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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
新たなる試練

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第457話 思い出の品

 その後は特に際立った事件もなく、しばらくは穏やかな日々が続いた。

 ラウルが下水道北地区で被害に遭った、ポイズンスライム変異体襲撃事件。レオニス、冒険者ギルド職員、清掃管理局の職員の三者による立ち会いのもと行われた現場検証も、新たな発見物などは結局見つけられず原因究明には至らなさそうだ。


 そもそも下水道内にポイズンスライムが発生すること自体は、さほど珍しいことではない。清掃管理業務が長期間行われずに滞ったりなどすれば、割と起こることだった。

 だがラウルを襲ったポイズンスライム変異体は、これまで前例のない大きさだったことから、何かしら変異体に変貌する要素があったのではないかと推測されていた。


「つーか、あの下水道北地区な。今日聞いた話によると、最後にまともに清掃が行われたのが何と一年以上も前だったんだと。そりゃポイズンスライムも肥え太るよなって話だ」

「はぁー、今まで清掃管理局の人が適当にチョロっと清掃して誤魔化してきてたとは……下水道清掃依頼って、不人気な依頼の中でも最も不人気ですからねぇ。そこへきて北地区は他地区よりも圧倒的にだだっ広いから、冒険者ギルドでもなかなか引き受け手が現れにくいんですよねぇ」

「だから俺も清掃管理局に言っといたんだ。『もうちょい報酬を引き上げるなりしてきちんと人を雇わんと、またすぐに同じことが起こるぞ?』ってな」


 冒険者ギルド総本部窓口にて、そんな会話をしているのはレオニスとクレナ。

 下水道北地区の現場検証後、後日改めて行われた清掃管理局上層部との面談の結果を冒険者ギルド総本部に報告しに来たのだ。

 本来なら下水道清掃は少なくとも年二回、半年に一度は行わなければならないものらしい。

 だが報酬の安さに加え、下水道特有の臭いや閉所が苦手等々の様々な理由により、冒険者ギルドに依頼書を出しても忌避されて引き受け手が非常に少なかったのだ。


 とはいえ、そんな超不人気の下水道清掃依頼も必ずしも誰も引き受けない訳ではない。

 そうした公共事業的な依頼は、報酬が安い代わりに地域社会への貢献として実績評価点数が高めなのだ。以前ラウルやバッカニア達が引き受けた孤児院の雨漏り修繕も、これに該当する案件である。

 故に、報酬は二の次でも実績点数を目当てに引き受けるパーティーもいるにはいた。そうした諸々の事情により、危ういバランスながらもこれまで何とかなっていただけなのである。


「まぁ今から三年間は俺が無償点検を引き受けたし、その三年以内に清掃管理局の方も体制を整えるなりして対応するだろ」

「そうですねぇ……冒険者ギルドの方でも実績評価点数を引き上げるなりして、より積極的に下水道清掃の引き受け手確保を図らなければならないかもしれませんね」

「ま、そこら辺はクレナやマスターパレンの仕事だからな、任せるわ。じゃ、またな」

「はい、レオニスさんもお疲れさまでしたぁー」


 レオニスは手をひらひらと振りながら、クレナのいる窓口を去って帰っていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ラウルはと言えば、週明けに床屋に行って髪の毛をバッサリと切ってきた。

