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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
平穏な日々

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第580話 ラウルの二つ名

 ラウルが氷蟹の蟹殻処理依頼を引受申請している間、ライトはおとなしくツェリザーク支部のギルド売店内を見て回る。

 ハトサブレならぬカニサブレがあったり、氷の女王のブロマイド?のような絵葉書があったり、ここツェリザークにもいろんな土産物があるようだ。


 あー、氷の女王様にも早く会いに行きたいなぁ。夏休みに皆で氷の洞窟に行く約束してるし、今から楽しみー!

 氷の女王を模した絵葉書を眺めながらそんなことを考えていると、ラウルがライトのもとに来た。


「待たせてすまんな。先にルティ何とか商会に行くか」

「うん!」


 ツェリザーク支部の建物を出て、大通りにあるルティエンス商会に向かうライトとラウル。

 ラウルの手には、何やら簡易的な地図がある。今から行く殻処理依頼の依頼先と、ルティエンス商会の場所が書かれているようだ。

 ルティエンス商会に向かう道すがら、ライトがラウルに尋ねる。


「今日は何件の依頼を引き受けたのー?」

「とりあえず三件。大きな宿屋と老舗のカニせんべい屋、それに蟹エキスの製造工場。特に蟹エキスの製造工場は、ぬるシャリドリンクの大増産で蟹殻がヤバいことになってるらしい」

「そ、そうなんだ……」


 宿屋とカニせんべい屋はともかく、蟹エキスの製造工場なんてもんがあるんだ……と内心びっくりしているライトに、ラウルが依頼の受付の時の様子を語って聞かせていった。



 ……

 …………

 ………………



 ツェリザーク支部の受付窓口に、依頼掲示板の蟹殻処理依頼をごっそりと持ち込んだラウル。

 受付窓口に座るクレハが、いきなりのことに「あらまぁ」と言いつつびっくりしている。

 そんなクレハの様子に構うことなく、ラウルは己のギルドカードを提示しながらクレハに話しかける。


「氷蟹の殻処理依頼をいくつか引き受けたいんだが。どれを受ければいいか、オススメのものを教えてくれるか?」

「も、もしや……貴方様が『殻処理王子』ですか……?」

「ンぁ? 何ぞその『殻処理王子』ってのは???」


 クレハがラウルのギルドカードを片手に、そしてもう片方の手を口に当て感激の面持ちでラウルを見つめる。

 突如貴公子呼ばわりされたラウルにしてみれば、一体何のことやらさっぱり分からない。

 意味わかんねぇ!という顔のラウルが怪訝そうにクレハを眺めていると、クレハが説明し始めた。


「実は今、蟹系魔物や巨大貝の殻処理問題に頭を悩ませる各地で救世主と崇められている、それはもう話題沸騰中の人物がおりましてね?」

「ほーん、救世主とはそりゃまたすげーな」

「ええ。手間の割には報酬が安いことから、常人は嫌がり忌避する殻処理依頼。そんな厄介な案件を、いくつも同時に引き受けてくださる……まさに!聖人の如き御方がおられるのです!」


 クレハは天を仰ぎ見るように顔を上げ、両手を組みながらキラキラとした瞳で語る。

 それはまるで、本当に天から舞い降りた救世主を見つめるかの如き熱い眼差しだ。


「へー、俺以外にも進んで殻処理依頼を引き受ける奴がいるのか」

「いませんよ?」

「ン??」

「ですからラウルさん。貴方が今話題沸騰中の救世主なんですよ」

「……俺??」


 我関せずとばかりに、クレハの話をのほほんと聞いていたラウル。

 クレハが言う救世主が自分のことを指していると知り、今度はラウルがびっくりしながら己の顔を指指してている。


「ネツァクのクレノ姉さん、エンデアンのクレエ姉さんからも、ラウルさんの辣腕ぶりをかねがね聞いております。それまでずっと、山のように溜まりに溜まっていた殻処理依頼が減って、ものすっごーく助かったって。姉さん達、それはもう本気で大絶賛してましたよ?」

