像の仕方如何で、いくらでも極大魔法が使えそうなものだが、さすがにそうはならないらしい。
「例えばの話、大きな火を作ったり長く持たせるにも、薪とか油とか何かしらの燃料が要るだろう?」
「魔法発動における燃料とは、当然のことながら発動者自身の魔力だ。魔力が少ない者には、大きな火を起こすだけの燃料がない」
「そしてそれは火魔法だけでなく、他の全ての属性で同じことが言える。魔力が少なければ、それだけでもう強い魔法は発動できないんだ」
『魔法の燃料は術者の魔力』―――まさしく魔法ありの世界の王道な法則である。
いくら強い魔法を覚えても、術者自身の持つMP以上の魔法は駆使できないのだ。
「あー……だからレオ兄ちゃんは、ぼくが魔法を使うことを心配してたんだね」
「ああ。魔力が多ければ多いほど、強い魔法をイメージしただけでそれを実現できてしまうからな」
「じゃあ、ぼくは最初から強い魔法をイメージしない方がいいってこと?」
「そうだな、出来れば最初はとても弱めのものをイメージした方がいいと思う」
レオニスの懸念を芯から理解できたライト。
例えばライトが頭の中で、魔法発動時に前世のテレビや映画で見たような大爆発シーンを思い浮かべてみたとしよう。
そのとんでもない大爆発シーンが、完全一致で再現されてしまうかもしれない訳だ。
それを瞬時に理解したライト、背筋が凍りつく。
さすがにそれは洒落にならん……どれだけの威力が出るかは、後で一人の時に荒野とかで実験するとして。今回のテストでは自制しとこう……ライトは身震いしつつ、心の中で決意する。
「じゃあ土魔法の場合は、土がちょこっと盛り上がるようなところを想像してみればいい?」
「そうだな、そこら辺くらいがちょうどいいだろう」
「早速やってみるね!」
ライトは目を閉じ両方の手のひらを広げ、敷地内の平らな地面の一角にモグラが土を掘って盛り上がるような場面を、頭の中に思い浮かべた。
ちなみにレオニスからは『目を閉じろ』とも『両手を前に翳せ』とも言われていない。これはライトが魔法を具現化しやすいように、自らアレンジしてやったことだ。
とはいえ、レオニスも魔法を使う時には手のひらを広げて詠唱したりするし、前世のゲームやアニメ、映画などの影響も多分にあるだろう。
特に何を指導せずとも、結構様になっているライトの姿を見たレオニスが「ほぅ」と感心している。
すると、しばらくしてライトが思い浮かべた場所にポコポコッ、と土が盛り上がったではないか。
「おお、成功したな!」
「すげーな、ライト!そしたら今度は俺の畑で土を増やせるか、試しにやってみてくれるか?」
「うん、いいよー」
ライトの土魔法が成功したことを喜ぶレオニスとラウル。
ラウルに至っては、次の実験のついでとばかりに自分の畑の土が増やせるかどうかを試してくれ、と言い出した。
どこまでもちゃっかりとした妖精である。
ラウルは次々と新しい畑を順調に増やしていき、今ではカタポレンの家の東西南北に一枚づつ、計四枚の畑を作っていた。
ちなみに丸太リサイクルのための四阿も、既にキットを買い取って畑の北西の角に設置済みである。
ラウルは土魔法実験の第二弾として、南側の畑を指定した。
この南側の畑は一番最初にラウルが開墾した、記念すべきカタポレンの畑第一号である。
もう何度も作物を作っては収穫し、を繰り返しており、土の目減りも早かった。
今はちょうど収穫直後で、何も植わっていない。実験場としてもうってつけだ。
畑の横に立ったライトは、先程のように目を閉じて両手を前に翳す。
今度はこの畑の一面に、土が水の如く湧き出すようにモリモリと増えていく場面を想像する。
すると、今度もライトのイメージ通りの現象がラウルの畑で起きた。
「おおお……土がどんどん増えていくぞ……」
