第551話 スタンプラリー再開
その日の昼前に、カタポレンの森の家に到着したライト達。
八咫烏の里は朝早いうちに出立したので、目覚めの湖経由でユグドラツィのところに寄り道しても余裕という訳だ。
ここでライトとレオニスは一旦着替えてから、転移門にてラグナロッツァの屋敷に向かう。
カタポレンの森の質素な家で、ライト達が支度を整えるのを待つ間も興味津々で家の中を見ていたミサキとアラエル。
ラグナロッツァの屋敷に到着し、二階から一階に移動するだけでもずっと驚きっぱなしである。
「うわぁ……私、人族のおうちって初めて見るけど、ここはさっきのおうちと違ってとても広くて大きいんだねー」
「本当ねぇ……やはり私達八咫烏とはおうちの造りが全く違うのねぇ……」
「このお屋敷は、人族の持つ家の中でもとても広くて立派なものなんですよ。他の人族は、もっと小さな家に住んでることの方が多いですね」
少し早めだが、午後の行動のために早々に昼食を摂るべく皆で食堂に移動するライト達。
物珍しさでずっとキョロキョロしている二羽に、マキシが横について解説していく。
食堂に到着した一行は、それぞれ席につく。
ミサキとアラエルは、椅子に座っても食事に届かないのでテーブルの上に直座りである。ちょっとお行儀が悪いが、二羽ともまだ人化できないので致し方ない。
「「「「いッただッきまーす!」」」」
ラウルが空間魔法陣から出した食事を早速食べながら、今後の予定を話し合う。
「午後は何処に行く? まずは市場とか冒険者ギルド?」
「そうだなぁ、そこら辺が無難っちゃ無難だろうなぁ」
「いや、そこら辺は俺が明日案内するから、午後はスタンプラリー回りを進めないか?」
「あ、それもいいねー。レオ兄ちゃんはまた明日からお出かけするんでしょ? そしたら今日はスタンプラリー回りをした方がいいよねー」
「それもそうだな。じゃあ午後はのんびりとスタンプ集めするか」
街中の見回りも兼ねて、スタンプラリー回りをしよう!というラウルの提案に、ライトもレオニスも賛成する。
大まかな方針が決まったところで、レオニスがミサキ達に問うた。
「なぁ、ミサキちゃん達は身体の大きさは調節できないか? 街中を連れ歩くのに、さすがにそのデカさはかなり目立つと思うんだが」
「ンキョ? 身体を小さくしろってこと?」
「そうそう、そゆこと。三本足もどれか一本隠してもらわなきゃならんが、普通のカラスくらいの大きさになれれば最悪足を隠せなくてもずっと座るフリをするなりして、足を目立たなくさせることもできるし」
八咫烏の最大の特徴である三本足もそうだが、それ以上に目立つのがミサキ達の身体の大きさだ。
普通のカラスより、一回りどころか三回りも五回りも大きい彼女達。そのままの姿で街に繰り出したら、目立つどころの話ではない。
あまりにも巨大過ぎて、カラスの魔物か!?と疑われて騒ぎになりかねないレベルである。
「小さくなるだけなら一応できるよー」
「ええ、大きさ調整だけなら人化のような複雑さは要りませんからね」
そう言うと、ミサキもアラエルもシュルルル……と小さくなっていき、あっという間に手乗り文鳥サイズになったではないか。
足は三本足のままだが、これなら足を曲げてお腹に隠して座れば全然見えなくなる。
「うわぁ、可愛い!ミサキちゃん、手に乗ってもらってもいい?」
「お安い御用よ!」
ちょこなんとした文鳥サイズのミサキに、思わずライトが手を差し出す。
するとミサキはピョイ、とライトの手のひらに乗る。
ライトの小さな手より少し小さめくらいだろうか。
「おお、こりゃまた可愛らしいサイズだな。俺の肩に乗れるか?」
「余裕よー!」
ラウルの言葉に、ミサキは早速ライトの手からラウルの肩に乗り移る。
ラウルの肩にちょこなんと乗ったミサキの、何と愛らしいことよ。
文鳥サイズのミサキの背中を撫でるラウルの手が、まるで巨人の手のように大きく見える。ライトの手では手一杯の大きさだったが、ラウルやレオニスの手なら手のひらにすっぽりと収まるサイズであろう。
ちなみにアラエルはマキシの肩に乗っている。
こちらも人化したマキシの肩によく馴染むサイズで、それが八咫烏とは絶対に気づかれないであろう光景である。
「これなら家の外に連れ出しても大丈夫そうだね!」
「ああ、間違っても八咫烏と思われることはないな」
「母様、ミサキ、二羽ともこのお屋敷の外ではそのサイズで過ごしてくださいね」
「うん、分かった!」
「承知しました」
ミサキ達の人族観察は、これで無事行えそうだ。