「そりゃ確かに、ネツァクやエンデアンで何回か殻処理依頼を引き受けた覚えはあるが……」

「逆にお聞きしますが。一度に複数案件、それも三十匹や二百枚なんて大量の殻処理を引き受けられるような人が、ラウルさん以外におられるとお思いで?」

「……いない、のか?」

「いませんね!」


 自分が殻処理問題の救世主であるという自覚の全くないラウルに、クレハがきっぱりと言い放つ。

 もしこれがレオニス相手なら『またまたぁ、寝言は寝て言うものですよ?』とかバッサリと言われているところだ。


 クレハの話では、ネツァクの砂漠蟹やエンデアンのジャイアントホタテの殻処理依頼、それらを大量に引き受けたことが大賛辞を受けている要因らしい。

 確かにそれらはもともと依頼を引き受ける者が少なく、ネツァクやエンデアンの頭痛の種だった。

 その長年の悩みを一気に軽減してくれたのは、他ならぬラウルである。

 殻処理問題を抱えた各地にとって、ラウルは颯爽と現れた救世主(ヒーロー)に見えるのも当然のことだった。


「クレエ姉さんは『あの人こそ殻処理業界の帝王よ!』と言い、クレノ姉さんは『まさに殻処理の凄腕職人、いえ、貴公子よ!』と言ってました。姉さん達が誰か一人を指してあんなに大絶賛するなんて、滅多にないどころか今まで一度もなかったことなんです」

「ぃゃ、その、そんなんで帝王とか貴公子とか言われても……」

「謙遜なさらないでください!私、姉さん達の話を聞いてからずっと、ずーーーっと!ラウルさんのお越しをお待ちしてたんですぅ!」

「ぉ、ぉぅ……」


 クレハの熱い口調に、思わず後退りするラウル。

 辣腕を振るう冒険者や異彩を放つ魔導師に、その類稀なる能力に敬意を表して二つ名がつくのはよくあることだ。そしてラウルほどの実力があれば、そう遠くないうちに二つ名がつくだろうことは間違いない。

 だが、記念すべき初めての二つ名が『殻処理王子』とは、果たして如何なものか。

 微妙に残念感漂う響きに、何とも言えない複雑な顔になるラウル。


 だがしかし、クレハにとっては真剣かつ大真面目な話だ。

 ここツェリザークは、言わずと知れた氷蟹の産地。世界規模で有名な名産品として名高いだけに、その消費量は大量でネツァクやエンデアンをも上回る。

 それだけに、クレハがラウルのツェリザーク来訪を今か今かと待ち侘びるのも無理はなかった。

 そう、殻処理問題に悩む者達にとってラウルは『殻処理問題を一気に解決してくれる期待の新星』なのである。


「先日ようやくラウルさんがツェリザークにいらしてくださったというのに、その日私が非番で不在だったことが悔やまれて悔やまれて……その話を聞いた翌日の私は、あまりの悔しさにお昼ご飯が丼三杯しか喉を通りませんでした……」

