第577話 週末の予定と孤児院再建の目処
ちょいとだけフライング予告。
明後日の8月13日と明々後日の8月14日は、更新をお休みさせていただきます。
ぃぇね、去年は何とかお盆中も全部更新できたんですが。今年はお新盆やら何やらでかなり立て込んでまして……
そんな訳で申し訳ございませんが、ご了承の程よろしくお願い申しあげます。
転職神殿やラグナロッツァ孤児院訪問など、重大な案件を終えたライト。
その後はまた平穏な平日が始まる。
とはいえ、平日だからといって何もしないでいい訳ではない。
平日にできないのは、素材集めなどをするための遠出であって、いろんな計画やら戦略を練ることならいつでもどこでもできる。頭の中で考えるだけなら、それこそラグーン学園の授業中にだって可能なのだ。
それはまぁあまりというか、非常によろしくないことではあるが。
そんな訳で、次の土日を迎えるまでライトは日々マイページとにらめっこをしていた。
今日も今日とて、マイページのイベント欄やアイテム欄を行ったり来たりしながら様々な計画を立てるライト。
日々のラグーン学園での勉強や宿題以上に、熱心に取り組んでいる。
「ンぬぅーーー……」
マイページのイベント欄【交換素材目録を作ろう!】を眺めつつ、うんうん唸り続けるライト。
そのイベントは先日の転職神殿にてヴァレリアから教えてもらったもので、クリアすればマイページ内の交換所解放とCPのG交換を解放できるようになる。
ライトとしては、できるだけ早急にこのイベントをクリアしておきたいところだ。
「とりあえず、今まで集めた素材で12個分はクリアできそうだ……最初の一回だけは、ルティエンス商会に直接出向かなきゃなんないけど。それさえ済ませれば、後はマイページからの交換も可能になるし」
「さてそうすると、いつツェリザークに行こうか……できれば次の土曜日にも行きたいな」
「というか、ツェリザークに行く理由は何にしよう……ぬるシャリドリンクの買い出し、てことにでもしとこうかな。ついでに氷蟹の甲羅も欲しいし、ラウルを誘ってツェリザークに行こうっと!」
ブツブツと独り言を呟きながら、今後の行動の計画を立てていくライト。
アイテム欄を見ると、集めるべき二十種類の強化素材のうち十二種類は今ある手持ちの素材で交換可能だ。
今まで各地で集めてきた魔物由来の素材。ライトのアイテム欄が火を噴くぜ!てなもんである。
とはいえ、まだまだ集めなければならない素材もたくさんあるのだが。
ちなみに複数イベントの並行進行は可能なのか?とヴァレリアに問うたところ、クエストイベントに限り複数掛け持ち可能とのこと。
ヴァレリア曰く「あのクエストイベントって、ボリュームが半端ないからねー。イベント開始してから完了までに、半年どころか一年以上かかる可能性も普通にあるし。その間他のイベントは一切合切禁止!なーんてなったら、イベントもキャラ育成も全ー部行き詰まってなーも進まなくなっちゃうからね!」だそうだ。
確かにヴァレリアの言う通りである。
ライトもクエストイベントを開始してもう半年ほど経つが、未だにその終わりが見えてこない。
もう終盤に差し掛かっているとは思うのだが、その分出されたお題も入手困難なアイテムばかり。思うように捗らない状況が続いている。
クリア報酬もかなり良い物になってきてはいるし、未知のクエストクリアを目指して頑張ること自体はとても楽しいのだが、何しろ月日がかかる。
いい加減他のイベントも何かしたいなぁ……と考えていたので、ヴァレリアからイベント掛け持ちOKの情報を聞けたのは僥倖である。
「……よし、土曜日は午前中に素材集め、午後にラウルとツェリザーク行き。日曜午前はグランドポーション作り、午後は転職神殿で使い魔の卵孵化だ!」
ライトの今度の週末の予定が埋まったようだ。
というか、その忙しさが半端ではない。将来立派な冒険者になるためとはいえ、相変わらず密なスケジュールを組む子である。
だが、幼いうちからやりたいことや目標があるのは良いことだ。
今日も内に秘めたゲーマー魂を燃やしながら、BCOシステムを利用するライトであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方レオニスは、ラグナロッツァ孤児院の存続危機をマイラから知らされた後、迅速に行動を起こした。
