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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
新たな目標

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第525話 シーナの提案

 アル達と再会を果たし、その場での休憩を延長することにしたライト。

 魔物避けの呪符の効果はとっくに切れているが、銀碧狼のシーナがここにいる限りは襲いかかってくる魔物もいない。

 如何に魔物達でも、強大な力を持つ銀碧狼を相手取って喧嘩を売る勇気はない。

 銀碧狼という存在は、ただそこにいるだけで魔物達の蛮勇すらも本能レベルで圧し折り忌避させるのだ。


 まずはアル達に、今日の手土産であるラウル特製唐揚げを振る舞う。

 シーナは人化した姿でテーブルにつき、アルにはライトが大皿に盛って目の前に置いてやる。

 親子して美味しそうに唐揚げを頬張る。


『ライトの持ってくる手土産は、相変わらず美味ですねぇ』

「今日の唐揚げは、ラウルが作ってくれたんですよ。ラウルの作る料理は全て美味しいんです!」

『まぁ、妖精の貴方が?』

「おう。料理は俺の趣味というか、もはや生き甲斐だからな」


 唐揚げを作ったのがラウルであるとライトから聞かされ、シーナが驚いたような顔をしている。

 人間ならともかく、妖精が料理をするなんてかなり意外に思ったようだ。


「ラウルはもともとカタポレンの森に住む妖精だったんだけど、レオ兄ちゃんと縁あって今はラグナロッツァという人里に住んでるんです。そこでレオ兄ちゃんの家に執事として働いてくれてます」

『妖精の身で人里に住まうとは……珍しいこともあるものですねぇ。住みにくいとか辛いことなどはないのですか?』

「俺は生まれこそ妖精でプーリアの里出身だが、中身はほぼ人間だと思ってる。住みにくさや生き辛さで言えば、プーリアの方がよほど地獄だった」

『そうなのですか……』


 ラウルの生い立ちに軽く触れるライト。

 野に生きる銀碧狼のシーナにとっては、カタポレンの森を出て人里に住まうなど到底考えられないことだ。

 そんなシーナの問いかけに、ラウルは優雅にお茶を飲みながら表情一つ変えることなく淡々と答える。

 ラウルにとっては、生まれ故郷とはもはや過ぎ去った遠い過去の遺物でしかなかった。

 そこら辺の機微に敏いシーナは、それ以上踏み込んで聞くことはなかった。


『……ところで、ライト達は今日は何をしに来たのですか?』

「えーとですね、今日は二つ目的がありまして。一つはツェリザークの雪の採取、もう一つはアルとシーナさんに会いに来ました!」

『まぁ、あの遠い家からわざわざ私達に会いに来てくれたのですか。それは嬉しいことを言ってくれますねぇ。……って、雪の採取???』


 ライト達の今日の訪問理由を尋ねたシーナ。その答えが『自分達親子に会いたかった』と聞き、ニッコリと笑顔を浮かべる。

 が、その後すぐに眉を顰めて『???』といった怪訝そうな顔になる。


『雪って、この白く降り積もる雪、のことですよね?』

「はい!」

『はて……雪ってわざわざ採取するようなものでしたっけ?』

「他のところの雪は拾いませんけど、ここツェリザークの雪は他とは違いまして。氷の洞窟から吹き出る魔力をたくさん含んでいるので、とっても美味しい水になって身体にいいんです」

『ああ、そういうことですか。日々ここに住まう私達は意識したことはありませんが、確かに氷の洞窟から吹き出る魔力は多分に含まれているでしょうね』


 ライトの答えに、ずっと訝しげな顔だったシーナもようやく得心する。

 そこら辺に降り積もっている雪をわざわざ採取しに来る者など、今までシーナは一度も見たことはなかった。

 だが、氷の洞窟から出た魔力を含む雪が目当てと聞けば、それも納得である。


「そういった理由で、ぼく達ちょこちょこと雪の採取に来てまして。でももう冬も終わって、これからはどんどん夏に向かっていくでしょう? 夏になる前に、もう一度ツェリザークの雪を拾っておきたいな、と思いまして」

