表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
平穏な日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

578/1682

第578話 ラウルの新しい目標

 黄金週間の喧騒も終わり、ライトやレオニスが再び日常生活に戻った頃。

 レオニス邸で働く万能執事ラウルは、それまで以上に忙しく動いていた。


 まず何と言っても大きいのは、レオニス邸の敷地内にガラス温室四棟が完成したこと。

 ようやく念願叶い、家庭菜園を行える場所を手に入れたのだ。ここから本格的に運用するために、ラウルは更なる準備に追われる日々だ。


 まずは土作りのための肥料作り、そのための貝殻や蟹殻処理、その下処理のための殻割り作業。

 下拵えのための下拵えばかりだが、幸いにして時間の融通はいくらでも効く仕事なので、いつも通り好きなように動くラウル。レオニス邸の執事業は、サイサクス世界でも指折り数えるホワイト職場であろう。


 カタポレンの家の外に作る予定だった焼窯は黄金週間後半、ライト達がサーカスショーや競売祭りで留守の間にちゃちゃっと作り上げた。

 ライトがサーカスを観に行っている間はレオニスに手伝ってもらい、黄金週間最終日にはマキシに手伝ってもらいながら焼窯をせっせと作ったラウル。この執事、なかなかに人使いが荒い妖精である。


 ラウルはレオニス邸内の一室を専用作業場として使用する許可をもらっているので、そこで思う存分貝殻や蟹殻を砕いておく。

 レオニスの使わない武器の中から選びもらってきた、ウォーハンマーや打出の小槌を使い容赦なく殻類を砕くラウル。お蔵入りしていた武器類も、大いに有効活用できて良いことだ。

 もっとも武器としての本来あるべき使い方ではないので、邪道といえば邪道故に武器からしてみれば不本意な使われ方かもしれないが。

 そこは、お蔵入りされないだけマシ!と思っていただく他ない。


 ラグナロッツァの屋敷で大まかに砕かれた殻類は、ラウルの空間魔法陣に収納されてカタポレンの森の焼窯に移される。

 そして焼窯の中で炭火でじっくり高温で焼かれていく。

 その間ラウルはカタポレンの家の厨房を借りて、スイーツ作りの下準備などをしている。焼窯に火を入れている間は、一応監視目的でなるべくその場を離れないようにしているのだ。


 カタポレンの家の厨房はこぢんまりとした普通の台所なので、ラグナロッツァの屋敷で作業するような訳にはいかないが、それでも小麦粉を篩ったり卵を溶いて卵液を作るくらいのことはできる。

 特にレオニスから天空竜の革装備一式をもらった後、レオニスに施してもらった数多の魔法付与の対価として、六百個ものスイーツを提供することになった。そのための準備もせねばならないのである。


 半日かけて焼き上げた殻類は、そのまま焼窯に入れたままさらに半日置いて余熱利用しつつ自然に温度が下がるのを待つ。

 自然冷却された殻類は翌日ラウルが回収し、再び新たに殻類を炭火で焼く。殻類の肥料がある程度貯まるまでは、しばらくこの繰り返しだ。


 そうして出来上がった殻類の肥料を、今度は土に混ぜていく。ようやく土作りに突入だ。

 ぃゃー、ここまで長かったな……とラウルが感慨に浸ったかどうかは定かではないが、実際かなり長い道のりであった。

 土作り一つに、こんなに時間かけてどーすんの?と思わなくもないが、長い時を生きる妖精のラウルにとってこの程度の時間や手間など些事に等しい。


 それに、こういう家庭菜園やガーデニングといった趣味は、手間暇かけてこそ納得のいく結果が得られるものだ。

 きっと半年後や一年後には、ラウルの愛情たっぷりの野菜が実るであろう。

 今からその日がとても楽しみである。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そんなのんびりとしたスローライフを送っていたラウル。

