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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
平穏な日々

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第596話 水神が認めし者

「くーーーッ!運動して疲れた後の甘いもんは効くなぁ!」


 ライト達が用意した木陰の下の敷物の上で、おやつを頬張るレオニス。

 アップルパイにシュークリーム、一口サイズの揚げドーナツに塩っ気要員の唐揚げ等々、定番のおやつがずらりと並ぶ。

 もちろんおやつを食べるのはレオニスだけではない。ライトやラウル、水の女王、ウィカも各々好みのおやつを手に取っては味わいつつ食べている。


 ちなみにイードとアクアには、ライトが追加で出したミートボールくん各五個づつと、ラウルが二回目に水揚げした貝類の一部をおやつにあげた。

 貝類はいつも食べているだろうが、おやつだって品数が多い方がより楽しいだろうと思い、少量だがレオニスに締めてもらう前に差し出したのだ。

 イードもアクアも、それぞれ美味しそうにおやつを頬張っている。


 パクパクとものすごい勢いでスイーツを頬張るレオニスに、ラウルが声をかけた。


「あ、そういやご主人様よ。前にこの装備に魔法付与してもらった件の報酬な、出来上がってる分を今ここでご主人様に渡しとくわ」

「お、もう出来上がったの?」

「全部じゃなくてまだほんの一部、三割程度だがな」

「んじゃ俺の空間魔法陣開くから、そこに入れといてくれ」

「了解」


 レオニスが自分の目の前に、空間魔法陣を水平に開く。

 その30cmくらい上に、今度はラウルが己の空間魔法陣を同じく水平に開く。

 二つの空間魔法陣が水平で上下に重なっているという、世にも珍しい光景である。


 ラウルの空間魔法陣から、数多のスイーツが雨粒の如くザババババーッ……と降り注ぐ。そして降り注いだスイーツの雨は、音もなくレオニスの空間魔法陣に入って消えていく。

 一個一個手渡しするのではなく、空間魔法陣Aから別の空間魔法陣Bに収納し直している形だ。


 二つの空間魔法陣の間を、無数のスイーツがドバドバドバー……と、まるで滝の水のように上から下に流れ落ちていく。全く以って風情の欠片もない光景である。

 だが、物を大量に受け渡す時には非常に有効な手段だ。

 他者の手を一切介さないので、形が崩れたり地面に落とす心配もないし、何より楽ちんなのが一番良い。


 個数確認が全くできないというデメリットはあるが、そこはレオニスとラウルの間柄。互いに信頼し合っているので、そんな細かい数量をいちいち確認することもない。

 ここら辺の緩さは、受け取る側がキニシナイ!大魔神の申し子であるレオニスだからこそ成せる業である。


 そんな風情もへったくれもないスイーツの受け渡しの様子を見て、ライトが感心したように言う。


「うわぁー……ラウル、たくさんスイーツ作ったんだねぇ」

「俺の冒険者登録の祝いに、こんな良い装備一式を作ってもらったからな」

「何を何個くらい作ったの?」

「ンーと、シュークリーム八十個にカスタードクリームパイ七十個、レアチーズケーキ百個に砂漠蟹のカニクリームコロッケ百二十個、今渡したのはこんなところか」


 ライトとラウルの会話を聞いていたレオニスが、不思議そうな顔でラウルに問うた。


「ン? こないだの交渉では、十二種類のスイーツを各五十個づつ、じゃなかったか? 何か今聞いてたら、個数が全部バラバラなんだが……」