『そうですね。さすがにこの地域でも、夏になれば地面が見えますしね。とはいえ、それもほんの僅かな束の間ですが』

「ワウワウ!」

「あ、おかわり? ちょっと待ってねー……はい、どうぞ!」


 話の途中でアルから唐揚げのおかわり催促が来た。

 ライトはすぐにテーブルの皿からアルの皿に唐揚げを移し替え、山盛りのおかわりを再びアルの前に置いてあげる。

 熱々だったテーブルの上の唐揚げも、ほんのり温い程度にまで冷めてアル達にはちょうど食べ頃である。


 もっしゃもっしゃと美味しそうにおかわりを頬張るアル。相変わらず食いしん坊な子だ。

 久しぶりに見る食いしん坊アルの見事な食べっぷりに、ライトも嬉しくなりアルの頭をそっと撫でる。

 するとここで、ライトがふと思い立ちシーナに向かって声をかける。


「あっ、そうだ。シーナさん、いつものアレ、やりましょうか!」

『ン? いつものアレ、とは?』

「コレです!」


 ライトがアイテムリュックからババーン!と取り出したそれは、動物用の最高級ブラシであった。

 それを見たシーナの目が、瞬時にキラキラと輝く。

 過去二度に渡り、抜け毛採取を目的としてブラッシングを受けてきたシーナ。その心地良さはシーナも既に十分知っていた。


『ああ、ソレですか!……コホン、もちろんいいですよ。今回も私達の毛を存分に梳るとよいでしょう』

「いつもありがとうございます!」


 シーナの許可を得たライトは、パァッと明るく眩しい笑顔を浮かべた後ペコリと頭を下げた。

 その愛らしくも律儀な姿に、思いっきり胸を射抜かれるシーナ。

 仰け反るシーナの、くぅッ!という小さな呻き声とともに、ズギャガーーーン!という効果音がどこからともなく聞こえてきた、気がする。


『はぁ、はぁ……ライト、貴方といると毎回何かしら心臓に悪いような気がするのは何故ですかね?』

「えっ!?シーナさん、大丈夫ですか?」


 若干前屈みになり胸を押さえるシーナを、心配そうに覗き込むライト。

 そう、ライトは自分がシーナの胸を見えない矢で射抜いていることに気づいていないのだ。

 特にシーナはライトと会うのはかなり久しぶりのことなので、ライトの何気ない仕草に対する耐性はほぼないに等しかった。


『だ、大丈夫です……この謎の衝撃、久しく味わっていませんでしたが……何とも懐かしい気分です』

「と、とりあえず、ブラッシングでリラックスしましょうか!」

『そ、そうですね……』

「そしたら今日はぼくがシーナさんのブラッシングをします。ラウルはアルのブラッシングをお願いできる?」

「おう、ブラッシングなら任せろ、フォルにもいつもしてあげてるからな」

「えッ、そなの!?」


 ラウルがフォルのブラッシングをしてあげているとは、ライトも初耳だ。

 だが、ライトもよくラウルにフォルを預けるし、ラウルはフォル教信者第一号なので特に指示せずともフォルの世話を焼くのが大好きであることは明白だった。


 ちなみにブラッシングの際に出た抜け毛は、全てラウルの方で保管してあるとのこと。マキシの八咫烏の羽根同様に、幻獣カーバンクルであるフォルの抜け毛も貴重品として扱っていた。

 さすがはラウル、こうした方面ではものすごーく気の利く万能執事である。


「じゃあ、アルの抜け毛も後でまたぼくにちょうだいね!」

「了解ー」


 そんな会話をしているうちに、アルは唐揚げのおかわりを食べ終えて満足そうに寝転んでいる。

 そしてシーナもまた人化の術を解き、銀碧狼の姿に戻り地に伏せて準備万端とばかりに待ち構えていた。

 ライトはラウルにアル用のブラシを渡した後、上品に座るシーナの横に立った。


『さぁ、こちらはいつでも構いませんよ』

「今日もよろしくお願いしますね!」


 シーナの厚意に礼を言いつつ、銀色に輝く艶やかな毛をそっと梳り始めた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