 ある日彼は、雇用主である大きなご主人様レオニスに相談した。


「なぁ、ご主人様よ。一つ相談があるんだが」

「ン? 何だ?」

「カタポレンの家の横に、畑を作りたいんだが」

「畑ぇーーー?」


 ラウルの言葉にレオニスが驚きの反応を示すと同時に、怪訝な表情になる。

 先日ようやくガラス温室が完成したばかりだというのに、今度は畑を所望するとか意味わかんねぇ!という顔だ。


「何、お前、ラグナロッツァのガラス温室を四つ作っただけじゃまだ足りねぇの? とうとう本格的な農家を目指すつもり?」

「いや、そうじゃなくて。オーガ族向けの大型の実がなる作物を作ったり研究したくてな」

「オーガ向けの野菜、か?」

「そ、オーガ族用の野菜。ほら、俺こないだからオーガ族に料理の指南してるだろう?」

「あーーー、そういうことね……」


 ラウルの言い分に、レオニスも納得する。

 オーガ族はそもそも野菜というものをほとんど食べない。彼らは狩猟民族であり、その主食は基本肉類だ。

 だが、ライトとの縁でラウルから料理という手法を伝授され、肉類以外の食物にも目を向けるようになった。


「そういやこないだラキに会った時に、お前のことを大絶賛してたな……『ラウル先生の作る料理は偉大だな!』とか、そりゃもうすんげーご機嫌な様子だったが……」

「お褒めに与り光栄だ。オーガの里での料理教室も、もう既に何度か開催したが。その都度大好評を受けている」


 ラウルの料理指南の話を聞いたレオニスが、先日会ったオーガ族族長ラキの様子を思い浮かべている。

 その時のラキは、いつになくものすごーく上機嫌だった。

 それもそのはず、レオニスが会う前の日に自宅の厨房で腕を振るったラキの料理を子供達に大絶賛されたのだ。


 子供達の「パパの作ったご飯、美味しいね!」「ママのご飯と同じくらい美味しい!」という大賛辞を得たラキ。その嬉しさたるや、子供達が生まれた直後の喜びにも等しいくらいの感動である。

 そしてこの感動をもたらしたのは、他ならぬラウルである。

 ラキ宅を始めとして他の家庭でもラウルの料理の感動は広がっていて、オーガの里でのラウルの人気はもはやレオニスやライトと並ぶくらいに不動の地位を得ていた。


「しかし……腕っぷしの強さでしか相手の力量を計ることを知らんあのオーガ族に、料理の腕だけで認めさせるとはなぁ。ラウル、お前ってやつは大したもんだよ、全く」

「度重なるお褒めの言葉、誠に光栄だ。だが、本当に美味い料理をオーガ達に教えてやるにはまだまだ足りん。材料も道具も、何から何まで足りないんだ」

「そうだなぁ……俺達が普段食う野菜のサイズなんて、あいつらにとっちゃ豆粒か砂粒みてぇなもんだろうしなぁ」


 ラウルの主張にレオニスも同意する。

 そりゃ豆粒だって立派な食物の一つだが、大きな体躯を誇るオーガ族が満足するボリュームまで満たせるかと言えば、かなりの困難を極めることは間違いない。


「そういうこと。今のところ少しでも大きなものとして、飛竜の飼料用に使われる大玉野菜を用いてはいるが。飼料用だけに味は二の次で、ほぼ味気のない大雑把なもんしかなくてな」

