第597話 様々な称号
翌日曜日。
この日ライトは、午前中はカタポレンの家でゆっくり過ごし、午後から転職神殿に行くことにした。
前の日の目覚めの湖で結構遊んだので、昼までベッドの上でゴロゴロしつつ英気を養うのだ。
朝イチの魔石回収他ルーティンワークを終え、すぐに部屋着に着替えてベッドにダイブする。
今日はフォルといっしょにお出かけするため、フォルもお使いには出さずに一日中ライトと過ごす予定だ。
フォルとともに、ベッドの上でゴロゴロゴロゴロ転がり続けるライト。
久しぶりに休日ならではの過ごし方ができることに、ライトの頬は緩みっ放しでニヤニヤが止まらない。
あー、思えば冬休みも春休みも、黄金週間すらもこんなゴロ寝はほとんどできなかったなぁ……ゴロ寝三昧万歳!
ていうか、何ならラグーン学園通ってる平日の方がのんびりゆったりできてるよね……学園にいる間は、こっそりSP消費して職業熟練度上げするくらいしかできないし。
平日より休日の方が多忙な児童って、俺くらいのもんじゃね?
でも、初等部だから授業は易しいものばかりだし、人間の友達と遊んだりお話したりするのも楽しいし。
やっぱ学校に通わせてもらえるようになって、ホントに良かったな!
布団に包まりゴロゴロしつつ、そんなことをつらつらと考えるライト。
『友達』という単語の上に『人間の』をつける必要があるのは、この世でおそらく数人であろう。もちろん当人はそんなことなど全く気づいてもいないようだが。
そうして思う存分ゴロ寝をし、十一時を回った頃にのそのそと身体を起こしてマイページを開いたライト。
これまた久しぶりのマイページチェックである。
BCOのせいで休みなく忙しい!とぼやきつつも、BCOはライトの根幹を成す重大要素であり、前世今世ともに切っても切れない縁がある。
BCOは前世では単なるソシャゲの一つに過ぎなかったが、今世ではサイサクス世界でのライトの将来、人生を大きく左右する鍵となっている。
もうほとんどというか、完全に腐れ縁と化してしまった感すらあるが、それでも己の将来をより良いものにしていくためにはBCOシステムを存分に活用していくべきである。
そうして開いた、ライトだけが見れるマイページ。
ステータスやらアイテム欄やらイベント欄等々、ライトの様々な個人情報がぎっしりと詰まっている。
その中で、今回閲覧したのは称号欄である。
まず称号の中でも上位種であり、常時発動する特殊称号。
ここには『大神樹の加護』や『炎の女王の加護』などの、これまでに高位の存在から賜った加護が特殊称号として表示されている。
ここに新たに『火の女王の加護』『闇の女王の加護』『ノワール・メデューサの加護』『海の女王の加護』が加わっていた。
また随分と増えたものだな、とライトは内心思う。
だがそれは、これまでにライトが出会ってきた数々の珠玉の出逢いの証でもある。
称号として新たな加護をライトにもたらしてくれた、属性の女王達やノワール・メデューサのクロエの顔がライトの脳裏に浮かぶ。
また皆に会いに行きたいな……そしたらこの先の休日もまた全部消えるけど、麗しの女王様達や可愛いココに会うためなら、休日なんてなくたっていいもんね!休息なんて、むしろ平日のラグーン学園でいくらでも取れるし!全然問題ないね!
特殊称号欄を見ながら、そんなことを考えるライト。全く以って本末転倒もいいところである。
次に、入れ替え可能な称号スロット欄のチェックに入る。
ここも例に漏れず、見覚えのない様々な称号が増えていた。
『文化破壊の大罪未遂者(未遂)』『ゴルゴン女王の兄』『力天使の主』『妖精の相談役』『雪狩り名人』『ブレンド水マスター』『人魚達のアイドル』『薬師見習い』『卵の孵化の達人』『黄金龍のパパ』『姉妹鑑定超初心者』
相変わらず、一目見て大凡の由来が分かる称号達。
その一つ一つをチェックしていく。
『文化破壊の大罪者(未遂)』……これ、ナヌスの丸薬の一件のやつか。『未遂』で留まってくれて、ホンット良かった……ナヌスの里から丸薬が完全に消えてたら、クエストイベントだって詰んでたよ!
