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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
平穏な日々

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第571話 二回目の質問

「へぇー、君は使い魔の卵から生まれた子なんだね」

『はい!主様が私をこの世界に呼ぶために、それはもうたくさんの愛情を込めて手ずから生み育ててくださいました!』

「……うん、ミーナ、その言い方は非ッ常ーーーにあらぬ誤解を招くからやめようね……」


 和解したミーナとヴァレリアが、ライトの出したスイーツを片手に仲良く会話している。

 仲直りの印、という訳ではないが、今日も神殿の敷地内でプチお茶会である。もちろん敷物から食べ物から飲み物まで、全部ライトの持ち出しだ。

 だが今日はヴァレリアへの質問の件もあるし、どうせならお茶会でもして和やかな空気にした方が何かとスムーズに話も進むだろう。


「で、もうすぐ四個目の使い魔の卵を孵化させる予定なんだね」

『はい!私の弟か妹になる子です!』

「使い魔と一口に言っても、それはもうたくさんの種族がいるからねー。どんな子が生まれるかは、孵化させてみるまで分からないけど」

『どんな子でも、私の弟や妹であることに変わりはありません。今から弟妹に会えるのが、とっても楽しみです!』

「そうだね。そしたらミーアにもまた弟か妹が増えることになるのかな?」


 草餅をもっしゃもっしゃと頬張りながら、嬉しそうに話すミーナ。

 一方ヴァレリアはハロウィンキャンディをペロペロと嘗めながら、ニヨニヨと揶揄うような視線をミーアに向ける。先程ミーアにやり込められた意趣返しだろうか。


『そうですね。この寂れた神殿にもまた新たな家族が増えるかと思うと、私もミーナ同様楽しみでなりません』

「えー、今度はムキムキマッチョのごっついのとか、失敗作(・・・)とか出てくるかもしれないよ?」

『それでも私達の弟妹です。それにライトさんなら、そんな失敗することはないでしょうし』


 揶揄うヴァレリアの言葉に、ミーアは一切動じることなくいつもの涼しい顔で受け答えしている。

 ミーアが自分のことを信頼してくれるのが嬉しいライトだが、それ以上に気になる点があった。



『失敗作、か……どうやらヴァレリアさんは、使い魔システムのことにもかなり精通しているようだ』

『できれば使い魔システムのことも聞いてみたいけど……今それを聞くと「今日の質問はそれでいいね?」とかなりそうだし……』

『それはまた別の機会にとっておこう……』



 ライトはラウル特製アップルパイを頬張りながら、頭の中であれこれと考えを巡らす。

 使い魔の孵化において餌のやり方や選択を間違えると、性能が悪く見た目もグロテスクな『失敗作』になる―――このことを知っている時点で、ヴァレリアが使い魔システムを熟知していることは明白である。

 ならば何をどのくらい与えればどんな種族が生まれるか、ヴァレリアなら知っているかもしれない。


 だが、今日ここでそれを聞く訳にはいかない。

 ライトが今日質問しようと思っていることは、使い魔システム以上に今後のライトの活動を大きく左右する重大案件なのだから。

 そんなライトの思考を手に取るかのように、ヴァレリアが今度はライトに話しかけてきた。


「ちぇー、ミーアはホント揶揄い甲斐がないんだから……ライト君もそう思わないかい?」

「……え? そ、そんなことはないと思いますよ? ミーアさんはいつも冷静沈着で頼もしい巫女さんですし」

「ていうかさぁ、ライト君も上手いこと考えたよねぇ。この転職神殿なら、使い魔を孵化させて預けるのにうってつけだよね!」


 ヴァレリアは手を頭の後ろで組み、敷物の上にコロンと寝転がる。

 チュッパチャップス型の棒状キャンディを口に含んだまま寝転がるという、実にお行儀の悪い魔女である。

 そんなお行儀の悪い魔女だが、その舌鋒は何気に鋭い。

 ライトがこの転職神殿に使い魔を預けていることを、軽く揶揄するような物言いだ。


 お前の考えや腹の中など、全てお見通しだぞ?と言われたような気がして、ライトは内心ドキドキしている。

 ライトが内心で冷や汗をかいていると、ミーアがライトを庇うかのように話に入ってきた。


『ライトさんにも、ご家族との共同生活がありますからね。たくさんの使い魔を従えて日々生活するのは無理がありますし』

「まぁねー、このサイサクス世界はBCOとはまた事情が違うしねー」

『それに、ライトさんは……私がここでずっと一人で暮らしていることに、心を痛めてくださいました。ここで使い魔を孵化させて、ともに暮らすことで私の寂しさを紛らわせようとご配慮くださったのです』