まずはレオニス邸でのガラス温室建設の施工業者、ガーディナー組のもとを訪ねていた。
冒険者であるレオニスに、そもそも不動産業関連の伝手があまりなかったというのもあるが、このガーディナー組自体が建設業界屈指の大手であり、現代日本でいうところの大手ゼネコンである。
孤児院のある地域一帯の再開発に伴い、ラグナロッツァ孤児院も年内にどこかに移転しなければならない。
孤児院のための新しい建物の建設をガーディナー組で見積ってもらい、ついでに借りられそうな土地も見つけてもらえんかなー、というレオニスの思惑もあった。
そんな思惑を持ったレオニス、ガーディナー組の本社を訪問した。
入口正面には、冒険者ギルドや魔術師ギルドのように受付嬢が座っていて来客応対をしている。
レオニスも受付嬢にさっと要件を伝え、奥の客間に通された。
レオニスとしては、ガーディナー組の誰に会えばいいのかよく分からなかったので、とりあえず先日のガラス温室建設の現場監督だったイアンの名を出しておいた。
そうして客間でしばらく待っていると、イアンが入室してきた。
「こんにちは、レオニスさん。ようこそいらっしゃいました」
「先日はうちの温室建設で世話になったな」
「こちらこそ、いつになく楽しい仕事でした」
「うちのラウルが、あれから毎日のように温室弄りしているようでなぁ。あいつも実に楽しそうに過ごしているよ」
「そういえばあの温室はラウルさんご所望のもので、場所こそレオニスさんのお屋敷ですがお代は全額ラウルさんがお支払いしてましたね」
客間に入ってきたイアンが、応接ソファに座るレオニスの対面に座る。
レオニスは当たり障りのない現状を伝え、イアンもまたそれに応じて雑談を繰り広げる。
こうして他愛もない会話を交わすことで、双方の親睦も図る意図があるのだ。
「あいつがラグナロッツァで家庭菜園を始めたい!なんて言い出したもんだから、自分の金で買うならってことで建てる許可を出したんだが。ぃゃー、まさか一気に四棟も建てるとは思わなんだぜ!」
「あの貴族街で家庭菜園……そんなことを考えるラウルさんもすごいですが、それを快く許可するレオニスさんもすごいですよねぇ」
「「アーッハッハッハッハ!」」
ラウルが打ち立てた『家庭菜園計画 in ラグナロッツァ』、その常識外の話を肴に、レオニスとイアンが大笑いする。
世界屈指の大都市にして、アクシーディア公国首都であるラグナロッツァ。その中でも中央部に位置する、貴族達が住まう一画で野菜を育てたい!などと考えるのは、間違いなくラウルくらいのものだろう。
「して、本日はどのようなご用件でしょう。先日のガラス温室に何か不具合でもございましたか?」
「いや、今のところうちのガラス温室に問題があるとは聞いていない。もし何かあったら、ラウルが速攻でここに来て相談してるだろうしな」
「では、別件のご依頼、ということですか?」
「ああ、実はな―――」
そこからレオニスは、ラグナロッツァ孤児院の再建計画の話をしていった。
孤児院一帯の再開発、それにより年内には移転しなければならなくなったこと、五十人弱の大所帯では別の施設の借り換えも難しいこと。
だったらもう移転ではなく、どこか別の場所に孤児院用の新たな建物を新築したいと考えていること等々。
イアンもずっと真剣に聞き入っている。
「ふむ……あの一帯の再開発計画は、当然当社でも聞き及んでおります。近々業者選定の入札がございますので」
「そうなのか。あんた達でその仕事を取るのか?」
「もちろん全社を挙げて、取りにいくつもりではおりますが……何分にも大きな公共事業ですのでライバルも多く、我が社が取れるかどうかは現時点では全く分かりません」
「そうか……」
ガーディナー組も孤児院周辺の再開発計画は知っているようだ。さすがは業界の中でも大手と言われるだけのことはある、とレオニスは内心で思う。
「もしあんた達が再開発を請け負うなら、俺の仕事を引き受けてもらうのは難しくなるだろうなぁ」