『ゴルゴン女王の兄』、これはココからお兄ちゃん認定されたからか。いっつも弟ポジションの俺が、お兄ちゃん……フフフ、すっごく良い響き♪
『力天使の主』に『黄金龍のパパ』、うん、これはミーナとルディのことだね。ココのお兄ちゃんどころか、ルディのパパにまでなっちゃったよ……しかも『卵の孵化の達人』なんてのもついてるし。俺、もうこの世界で何回も卵を孵化させてるもんなぁ。
『妖精の相談役』……これ、何ぞ? 妖精って、ラウルのことだよね? 今までガラス温室やら殻肥料やらのことで、散々ラウルの相談に乗ってきたからか?
『雪狩り名人』、ツェリザークの氷雪拾いのことか。俺よりラウルの方がたくさん採ってるはずだけど……そしたらラウルは『雪狩り帝王』とかになるのか?
『ブレンド水マスター』、ツィちゃんやシアちゃんに毎回あげているブレンド水関連か。神樹族にあげられるものって、お水くらいしかないからね……他にももっと何か別の、美味しいものもあげられるようになれるといいのに。
『人魚達のアイドル』、ラギロア島の人魚のお姉さん達、元気にしてるかな。お姉さん達に約束した髪飾り、アイギスで買って早く届けに行きたいな!
『薬師見習い』、ミーナやルディの孵化のために、散々回復剤を作り続けたせいかな。もっとたくさん作り続けたら、見習いより上になれるのか?
『姉妹鑑定超初心者』……クレア十二姉妹のことか!くっそー、未だに一人も見分けがつかん……あッ、ただの初心者じゃなくて『超初心者』になってるのはそのせいか!? この『超』の文字が消えるまで、一体どれほどの年月がかかるんだ!?
全ての称号に目を通し終えたライト。一番最後の『姉妹鑑定超初心者』に何気に凹んでいる。
今回はイグニスの破壊神関連が出てこなかった代わりに、何とクレア十二姉妹関連が初登場とは。ライトもびっくり仰天である。
イグニスとクレア、どちらもBCOの名物NPCだった。
鍛冶屋で強化を依頼された武具を壊しまくる破壊神に、各種イベント案内をこなす冒険者ギルドの看板受付嬢。
サイサクス世界で会う彼らはとても気の良い善人なのだが、双方ともに称号関連では天敵と化しつつある気がしてならない。
各称号のステータス補正値をチェックし、適宜入れ替えていく。
こうして一通り称号チェックを終えたライト、ふと時計を見るともうすぐ正午になることに気づく。
今日はレオニスが午前中にアイギスに行くと言っていたので、お昼ご飯はラグナロッツァの屋敷で食べよう、ということになっている。
ライトはベッドから降りて、私服に着替えてフォルとともにラグナロッツァの屋敷に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「よう、小さなご主人様」
「やっほー、ラウル。昨日はお疲れさま」
「ライトもお疲れさま。昼飯の支度はもうできてるぞ」
「レオ兄ちゃんは戻ってきてる?」
「ああ、さっき外から帰ってきたところだ」
ライトが二階の宝物庫から出て、階下に下りると同時にライトのもとに音もなく現れたラウル。二人で食堂に向かいながら簡単な話を交わす。
「そっか、ちょうどいい時に来たね。フォルのご飯もお願いできる?」
「もちろんだ、サラダや木の実ならいくらでもすぐに出せる」
「ありがとう、よろしくね。フォル、良かったね」
「フィィィィ」
自分のためにサラダを出してくれると聞いたフォルが、ライトの肩からラウルの肩にヒョイ、と飛び移り、ラウルの頬に頬ずりする。フォルなりのお礼の言葉代わりなのだろう。
ラウルは自分の肩に乗るフォルの背中をそっと撫でる。
努めて平静を装っているラウルだが、心なしか彼の身体が全身プルプルと震えているように見えるのは、多分気のせいではない。