「うんうん、ミーアもここが賑やかになって良かったね!」

『はい。これも全て勇者様のおかげです』


 表面的には穏やかに丸く収まったようで、ドキドキしていたライトも安堵する。

 やはりこの魔女、ミーアに良いように転がされているように見えて存外侮れない。ライトは改めてそう思う。


「さて、美味しいスイーツも十分堪能させていただいたことだし。そろそろ勇者様へのご褒美タイムといこうか」

「ぇー、その勇者様っての、ホント勘弁してくださいよ……」

「何ナニ、もともと君は勇者候補生でしょ? 勇者呼びされたところで何を躊躇うことがあるの?」

「だって、ぼくはまだ子供ですし……それに、ライトというちゃんとした名前もありますし」


 未だに勇者呼びを拒否するライトに、ヴァレリアが不思議そうな顔をしている。

 確かにBCOではユーザーは全員『勇者候補生』という位置付けだった。それはライトも重々承知している。

 だが、ここはサイサクス世界。ゲームのBCOとは訳が違う。

 将来冒険者となっても、基本平和で穏やかに生きていきたいライトにとって『勇者』などという激重たい肩書など絶対にご遠慮願いたいのだ。


「子供でも君は立派な勇者だよ? ……でもまぁね、こんな幼いうちから重荷を背負いたくない気持ちも分かる気はする。身体だってまだ出来上がってもいない子供だもんね」

「……はい……」

「ま、とりあえずライト君はライト君だ。この先もなるようにしかならないさ!」


 勇者なんてヤダ!というライトの心情に、一定の理解を示すヴァレリア。

 中身の実年齢はともかく、見た目はまだ子供のライト。成長期を迎える前から勇者としての役割を求められても、それはあまりに酷というものである。

 少なくともレオニスやラウルのように、身体の方も大きく成長してからでないと、とても勇者などにはなれないだろう。


 そうなるには、今から十年はかかるだろうか。

 それまでに何としても勇者回避の道を探さねば!とライトは強く決意するのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……で。話は少し逸れたけど。本題である四次職マスターのご褒美、ライト君はもう決めてきたかい?」

「はい。二回目の質問のことですよね。ヴァレリアさんに聞きたいことは、もう決めてきました」

「うんうん、それは素晴らしいね!……で、今日は何を聞きたいのかな?」

「CPについて、です」


 ようやく本日のメインイベントに突入したライトとヴァレリア。

 ライトが今日聞こうと思っていたのは『CPについて』だった。

 それまで肘枕しながら寝転んでいたヴァレリア、パッと起きて胡座をかきながらライトに向き合う。ライトが出してきた質問を受けて、俄然興味が湧いてきたようだ。


「へぇ、CPかぁ。もうどこかでCPの存在を確認したの?」

「はい。クエストイベントの報酬に出てきたのと、あとはフォル……使い魔が持ち帰る品で、何度かCP箱を得ています」

「あー、イベント報酬に使い魔のお持ち帰り品ね!うんうん、確かにね、使い魔が三体もいるならもうCP箱だってゲットしてるよね」


 ライトの言葉に、ヴァレリアがうんうん、と頷きながら納得している。

 CPという特殊な単語に対しても、ミーアやミーナは何のことか分からずきょとんとしているのに、ヴァレリアは特に何を言わずとも完全に理解している。

 やはりこの魔女には、BCOやサイサクス関連で知らないことは一つもないのではないか?と思わせるほどの博識ぶりだ。


「せっかくだから、ミーアやミーナちゃんにも分かりやすく話をしていこうか」

『はい、ご教示よろしくお願いします』

「CPというのはね、『クライムポイント』と言って、この世界の基本通貨であるGとは違う、特別な通貨なんだ」

『まぁ、そんなものが存在するんですか?』

「そ。いわゆる『課金通貨』ってやつだね」


 突如始まった『ヴァレリアさんの『CP』とは何ぞや?講座』に、ミーアもミーアも真剣に聞き入っている。


「課金通貨というのは、Gとは違う特別な効果を発揮する特殊な通貨でね。Gでは買えない様々なアイテムと交換できるんだ」

『Gでは買えないアイテム……何だかすごそうですね』

「実際すごいよ? 『ガチャ』と呼ばれる特殊コンテンツを回して、普通の店では売っていないような強力な武器や防具を手に入れたり、『課金任務』という特別な任務に挑戦する権利を得たりね」

『……???』


 ガチャだの課金任務だの、ところどころで出てくる不可解な用語にミーアもミーナも小首を傾げる。

 だが、CP(それ)が何かものすごく特別なものだという大筋は理解したようだ。


「で? ライト君はこのCPの何が知りたいんだい?」

「さっきも言いましたが……『CPについて』です」

「ふーん、そうきたかぁ……君、なかなかに賢しいね」


 意味深な表情を浮かべるヴァレリアの質問に、ライトも意味深げに答える。

 ライトの答えを聞いたヴァレリアは、口の片端を上げてニヤリと笑う。

 目の前にいるライトを賢しいと評したその声も普段よりかなり低く、全身から漏れ出る威圧感が半端ない。

 これはヴァレリアの機嫌を損ねたか……?と、ライトは内心緊張する。


 ヴァレリアが聞いたのは『CPの何について知りたいのか』であり、その具体例をライトに挙げさせようとした。例えばCPの使える場所だとか、あるいはもっと効率良く増やす方法だとか。

