第546話 午後の予定
作者の私事で申し訳ございませんが、明日泊まりがけの用事が出来て家を空ける予定が入ってしまいました。
出先での物語の更新は厳しそうなので、明日の7月10日と7月11日は更新をお休みさせていただきます。
ご了承の程、よろしくお願い申し上げます。
ラウルのご馳走に舌鼓を打ちながら、午後の予定などを話し合うライト達。
「じゃあマキシ君は、家族の皆に人化の術を教えてあげる先生をするんだね」
「はい。ラウルにも人型のモデルとして協力してもらう予定です。ラウル、よろしくね」
「ああ、俺で良ければいくらでも協力するぞ。何事も見本があった方が理解も早まるからな」
「そうだね、マキシ君もラウルも頑張ってね!」
人化の術の講師&モデルを務めるというマキシ達に、ライトはエールを送る。
そしてウルスにアラエルもまたラウルに謝意を表す。
「ラウル殿、ご協力感謝する。是非ともこの子達が人化の術を使えるよう、鍛えてやってくれ」
「よろしくお願いいたしますね」
「ン? あんた達もマキシから人化の術の習うんだぞ?」
「「……ン?」」
ラウルに感謝を表した二羽に『お前らもマキシから習え』という旨の、非常に容赦ない言葉をシレッと放つラウル。
ラウルの矛先が自分達にも向けられるとは、夢にも思わなかったウルスとアラエル。呆気にとられた二羽の目がぱちくりと瞬く。
「あんた達だって、人化の術を覚えておいて損はないだろう?」
「そ、それはそうだが……」
「だいたいだな、族長こそ己の目で広い世界を見て見識を深めなきゃならん立場だろう。子供達に未来を託すのもいいが、丸投げするだけじゃ自分は変われんぞ?」
「「…………」」
ラウルの手厳しくも至極真っ当な言葉に、ウルスとアラエルの目は大きく見開いていく。
特にアラエルの顔はパァッ!と輝き、目から鱗が落ちたような清々しい評価になる。
「……ええ、ええ、そうよね!私達自身も変わっていかなきゃならないわよね、貴方!」
「あ、ああ、そうだな……族長とは、民の手本となるような生き様を皆に示さねばならぬ。ラウル殿の言葉は実に正しい。ラウル殿、我等にもご指導を願いたい」
「おう、任せとけ」
ラウルの言に納得したウルスとアラエルは、今度は深々と頭を下げて恭順の意を示す。
基本空気を読まないラウル、その言葉は時に痛烈な批判のようにも聞こえてしまう。だがその本質は真摯であり、常に相手のことを思い遣って言っているのだ。
それが分かるからこそ、族長夫妻も素直にその言葉に従うのである。
ラウル達の会話を微笑みながら見ていたライト。
次は自分やレオニスの予定を決めなければならない。早速レオニスに向かって相談する。
「そしたらマキシ君達が特訓している間、ぼく達はどうする? ぼくはモクヨーク池の水を採取しに行きたいんだけど、レオ兄ちゃんはこの里で何かしたいことある?」
「そうだなぁ……ライトの水汲みを手伝った後、ここの衛兵達の性根を叩き直してやりたいところなんだが」
「え、マジ?」
「マジマジ。だいたいあんなんじゃ、衛兵を名乗ることすら烏滸がましいってもんだろう」
レオニスが呆れ返ったような口調で、これまたかなり手厳しい言葉を放つ。
先程レオニス達が八咫烏の里に入った時の、衛兵達の態度がレオニスは相当気に食わないようだ。
「そりゃあな? 見知らぬ人族が里の領域内に入ってきたんだから、警戒するのも当然だし、むしろ衛兵の行動としては正しい。だがその後の対応が全く話にもならん。自分達の仲間、しかも族長の息子が名乗りを上げて前に出ても話を聞かんとか、控えめに言っても頭おかしいだろ」
「まぁねぇ……マキシ君が八咫烏の姿に戻って名乗り出ても、未だにアレだったからねぇ……」
「だろう? それに、俺やラウルにちょっと睨まれただけでバッタバッタと倒れるようじゃ、治安を守るどころじゃねぇだろ」
「ンーーー、それはまぁ、相手が悪かったとしか……」
レオニスの言い分は、そのほとんどが紛うことなき正論なのだが。