「飼料用……大きさ的にはそれが一番良いとはいえ、さすがにずっとそれじゃ可哀想だわなぁ」

「だから、オーガ達でも満足できる大きさの、ちゃんとした野菜を作ってやりたいんだ」


 いくらサイズ優先とはいえ、飛竜の飼料という本来の目的を考えると、さすがにレオニスもオーガ族達が可哀想になってくる。


「そんな訳で。カタポレンの家の隣もしくはそこから近いところに、新しい野菜の研究用の畑が欲しいんだ」

「ンーーー……一応領土的にはアクシーディア公国だし、その土地を俺個人が勝手にどうこうしていいもんじゃないんだが……」

「何だ、ご主人様の許可を得てもダメなのか?」


 しばし考え込むレオニスに、ラウルが少しだけ不安そうな顔でその様子を伺っている。


「……でもまぁな、本来カタポレンの森なんてのは誰のもんでもないしな。アクシーディア公国の領土ってったって、そんなもん人族が勝手に線引きしてるだけだし」

「じゃあ、切り拓いて畑を作ってもいいか?」

「ま、いいんじゃね? どうせここまで入って来れる人族自体ほぼいねぇし、いたとしても他に何か目に見えるような実害とか出なけりゃ問題ねぇだろ」

「やったぜ!ありがとう、ご主人様!」


 レオニスの承諾を得られたことに、ラウルが大喜びする。

 確かにレオニスの言う通りで、カタポレンの森に特定の所有者などいない。

 地図的にはアクシーディア公国の領土となってはいるが、レオニスとライト以外の人間は立ち入ることすらできない場所だ。

 そんな場所に畑を作ったとて、それを咎めることのできる者などいないに等しいのだ。


「カタポレンの森の魔力を吸って育った野菜なら、特に何をしなくてもデカくなるかもなー」

「そうだな、その可能性も大いにあるな。見た目や味が変質しなけりゃいいが、そこら辺は実際に作ってみないことには分からんな」

「変質……」


 カタポレンの森の魔力を吸って育った野菜など、少なくともレオニスは見たことも聞いたこともない。正真正銘前代未聞の未知の領域である。

 しかし、ただ単にサイズが大きくなるだけならいいが、ラウルの言うようにとんでもない変質を起こす可能性だってある。


 そもそもカタポレンの森には植物系の魔物も多い。

 ラウルの言葉に、思わず頭の中で魔物化した野菜―――大口を開けてノコギリ歯を剥き出しにして笑うキャベツや、蔓を鞭のように飛ばして襲いかかってくる巨大カボチャを想像してしまったレオニス。

 ちょっとだけ身震いしてしまった。


 そんな脳内魔物を振り払うべく、頭をブンブンと横に振ったレオニス。

 不思議そうに自分を見るラウルに、コホン、と一つ咳払いしながら少しだけ忠告をしておく。


「ま、とりあえずラウルの好きなようにやってみな。とはいえ、あんまり畑を広げ過ぎるなよ?」

「分かってる、決してご主人様に迷惑はかけん。そうだな、まずはカタポレンの家の敷地と同じくらいの広さから始めるつもりだ」

「お前、ガラス温室作り以上にやる気満々だね……」


 畑の開墾許可を得たラウル、どのくらいの広さにするかもう既に決めているらしい。

 ラウルの中では、レオニスに断られるという前提が微塵もないと見える。


「料理に家庭菜園に畑に屋敷の維持管理、これからやることたくさんあって忙しくなるな」

「ぃゃ、そこはお前、嘘でもいいから執事として本業の方を一番先に挙げなさいよ……」

「おう、もちろんそっちだって頑張るぜ!」


 ラウルの挙げた数々のやることリストの中で、本来の執事業務を最も最後に出したラウル。

 彼の中で優先度の高い順に挙げていった結果がそれとは、実にラウルらしい。

 だが、一見ラウルの我儘にしか見えないような話も、その奥には他者への心遣いや思い遣りが原動力となっていることが多い。今回の畑の件だってそうだ。

 肉料理しか知らないオーガ族に、本当に美味しい料理を食べさせてやりたい。そうした思いがラウルを突き動かしているのだ。


 そしてレオニスの方も、ラウルのそうした他者への思い遣りを嬉しく思う。ラウルが頑張って美味しい野菜を作れるようになれば、レオニスの親友であるラキ達の生活や人生そのものまで潤うのだ。

 レオニスもそれが分かるからこそ、ラウルに文句を言いながらも真剣に怒り出すでもなく、結局はラウルの願いを受け入れるのだ。


 人族と妖精族の雇用関係は、今日もレオニスの心の広さによって平和に保たれていた。

 ライトの主人公ムーブにレオニスの孤児院再建話の次は、ラウルの新たな目標のお披露目です。

 というか、ラウルがどんどん農家に近づいていってる気がするんですがー( ̄ω ̄)

 最初は眉目秀麗の優秀かつ優雅な執事だったはずなんですがー(=ω=) どうしてこうなった?_| ̄|●

 でもいいの。ユグドラツィのツィちゃんじゃないですが、今のラウルも面白可愛いので作者は好きです。

 某農業指南番組じゃないですが、『鉄腕ラウル』目指して頑張れラウル!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