 ポイズンスライム変異体の毒により、ラウルの美しい黒髪がかなり傷んでボロボロのパッサパサになってしまったためだ。

 襟足と両耳周辺を刈り上げて、非常にスッキリとした髪になったラウル。よりスタイリッシュさに磨きのかかった『ネオイケメン万能執事』に進化していた。


 床屋から出た足で、今度はアイギスに向かうラウル。

 アイギスのお店の前では、マキシが掃き掃除をしていた。


「よう、マキシ。仕事頑張ってるな」

「あっ、ラウル!……おおお、髪の毛切ってきたんだねー。スッキリして格好良いよ!」

「ありがとうよ。ところでカイさん達はいるか?」

「うん、皆それぞれお仕事してるよ。お店に寄っていく?」

「ああ、フォルのお迎えついでに頼みたいことがあってな。床屋帰りに立ち寄りに来たんだ」

「いってらっしゃーい、どうぞごゆっくりー」


 マキシが店の扉を開けてラウルを店の中に入れ、自分は外の掃き掃除の続きを再開する。

 店の中にはいつものようにメイがいて、客であるラウルを出迎えた。


「いらっしゃいませー……って、あらー、ラウルさんじゃない!もうお身体の方は大丈夫なの?」

「ああ。先日はアイギスの皆様方にもご心配をおかけしたようで、本当に申し訳ない」


 メイの右手を恭しく取り、目を閉じながら手の甲にそっとキスをするラウル。まるでお姫様に忠誠を誓う騎士のようである。

 キスをされたメイは、少しだけびっくりしながらも嬉しそうに微笑む。


「うふふ、ラウルさんってば本当に紳士な方なのねぇ」

「アイギスの美しい女神達への敬意を表しただけさ」


 手の甲とはいえ、眉目秀麗なラウルにキスをされたら普通の女性なら絶叫もしくは窒息したまま卒倒しそうなところだが。そこは接客のプロ、軽い挨拶程度のものであることをちゃんと理解しているようだ。