ラウルはともかく、レオ兄にまでとんでもない殺気を放たれて正気を保てる者の方が正直少ないっしょ?とライトは内心思う。
しかし、それでは八咫烏の里の治安を担うことなど到底無理なことも事実だ。
例えレオニスの圧であろうとも、せめて十秒、いや、五秒くらいは堪えられなければ、増援を呼んだり緊急事態を知らせに奥に逃げることすらできやしないだろう。
相手が強者だからといって、それに甘んじていては八咫烏の里を守ることなどできないのだ。
ライト達の話を聞いていたフギンやムニンも、身を乗り出して話に加わる。
「レオニス殿、貴殿の力を見込んで是非とも我が部下達を鍛えていただきたい」
「ええ、これは良い機会ですわ。他種族の実力者に触れられる機会なんて、滅多にあることではないもの」
「マキシ、我等への人化の術の伝授は後回しでいいか? ここは一つ、治安部隊強化のために我等はレオニス殿のご指導を受けたい」
「もちろんです!レオニスさんは人族最強の冒険者ですからね、フギン兄様にムニン姉様も頑張ってください!」
自分達だって人化の術を早く覚えたいだろうに、それを後回しにしてでも治安部隊の指導を優先させるフギンとムニン。
里の警備を担う最高責任者として、実に立派な心構えである。
「じゃ、俺達がモクヨーク池の水を汲んでいる間に、治安部隊を集めといてくれ。汲み終わったらまたここに戻ってくる」
「承知した。私は先に鍛錬場に兵達を集めておく。ムニンはレオニス殿が帰還したら、ともに鍛錬場に来るように」
「分かりました。そしたら私はモクヨーク池の案内も兼ねて、レオニス殿達の水汲みに同行いたしましょう。ここで帰還を待ちながら、ボケーッと待機してても仕方ありませんし」
「おう、里の者に池まで案内してもらえれば俺達も助かる」
ライト達のモクヨーク池の水汲みに、ムニンが道案内を買って出る。
前回の里帰りの時、ライトはマキシとともにモクヨーク池を訪れたので一応その場所や方角は分かる。
だが、ムニンに案内してもらえるならその方が安心だ。
「さて、美味い昼飯もたらふく食ったことだし。皆それぞれ行動するか」
「「はーい!」」「おう」
ライト達は一斉に立ち上がり、八咫烏達は敷物の外に出た。
ライトとマキシは空になった皿を片付け、レオニスとラウルは敷物を軽く叩いてから折り畳んで空間魔法陣に仕舞っていく。
食後の後片付けをサクッと終えたライト達は、午後の予定をこなすべくそれぞれ移動していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
モクヨーク池に移動する、ライトとレオニスとムニン。
ミサキ以外の兄弟姉妹とちゃんとした会話をするのは、ライトにとってもこれが初めてのことだ。
最初のうちは何を話していいか分からず、無言のまま移動する三者。
だが、マキシの兄姉達と話せるせっかくの機会である。何か話をしなくちゃ……とライトが考えていた、その時。
ムニンの方から、徐にライトに話しかけてきた。
「ライト殿……マキシは……我が弟は、人里でどのような暮らしをしておるのでしょう?」
「マキシ君の暮らし、ですか?」
「ええ。ライト殿達のおかげで、今はマキシもすっかり魔力を取り戻して元気になりましたが……それでも私達は、長らく身体が弱かった頃のマキシしか知らなくて……心配が尽きぬのです」
ライト達の歩調に合わせて、ゆっくりと低空飛行するムニン。翼の浮力のみで飛んでいるのではなく、魔力で浮遊しているようだ。
そんなムニンの顔は俯きがちで、とても心配そうな表情を浮かべている。
確かにムニンが心配するのも無理はない。
マキシの中に埋め込まれていた穢れ、魔力を簒奪し続けていた元凶は取り除かれた。その元凶がなくなって、本来の姿を取り戻したマキシを見たのがほんの四ヶ月程前のこと。
マキシの元気な姿を見るのは今日でまだ二度目のことだし、それまで約百年以上もの間マキシはずっと病弱の身だったのだ。