今回の二羽の人里訪問は、人化の術を会得するために出てきたのだ。その目的が達せられないようでは困るのである。
「窮屈な思いをさせてすまんな。その代わり、この家の中では普通にいつもの姿で寛いでくれていいから」
「お気遣いありがとうございます」
「そうよ、レオニスちゃんのおかげで私も母様も人里にいられるんですもの。レオニスちゃん、本当にありがとう!」
「うぐッ」
文鳥から普段サイズに戻りながら、レオニスの顔目がけてバフッ!と抱きついたミサキ。
レオニスの言った『この家の中では寛いでくれていいから』という言葉を早速実行するミサキ。御礼などの愛情表現を常に全身全霊全力で表す子である。
「さ、じゃあ昼飯も食い終わったことだし、早速スタンプラリー回りに行くか。支度ができたら玄関に集合な」
「「はーい!」」「おう」
食器をそれぞれ下ろして、午後のお出かけのためにそれぞれ行動していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ラグナロッツァの屋敷を出たライト達。
ここから先は、ラグナロッツァの地理に詳しいレオニスにお任せである。
「とりあえず、今から北の塔に行くぞー」
「北の塔って、どんなところ? ぼくまだ一度も結界の塔を見たたことないんだよねー」
「そうなんか? ラグーン学園で見学に行ったりとかはないのか?」
ライトがラグーン学園に通うようになって、早八ヶ月。
首都ラグナロッツァを、魔物などの外敵から守るための結界。そのための塔が東西南北の四ヶ所にある、というのはライトも話には聞いていた。
だがそれらをまだ実際には見ていなかった。
「三年生になったら、塔の内部見学に行く行事があるってのは聞いたことあるけど。三年生になってからだから、まだ当分先の話かなー」
「そっか。でも内部見学できるってのはすげーな。結界の塔ってのは、普段は関係者以外は立入禁止区域だからな」
「そうなんだ? 結界を張るための重要な場所だからかな?」
「ま、おそらくはそういうことだろうがな」
「ちなみにラウルは結界の塔を見たことはある?」
「もちろんない。そんなもん見たって腹は膨れんしな。場所だけは一応知ってはいるが」
結界という重要な役割を担っていることを考えれば、結界の塔が普段は立入禁止区域なのも当然である。
故にラグナロッツァに長年住んでいるラウルも、当然の如く結界の塔に行ったことはない。
ただしラウルの場合、料理や食材に全く関連性がないから興味も一切湧かない、と言った方が正しいようである。
「北の塔までは、ここから歩いてどれくらいのところにあるの?」
「普通にのんびり歩いて一時間ちょっとくらいかな」
「もう一つくらい、他のスタンプ場所には回れそう?」
「んー……北の塔からだと、途中花の森公園で休憩を挟んで東の塔に夕方手前に辿り着けるくらいか」
結界の塔とは首都全体を守るための設備なので、その立地場所も当然の如く全て一番外側の外壁にある。
なので、東西南北全ての塔を回るのはそれなりに時間も労力もかかるのだ。
「じゃあ今日はスタンプ二個集められるね!」
「そうだな。スタンプを集めがてら街を歩いていけば、ミサキちゃんもかーちゃんも人族観察できるだろうしな」
「うん!」
己の右肩に乗るミサキの頭を、人差し指でそっと撫でながら話しかけるレオニス。
ちなみにアラエルはレオニスの左肩に乗っている。二羽ともより高い位置で人族が住む街並みを観察したいらしい。
「ミサキ、母様、分からないところがあったら後で答えますし、まずは人や街をよく観察してみてくださいね」
「分かった!」
「分かりました」
ラグナロッツァの屋敷を出た時から、ずっとキョロキョロとあちこち見回しているミサキとアラエル。
カタポレンの森の家やラグナロッツァの屋敷以上に、物珍しくて興味を惹かれるものがたくさんあって仕方がないようだ。
こうして四人と二羽のラグナロッツァ散策が始まっていった。
八咫烏の里から帰宅して早々、午後からはラグナロッツァ散策兼ミサキ&アラエルの人族観察ツアー開始です。
北の塔まで徒歩一時間強。サイサクス世界には自動車やバイク、自転車などの現代的な乗り物はないので、都市部内での移動は基本徒歩もしくは馬車になります。
でもって馬車は基本的に貴族の乗り物なので、平民は徒歩オンリーです。
ライトやレオニスの健脚を以てすれば、北の塔への移動も五分とか十分で到着するでしょうが。さすがにラグナロッツァの街中で、カタポレンの森の中での移動のように全力疾走する訳にはいきませんからねぇ( ̄ω ̄)