「この装備にいろんな付与魔法を施してもらったおかげで、畑の開墾とかかなり助かったからな。その礼も含めての割り増しだ」

「そうなのか? まぁ多めにくれるってんなら、俺としてもありがたいがな!」


 ラウルの答えに、レオニスが破顔しつつ礼を言う。

 交渉内容より多めにスイーツをもらえるというのなら、レオニスとしても万々歳にして大歓迎である。


「ご主人様もこれから遠征に出かけると言うし、遠征先で食べるのにもちょうどいいだろ」

「おう、ラウルも気ぃ遣ってくれてありがとうな!」

「……何、礼には及ばん。たまには執事らしいこともしてやらんとな」


 レオニスからダイレクトに礼を言われたラウル、少しぶっきらぼうな物言いになる。どうやら少しだけ照れているようだ。

 そんな様子のラウルに構うことなく、レオニスはさらなる注文をつける。


「そしたら遠征用の食事の方もよろしくな!」

「おう、任せとけ。つーか、いつシュマルリ山脈南方に出かけるかにもよるぞ? 明日明後日にも出かけるなら、あまり多くは用意できんかもしれん」

「いや、そんなすぐには出かけん。竜王樹への手土産として、アイギスでツィちゃんのアクセサリーを作ってもらわなきゃならんしな」

「そうか、そういやそんな話もあったな」


 今日この目覚めの湖に来たのは、シュマルリ山脈南方への移動にアクアの協力を取り付けるためだ。

 その目的は、先程のアクアとの追いかけっこ勝負にて見事達成された。

 だがレオニスの話では、シュマルリ山脈南方へはすぐには出かけないという。竜王樹への手土産等々、諸々の準備期間が要るのだ。


「とりあえず、そうだなぁ……多分十日後くらいには出立できるかな」

「十日後か、それだけ期間があれば十分だ。外で簡単に食える美味いもんをたくさん用意してやる」

「おう、期待して待ってるぜ!」

「ったく、このご主人様は……フェネセンほどじゃないが、ホントに大食いだからなぁ」

「お前の美味い飯があれば、遠征先でも千人力だぜ!」


 ふぅ……と小さくため息をつくラウルに、レオニスがニカッ!と笑いながらラウルの肩に腕を回してガシッ!と肩を組む。

 世話の焼けるご主人様だぜ……という顔のラウルだが、心底呆れている訳ではない。むしろ自分の料理の腕を買って頼ってくれるのは、ラウルにとってはこの上なく嬉しいことである。

 その喜びを隠すための呆れ顔カムフラージュ、という訳だ。


 ラウルはコホン、と一つ軽い咳払いをしつつ、レオニスをちろりと見遣る。


「遠征用なら、材料費は別途請求するぞ?」

「もちろんだ、それは遠征の必要経費だからな!何なら後で5万G渡すから、とりあえず一週間分の野外用の食事よろしくな!」

「5万Gか、そんだけもらえりゃ上等だ。腕によりをかけて作ろうじゃないか」


 ここでもレオニスとラウルの労使交渉が円満に決着したようだ。

 話がまとまったところで、美味しいおやつに満足した水の女王がレオニスに声をかけた。


『ねぇ、レオニス。シュマルリ山脈に出かけるのは、十日後くらいなのね?』

「ああ、今のところそのつもりでいる」

『なら早速さっきの勝負の報酬を、アクア様に頂きにいきましょ!』

「そうだな、おやつも食ったしそろそろアクア達のところに行くか」


 水の女王の誘いに、レオニスも頷く。

 ライト達は食器やコップ、敷物などを片付けてから湖面で悠々と泳ぐアクアのもとに向かった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