『んふぅ……こうして人の子の手で毛を梳られるのも、久しぶりのことですねぇ……』

「シーナさんがアルといっしょに遊びに来てお泊まりしてくれたら、いつでも梳かしますよ?」

『うふふ、それはまた魅力的な提案ですねぇ』

「ラウルの特製ご馳走もたくさん用意して待ってますね!」


 ゆっくりと丁寧にブラッシングしていくライトに、目を閉じながら実にうっとりとした声になるシーナ。

 最高級ブラシを使った丁寧なブラッシングは、さぞ心地良いだろう。

 シーナに喜んでもらえるとライト自身も嬉しいので、ライトもより慎重に丁寧なブラッシングを心がける。


 モップの先端のようなスリッカーブラシを使い、毛の根元からしっかりとブラッシングしていく。シーナの言う通り本当に久しぶりのブラッシングなので、一回二回ブラシを通しただけで結構な量の毛がブラシに溜まっていく。

 その都度抜け毛をブラシから取り、アイテムリュックに仕舞っていく。今回はいつもより多めに採取できそうだ。


 アイテムリュックに毛を仕舞う際に、ふとラウルの方を見たライト。

 そこには母親と同じく気持ち良さそうにしているアルと、これまた思う存分アルのもふもふを堪能しているラウルの姿があった。

 アルの背中にゆっくりとブラシを通しながら「おおお……フォルの毛並みとはまた一味違う、極上のもふもふだな……」と感嘆を洩らすラウルの独り言が聞こえてくる。

 ラウルもアルの極上もふもふを味わっているようで、何よりである。


「あ、そういえばぼく、シーナさんに一つ聞きたいことがあるんですが」

『何ですか?』

「シーナさんは、氷の洞窟に入ることはありますか?」

『氷の洞窟、ですか……』


 ライトはシーナに氷の洞窟のことを問うた。

 シーナ達は氷の洞窟近辺を縄張りにしている、とは聞いているが、氷の洞窟そのものに入ったことがあるかどうかまでは聞いたことがなかったからだ。


『たまに氷の女王のもとに赴くことはありますよ。ですが、洞窟に住む者と陸に住む者は全く違いますからね。私達は陸に住む者であり、氷の女王に謁見する以外でわざわざ洞窟に立ち入ることはありませんね』

「シーナさんも、氷の女王様とお友達なんですか?」

『ええ。氷の女王とは先々代からお付き合いがありましてね。氷の女王も私に懐いてくれていますし、私にとっても彼女は可愛い妹のような存在です』


 シーナもまた氷の女王とは親交があるという。

 当代だけでなく、先々代の氷の女王から付き合いがあるというから驚きだ。

 それだけ付き合いが長ければ、まさに家族ぐるみと言っても差し支えないだろう。


『ライト達はこれから氷の洞窟に入るのですか?』

「ええ、今日は入りませんが、いずれレオ兄ちゃん達と氷の洞窟の探索に入る予定です」

『何を目的に入るのです? 貴方方の実力であれば、氷の洞窟も問題なく進めるでしょうが……それでも人の子の身ではかなり危険な場所ですよ?』

「そうなんですけど……ぼく達には、どうしても氷の洞窟に行かなければならない理由があるんです」


 心配そうに、やんわりと忠告するシーナ。

 シーナの身体をブラッシングしているライトからは、シーナの表情は一切見えない。だがその声音からは、本当にライト達の身を案じての言葉だということが分かる。

 銀碧狼という高位の存在でありながら、自分達のことを心配してくれて本当にありがたいな、とライトは思う。


 だが、ライトにも引けない理由がある。

 炎の洞窟にいる炎の女王、彼女の身に起きた異変やその後世界中にいる属性の女王達の安否を確認しなければならないことなどを掻い摘んで話していくライト。

 ライトの話をシーナは静かに聞いていた。


「……そんな訳で。どうしても氷の女王様に直接会って、今のお話をして無事を確認しなければならないんです」

『……何とまぁ……か弱き人の子の身でありながら、重大な責務を負ってしまったものですねぇ……しかし……』


 シーナが若干言い淀むような口調になる。


『当代の氷の女王は、それはもうものすごく人族を嫌っています。それはご存知ですか?』

「はい、フェネぴょんからもその話は聞いたことがあります。フェネぴょんの方からも、氷の女王様にぼく達のことを話しておいてあげる、とは言ってくれてましたが……」

『確かにあのフェネセンという大魔導師だけは、人族の中で唯一認めた旧知の仲で親しいようですが……それ以外の人間を受け入れるとは到底思えません。厳しいことを言いますが、氷の女王が貴方方に会う可能性は低いと思いますよ?』