「今日はどんな御用? ラウルさんが冒険者デビューしたって話はマキシ君から聞いたけど。何か新しく装備を作る?」

「俺の装備はご主人様が冒険者登録祝いとして、近いうちにアイギスで一式作ってくれるという話になってるんだ」

「あら、そうなの? レオもちゃんとご主人様してるのねぇ。そしたら先にラウルさんの身体を採寸しておきましょうか?」

「ああ、是非とも頼む。それと今日ここに来たのは、フォルを迎えに来たのともう一つ……これを見てもらいたいんだが」


 ラウルは空間魔法陣を開き、何かを包んだマントを取り出した。

 それを見たメイは目敏く気づく。


「あら。それ、レオが大昔に着ていたマントね? 懐かしいわぁ」

「他にも革装備一式があるんだが、先日の件でかなり駄目にしてしまってな……直せるものなら直したいんだが、見てもらえるか?」

「そしたら奥の部屋の方に行きましょうか。カイ姉さん達とも相談したいし」

「よろしく頼む」


 メイはそう言うと、表で掃き掃除をしていたマキシに店番を頼み、ラウルを連れて奥の応接室に入っていった。

 先にラウルを応接室に通し、カイとセイを呼びに向かうメイ。

 しばらく待っていると、三姉妹全員が応接室に入ってきた。

 カイの腕には幻獣カーバンクルのフォルが抱っこされている。


「ラウルさん、いらっしゃい。大怪我をなさったと聞いて皆で心配していたのだけど、もう大丈夫ですの?」

「ああ。おかげ様でこの通り、外を出歩けるくらいには回復した」

「それは良かったわ!今度私達もお店が休みの日に、ラウルさんのお見舞いに行かないとねって話をしていたところなのよ」

「それには及ばない。お気遣い感謝する」


 カイとセイが元気そうなラウルの姿を見て、嬉しそうに話しかける。

 すると、カイの腕に抱っこされていたフォルがスルッと抜け出してラウルのもとに駆け寄った。

 ラウルの肩に乗り頬ずりしてくるフォル。その頭をラウルがそっと撫でながら話しかける。


「フォルにも心配かけてごめんな。アイギスの女神達のもとでお利口さんにしてたか?」

「もちろんよ!フォルちゃんはとっても良い子にしてたわ!」

「マキシ君のアドバイス通り、レタスやナッツ類を出したのよ。そしたらとっても喜んで食べてくれてたわ」

「ああー、フォルちゃんとの夢のような癒やされ生活もこれで終了ね……もちろんラウルさんが元気になってお迎えに来てくれるのが、皆にとっても一番喜ばしいことだけど」


 三姉妹がそれぞれにフォルとの生活を語りつつも、フォルとの別れを惜しむ。

 三人ともフォルのことが大好きなので、フォルを預けられたここ数日間はさぞかし魅惑のふわもふに癒やされまくったことだろう。


「さて、そしたら今度はこちらの装備品類なんだが」

「まぁ、懐かしい。レオちゃんが冒険者になってすぐの頃に使っていたマントね。中身は……ああ、この革装備一式もレオちゃんのものね」

「先日俺が冒険者登録した時に、当面はこれを使うようにってご主人様から譲り受けたんだ」

「そうね、サイズ的にはほぼ同じでしょうからラウルさんにも使えるでしょうね」


 ラウルが持参した装備品類を見たカイ達が、懐かしそうにマントや革装備一式を手に取り眺める。


「でも、だいぶ傷んじゃってるわね……」

「下水道清掃依頼を受けた時に、巨大なポイズンスライムに襲われてな。だいぶ溶かされちまったんだ」

「「「……巨大ポイズンスライム……」」」


 ラウルの話を聞いた三姉妹が、声を揃えて震え上がる。

 ラウルが何らかの事件に巻き込まれて大怪我をした、というのはマキシから聞いてはいたが。よもやそれが巨大ポイズンスライムとの戦闘が原因だとは、夢にも思わなかったようだ。


「このマントや革装備にも魔法耐性がついていたおかげで、何とか危機を脱することはできたが……ご主人様から預かった装備品を、こんなボロボロにしてしまった」

「装備品は身を守るためのものなのだから、それは本望というものじゃないかしら?」

「カイ姉さんの言う通りよ。生き物だけじゃなく、物にも寿命というものはあるの。身に着けた人を守ってお役御免になるなら、それこそが装備品にとっての本望だと思うわ」

「それに、近々レオからも冒険者登録祝いで新しい装備品をもらうんでしょう? だったらラウルさんがそこまで気に病むことはないわよ」


 落ち込むラウルに、カイ達がそれぞれに優しい言葉をかける。

 だがラウルには、どうしても譲れない事情があった。


「この装備品は、本当ならご主人様からライトに譲られるはずのものだったと思うんだ」

「……それは……」

「いくらお古だの使い回しだのと言っても、そこにはご主人様の思い入れもある。ライトだってきっと、ご主人様がかつて新人の頃に身に着けた装備品を受け継ぎたいと思うはずだ」


 ラウルの吐露した思いを聞いた三姉妹は、無言のままラウルを見つめる。

 ラウルが語った気持ちは全てが尤もであり、聞いていたカイ達も納得できるものだったからだ。


「……そうね、それは間違いないでしょうね」

「だからこのマントや革装備一式も、このまま捨てるなんてことは絶対にできない。直せるものなら直したいし、そのためならどれだけ金がかかってもいい。ライトが冒険者登録した時に、俺の手からライトに渡してやりたいんだ。『これはご主人様が昔身に着けていたもので、俺の生命も守ってくれたすごい装備なんだぞ』って話しながらな」


