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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
初めての春休み

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第482話 秘めたる可能性

 本日二件目のお目当て、薬師ギルドに到着したライトとレオニス。

 冒険者ギルドや魔術師ギルドに比べ、こぢんまりとした感じの四階建ての建物だ。


「レオ兄ちゃんは薬師ギルドによく行くの?」

「回復剤や解毒剤を買いに行くことはたまにあるな。俺の場合回復魔法も使えるっちゃ使えるが、自分を回復させるだけなら回復剤を飲んだ方が早くて楽なんだよな」


 確かに自分のHPを回復したい場合なら、自身のMPを消費する回復魔法を施すよりも回復剤をぐい飲みしたほうが早そうではある。


 早速薬師ギルドに入っていくライトとレオニス。

 ここもギルドという組織を成しているだけあり、中にはちゃんとした受付窓口があり受付嬢も座って待機している。歳の頃は二十代後半くらいだろうか、理知的な印象の女性だ。

 早速レオニスは受付窓口に近づき、受付嬢に話しかけた。


「すまんが回復剤について、ちょっと相談したいことがあるんだが。上の偉い人と話せるか?」

「回復剤についてのご相談、ですか? 回復剤の大量購入などのご相談でしたら、外商部にて承りますが」

「あー、そういうんじゃなくてな……ここであまり大きな声では言いたくないんだが……」


 冒険者ギルドや魔術師ギルドでは顔パスのレオニスでも、さすがに薬師ギルドは通う頻度が少ないせいかすんなりと話は通らないようだ。

 レオニスもこんな人の出入りの多い入口で『新種の回復剤がある』などと大っぴらに明かしたくないので、なるべく穏便に済ますべく努力する。


「時にあんた、ここで受付嬢をしているが。薬を見ればある程度のことは分かるか?」

「もちろんですとも。薬師ギルドに勤める者が薬のことを知らないなどと、口が裂けても言えません」

「なら、これを見てもらいたいんだが」

「……??」


 レオニスは空間魔法陣を開き、濃縮エクスポーションや濃縮イノセントポーションを受付嬢にだけ見えるようにこっそりと差し出す。

 突然レオニスから不躾とも思える質問をされ、あからさまに訝しがっていた受付嬢。だが、レオニスが差し出した濃縮系回復剤を見た途端、彼女の目が次第に大きく見開かれていく。

 先程のレオニスの問いに、即座に薬のことは分かると言い切っただけあって、それが何であるかをすぐに察したようだ。


「……こ、これは……?」

「そう、おそらくだが『新種』だ。これについて、ここの上の偉い人と話をしたい。……あ、俺はこういうもんだ。上の人に取り次いでくれるなら、ついでに俺の名も伝えといてくれ」

「……!!」


 回復剤を見せた後に、レオニスは冒険者ギルドのギルドカードを身分証として提示した。

 どこの馬の骨とも分からない不審者扱いされるより、先に身分証を提示しておいた方が先方の理解も得られるというものだ。

 こういう時、公的機関である冒険者ギルドが発行するギルドカードは大いに役立ってくれる。

 そしてレオニスの身分証を見た受付嬢も、目の前にいる人物が誰であるかを十全に理解したようである。


「分かりました、今すぐ上の者に取り次いで参ります。上の者にも直接実物を見せた方が早いと思いますので、ひとまずこちらの品をお預かりしてもよろしいでしょうか」

「もちろんだ」

「ありがとうございます。では少々お待ちください」

「ああ。それまで俺達ゃ売店にいるから、上と話がついたらまた声をかけてくれ」

「分かりました」


 受付嬢は上の者に取り次ぐべく、濃縮系回復剤を抱えて奥の方に消えていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 先方と話ができるようになるまで、ライト達は薬師ギルドの売店を覗くことにする。