「何を仰いますか。再開発が開始されるのは年明け、今から半年以上も先のこと。当社の技術力と半年もの期間があれば、建物の一つや二つは余裕で完成させられます」
「本当か? 」
イアンの頼もしい言葉に、レオニスはびっくりしている。
レオニスは建築関連の知識は一切ないので、新しく建物を建てるのにどのくらいの期間がかかるのかよく分からない。
しかし、これから新しく建てる孤児院はそれなりの大きさにしよう、とレオニスは考えている。
果たしてそれが今から半年以内に建てられるかどうか、正直微妙なところだ。
故に、もしガーディナー組が公共事業を請け負った場合、自分の依頼を受けてもらうのは難しいかも、と思ったのだ。
イアンの言葉に驚きを隠せないレオニスに、イアンはさらに自信に満ちた顔で話を続ける。
「もしご予算に余裕がありましたら、土地探し、土地の広さに合わせた建物の設計、ラグナ官府への土地借用申請や新規建築申請など、建築にまつわる諸々の手続きも当社にて代行いたします。もちろんここら辺の作業は、節約のためにご自身で行っていただいても構いません」
「そんなことまで引き受けてもらえるのか? 至れり尽くせりだな」
「そこら辺の手続きは、煩雑なものも結構多いですしね。お客様からは大変ご好評をいただいているんですよ」
「そしたら俺も全部頼もうかな。土地のこととか門外漢もいいところだし」
イアンの絶妙にして巧みな営業トークに、すっかり乗せられつつあるレオニス。
実際門外漢のレオニスは、土地借用申請だの建築申請だの言われてもどうすればいいかさっぱり分からない。
イアンの話だとラグナ官府で行う手続きのようだが、その手の煩雑な手続きはなるべくならばやりたくないレオニス。ガーディナー組が諸々の手続きを代行してくれるならば、レオニスにとってもありがたいことだった。
レオニスの好反応に、よし、コレはイケる!と確信したイアン。
今度はイアンの方からレオニスに尋ねる。
「ちなみにご予算は如何ほどでしょうか? 五十人規模の集団生活可能な建物ですと、少なくとも2000万Gはかかるかと思われますが……」
「ン? 予算か? 5000万G以内に収めてくれりゃありがたいんだが」
「ご、5000万Gですか!?」
レオニスに予算の話を振ったイアン、今度は彼の方が驚愕する番だ。
高位の貴族や豪商と呼ばれる大富豪でも、5000万Gという大金をポンと出せる者はそうはいない。
ましてやレオニスは貴族でも豪商でもない冒険者。少なくとも一介の冒険者が気軽に提示できる金額ではなかった。
しばし呆然としていたイアン。ハッ!と我に返り、レオニスにズイッ!と迫る。
その目をクワッ!と大きく見開き、レオニスの両手をガシッ!と掴み握りしめるイアン。顔を上気させながらレオニスに迫る様子は、明らかに興奮している。
いつも冷静沈着で物静かなイアンからは、全く想像もつかない姿だ。
「それだけのご予算があるならば、百人規模の建物も作れますよ!」
「そうか? まぁ新しく建物を作るなら、最初から広めに取っておいた方がいいかもしれんな」
「公共事業の前に、こんな大商いができるとは……レオニスさん!是非ともこの仕事、我がガーディナー組にお任せください!必ずやレオニスさんにご満足いただける仕事をご覧に入れてみせましょう!」
「ぉ、ぉぅ、そうか……? ならばよろしく頼む」
「ありがとうございます!!」
握りしめた両手をブンブン上下に振りながら、商談成立を大喜びするイアン。
レオニスが気圧される形だが、ガーディナー組の仕事が丁寧で質の良いものであることはラウルからも聞いて知っている。
ラウルが絶賛する相手ならば、レオニスにとっても信用に足る人物である。
貴重な乙女の雫二種を売って得た5000万G。その予算内で孤児院再建の目処が立ったレオニスは、心から安堵するのだった。
ライトのBCOシステムご利用計画と、レオニスの孤児院再建計画話です。
先日の転職神殿での新展開を受けて、ライトもまたいろんな計画を練っています。
というか、あの転職神殿での新展開以降、何か久々にライトが如何にも主人公ムーブしている気がする!゜.+(・∀・)+.゜ ……って、もともとライトが主人公なはずなんですけども( ̄ω ̄)