 静かに語るラウルの言葉を、じっと聞き入っていた三姉妹。

 徐にカイが口を開いた。


「分かったわ。私達でできる限りのことはさせてもらうわ」

「思えばこのマントや革装備一式も、私達がレオのために作ったものだものね。私達にだって思い入れのある品なのよ」

「私達がこのお店、アイギスを立ち上げてすぐの頃に作ったものだから、今見るといろいろと至らない点もたくさんある品だけどね」


 このマントや革装備、何とカイ達がその昔にレオニスのために作った装備品だという。

 初めて聞く話に、ラウルも少しだけびっくりしている。


「そんな大事な品だったのか……ご主人様め、何でそんな大事なものを俺なんかに渡して寄越したんだ」

「それはまぁ、レオちゃんらしいというか、ねぇ?」

「??? ぃゃ、そこはライトに渡すために大事に仕舞っておくところだろう?」

「それはほら、ねぇ?」

「???」


 アイギス三姉妹に作ってもらった思い出の品ということを知り、ラウルが少しだけ恨めしそうに愚痴を零す。

 ラウルに言わせれば、何でそんな大切な品をライトに渡さずに俺に寄越した!?といったところだ。

 そんなラウルを見て、カイ達はずっとニコニコと笑っている。

 カイ達の笑顔の理由が分からないラウルには、何が何だか本当に理解できないようだ。


「レオちゃんにとってはね、ラウルさん。貴方もライト君と同じくらいに大事な存在なのよ」

「……!」

「そうそう。大事な品を託してもいいと思えるくらいにはね、レオもラウルさんのことを大切に思ってると思うわ」

「……!!」

「でなきゃレオだって、このマントや革装備をラウルさんに譲ったりなんてしないと思うわよ?」

「……!!!」


 声を揃えて「「「ねー♪」」」と三人で顔を見合わせつつ、嬉しそうに確認し合うアイギス三姉妹。

 彼女達の思わぬ言葉を受ける度に、ラウルは衝撃を受けつつ顔がどんどん赤くなっていく。


「レオちゃんにとって、ラウルさんも既に立派な家族の一員なのよ」

「ライト君だけじゃなくて、ラウルさんやマキシ君もレオの大事な家族なのよ」

「友達とか執事とかを超えて、もはやラウルさんはレオファミリーの一員ってことね!」


 ニコニコ笑顔で頷きながら語る三姉妹。レオニス同様孤児院育ちの彼女達にとって、家族を得るということは金銀財宝を得るよりもはるかに価値のあることなのだ。

 そしてそれは、何も孤児院育ちの三姉妹やレオニスだけの話ではない。生まれ育ったプーリアの里で、家族とほとんど縁のなかったラウルにとっても同じことだった。


「家族、か……俺も家族というものにはとんと縁がなかったからな……ご主人様やライトの家族として受け入れてもらえているのなら、これ程嬉しいことはない」

「レオやライト君だって、ラウルさんに甘えることが多々あるでしょう? ラウルさんだって同じ。レオやライト君に甘えてもいいのよ?」

「そうそう。ラウルさんは主に美味しいご飯やおやつをおねだりされてるでしょうからね、ラウルさんもレオに高価な装備品一式のひとつもおねだりしていいと思うわ!」


 ラウルの呟きに、セイやメイがもっとレオニスに甘えてしまえ!と発破をかける。

 噂の的であるレオニス、今頃背筋をブルッと震わせながら盛大なくしゃみを連発しているに違いない。


「そうか、そうだよな。じゃあ俺の冒険者登録祝いの装備品一式も、超贅沢な最高級品を作ってもらうとするか」

「それ、いいわね!大事な家族であるラウルさんの身を守るためのものですもの、レオだって『一番良い物を作ってくれ』って言うに決まってるわよね!」

「そしたら早速採寸しましょうよ!採寸の後は、どんな素材で作るか打ち合わせしないとね!」

「こらこら、セイもメイも程々にね? まだ予算も聞いてないんだから、レオちゃんが泣かない程度の範囲にしておきなさいよ?」


 ノリノリのセイとメイをさり気なく抑制するカイ。

 黙って見ていたら本当にン百万Gの装備品を作り出しそうな勢いである。

 さすがにそれはいくらレオニスでも支払いに難儀しそうだ。


「分かってるわよ!カイ姉さんってば本当に心配性なんだからー」

「ささ、ラウルさん、採寸室に行きましょ!」

「お、おう。お手柔らかに頼むぜ」


 明るく賑やかなセイとメイに手を引かれながら、採寸室に連行されていくラウル。

 まるで姉弟か兄妹のように仲睦まじい三人の背を、長姉のカイは微笑みながら見送っていた。

 プーリア族の特徴の一つである、黒髪巻き毛をバッサリと切ったラウル。

 いくら身体の方が回復したと言ってもね、パッサパサに傷んだボロボロの髪の毛のままではね、見た目的にも非常によろしくないですからね!ラウルにとっても気分一新となることでしょう。


 ちなみに作者の髪は父親譲りの剛毛多髪系でして。小学生の頃はよく母親に三つ編みなどをしてもらっていましたが、当時の写真を見るとあれは三つ編みというよりも二本の注連縄…(=ω=)…

 逆に母方は祖父や伯父など見るに超強力な薄毛&ハゲる系統なのですが。私には遺伝しなかった模様( ̄ω ̄)

 遺伝って、何で足して二で割れないんでしょうね? 剛毛+薄毛=中間地点になればいいのに!(`ω´)

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