 氷の女王と親交のあるシーナは、彼女の性格を熟知している。

 だからこそ、如何にライト達が望んでも会えない可能性の方が高い、と告げたのだ。


「一応他の女王様から勲章をもらってますし、それを持つことで多少は氷の女王様の警戒も減ると思うんですが……実際はどこまで信用してもらえるか、まだ分かりません。……でも……」

『……でも?』


 ふとライトの言葉が途切れたのが気になったのか、シーナが問い返した。


「今まで出会った女王様達は、皆優しくて素敵な精霊でした。だから、氷の女王様ともきっと分かり合えると信じています」

『……そうですね。確かに貴方方は欲深いだけの人族ではないことは、私もアルも知っています。ですが……』

「…………」


 そこからしばし沈黙が流れる。

 炎の女王や水の女王からもらった勲章があれば、氷の女王の警戒も多少は解けると信じたいライト。

 だが、シーナの様子から見るに氷の女王の人族嫌いは相当なもののようだ。


 火の女王様や闇の女王様は、他の女王様の勲章を持つことで信用してくれたけど、氷の女王様はそうはならないかもしれない……フェネぴょんも、氷の女王様は大の人嫌いって言ってたし……

 そう思うと、ライトの気持ちも沈んでしまっていた。


 そんな空気が居た堪れなくなったのか、ふぅ、とシーナが小さくため息をついてからぽそりと呟いた。


『……いいでしょう。氷の女王のもとに行く時は、私も連れていきなさい』

「え……?」

『他の女王の勲章を持っていくだけよりも、私もともに行けば氷の女王の警戒もより薄くなるでしょう』

「い、いいんですか?」


 シーナからの提案に、ライトは心底びっくりしたような顔になる。

 フェネセンと連絡が取れない今、氷の女王と親交のあるシーナに同行してもらえば氷の女王のもとに行きやすくなるだろう。

 呆気にとられたような顔をしているライトに、シーナは微笑みながら口を開いた。


『貴方方は我が子アルの、そして私にとっても大切な友達ですからね』

「……!! ありがとうございます!!」


 シーナの言葉に、ライトの顔はパァッ!と明るくなる。

 子供の友達というだけでなく、シーナにとってもライト達は友達だ、と認めてくれたのだ。

 そのことがライトにとっては何より嬉しかった。


『あらあら、お手手が休んでますよ?』

「あッ、すみません!」


 シーナとの会話で、いつの間にかブラッシングの手が止まってしまっていたライト。

 シーナの催促により、慌ててその手を再び動かし始める。


『氷の女王に会うために洞窟に入る前に、必ず私達と合流するようになさい。私が氷の女王に執り成してあげましょう』

「ありがとうございます!その時はよろしくお願いします!」

『友のためにすることに、礼など要りませんよ。……ああ、でも、次もまたブラッシングしてくれると嬉しいですかねぇ』

「もちろんです!ブラッシングで良ければいつでもしますから、カタポレンの家にもいつでも遊びに来てくださいね!」

『ふふふ、楽しみにしてますよ』


 氷の女王への口添えの礼に、ブラッシングが良いというシーナ。

 礼など不要と言いつつ、それでは納得しないであろうライトに敢えてブラッシングを要求するあたり、ライトへの気遣いを感じさせる。


 そんなおちゃめで心優しいシーナに少しでも恩を返すべく、より丁寧で念入りなブラッシングをするライトだった。

 アル親子に会った時のブラッシング、もはやお約束です。

 ブラッシングしてもらうアル達は気持ち良く毛並みも整い、ライト達も銀碧狼の抜け毛という貴重な素材を入手できる上に存分にもふもふを堪能できる。まさしく両者Win-Winの一石三鳥ですよね!(・∀・)


 ちなみに銀碧狼の住処が氷の洞窟周辺となっているのは、銀碧狼がフェンリルを祖に持つ末裔だからです。

 フェンリルは極寒の地とか北の寒い土地に住む、という設定がよく見受けられるのですが。ネットで検索しても、フェンリルの明確な住処は分からないんですよねぇ。

 ただ、フェンリルは北欧神話がもとなので、北欧=寒い土地、というのが全般的にあるんだろうな、と推察するところなのですが。

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