「ぃゃぃゃ、丼三杯も食えりゃ上等じゃねぇの?」


 先日というのは、約一ヶ月ほど前にライトとラウルがツェリザークの雪を採取しに来た時のことを指している。

 その時ライト達は、ツェリザークのぬるシャリドリンクの行く末がどうなったかを確かめるべく、冒険者ギルドツェリザーク支部にも立ち寄ったのだ。


 確かにあの日、冒険者ギルドの転移門を利用してツェリザークに行き来したが、行きも帰りもクレハの姿を見かけなかった。

 非番というか交代の休日は普通にあると思うのだが、まさか仕事が休みだったことを後悔するとはクレハも夢にも思わなかっただろう。

 そのせいで翌日の昼食がろくに喉を通らなかったというのは、言葉だけ聞けば何とも可哀想に思える。

 もっとも、丼三杯も食えりゃ上等じゃね?というラウルのツッコミの方がはるかに真っ当な意見なのだが。


 しかし、ラウルの容赦ないツッコミにめげるクレハではない。

 この程度のツッコミでへこたれていては、冒険者ギルドの看板受付嬢など務まらないのだ。

 クレハはラウルの手をガシッ!と両手で掴み握りしめる。


「とにかく!本日は!是非とも!我がツェリザークの!氷蟹の!殻処理依頼を!たッッッ……くさんお引き受けしていってくださいぃぃぃ!」

「ぉ、ぉぅ……」


 非番で不在だった先日の無念を晴らすべく、クレハがズイッ!とラウルに迫る。

 ラウルの手を握りしめ、顔面10cm手前まで迫るクレハの何と必死なことよ。この機を何が何でも逃すまい!という気迫に満ち満ちている。

 もとより五十匹は引き取るつもりだったラウル、クレハのあまりの強烈な気迫に圧されて予定以上の依頼を引き受ける羽目になるのだった。



 ………………

 …………

 ……



「そんな訳でな、受付嬢の姉ちゃんに『ギルドからの特別報酬として、依頼書一枚につきぬるシャリドリンク十本を別途出しますので!どうか、どうかより多くの殻処理依頼を引き受けてくださいー!』って頼み込まれたわ」


 ラウルが救ったぬるシャリドリンクのおかげで、蟹エキスの需要が爆発的に増えているらしい。嬉しい悲鳴とはこのことか。

 ちなみに氷蟹の蟹殻処理の報酬は、一匹あたり1000Gが相場らしい。ネツァクの砂漠蟹とほぼ同じか、少し上回るくらいの条件のようだ。

 一匹1000Gで五十匹としても5万G、一日で稼げる報酬としては破格である。


「ラウル、とうとう救世主にまでなっちゃったんだねぇ……ていうか、面白い二つ名がついちゃったねwww」

「全くだ。『殻処理界の貴公子』とか訳分からん」

「でもまぁね、ラウルが依頼をこなすことでたくさんの人が助かるなら、とても良いことだと思うよ?」

「だな。俺は報酬を稼げて肥料も入手できて、一石二鳥だしな」


 珍妙なラウルの二つ名に、思わず笑いを噛み殺しつつ堪えるライト。

 ラウルも憮然とした表情ではあるが、ライトの付け足した『人助けになる』という言葉には納得しつつも頷く。


 そうしているうちに、ルティエンス商会に辿り着いたライト達。

 店の前でラウルがライトに声をかける。


「ここがルティエンス商会か。よし、場所は把握した。俺もサクッと依頼をこなしてくるから、俺が迎えに行くまで店の中で待っててくれ」

「うん、分かった。ラウルもお仕事頑張ってきてね!」


 ラウルは店に入らず殻処理依頼先に向かい、ライトはルティエンス商会の中に入っていった。

 ラウルが冒険者として活動するようになってから、初の二つ名がつきました。

 その名も『殻処理王子』!!他にも『殻処理業界の帝王』に『殻処理界の貴公子』!!

 ぃゃー、帝王とか貴公子とか王子とか、そこだけ聞いたらすんげー高貴そうで眉目秀麗のラウルに相応しい響きですよねー♪゜.+(・∀・)+.゜……その修飾語が『殻処理』じゃなければ、の話ですが。


 でもまぁね、ラウルも肥料の確保も兼ねて殻処理依頼ばかりこなしてましたからねぇ。クレハ達に『殻処理プリンス』として崇敬されるのも当然の流れですよね( ̄m ̄)

 依頼を取り合うライバルもいないし、入れ食い状態の天下無双でラウル一強だったが故の残念感満載な初の二つ名。これを上書きできるような、カッコイイ別の二つ名が今後出てくるといいのですが。

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― 新着の感想 ―
[一言] さっそく二つ名ですね。最速に近い早さで獲得したのではないのでしょうか? 名称はさておき冒険者としてちゃくちゃくと馴染んでますね。 更新お疲れ様です。応援してます。
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