『アクア様ー』

「アクアー、こっちおいでー」


 ライトと水の女王がアクアに向かって声をかける。

 二人の声がきちんと届いたようで、アクアはふぃ、と小島にいるライト達を見てズドドドド……と泳いで近寄ってきた。


『アクア様、先程の勝負の報酬をレオニスに渡してやってくださいませ』

「クルルゥ」


 水の女王の要請に、アクアが素直に応える。

 アクアが長い首をもぞもぞと動かしたかと思うと、その口から何かが出てきた。その何かを口に咥えたまま、レオニスに差し出すような仕草をするアクア。

 レオニスはそれを迷わず受け取った。


「これは何だ? すごく綺麗な鱗のように見えるが」

『まぁすごい!それはね、『水神の鱗』といって、水神アープであるアクア様が認めた者だけが授かれる、とっても貴重なものなのよ!』

「おお、そんなすごいものをもらっていいのか?」

『アクア様との追いかけっこに、二度も勝利した貴方なら十分にその資格はあるわ』

「そうか……ありがたく頂戴する」


 レオニスの手のひらほどもある、キラキラと七色に輝く一枚の鱗。それは以前、ライトがアクアからもらった『水神の鱗』と全く同じものだった。

 卵に餌を与えてアクアを孵化させた生みの親たるライトに続き、レオニスもこの度目出度くアクアに認められし者となったことになる。


「これを使えば、善十郎の滝から目覚めの湖まで戻ってこれる、ということか?」

『ええ。世界中のどの水場からでも、アクア様の御座すこの目覚めの湖に移動することができるようになるわ』

「それはありがたい!」

『ただ、これ一枚だけではまだ全ての水場に自由に行き来できる訳ではないから、行きだけはウィカちーかアクア様にお願いして連れてってもらってね』

「承知した」


 もらった水神の鱗の使い方を、水の女王から教えてもらうレオニス。早速空間魔法陣を開き、大事そうに仕舞い込む。

 さすがにその鱗一枚で、好き放題に水場を移動できる訳ではなさそうだ。だが帰路が確保できるだけでも、レオニスにとっては十分にありがたい。

 今後どれほど遠くに出かけようとも、水場さえあればカタポレンの家から近い目覚めの湖まで瞬時に戻れるのだ。これほどありがたい特典はそうあるまい。


『レオニス、貴方なら大丈夫だとは思うけど……気をつけてお出かけしてきてね』

「ああ、さすがに今回は行き先が行き先だけに、誰も連れていくことはできんから俺一人で行くが。帰りはこの鱗を使って、目覚めの湖に立ち寄るからよろしくな」

「クルモキュキュルル!」

『アクア様も「気をつけていってらっしゃい!」ですって』

「おお、アクアも俺のことを心配してくれるのか、ありがとうな!」


 浜辺に上がったアクアの首筋を、嬉しそうに微笑みながら撫でるレオニス。

 我が身を心配してくれる存在がいるというのは、とてもありがたいことだ。

 冒険者という仕事柄、危険な目に遭うことも多い。

 家族や友人など周囲の者達には心配をかけてしまうが、帰りを待ってくれる者達の存在は彼ら冒険者にとって『生きて帰る』という強いモチベーションにも繋がるのだ。


「ドラゴンの巣窟に、何かいい土産でもありゃいいんだがなぁ」

「お土産なんて、そんなこと気にしなくていいよ。レオ兄ちゃんが怪我一つなく、無事帰ってきてくれることが一番のお土産なんだから!」

「ライトは本当に良いことを言ってくれるなぁ……そうだよな、それが一番だよな!」

「ご主人様よ、あっちで何か食えそうな実とか茸とか見つけたら、お持ち帰りよろしくな」

「ラウル、お前ってやつはホントすげぇよね……」


 ライトの気遣いに心から感動している傍で、ラウルがちゃっかりと食材のお持ち帰りを土産として要求してくる。

 せっかくの感動が台無しである。

 だが、感動をブチ壊した当のラウルは悪びれる様子もなく話を続ける。


「お褒めに与り光栄だ。新たな食材が見つかれば、また皆に美味しい料理を振る舞ってやれるからな」

「ぃゃ、褒めてねぇからな?」

「そんな照れ屋なご主人様にも、遠征から帰ってきたら疲れなんて瞬時に吹っ飛ぶくらいに美味いもんを食わせてやるぞ」


 暖簾に腕押し糠に釘のラウルに、それ以上嫌味も文句も言う気が失せるレオニス。

 これもまた、彼らの日常風景である。


「へいへい、うちの万能執事様のご要望ですからね……シュマルリ山脈に茸とか山菜とか、食えそうなもんが生えてたら採ってきますよ。でも、もし毒キノコでも文句言うなよ?」

「おう、毒キノコなら毒キノコで何かしら使い道はあるさ」

「レオ兄ちゃん、ラウル、もし毒キノコだったらぼくにちょうだい!」

「「…………」」


 まーた変なもん欲しがって……という目で、ライトをじっと見つめるレオニスとラウル。

 ライトとしては、毒キノコでもBCOの交換素材の一つかもしれないので、確認してみたい!という考えだったのだが。

 レオニスとラウルからは、途轍もなく胡散臭いものでも見るような目で見られてしまった。


 だがしかし、レオニス達にとってももう今更だ。

 ライトが変なものを欲しがったり、どこかから拾ってきたりするのは今に始まったことではないのだ。

 はぁ……とレオニスが大きなため息をつきつつ、ライトの気持ちを理解しようとする。


「……ま、子供の頃ってのは何かと変な物を欲しがるもんだよなぁ。俺だって、蝉の抜け殻とか蛇の脱皮した皮とかが宝物だったもんな」

「それらと毒キノコはまた次元が違う気がするがな……ま、ライトの育ての親はご主人様だ。世界最強のご主人様に育てられていることを思えばな、ライトがこうなるのも致し方あるまい」

「何ッ!? 俺が子育てするとこうなるってのか?」

「だってなぁ……現実としてそうなってるだろ?」

「ぐぬぬぬぬ……」

「?????」


 レオニスとラウルの身も蓋もない会話に、ライトは何も分からぬフリしてニコニコ笑顔を浮かべつつ、心の中で密かに詫びる。


 うん、ごめんね、レオ兄。俺が変なもん欲しがるのはレオ兄のせいじゃなくて、実はBCOのせいなんだよね!