その証拠に、ラウルの頬は紅潮しているどころか耳まで赤い。
フォルに頬ずりされて、内心では飛び上がりたいくらいに大喜びしているのだ。
飛び上がりたいほどの歓喜を抑えてはいるが、隠しきれないあたり何ともフォル教信者第一号らしい。相変わらずフォルにメロメロである。
食堂に移動すると、レオニスが既に席についてライトを待っていた。
早速ライトはレオニスの横の席に座る。
「レオ兄ちゃん、おかえり。待たせちゃってごめんね」
「ただいま。俺もさっきここに戻ってきたばかりだから、気にすんな」
ライト達が話している間に、ラウルがフォルのためのサラダを数皿取り出して並べている。
レタスサラダに木の実がたくさん入った小皿、昨日採取してきたばかりの目覚めの湖産の水草サラダ。どれもフォルのためのご飯である。
「「「いッただッきまーす!」」」
食事の挨拶を済ませ、昼食を食べ始めるライト達。
ライト達用にも、昨日の目覚めの湖産の貝を使った料理が並ぶ。
新しい食材には滅法目がないラウル。今朝からずっとそれらを使って、様々な料理を考案し作っていたようだ。
「昨日の浜焼きも格別に美味しかったが、この酒蒸しや味噌汁なんかもすんげー美味ぇな!」
「酒蒸しにはオーガの酒を使っている。『鬼人族の酒・特級品』はやっぱ酒蒸しが一番良く合うな」
「おお、ラキ達が作る酒か。俺は酒は全く飲めんが、こうして料理に使うとまた美味いもんに化けるんだな!」
「オーガの里にまた礼を言いがてら、酒をもらってこなきゃな」
レオニスが感心したように、ラウル特製貝の酒蒸しを絶賛しつつモリモリ食べている。
貝類の旨味を簡単に引き出せるのが、酒蒸しという料理だ。
エンデアンの海鮮市場で仕入れたジャイアントホタテの酒蒸しも美味だったが、目覚めの湖の貝類にもオーガの酒がよく合うようだ。
「レオ兄ちゃん、アイギスで神樹の枝のアクセサリーは頼んできたの?」
「おう、一週間くらいで仕上げてくれるように頼んできた」
「そっか、ツィちゃんの弟さんか妹さん?の良いお土産になるといいね!」
「そうだな。それだけじゃなくて、八咫烏の里のシアちゃんにもまたアクセを届けに行かなくちゃな」
「うん!」
レオニスはアイギスでのアクセサリー注文を無事済ませてきたようだ。
竜王樹への手土産が用意できれば、いつでもシュマルリ山脈南方に出向くことができる。レオニスの見立て通り、十日後には出立できそうだ。
「皆は午後は何して過ごす予定なの?」
「俺は魔術師ギルドに行って、ピースから浄化魔法の呪符を受け取ってくる」
「俺はオーガの里で料理の指南してくるついでに、オーガの酒をもらってくる。ライトはどこか出かけるのか?」
「うん、久しぶりにフォルといっしょにカタポレンの森の散策に行くつもりなんだ!」
「そうか、気をつけて出かけてこいよ」
「うん!」
三人ともそれぞれ午後の予定がちゃんと入っているようだ。
昼食を食べ終えたライト達は、それぞれの予定をこなすべく分かれていった。
久しぶりの称号チェックです。
前回の称号チェックが第427話、作中時間で二月半ばあたりなので三ヶ月ぶりくらいですね。リアル時間では半年弱ほど経過していますが。
相変わらず変ちくりんな称号が増えてますが、まぁ使えそうにないものはお蔵入りするだけなので特に害はありません。称号スロットに装着しなければいいだけの話ですしね。
ただし『破壊神の友』とか『姉妹鑑定超初心者』などは、ライトの精神に地味ーにダメージを与えていますが・゜(゜^ω^゜)゜・
特に破壊神系は、各種ステータスにマイナス補正値が大幅にかかるので絶対に使えません。いわば『呪いの装備品』に近いかも。
作中のイグニス君は、ホントに良い子なんですけどねぇ……