弟を純粋に心配している様子の姉に、ライトは努めて明るく振る舞う。
「えーとですね、マキシ君はラグナロッツァという名の街で、レオ兄ちゃんの持つ家にラウルやぼく達といっしょに住んでまして。今はアイギスという名のお店で働いています」
「まぁ……あの子が人里で働いているんですか!?」
「ええ。アイギスというのは、服や宝飾品を売っているお店でして。前回の里帰りの時に、マキシ君が家族の皆さんに渡したお土産、覚えてます?」
マキシの近況を語るライト。
それをより詳しく伝えるために、マキシが家族の皆に渡した数々の宝飾品のことについて触れる。
お土産のことを覚えているか問われたムニンは、パッ!と顔を上げて明るい笑顔で答える。
「もちろんですとも!あの美しく煌めく石がついた、とても綺麗な品々……皆大事な宝物として、各自とっておいては日々眺めて癒やされております」
「あのお土産は、全てアイギスで作ったものなんですよ」
「まあ!あんな素晴らしいものを作るところで、マキシは働いているんですか!?」
「はい。マキシ君自ら『アイギスで働きたい!』と望んだことで、アイギスを経営する人々にも受け入れてもらうことができたんです。それに、今ではマキシ君もご飯を毎日三食きちんと食べていて、とても元気に過ごしていますよ」
「そうでしたか……それは良かった」
ライトの話を聞いたムニンは、感慨深そうに呟く。
ムニン達家族は、魔力がなくて弱々しかった頃のマキシしか知らない。里の者に陰口を叩かれ、いつも俯いておどおどしてた非力な弟マキシ。
そんなマキシが、八咫烏の里を自ら飛び出して魔力を取り戻しただけでなく、その後も里には戻らずそのまま人里に住み着き、そこで毎日元気に暮らしているという。
ムニンの胸の内には、弟がもう里には戻らないという一抹の寂しさがあった。だがそれ以上に、弟が自ら望んで自分の居場所を得たのだという大きな喜びも湧いていた。
「ムニンさんも、是非とも人化の術を覚えてマキシ君のところに遊びに来てくださいね!マキシ君はもちろんのこと、ぼくもレオ兄ちゃんもラウルも、皆心から歓迎しますよ!」
「え? そ、それは……そのぅ……」
「そうだなぁ、人里に来ればそりゃもういろんなものがあるぞ? 美味い食べ物に綺麗な装飾品、スライムや翼竜を見れる場所なんてのもある」
「ッ!!……が、頑張ります!」
ライトの言葉に初めは動揺していたムニンも、レオニスの魅惑的な話を聞いて決意を新たにしたようだ。
そんな話をしているうちに、一行は目的のモクヨーク池の畔に到着した。
空の色をそのまま摸したかのようなモクヨーク池の美しさに、レオニスが思わず見惚れている。
「おおお、これがモクヨーク池か。綺麗な池だな」
「そしたらレオ兄ちゃん、ぼくが出すバケツに水を汲んでね!」
「了解ー」
ライトがアイテムリュックから絶え間なく出すバケツに、レオニスが次々と水を汲んでいく。
その数実に三十杯以上。池の水をそんなに汲んでどうすんの?というレベル採取量である。
「これくらいでいいかな。レオ兄ちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして。さ、じゃあ次は鍛錬場とやらに行くか」
「レオニス殿、改めてよろしくお願いいたします」
「おう、任せとけ」
無事モクヨーク池での水の採取を終えたライト達は、ムニンの案内で次の目的地である鍛錬場に向かっていった。
皆の午後の予定&二度目のモクヨーク池行きです。
ぃゃー、ホンットに作者のネーミングセンスが察せられる池の名前ですよね!えぇえぇ、自分でも痛いくらいに重々承知しておりますですよぅぉぅ_| ̄|●
ムニンお姉ちゃんも、初回登場時こそ怖ぁーいお姉ちゃんでしたが。普通にしていれば、それなりに可愛らしいところもあるお姉ちゃんです。
ただし、フギンとともに里の警備の最高責任者でもあるので、そういうところはとても厳しいのですが。