 だが、それに対してライトは敢えて明確にはせずに『CPについて』とだけ答えた。

 それは『CPという存在に関する全ての解説を求める』ということを意味している。要は『CPの使い道や使える場所、他の獲得方法、何から何までお前の知っていること全部教えろ』ということである。


 なかなかに強欲な返し方だが、ニヤリと笑ったヴァレリアはそこまで不快になっている訳ではなさそうだ。

 ヴァレリアはそれまで口に含んでいたキャンディをガリッ!と歯で砕き、棒を取り出してそのまま飴をボリボリと噛み砕いていく。


「……ま、いいだろう。ことCPに関しては、このサイサクス世界でも特殊中の特殊な存在だし。それに、ライト君の今後の修行や成長にも大きく関わっていくだろうからね」

「……ッ!! ありがとうございます!」

「でもー。こんな特例を認めるのは今回だけだよ? 次はもうちょい具体的な質問にしてね。でないと質問受け付け拒否するからね?www」

「!! すみません!次からはもっとちゃんとした聞き方をするようにします!」


 意外なことに、ライトの反則スレスレの質問をヴァレリアは受け入れた。

 だがそれでも若干思うところがあるのか、ヴァレリアからライトに『次はない』という趣旨の釘を思いっきり刺される。

 チクリと嫌味を言われた格好のライト、慌ててヴァレリアに頭を下げて平謝りした。


 ヴァレリアの呈した苦言に対して、ライト側に異を唱える権利などない。

 誰も知らない世界の真実を教える―――これはひとえにヴァレリアの厚意であり、これ以上ヴァレリアの機嫌を損ねて『もう教えるのやめる!』と決められたら、ライトにはもはや引き留めようがない。


 とはいえ、今回のCPに関する質問全般が受け入れられたのは、ライトにとってはものすごく幸運なことだ。

 ヴァレリアが言う通り、CPは特殊で謎に包まれた存在だ。

 どこで使えるかも分からないし、どのアイテムと交換できるかも現時点では全く不明。

 そして本来の通貨Gとは全く異なるものなので、この世界の住人達はCPが何であるかすら知らない。いつものように図書室で調べたり、誰かに尋ねて教えてもらうこともできないのだ。


 故に、この聞き方が反則スレスレだとライト自身重々承知してはいても、どうしても聞かねばならなかった。

 CPに関する謎を全て知ろうと思ったら、ヴァレリアへの質問権利を三回か四回は消費してしまうだろうから。


「では、サイサクス世界で孤軍奮闘するライト君への応援も兼ねて、CPについて知りたいことを何でも教えようじゃないか。……あ、そしたらさ、この話多分長引くだろうから。また皆の分のお菓子と飲み物を出してくれるかい?」

「あ、はい、もちろんです!」


 ヴァレリアからのお菓子補充催促に、ライトは慌ててマイページやアイテムリュックを開き様々な菓子や飲み物を出してはどんどん並べる。

 ライトの持ち出し分がかなり多いが、話が長引くということはそれだけヴァレリアがライトの質問にたくさん答えてくれる腹積もりであることの裏返しでもある。


「ぃゃー、ご馳走になってばっかで悪いねー♪ でもライト君が出してくれるお菓子って、ホントに美味しいよね!」

『主様がくれるご馳走は、どれも美味なのです!』

『ライトさんと過ごすお茶会は、いつもとても楽しいです』


 ヴァレリアだけでなく、ミーナやミーアもライトの出すスイーツの美味しさを全力で肯定する。

 期待を込めていそいそとスイーツを並べるライトに、ヴァレリアはフフッ、と微笑みを浮かべていた。

 ライトの貴重な質問権利の二回目の行使です。

 作中の『ヴァレリアさんの『CPとは何ぞや?』講座』は、ミーアとミーナのためでなく読者様への解説講座でもあります。

 何しろCPに関する情報って、今のところ第463話でちろっと出したくらいしかないんで。100話以上も前のことだし、きっと読者の皆様方も覚えておられないだろうな、と(´^ω^`)


 そして、前話で何やらおかしな方向に行きかけたヴァレリアさんの、謎の魔女オーラ感と威厳を取り戻す回でもあります。

 そう、ヴァレリアさんは幾重もの謎に包まれた、圧倒的強者感満載にして胡散臭さMAXな存在なのです!……多分。

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