 だけど、そんなホントのことは誰にも言えないからね……ここはありがたく、レオ兄のせいにさせてもらうよ!

 大人二人の会話も大概だが、二人の目の前にいる子供の心中はもっと大概である。


『貴方達、ホントに仲良しねぇ』

「ン……ま、まぁな……」

「うん!ぼく達ずっと仲良しだよね!」

「ああ、間違いなくずっと仲良しだ」


 水の女王の言葉に、ライトとラウルは互いの顔を見つつ力強く頷く。

 何故かレオニスだけは、若干ダメージを受けているようだが。多分気のせいだろう。キニシナイ!


 そんな喜劇のような雑談を、しばし堪能していたライト達。

 ラウルがふと空を見上げながら、皆に話しかけた。


「そろそろ空も赤くなり始めたし、ぼちぼち帰るか」

「そうだな。今日は散々遊んで、アクアからも良い物もらえたしな。日が落ちる前に帰ろう」

『もう帰っちゃうの?』

「うん。夜まで目覚めの湖にいても、真っ暗で遊べませんしね」

『……それもそうね』


 ライト達が家に帰ると聞き、思わず寂しそうに問うてきた水の女王。

 だがライトの言うことももっともで、カタポレンの森の闇に包まれた目覚めの湖では何をして遊ぶこともできない。

 月明かりが煌々と湖面を照らしたとしても、日中ほどの明るさが得られる訳でもない。

 そもそもカタポレンの森の夜は、日中には出てこない夜行性の強力な魔物が跋扈してかなり危険なのだ。そんな遅くまで森の中をほっつき歩く訳にはいかない。


 しゅん……と寂しそうに俯く水の女王に、ライトが努めて明るい声で話しかける。


「今日もとっても楽しかった!アクア、イード、水の女王様、ウィカ、本当にありがとう!」

『どういたしまして。私達もとっても楽しかったわ。また皆で遊びに来てね!』

「クルルゥキュルキュア!」

「キュイキシュルル!」

「にゃうにゃううにゃにゃ!」


 ライトの別れの挨拶に、最後には皆笑顔になる。


「じゃ、またな。また近いうちに善十郎の滝に行くから、その時もよろしくな」

「次に来る時には、目覚めの湖産の貝を使った料理をご馳走するからな。楽しみにしててくれ」

「皆、またね!」


 レオニスとラウルの別れの言葉にも、水の女王達は嬉しそうに頷いている。

 何度も湖の方を振り返りながら、目覚めの湖の仲間達に向けて手を振るライト。

 湖畔に佇む湖の仲間達も、ライト達の後ろ姿が見えなくなるまでずっと見送っていた。

 ようやく本来の目的である、善十郎の滝への往復手段の確保ができました。

 ここに至るまで、すんげー時間かかった気がががが( ̄ω ̄)

 目覚めの湖訪問が決定した第590話から、6話も使ってしまいましたよ!


 でもまぁね、自分の要望だけ叶えてもらったらさっさと帰るなんて、そんな自己中な不義理はできませんからねー。

 ここは己の目的も叶えつつ、アクア達ともたくさん遊んで親睦を深める。それが円満かつ良好な関係を築いていけるというものですよ(*´・∀・)(・∀・`*)ネー♪


 ちなみにアクアの初出は第332話ですが、それからもう260話以上が経過してしまいました。リアルの月日にして九ヶ月弱、月日が経つのは本当に早いものですねぇ。

 今日は9月1日。暑い夏ももうそろそろ終わりが見えてきて、秋の気配がどんどん強くなることでしょう。

 夏バテを乗り越えた後は、天高く馬肥ゆる秋。これからは食べ過ぎに気をつけなくては…( ̄ω ̄)…

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