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第4話 育ての親(side:ライト/橘 光)

 本日は三話投稿です。

 13時に第5話、14時に第6話を投稿します。

 俺が養父レオニス・フィアに引き取られてから、4年半の歳月が過ぎた。

 あの時0歳児だった俺も、もうすぐ5歳になる。


 あの日、ハイロマ王国のエメラルドシティの教会でレオニスに発見された俺は、すぐにレオニスとともにアクシーディア公国に戻り、それ以来ずっとカタポレンの森に二人で住んでいる。

 最初の3年くらいは、レオニスがずっと家にいていっしょに過ごしてくれた。何でも本人曰く

「俺、これでも一応金剛級の冒険者だからねー。数年は何もしないでも、遊んで暮らせる程度の蓄えはあるんだぜ?」

 とのこと。

 それでも日課である森の警邏は欠かさず行っていたし、たまには狩りくらいしなきゃ腕が鈍っちまう、ということで警邏以外にも月に数回、半日くらい出かけては山ほど獲物を狩ってきていたが。


 そして俺が4歳になる頃に、レオニスは本格的に冒険者に復帰した。

「お前ももう一人で留守番くらいできるようになったしなぁ、そろそろ現場に戻るとするかぁ……でないとさすがに俺の名前も存在も忘れられちまうしな、アッハッハッハ!」

と明るく高笑いしていたが、絶対にそんなことにはならないと思う。


 物心つく前に両親を亡くした俺の育ての親になってくれた人、レオニス・フィア。

 俺を引き取った当時のレオニスは、何と17歳という若さだった。今だって21歳という若さ、養父というより年の離れた兄弟と言っても差し支えないくらいだ。

 そして、俺の両親と同じ孤児院で育った幼馴染の忘れ形見というだけの薄い縁なのに、赤の他人の幼子を躊躇うことなく引き取った、全く以てお人好し過ぎるこの人の経歴が凄まじかった。


 紙から始まり木、石、青銅、黒鉄、白銀、黄金、白金、聖銀と続く冒険者階級の最高峰である「金剛級」を持つ人だったのだ。

 黄金や白金でも十分強い部類らしいのだが、その上の聖銀をも上回る金剛となるとさらに凄まじい。古今東西合わせても5人しか存在しないという。

 弱冠17歳にして既にその伝説の金剛級冒険者だったというのだから、生まれたばかりの赤ん坊でもなければアクシーディア公国で知らぬ者など一人もおらぬ、というレベルの有名人だった。


 更に、元は孤児院育ちの平民のレオニスだが、冒険者階級最高峰たる金剛級に昇格した時に、その褒賞のひとつとして姓を名乗ることを特別に許された。

 それまでレオニスは特に姓を必要としておらず、その褒賞は長らく受け取っていなかった。だが、ある時をきっかけに彼につけられた二つ名【深紅の恐怖】に因み、恐怖=フィアを姓に名乗ることを選んだという。

 名に姓を持てるのは、貴族と呼ばれる支配階級のみに限られたアクシーディア公国において、平民が姓を得るというのはまさしく英雄にも等しい快挙である。おそらくは、一代限りの名誉爵位といったところなのだろう。


 そして、これらの目も眩むような経歴もさることながら、見た目もすごい。何しろ美形が過ぎる!のだ。

 透き通るような天色の瞳に、少しだけウェーブがかった鮮やかな黄金色の髪が白い肌によく映える。

 他にも、くっきりとした二重にすっと通った鼻筋、きりっと引き締まった口元。全体的に彫りが深い顔立ちは、パーツはもちろん総合的に見ても完璧なイケメンだ。

 眼光こそ冒険者らしく鋭いが、普段の穏和な表情と完璧なまでに整った目鼻立ちのおかげで、特に悪目立ちもしない。むしろ色香ダダ漏れ。


 更には身長190cm弱の細マッチョな体躯。

 普段はラフなTシャツ等を着ているが、鍛え抜かれた全身から漂う強者オーラがヤバい。色香ダダ漏れ倍率ドン、更に倍!という声がどこからともなく聞こえる。


 だが、冒険者として外に出る時はまた更に違う姿になる。

 目も覚めるような鮮やかな深紅のロングジャケットを筆頭に、黒のタートル系アウター、黒のスキニーパンツ、黒のロングライダーブーツが彼の冒険者としての正装にして戦闘服。随所に仕込まれている数多のベルトや編み上げ装飾、パンクファッションというやつだろうか?


 これをそこらに転がる凡人がしたならば、間違いなく黒歴史確定の痛ファッションだが、着る人が着ればそれはもはや芸術の域にまで至るのだ―――ということを、俺はレオニスを見て知った。事ここに至ればもう色香ダダ漏れ無量大数である。


 もしこの世界にイケメンコンテストなるものがあったら、この人は絶対に殿堂入りすると確信できる。

 これで目立つな存在忘れろ、という方が無理ゲーってもんだ。


 だが、その実力と名声があったからこそ、今の俺がある。

 それは、ほぼ決まりかけていた俺の養子話をいとも簡単に覆し、教会という世界規模の組織に対しても己の要求を貫き通す―――自分が望むものを己が手に手繰り寄せ、掴みとることのできる力をレオニスが持っていたからに他ならない。


 もし仮に、あの日レオニスが俺の前に現れなかったとしても―――裕福な商家の養子としての暮らしも、それはそれで悪くはないものだったかもしれない。

 だが、それは所詮ifの話であり。そもそも俺は今の生活をとても気に入っている。

 森の奥深くで人との行き交いなどほぼ皆無だが、衣食住に困ることはないし、レオニスも俺を構い過ぎず放り過ぎずのびのびと自由にさせてくれる。


 何よりも、俺を育てるためだけに彼は3年半もの間冒険者生活を休止し、隠遁生活を送ってくれた。

 そんなレオニスにはいくら感謝してもしきれないし、一生を通しても返しきれない恩がある。それをレオニスに直接言えば、きっと彼は

「んなことねぇさ、俺が好きでやったことなんだからお前は気にすんな」

と照れ笑いしながら言うだろう。だが少なくとも俺はそう思っているし、この恩を忘れることも絶対にない。


 俺が今、どうしてこの世界にいるのかは未だに分からない。元の世界に戻りたい、そう考えたことだって一度もない訳ではない。

 だが、その方法を探そうにも赤子や幼児の身ではどうしようもない。異世界転生?の際に、神様との面会も全くなければギフトだの加護だのの特典チートをもらった覚えも一切ない。前世の記憶を持っていること以外、正真正銘の凡人なのだ。


 俺の唯一のチート、前世の記憶。この記憶の中には、この世界がソーシャルゲーム『ブレイブクライムオンライン』であるという情報も含まれている。

 ゲームの知識がどれほど役に立つかは分からないが、その知識をもとにこの世界で生き抜く術を模索していく他に選択の余地はなかった。

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