「やったぜ!これで土の補充をしなくて済む!ありがとうな、ライト!」
「ライト、体調はどうだ? 疲れたとか怠いとかはあるか? 他にも何か、異変を感じたりはしていないか?」
畑の土が増えたことを喜ぶラウルの横で、レオニスが心配そうにライトに声をかける。
畑一面の土をモリモリ増やすなんて、レオニスからしてみたら結構な魔力を食ってるんじゃないか?と心配するのも当然のことだ。
だが、当のライトはケロリとした顔で答える。
「ううん、どこも具合悪くなったりしてないよー」
「そ、そうか、ならいいが……お前の魔力も、俺に似て結構な底なしかもしれんな」
「……心配させちゃった? ごめんね、レオ兄ちゃん」
顎に手を当て、はぁー……と感心するように呟くレオニス。
ライトの魔力はかなり高いであろうと予想はしていたが、ここまでのもとのは思っていなかったのだろう。
「ライト、もし魔力をたくさん使って腹が減ったら、無理せずいつでも言ってくれ。俺の特製スイーツで魔力回復しよう」
「うん!気を遣ってくれてありがとうね、ラウル!」
ラウルはラウルで、ライトの体調を気遣っている。
実験ついでとはいえ、自分の畑の土を大量に増やしてもらったのだ。その御礼代わりと言っては何だが、魔力回復のために美味しいスイーツをいくらでも差し出すつもりのラウル。
これでも彼なりに気遣っているのだ。
「土魔法は、その延長線で石や岩を放出する攻撃魔法なんかもあるが。攻撃魔法はライトにはまだ早いから、もっと成長してから教えることにする。それまでは、さっきのようにラウルの畑の土を増やす手伝いなんかをこなして、土魔法の基礎鍛錬をするようにな」
「うん、分かった」
「そしたら次は、目覚めの湖に行くか」
「うん!」
ライトの魔力テスト第一弾、土魔法のテストを終えたところで、次のテスト会場の目覚めの湖に行くことにしたライトとレオニス。
「じゃ、俺はこのままここで蟹殻を焼いたり畑の作業をしてるわ」
「ラウルも頑張ってね!」
「ああ、ご主人様達もテスト頑張ってな」
ラウルは当初の予定通り、ここに留まって畑作業その他をしながらライト達の帰りを待つという。
魔力テスト自体はさほど時間はかからないだろうが、その後にライトはアクア達と遊ぶ気満々なのですぐには戻ってこないだろう。
向こうで三時のおやつを皆で食べて、そこからまた少し遊んだり話をしたりして、ライト達が帰ってくるのはきっと午後五時前後あたりか。
それまでラウルも存分に畑の手入れをするのだろう。
「あ、そうだ。ライト、これを持っていきな。向こうでテストが終わった後に、目覚めの湖の皆といっしょにおやつとして食べるといい」
「ありがとう、ラウル!」
ラウルが己の空間魔法陣を開き、ホールのアップルパイなどを取り出す。
ライトは急いでアイテムリュックを下ろし、ラウル特製スイーツを受け取っては入れていく。
目覚めの湖の仲間達も、ラウル特製スイーツは大好物だ。きっと喜んでくれるだろう。
皆への良い手土産をもらえて、ライトもニッコニコの笑顔だ。
「じゃ、いってきまーす!」
「気をつけて頑張れよー」
カタポレンの家の敷地に残るラウルに見送られながら、ライトとレオニスは目覚めの湖に向かっていった。
遂に!ライトのサイサクス世界での初めての夏休みです!……って、日付け的にはまだその前日の終業式の日なんですが。
でもって、前話での話の成り行きでライトの魔力テストを行うことに。
BCOシステムのスキルに頼らない、ライト自身の純粋な魔力を使って魔法が使えるかどうか。それは今後のライトの人生において、結構重要なファクターだったりします。
ジョブシステムなどの根幹部分はどうなるかまだ分かりませんが、少なくとも魔力の変換自体は他者と同様に行うことができるようで一安心、といったところですね(・∀・)