 薬師ギルドの売店は、冒険者ギルドや魔術師ギルドほどの規模や品数ではないが、それでもここでしか手に入れられないものもいくつか見受けられる。

 以前レオニスが薬師ギルドの専売品だと話していた、グランドポーションやコズミックエーテルなどもある。

 その売価はどちらも一本3000G、なかなかに良い値段である。


「一本3000Gかぁ……エクスポに比べたらかなり高いんだね」

「その分これ一本での回復量が相当あるからな。ハイポの八倍、エクスポの三倍の効果があるし」

「ハイポ八本なんて、とても一度に飲めないもんね……エクスポ三本だって普通はキツいもん」

「俺はまぁエクスポなら五本くらいは余裕で飲めるがな」

「そんなのレオ兄ちゃんだけだって……」


 効果の少ない回復剤だと何本も飲まなければ全快しないような場面でも、効果の高い回復剤なら一本で済む。これは何気に大きな利点だ。

 持ち運びもコンパクトだし、飲む量も少なくて済む。

 というか、ハイポーションを八本も飲んだら水腹どころの話ではない。エクスポーション三本だって常人には厳しい。

 それらを大量にがぶ飲みしても平気でいられるのは、レオニスくらいのものである。


 売店の棚を見ていくと、各種回復剤の他にも解毒剤や痛み止めの丸薬、痒み止めの軟膏、肩凝り用の湿布など、様々な品がある。

 薬師ギルドの名に恥じない、まるでドラッグストアのような豊富な品揃えにライトは内心で感心する。


 そうして売店を興味深く眺めいるうちに、先程の受付嬢がライト達のもとにやってきた。


「大変お待たせいたしました。副ギルドマスターでよろしければお会いしたいと申しております」

「分かった、案内してくれ」


 受付嬢の案内で、副ギルドマスターがいるという応接室に向かう。

 上の偉い人と話をしたい、とレオニスは申し出たが、薬師ギルド側は副ギルドマスターが出てくるようだ。薬師ギルドのNo.2が対応してくれるなら、レオニスとしても御の字である。


 応接室の前に辿り着いた三人。

 受付嬢がノックしてから扉を開く。


「副ギルドマスター、お客人をお連れしました」

「ご苦労。窓口に戻る前にお茶を淹れてくれたまえ」


 応接室の中で待っていたのは、四十代半ばくらいの男性だった。

 彼は座っていたソファから立ち上がり、レオニス達を出迎える。


「ようこそ。私の名はロイド、薬師ギルド総本部で副ギルドマスターを務めている。世に名高き英雄にお会いできて光栄だ」

「そんな御大層なもんじゃないがな。俺はレオニス、冒険者をしている。副ギルドマスターともなれば多忙だろうに、こうして時間を割いてくれたことに感謝する」


 ロイドの方から手を差し出してきたので、レオニスもそれに応じて握手をする。

 如何にも堅苦しい雰囲気だが、お互い初対面でそれなりの立場の者同士だけに致し方ない。


「……そちらのお子さんは?」

「ああ、俺の弟みたいなもんだ。今日はここに来る前に買い物やら何やらでいっしょに出かけててな。まぁ今からここでする話も商談やら大それた機密事項のあるもんでもないから、この子がいても問題ないと判断して連れてきた」

「そうですか……まぁいいでしょう」


 レオニスの横にいるライトに、ちろりと視線を遣りつつライトが誰かを問うロイド。

 この場に幼子がいることをロイドが不思議に思うのも当然であるが、レオニスに押し切られる形で同席を認めた。


「さて、こちらの品々ですが……どういった由来のものか、お聞きしてもよろしいですか?」

「これはとある人物から預かったもので、俺自身詳しいことは聞いてないし話せないんだが。これがどういった品かの鑑定は既に受けているので、この書類を見てくれ」


 テーブルの上に置かれた、三種の濃縮系回復剤。

 レオニスは空間魔法陣から一通の封書を取り出し、ロイドに渡す。

 それは冒険者ギルドディーノ村出張所でクレアに濃縮系回復剤を鑑定してもらった際に、その結果を一筆書いてもらったものだ。

 クレアは鑑定士系のジョブ持ちなので、彼女の一筆は立派な鑑定書となるのだ。


 封蝋を開けて中にある便箋を取り出し、静かに目を通していくロイド。


「……ほう、冒険者ギルドの特級鑑定士からのお墨付きですか。それならば諸問題のほぼ全ては解決したようなものですね」

「当薬師ギルドとしても、このような回復剤は見たことがありません。毒性や危険な成分など一切なく、なおかつ体力回復効果があるなら是非とも当ギルドにて研究したい」


 クレアの鑑定書を片手に、改めて新種の濃縮系回復剤を興味深そうに眺めるロイド。

 ロイドが口にした『特級鑑定士』というのはライトは初耳の言葉だが、クレアの持つジョブは鑑定士系の中でも最上級らしいのでランクで言えば特級に値するのだろう。


「イノセントポーションやセラフィックエーテルのように見えて、それらよりはるかに濃い成分量を含有する……画期的と言っても過言ではありません」

「この斬新な回復剤を再現できたら……グランドポーションやコズミックエーテルをも上回る、新たな薬が開発できるでしょう」

「それはこのサイサクス大陸中に旋風を巻き起こすに違いありません!」


 濃縮系回復剤の瓶を持つロイドの口調が、だんだんと熱を帯びていく。

 それは既存にはない、全く新しい未知の回復剤が秘める大いなる可能性への期待感か。


「よろしければ……いえ、是非ともこれら新種の回復剤を当ギルドにお譲りいただきたい。一本につき三万Gで如何でしょう?」

「三万G、ねぇ……ライトはどう思う?」


 一本の回復剤に三万Gの買い取り価格を提示するロイド。

 一見破格に見えるが、グランドポーションやコズミックエーテルの売価が一本3000Gであることを考えると微妙なところだ。

 完全な新種なのに、既存の品の十倍程度しか値がつかないのか?とレオニスが疑問に思うのも当然である。


 だが、これら新種の濃縮系回復剤の真の持ち主はライトだ。

 そのことは明かさずに、ただ単に連れに尋ねてみる風を装ってライトに意見を求めるレオニス。


「ん、いいんじゃない?」

「そうか?」

「うん。全く新しい、今のものよりも効果が高い回復剤が作れるようになったら、それはレオ兄ちゃんや他の冒険者さん達にとってもきっと役に立つ良いことでしょ?」

「そりゃまぁそうだな」


 ライトの言葉にレオニスも同意する。

 自分(レオニス)はエクスポをがぶ飲みすればいいが、他の冒険者はより少量で高い効果を発揮する回復剤を求めて常備するのが常識だ。

 今現在はグランドポーションとコズミックエーテルが回復剤の最上級品だが、濃縮系回復剤はそれらに取って代わる可能性を秘めている。

 ライトが言うように、より強力な回復剤の開発は冒険者の生存率にも直結する重大案件であることは明確だった。


「それに、ぼくも将来冒険者になったら薬師ギルドさんの作る薬の世話になるだろうし。歳を取って冒険者を引退したら、第二の人生は薬師を目指すからね!」

「おお……何と堅実で賢き子か。そのような年端もいかぬうちから、そんなにしっかりとした人生設計を立てているとは」

「だろう? うちのライトは頭いいからな!」


 ライトの言葉にロイドが心底感嘆する。

 そしてレオニスもまたロイドの感嘆に誇らしげに答える。


「ライトがそれでいいってんなら、俺も特に異論はない。一本三万Gで買い取りを頼む」

「!! ありがとうございます!」


 レオニスがロイドの提示した金額での買い取りを承諾したことに、ロイドは感激の面持ちで頭を下げる。

 そして下げた頭をバッ!と上げ、期待を込めた眼差しでレオニスの顔を見るロイド。


「つかぬことをお聞きしますが、この新種の回復剤はそれぞれ一本づつしかないのでしょうか? もし複数お持ちならば、是非ともそれらも研究用に買い取りたいのですが」

「……あー、そこら辺は元の持ち主に聞いてみないことにははっきりと言えんが……多分何本か同じものがあるんじゃないか、とは思うぞ」

「本当ですか!? でしたら是非ともお譲りいただきたいのですが!」


 テーブルに手をつき、身を乗り出してレオニスに迫るロイド。

 その顔はもはや一刻も早く研究したくてウズウズしている研究者の顔である。

 そしてレオニス自身は、濃縮系回復剤の在庫量など全く分からない。だが、その出処がフォルの持ち帰り品だと聞いているので『多分何本か同じものを持って帰ってきてるだろ』という楽観的予想に基づき、ロイドの問いに回答した。

 相変わらず大雑把で適当だが、濃縮系回復剤は元となる回復剤があればライトが【遠心分離】スキルでいくらでも濃縮できるので良しとする。


「これと同じものがあるかどうか、また確認してからここに来る。ていうか、多分あるよな?」

「うん、家にあると思うよー」


 レオニスがまたも横にいるライトに軽々と尋ねる。

 ライトの方も自分の手でいくらでも作れるので、家に在庫があるという体でこれまた軽々と答える。


「ありがたい……是非ともそれらも一本三万Gで買い取らせていただきます。これから研究するにあたり、サンプルはたくさんあった方がいいですからね」

「だろうな。この回復剤が冒険者の世界でも気軽に使える日が来ることを願っている」

「ご期待に沿えるよう、薬師ギルドの総力を挙げて全身全霊を以て研究に挑みます」


 レオニスの激励に、早くも薬師魂を燃やしながら意気込むロイド。新たな目標に果敢に挑み闘志を燃やすその目は、冒険者にも似た熱い情熱を秘めている。

 ロイドの頼もしい眼差しに、ライトもレオニスも今後の展開を大いに期待するのだった。

 ライトがレシピ作成で生産した各種濃縮系回復剤のお披露目?回です。

 薬師ギルドが濃縮イノセントポーションなどを再現できるかどうかはまだ不明ですが、濃縮前のノーマル状態のものは現時点でも普通に流通しているので、ライト以外の人達でも頑張れば作れる可能性は大いにあります。

 それらの回復剤もアイテムバッグのように何年か後には商品化されて、冒険者達の助けとなる日が来るでしょう。

 そして第二の人生で薬師を目指すライト、今から薬師ギルドと繋がりを持てることは就活的にも有利になるので内心ホクホク。

 前世では就職氷河期で散々苦労したので、幼い今のうちから就活に余念がないのです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ライトっていつ歳が一つ上がるのだろうか、その疑問を解決するべく我々(1人だけなので間違い)はジャングルの奥地へと向かった... でも、著者に質問した方が確実なため向かうのをやめた。 と…
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